夏目漱石の「坊ちゃん」を元にしたストーリーで、敵役である「赤シャツ」こと教頭先生が主役です。「そもそもこの小説は坊ちゃんの一人称で語られており、坊ちゃんの思い込みや誤解があるのでは?」と、脚本家のマキノノゾミ氏が思いついたのがこの脚本の始まりだったそうです。
坊ちゃんと「山嵐」こと堀田先生の傍若無人、無鉄砲とも言える大胆な若者の行動の裏には、大人の赤シャツの苦悩があった。「俺も無鉄砲になれたら。男らしくなれたらな~・・・。」というセリフに共感して泣けちゃいました。人間って、自分でわかっていても変われないですよね。どんなに努力してもまた逆戻りしていたり、やればやるほど深みにはまって抜けられなくなったり。
赤シャツのやること成すこと全てが裏目に出て、誰にも信じてもらえない上にますます嫌われるという設定は、とても滑稽で可笑しかったです。役者さんの演技も軽妙でよかった。
日露戦争で日本がロシアに勝った明治38年、ロシア兵捕虜がたくさんいる四国の城下町が舞台。戦争で肉親を失った人達がどんな気持ちで敵国兵と接したのか、というエピソードも素晴らしかったです。
役者さんでは「うらなり」役の五十嵐明(いがらし・あきら)さんが良かったです。素直でけなげな心に打たれました。
ストーリーは骨太で演出はビシッとスマートで役者さんは皆さんお上手。舞台装置はしっかりしてて品があって、音響効果も照明も気持ちいい。真面目に、丁寧に作られた佳作だと思いました。
ここからネタバレします。
これは賛否両論、色んな感じ方があると思うのですが、ラストシーンの赤シャツのセリフ↓
「これから10年後、100年後には私のように自分の損得しか考えない人間ばかりになるだろう。そんな世界に住みたいか?俺はいやだーーー!!」
・・・なんて率直なオピニオンでしょう。びっくりでした。
いつも他人の顔色をうかがって上手く世渡りをしていた赤シャツが初めて自分の本当の気持ちを吐露するという点では意味があると思いますが、「そんな世界はいやだ」で終わって欲しくなかったですぅ・・・。自分が望む世界を作るには、どうすればいいのか。自分が幸福に生きられるようになるには、どうすればいいのか。というところまで掘り下げて提案してくださると嬉しかったな~・・・。
劇団青年座HP : http://www.seinenza.com/
Posted by shinobu at 2001年05月08日 01:30 | TrackBack (0)