■こまつ座「闇に咲く花」について思うこと
井上ひさし作・栗山民也演出の作品を生で観られるこの時代に、自分が生きていることに感謝します。
戦争について語ること。それは勇気がいることです。過去に起こった事実を徹底的に調べあげ、誇大解釈することなく受け止め、そしてその本質を見極めてから、現実世界に響く言葉に翻訳しなければなりません。語るときには、自分達の祖先や当時敵国側であった人々にも敬意を払い、現在そして未来についても深く洞察してから、媚びることなく口を開かねばなりません。
「夢の裂け目」を観た時も同じように思ったのですが、井上ひさしさんの縦横無尽に広がる知識(雑学?)、調査の徹底ぶり、憂国の心、人間への深い愛情、笑いと音楽、劇中に起こったこと全てに責任を取ろうとしている姿勢・・・細かく挙げるときりがないのですが、とにかくこれらが全て揃っているから発言できるのだと思います。観客は井上さん真剣さを感じ取って、見よう、聞こうという気持ちにさせられ、自ら進んで見て、聞いたときに感動するのだと思います。
私が戦争というものに自覚しつつ触れたのは小学校1年生の夏でした。飛行機や爆弾の模型などが展示されているのだろうと決めてかかって見に行った「原爆展」。行ってみたら被爆者の無残な写真や原爆投下の瞬間の映像とその直後の地獄絵図のアニメーション。あまりのショックで家に帰っても口がきけず、ご飯も砂の味がする(ような気がする)し、床の間の天井から死体がぶら下がってくるような気がして、座敷に近づけなかったり。もちろんトイレなんて絶対に一人では行けませんでした。(怖がる方向が違いますが・笑)
広島・長崎への原爆投下と終戦記念日が8月ですから、日本では夏になると決まって戦争の話題が出てきます。そうめんを食べるたびに「原爆展」のことを思い出すので、私は夏が大嫌いでした。泳げなかったし。でも高校生になったころにはそのトラウマからは抜け出していました。泳げるようになったし。話がそれました(笑)。
今は、毎年、夏にはこのお芝居を上演して欲しいという気持ちです。決して忘れないように。正しい(と私が信じる)知識をもう一度確認するために。
栗山民也さんの言葉より(パンフレットより抜粋)
「演劇という『歴史を再生する』装置で、僕たちは舞台をつくり、観客のみなさんに渡していく。そのことでいつまでも忘れてはいけないことを共有していきたいですね。」
主人公のセリフより
「過去の失敗を忘れるものの未来は暗い。なぜって人間は同じ失敗を繰り返すからね。」
出演:名古屋章 増子倭文江 日下由美 島田桃子 たかお鷹 木下政治 茅野イサム 千葉哲也 梅沢昌代 那須佐代子 小市慢太郎 水村直也
作:井上ひさし 演出:栗山民也
2001年8月14日~26日@紀伊國屋ホール。8月30日~10月23日まで、東北、関西、関東、北海道、東海地方を巡演。
http://www.komatsuza.co.jp/kouen_kako/kako_04.html