『蜘蛛女のキス Kiss of the Spider Woman』はマヌエル・プイグ作のベストセラー
小説(1979年)をご本人が戯曲化したものです。男2人の獄中密室劇。1985年にはウィリアム・ハート主演で映画化されアカデミー主演男優賞を受賞しました。
tptでは1981年に初演、今回で通算4度目の上演となります。モリーナ(中年のゲイ)役に山本亨さん、ヴァレンティン(若い反政府活動家)役は北村有起哉さん。おふたりとも私のお気に入り男優さんです。
前回(2000年・山本亨&高橋和也 版)もとても良かったのですが、今回はもっと良
かった。というか、目が見えなくなるぐらい涙がポロポロあふれて、客席では私以外にも鼻をすする音が何度も。感動的な作品でした。また人間の素晴らしさに気づかされました。プイグさん、ありがとう。
軍事政権下のアルゼンチンはブエノスアイレス。それぞれの罪によって収容所の同室
に入れられている2人。劣悪な衛生状態のブタ箱で、生涯ここから出られないかもしれない、いつ殺されてもしょうがないという恐怖の中、飢えに耐えながら、どん底の崖ップチにいる男2人は徐々に心を通わせていきます。そしてそんな極限状況で、2人は愛という境地を発見するのです。
モリーナに反発するばかりだったヴァレンティンは、獄中で精神的・肉体的拷問を受
けるうちに、だんだんとモリーナに気持ちを打ち明けるようになり、自分の中の矛盾に気づき始めます。若さゆえの過ち。激情。それと背中合わせの純粋さと気高さ。北村有起哉さんが時には乱暴に、時にはキュートに演じます。ステキ♪
モリーナは最初はおそらく肉体目当てにヴァレンティンを誘惑しようとしていたので
しょうが徐々にヴァレンティンに惹かれていき、とうとう報われない恋に落ちてしまいます。モリーナがホモにしか見えなかったら、ただの段取りになってしまうけれど、女ならではの恥じらいや細やかな心配り、なめらかで優しい声など、本当の女性に見えたんです。女になりえない本物の女の悲劇。劇中で語られる映画『キャットピープル』と重なります。山本亨さん、モリーナはもうあなたの役ですね。
前回と比べて演出に大々的な変化はなかったのですが、よりコミカルな面がクローズアップされて親しみやすくなったし、なんと言ってもモリーナが女に見えたというのは今回の演出家の薛珠麗(せつ・しゅれい)さんの功績だと思います(後から聞いたのですが、ロバート・アラン・アッカーマンさんが初日の前に演出をされたそうです)。
男とか女とか、ホモとかレズとか、反政府とかブルジョワとか、そんなのは全く関係ない。ただ安心できること。心が平安なこと。「目の前にいる人間は自分の味方なのだ」と信じ、また、お互いがそれを信じあっていると確信できる状態。それが愛。そこにこそ人としての尊厳が在るのだと思います。
10/20(日)まで森下(両国)でやってます。ぜひぜひ観てもらいたい芸術的傑作です。
Posted by shinobu at 2002年10月15日 18:55 | TrackBack (0)