2002年10月15日
パルコ・トライアル・シリーズVOL.1『ダブル・スタンダード』PARCO劇場10/15-16
パルコ・トライアル・シリーズVOL.1『ダブル・スタンダード』ということで翻訳モノの短編を2本立てでした。
1本目のウィリアム・サローヤン作「おーい、救けてくれ!」は、アメリカはテキサスの牢屋が舞台。ある旅の男が人妻にだまされて牢屋に入れられ、その牢屋のまかないの17歳の少女と出会い・・・。設定とテーマはテネシー・ウィリアムズ作『地獄のオルフェ』とほぼ同じかな。閉鎖的なアメリカの田舎町での悲劇。いわゆる差別とか虐待とか、ね。せつないし、笑えるし、主張もあるし、面白い脚本だと思いました。
でも、自転車キンクリートストアの鈴木裕美さんの演出は、あまり良くなかったです。まず照明が甘いと思いました。音響もしっくりこなかった。装置はあえてシンプルということで、可も無く不可も無く、というところ。役者さんの演技もまだまだでしたね。意味を伝えるだけに終わっていました。感情が伝わってこなかった。翻訳モノでしかも短編となると、どうしてもtptと比べちゃうからな~。
村上淳さん。気持ちの変化に説得力がなかったな。体の動きが単調。声はからさないように気をつけて欲しいです。ま、カッコいいから許される部分はあります。最後は泣けました。
西尾まりさん。いつも思いますがナーバス過ぎ。コミカルなシーンを笑えなくしてしまっていました。でも、そういうお人柄でいらっしゃるのでしょうけど。正直さとひたむきさは大好きです。
秋本菜津子さんが出ていらして嬉しかった。彼女のおかげで作品が締まりました。
2本目はエドワード・オールビー作「動物園物語」。1958年の作品です。
ある日曜日の午後。セントラルパークの片隅のベンチ。読書をしている中年の男に、知らない男が話し掛けてくる。その不気味な見知らぬ男が話す無意味な雑談は、だんだんと人間の愛の核心に迫ってきて・・・。
私は途中で眠くなっちゃった。そして大音量の音響効果でびくっと目が覚めました。あの奇抜な音は冒険しすぎでしょう。作品に不必要な意味を増やしていると思います。いや、もし必要で使っているのならダサイと思います。舞台で起こることと同じような音は説明になってしまうから。
それにしてもパルコ劇場を使って様々な舞台演出をされていましたね。そういうお遊びは大歓迎なんだけど、まずは脚本の意味を伝えることを最優先にして欲しいです。色々やってはくださいましたが、どっちにしろセリフが伝わってこないので単調で曖昧だと感じてしまいました。てゆーかさぁ~・・・・あの舞台の使い方はパルコには合ってないよぉ。もっと狭いところでやんなきゃ成立しないんじゃないでしょうか。
パルコ・トライアル・シリーズということで、「トライアル(挑戦)」ですもんね。これでいいのかな。でも今回は2作品とも脚本は良いのに演出でそれを生かせなかった、ということで。辛口御免。次回に期待してます。
今日の客席には小泉今日子さん、小林聡美さんなど、TVや映画関係の人がたくさんいらっしゃいました。私のお気に入り役者さんの山本尚明さん(reset-N?)を発見!そっか。もうすぐ「動物園物語」やられるんですよね。
パルコ劇場HP : http://www.parco-city.co.jp/play/
tpt『蜘蛛女のキス』ベニサン・ピット10/09-20
『蜘蛛女のキス Kiss of the Spider Woman』はマヌエル・プイグ作のベストセラー
小説(1979年)をご本人が戯曲化したものです。男2人の獄中密室劇。1985年にはウィリアム・ハート主演で映画化されアカデミー主演男優賞を受賞しました。
tptでは1981年に初演、今回で通算4度目の上演となります。モリーナ(中年のゲイ)役に山本亨さん、ヴァレンティン(若い反政府活動家)役は北村有起哉さん。おふたりとも私のお気に入り男優さんです。
前回(2000年・山本亨&高橋和也 版)もとても良かったのですが、今回はもっと良
かった。というか、目が見えなくなるぐらい涙がポロポロあふれて、客席では私以外にも鼻をすする音が何度も。感動的な作品でした。また人間の素晴らしさに気づかされました。プイグさん、ありがとう。
軍事政権下のアルゼンチンはブエノスアイレス。それぞれの罪によって収容所の同室
に入れられている2人。劣悪な衛生状態のブタ箱で、生涯ここから出られないかもしれない、いつ殺されてもしょうがないという恐怖の中、飢えに耐えながら、どん底の崖ップチにいる男2人は徐々に心を通わせていきます。そしてそんな極限状況で、2人は愛という境地を発見するのです。
モリーナに反発するばかりだったヴァレンティンは、獄中で精神的・肉体的拷問を受
けるうちに、だんだんとモリーナに気持ちを打ち明けるようになり、自分の中の矛盾に気づき始めます。若さゆえの過ち。激情。それと背中合わせの純粋さと気高さ。北村有起哉さんが時には乱暴に、時にはキュートに演じます。ステキ♪
モリーナは最初はおそらく肉体目当てにヴァレンティンを誘惑しようとしていたので
しょうが徐々にヴァレンティンに惹かれていき、とうとう報われない恋に落ちてしまいます。モリーナがホモにしか見えなかったら、ただの段取りになってしまうけれど、女ならではの恥じらいや細やかな心配り、なめらかで優しい声など、本当の女性に見えたんです。女になりえない本物の女の悲劇。劇中で語られる映画『キャットピープル』と重なります。山本亨さん、モリーナはもうあなたの役ですね。
前回と比べて演出に大々的な変化はなかったのですが、よりコミカルな面がクローズアップされて親しみやすくなったし、なんと言ってもモリーナが女に見えたというのは今回の演出家の薛珠麗(せつ・しゅれい)さんの功績だと思います(後から聞いたのですが、ロバート・アラン・アッカーマンさんが初日の前に演出をされたそうです)。
男とか女とか、ホモとかレズとか、反政府とかブルジョワとか、そんなのは全く関係ない。ただ安心できること。心が平安なこと。「目の前にいる人間は自分の味方なのだ」と信じ、また、お互いがそれを信じあっていると確信できる状態。それが愛。そこにこそ人としての尊厳が在るのだと思います。
10/20(日)まで森下(両国)でやってます。ぜひぜひ観てもらいたい芸術的傑作です。