『白鳥の湖』というと世界中で知らない大人はいないと言えるチャイコフスキー作曲のバレエの傑作ですが、この作品はその『白鳥・・・』の音楽をそのままに、ストーリーや登場人物を全く変えて演出されたものです。
そもそもこの公演は、出演者はもとより脚本・演出・振付のマシュー・ボーンさんが目玉なんですよね。そして・・・評判どおり素晴らしかった!残念ながら私はバレエについての知識不足のため、バレエ作品としてどういう品質なのかは名言できないのですが舞台作品としては美しく楽しく面白い、文句なしの芸術エンターテイメント作品だと思いました。
チャイコフスキーの音楽、ハイセンスで耽美な美術、豪華な衣装、最高品質の踊り、女装(女形)、劇中劇、という舞台芸術のフルコースの上にマザコン、同性愛、皇族スキャンダル、愛憎のもつれによる殺人、ロボトミー手術、動物変化・・・という誰もが覗き見したくなるような危険な要素がこれでもかと散りばめられています。
軸となるのは白鳥と王子の愛、しかも男同士の恋愛ですからファンタジーの上にタブーまで重なって、それはもう禁断の芳香プンプンです。妖しくなまめかしい男のエロスとドラマティック・ノアール・エンターテイメント、な、バレエ。そしてプラチナ・キャストですから人気なわけです。
古典バレエの振付に加えてコンテンポラリー・ダンスや、群舞での物語表現もありました。白鳥の振付は本当に白鳥のようで、バレエは想像力を喚起する力が非常に大きな芸術なのだと再認識しました。まるで無声映画のようだったな~。バレエって声を出しませんものね。狂おしいほど熱い思いを動きだけで表現していくんです。そのストイックさが日本の古典芸能と同様、現在に、歴史に残っている所以なのだと思います。
美術、衣装については言うことなく素晴らしかったです。あれは日本人にはない色彩感覚ですよね。シックでエスプリが利いています。ロボトミー手術(であろう)のシーンの、視覚的な遊びで本質を突く、影の演出は非常に面白かった。
王子が眠るベッドの下から白鳥が出てきたときも背筋がゾクゾクしましたね~。むずむずと無表情にうごめく白鳥たち。裏切り者を容赦なくいためつけるその野生。
クライマックスはヒッチコック映画ばりの緊張感でした。
主役がトリプルキャストで当日にならないとその日のキャストがわからないという観客泣かせのスケジュールで、当日券にはいつも長蛇の列、お客様はお目当ての人が出るまで毎日通いつづけるとか。
私が拝見したのはアダム・クーパーさんの出演日で、すごく運がいいと言われました。大スター・アダムは鍛えぬかれた大柄の身体で華麗に力強い踊りを見せてくださいました。技術もすごいですがルックスもパーフェクト。ありゃ女なら誰でもファンになっちゃいますね。
そして彼が美しいのは彼自身の技術やルックスだけでなく、彼の繊細な演技が素晴らしいからだと思いました。
脚本・演出・振付:マシュー・ボーン
文化村HP : http://www.bunkamura.co.jp/