別役実さんの戯曲はコント(ケラさんとやったやつ)しか観たことがなかったので、私はほぼ別役・初体験です。演出は燐光郡の坂手洋二さん。それにしてもハンサムですよね。全然関係ないですね、はい、すみません。
開演前のあんなに静かな客席は真の意味で初体験でした。幽霊さえも出て来られないであろう、体まで溶けて消えてしまいそうになる静寂と一体感。そして真っ暗闇から女の声。線の細い、神経質な高い声が憂いを込めて語りだします。マッチ売りの少女の物語を・・・。
面白かった~!怖かった ~っ!震えてしびれた~っっ!!
「こんなの初めて!」と感じる体験が非常に多い芝居でした。
別役さんの脚本は言葉のからくりをしたたかに二重、三重に張り巡らし、観る者にもやる者にも全く隙を与えません。
坂手さんのメッセージはいつもより肌触り柔らかだけど、一度開いた目を閉じられないほどヴィヴィッドで、残響・残照の嵐。
妹尾河童さんの舞台装置はお得意のリアルと、相対する超モダンの大胆な配置で、客席ともども完全な異空間。白い雪も降れば黒い玉も降る。見たことのない新国立劇場・小劇場でした。私は最後まで緊張したまま座席にへばりついていました。
主体性の恒常的ゆがみ、記憶と忘却の繰り返しなど、同心円・渦巻き状のステージから導き出されるさまざまな視点。ぐるぐると、ゆっくりと回転・反転する舞台は人間の内的世界を観客の脳内にぽつねんと浮かび上がらせ、観客はおのずと類似体験を引き出し、めぐらせます。嘘か誠か。正か誤か。愛か憎か。戦後日本の不確かさが生んだ新しい不幸の形。それは表層を変えながらも現代にそのまま引き継がれているのだと思います。私達はそれに気づき、今をしっかりと見つめ、私達の先祖が残した膨大な宿題と対峙していかなければならないのだと思います。
寺島しのぶさん。彼女の感情的な演技は好みが分かれると思いますが、今公演については、個人的に最高につぼでした。真面目で一途な狂女を熱演。おびえる表情がなんともあわれ。最後の一人バトルは圧巻。
富士純子さん。やっぱり大女優さんだな~。しなやか。あったかい。天然の穏やかさを感じます。彼女のおかげでお芝居がノーマル(観客フレンドリー)だったと思います。演出のバランスの妙ですね。
手塚とおるさん。笑顔が不気味。存在がすでに怖かった。適役ですよね。
猪熊恒和さん(燐光郡)。代役のさらに代役に抜擢。でもやっぱり40代で72歳の代わりをするのは難しそう。これからかもしれません。
見ごたえあり過ぎです。しびれます。疲れます。涙が出ます。体調を万全にして、気力を温存して、この劇場空間とともにその世界の顛末まで到達できれば、すごく貴重な体験になると思います。
新国立劇場HP : http://www.nntt.jac.go.jp/
Posted by shinobu at 2003年04月08日 21:22