別役実さんの戯曲です。新国立劇場『マッチ売りの少女』からハマってしまい、別役作品は機会があるならぜひ逃さず観たいと思っています。
広島の被爆者たちのその後の話。原爆症の発症のため次々と病院に入院していく。そして死んでしまう。背中の大きなケロイドを見せることによって、見世物役者のように食いつないできた男。「みんなが俺の裸(ケロイド)を見たいと思っている。あの場所に戻るんだ。」と、這ってでも戻ろうとする。
それにしてもなんと複雑なことでしょうか。
原爆を落とされたせいでケロイドが出来たが、そのケロイドこそがその男のアイデンティティーだった。だが、その爆弾のせいで自分は死んでしまう。殺されるのだ。同じく原爆症で入院してきたその男の甥は、ケロイドを自慢する叔父のことが許せない。だが、行きたい場所があり、やりたいことがあり、それを実行せんとする叔父は強い。無力感に打ちひしがれ、ただ一人で居たい、と闇に篭って死を待っている甥よりも人間らしいのではないか?
まったく太刀打ちできない、命がけの矛盾が次々と心を襲ってきて、涙が止まりませんでした。
ケロイド男のまわりに5人ぐらい黒子がいて、セリフを一人ずつ順番に代弁するのはさまざまな被爆者たちの叫びに聞こえました。看護婦についてもそうでした。
ステッキを持った初対面の男たちの戦いのシーンがすごかったです。
突然知らない人からまじまじと見つめられ、「戦いましょう」とケンカを売られる。
「私は戦えない。ごめんなさい。」と土下座までするが
「やられたくないなら、やりかえさなきゃ」と笑って言い放ち、手を緩めない。
結局、襲われた方はそのまま殺されてしまった。
これは第2次世界大戦の時の日本と欧米列国との関係を表しているのだと思います。極シンプルに端的に核心をついていました。怖かったです。
舞台美術がシンプルで渋かったです。地がすりはつるつるの真っ黒な素材で、病院のベッドの足があざやかに映っていました。歩くとコツコツと音が鳴りました。
タイトルがなぜ『象』なのかまったくわかりません。おわかりになる方、どうぞ教えてください。
燐光郡 : http://www.alles.or.jp/~rinkogun/
Posted by shinobu at 2003年07月09日 21:42