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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年08月29日

MONO『京都11区』08/29-9/1紀伊国屋サザンシアター

 京都を中心に活動する、土田英生さんが作・演出をする劇団MONO(モノ)。土田さんが超売れっこになっちゃってMONO自体の本公演の回数が減っていますが、クオリティーはいつも約束されています。

 京都の中のとある過疎地が舞台の1時間20分のドラマ。完璧でした。暗転中、優しく音楽が流れている間に、心がしめつけられて涙が溢れました。人間ってどうしてこんなに弱いんだろう。弱いからこそ自分を守るために周りに暴力的になってしまうという、悲しくも愚かな状態は万国共通です。戦争が最も良い例ですよね。命がけの暴力の原因は得体の知れない恐怖であることが多いと、私は思います。(以下、少々ネタバレします)

 過疎が始まっている京都11区。京都市が町の整備をするために住民を他の区へ移住させることを決めるが、立ち退きを命じられながらも居座り続けるちょっぴりガンコな人たちもいた。彼らは立ち退き及び建物取り壊しへの反対運動を細々と始めるが、近くにアジトをかまえる新興宗教団体の放火で町に死傷者が出てしまい・・・。

 人間が集団で何か一つの目的に向かって協力し合うことの楽しさ、そして難しさ。その始まりはいつも美しいんですよね。だけどそれが継続されて成功するかというのは全く別の次元のお話。人間のどんな営みも必ず「個」と「集団」という壁にぶつかるんですよね。自分、家族、友達、社会、国、世界・・・。その営みの結果がどうあれ「会えてよかった」「やって楽しかった」と感じることによって、人間は自分を癒すのだと思います。やってはいけないことは、やってはいけないんですけどね。かならずしっぺ返しがあるのも人の世の常。ただ、そういう瞬間の積み重ねが人生だとすると、いつも「良かった」「楽しかった」って思いたいです。そして「私たちは確かにそこに一緒にいた」と確かめ合える友(家族・恋人・同僚・等なんでも)が必要です。

 複雑な政治的テーマや社会的にタブーとみなされている事柄などを取り扱いつつ、あくまでも身近な、その辺りにいる普通の人々のコメディーに仕上げられています。土田さんはすごい。京都を知っている方には賛否両論だったようですが、舞台はどこでもいいんじゃないかな。閉鎖的な地域ってどこの国にでもどこの町にでも、どんな人の心の中にもあるものだから。

 以下、特に心にしみじみ感じ入った事柄↓
 イタリア人なのに外見は完全に日本人で、イタリア育ちなのに京都が大好きなこと。
 敵同士でも、出身地が一緒だというだけで親近感がわくこと。
 仲間が所属する宗教団体に自分の父を殺されたと知り、その仲間を憎むこと。
 けが人を病院に連れて行こうと決めたのが外部の人だったこと。
 妻が、夫が倒れてからやっと自分の過ちに気付くこと。
 運動が崩れ去った原因が、敵によってではなく全くの他人による暴力だったこと。

 イタリア人がこよなく愛する童謡「ふるさと」がシリアスなシーンにミスマッチで、笑ったらいいのか泣いたらいいのかわからなかった。こういう土田さんの意地悪がめっぽう好きです。

 私は運良く前の方の席だったのでいつも通りに楽しめましたが、もし後ろの方の席だったら・・・。サザンシアターは広いですからね。味わい半減だったかもしれません。

 土田さんが海外留学のため、MONOの新作は2004年の12月までおあずけです。なんだかずいぶん先でさびしいですが、よりパワーアップした作品が観られる事を期待して待ちましょう。

作・演出:土田英生 
出演:水沼健・奥村泰彦・尾方宣久・金替康博・土田英生・西野千雅子・増田記子
MONO(モノ)のHP : http://www.c-mono.com/

Posted by shinobu at 2003年08月29日 21:45