脚本はマキノノゾミさん。(第4回鶴屋南北戯曲賞 受賞)
演出は鈴木裕美さん。(第35回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第8回読売演劇大賞 優秀演出家賞 受賞)
2000年初演、2002年再演で今回が3演目。私は念願の初見です。
バイクの事故で友人を失った高校生の少年と、心に傷を持つ元・高校教師とその家族とのふれあい。昭和53年(西暦1978年)の夏休みの1週間の物語。それはジュリー(沢田研二)が流行っていて、薬師丸ひろ子のデビュー映画『野生の証明』がヒットした頃。舞台は静岡の田舎町の雑貨屋。玄関はいつも開けっ放し。いつでも誰でも「こんにちはー」と大きく挨拶して家の中に入って来る。
もー・・・懐かしくて恥ずかしくて温かくて、舞台美術を見るだけで胸に熱いものが込み上げました。あの頃、私の家はもちろんのこと、友達の家もこの舞台となった家と同じような造りでした。床の間になぜか木彫りの置き物(クマとかコケシとか)がいっぱい置いてあって、壁にはカレンダーや家の鍵が無造作に吊り下げられていて、電話台の上にはちょこんと黒電話。おしゃれとはかけはなれた、生活感丸出しの素朴な家。
人についても今ほどファッション(外見)重視ではなかったですよね。走るのが速いとか頭がいいか歌がうまいとか、そういう個性を見て人を判断したり、好きになっていました。今よりももっともっと素直で無防備でいられた時代でした。きっと私は幸せだったんだと思います。
脱線が過ぎましたね。さて内容について。
かたくなだった少年は徐々に心を開いていき、やがて元・教師も、15年もの間、自分を苦しめてきた事実を家族に打ち明けるが・・・。マキノさんは「清らかなものを描きたかった」とこの作品について述べられています。登場人物一人一人の優しさが、痛くなるほどいとおしくて、私の心は温いものでいっぱいになりました。その清らかなものを私はしっかりと受け取り、その素朴さとそれゆえの荘厳さに胸を震わせて、次から次にこぼれ落ちる涙をぬぐう間もなく、舞台に熱中していました。
ストーリーについてはうまく事が運びすぎだとも言えますが、それはさして重要ではないと思います。人間というのは変わることができる。それを素直に受け入れれば良いのだと思います。
高橋長英さん。元・高校教師役。ものすごく優しくて、渋かったです。いつも確実な演技で彼のいる夢の世界へと私と連れて行ってくれますが、今回ほど見とれてしまったのは初めてでした。すごく好きになってしまった。元・教師のおじさんを。
浅野雅博さん。少年役。も~・・・久しぶりにティーンネイジャーのようにトキメいてしまいました。いわゆる胸キュンです(笑)。いい男すぎです。浅野さんの実年齢は30歳のはず。なのに 高校生の役を自然に出来てしまうのは演技について緻密な計算をし尽くされているからだと思います。「はい」という返事ひとつで笑わせたり泣かせたり、私も色々な気持ちにさせられました。
松島正芳さん(俳優座)。さわやかエリート青年役。ぴったりでした。この役を初演では増沢望さんが演じられてたんですよね~。観たかったな。
大人必見の舞台です。
まだご覧になってない方、再々々演を待ちましょう!
俳優座劇場HP : http://www.haiyuzagekijou.co.jp/
Posted by shinobu at 2003年09月04日 21:17