チェーホフの三人姉妹を下敷きに、永井愛さんが大胆にアレンジした“フェミニズム喜劇”だそうです。2000年の初演では紀伊國屋演劇賞団体賞をはじめ多くの賞を受賞しています。
旧家・萩家に住む3人姉妹のそれぞれの恋模様を、女性の自立をからめて描かれています。
長女はフェミニズムを研究するガチガチの大学助教授。
二女は歯科医の夫と2人の子供を持つ良妻賢母。
三女は貞操観念のない奔放な今どきの若者。
父親の一周忌を境に三人三様の生き方が大爆笑(苦笑)と共につづられて行きます。あー・・・気持ちよく疲れた。
私は原作本を読んでいたのもありますが、ものすごく冷静に拝見してしまいました。とにかく予想のつかない演技と展開の連続なんです。そしてラストはもっとブっ飛びます。「ええー・・・なんでそうなる? そこ、そういう意味??」と、おののき戸惑い、のめり込めなかったのが正直なところ。
ファッション・デザイナーの山本耀司さんの言葉(映画「都市とモードのビデオノート」より)を思い出しました。
「僕には女性デザイナーのことは理解できない。
例えば川久保玲(コム・デ・ギャルソン)、ソニア・リキエル、ヴィヴィアン・ウェストウッド。
男のデザイナーの気持ちはわかるけれどね。
ジャン・ポール・ゴルチエやイブ・サン・ローラン等。」(言葉は完全に正確ではありません。)
コム・デ・ギャルソンの服って、形が体に沿ってないものが多いですよね。それを着たら体がまるで違う物体に見えるような。「美しい」とされるものをわざと壊して、汚していく感覚。そして全く新しいフォルムが生まれます。人間存在そのものを異物にしていき、その中に本質が見出されされていくような感覚なのではないかと思います。私は永井愛さんについても同じような気がしたんです。こうなるのが人間の常だろうと予想される展開を片っ端から壊していき、それを上から上から積み重ね、さらに最後にはそれさえもぶっ潰すというか。でもそのぐちゃぐちゃが完成された世界そのものなんです。それを、笑いと驚きをもって観客の心にスイっと入り込ませてしまう。女って強い。
対して男性の演出家の作品は、円であったり球であったり、最終的にはきれいな形に納まることが多い気がしますね。坂手洋二さん、栗山民也さん、野田秀樹さん、デヴィッド・ルヴォーさん、ピーター・ブルックさんなど。そう考えていろいろ想像すると面白いです。
オープニングや幕間明けの音楽に昔のヒット歌謡曲(だと思われる)が使われていました。「あなたのために操を守っているのよ、私。帰ってきて、あなた~♪」みたいな歌詞の、男性が歌っている演歌とか。そりゃもーむずがゆくって笑えます。一歩間違うと超ダサになる危険も省みず、全く大胆で奔放ですよね。というか恐いもの知らずです(笑)。
渡辺えり子さん。長女。役柄がそうだとはいえ、ちょっとナーバス過ぎでしたね。ラストの三姉妹のセリフの言い合いは、ああ、このセリフは渡辺さんならではの説得力だ!と実感。でも、やっぱり初演の余貴美子さんで観たかった気がするなー。
南谷朝子さん。二女。不倫の恋に落ち泥沼化。エリートから不良へ転落。禁じられた恋に落ちて狂う様子が破天荒。あそこで笑えるなんて!!芸ってすごい。
岡本易代さん。三女。同時に2人の男と肉体関係を持つ。導き出した結論も自由奔放。あまり好きになれなかったんですが、渡辺さんと同様、ラストが非常に美しかった。
土屋良太さん。三女のもう一人の恋人役。男らしいおとぼけキャラが素晴らしかったです。『オイル』ではあまり伝わらなかった魅力全開。鍛えられた体が笑えるし。
大鷹明良さん。二女と不倫の恋に落ちる”プリンス”役。『浮標』で最高にイヤな感じの男の役を演じられて、私は背中からしびれてちゃったんですよね。顔と体と声と演技のバランスがめちゃくちゃちぐはぐなんです。それが妙でいい。彼にしかできない。
しかし、世田谷パブリックシアターの一番前の席ってどうなんでしょ。積極的に、観づらいです。もう先行で買うのやめようかな~。
二兎社(にとしゃ) : http://www.nitosha.net/
Posted by shinobu at 2003年10月12日 17:04