燐光群の坂手洋二さんの書き下ろし新作です。坂手さんご自身による演出で地人会の主催。
昭和天皇の四十九日の法要「大葬の礼」が行われた15年前の一日のお話でした。ある家庭のガレージが舞台。大学生の息子が地下室に閉じこもって出てこない。彼は「大葬の礼」に対する反対運動をしていて、そのせいで家族には無言電話や警察による尾行等の圧力がかかっている。両親は昔ドキュメンタリー映画を製作していた仲間同士。その日は久しぶりに友人たちを撮影することになっており、息子が隠れているガレージに人が集まってくる。実はそこに引きこもったのは息子が初めてではなく・・・。
あの時「自粛」という言葉で表されましたが「報道規制」がありましたね。TV番組が全て昭和・皇室に関するものだけになったり。言論の自由が瞬間的になくなった期間でした。道頓堀の電飾(グリコとか雪印とか)が全部消えていたのは知っていましたが、演劇公演も休演になっていたんですね。そりゃ大変だー。払い戻しとか追加公演になったかと思うと、その損害と労力を想像するだけでゾっとします。
いつものことですが、やっぱり坂手さんの脚本は難しいですねー。複雑で深いです。今回は「大葬の礼」「子供を自殺で失った親」「ドキュメンタリー映画」「引きこもり」「夢(劇中劇)」などの沢山のトピックがからみあって、それが『心と意志』という壮大なテーマにつながっていく形でした。
出演者の方から少しお話を伺えたのですが、脚本に「はい」「いいえ」などの受け答えがほぼ無いらしく、演じるのも難しいそうです。そういえばそうでした。登場人物はお互いに意見を言いっぱなし。「そうね」とか「違うよ」とかの具体的な返事はしないんですよね。その分、演技によって幅が広がる可能性がありますから、より難しいのでしょう。観る方は非常に面白いですが。
『心と意志(Hearts and Minds)』というタイトルの意味はとても重いし大切だし、考えるところも多かったです。人間には心と意志がある。それが人間が人間たる所以だというのは感動的なことだと思います。でもその言葉を何度も連呼されるのはちょっとヤだったな。
装置が地味でした。ガレージそのもの。松井るみさんが作っている意味はあったのでしょうか??雪が降ったのは楽しかった。
うーん・・・坂手さん作・演出の作品は燐光群で観るのが適しているのかも。新国立劇場での『ピカドン・キジムナー』は、今考えたらソフトな作品でしたね。
平田満さん。うまい。やっぱりすごい。普通のサラリーマンのような様相だけど、したたかに狂ってる。リラックスしているのも実は全て計算なんですね。
神野三鈴さん。美人だしスタイルもいいんだけど、何よりも心がきれいなんだよなー。そして何をやる時も本気。大好きです。
内田滋啓さん。美しいです。内田さんが舞台に出るだけでそこにファンタジーが生まれます。夢の中のマサオと現実のマサオにくっきりと違いがあって、私は現実のマサオの素朴な存在がいとおしかった。
藤井びんさん。さすがは燐光群常連ですよね。重々しく厳しくとんがった世界を方言の柔らかさとともに体現されていました。
地人会HP : http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~CJK/
Posted by shinobu at 2003年12月01日 22:36