2003年12月02日
作:山崎正和 演出:栗山民也『世阿弥』11/27-12/21新国立劇場
客席をも巻き込む初日のピリピリとした緊張感は快感です。初日の客層は独特ですしね。坂東三津五郎さんが出演されているからか、和服姿のご婦人の多いこと。嬉しいです
室町時代、能を大成した世阿弥のお話です。山崎正和さんの脚本によって成される「見られること」によってのみ存在する役者という存在についての深い考察。見る側(観客・パトロン)を光、見られる側(役者)を影として描きます。役者(俳優)を職業として選ぶ方は世阿弥の本を読んだ方がいいなーと思いました。
ものすごい重厚な舞台装置と日本刀のように細く尖がった風合いの照明の中、重低音の弦楽器(だと思う)の音色が響きます。極上の衣装をまとった日本でも指折りの技術を持つ役者さんたちのテンション最高潮の演技が繰り広げられ、観ている方もものすごい緊張感でした。しかも脚本が非常に難しい。途中休憩の時に「名前しかわからないよー」という声がチラホラ聞こえました。
前半は、隣の席のおじさんがめちゃくちゃうるさくってムカつきながらも、役者さんたち(特に坂東三津五郎さんと寺嶋しのぶさん)の鬼気迫る演技に吸い込まれるように舞台に集中していました。
後半も前半に引き続きやはり緊張感ビシバシで始まったのですが、クライマックスが・・・あっけにとられて、唖然。開いた口がふさがらないとはこのこと!一番前の席でガクっと腰砕けっ!(先行予約、本気でやめようと思います。一番前はイヤ!)
ネタバレします。
巨大な穴倉のような舞台装置が上にあがり始め、舞台奥から白い光とともにたくさんの人影が現れました。鴻上尚史 作・演出『ピルグリム』のエンディングに似た感じ。そしてドカドカと、どう見ても場にそぐわない風貌の人間たちが駆け寄ってきて、突然激しく踊り始めたんです。
えええええっっ!?一体あの踊りは何!?衣装もヘン!メイクもサッカーのサポーターみたいな塗り!世阿弥の長男がアフリカ人のような、ネイティブ・アメリカンのような、それでいて部分的に和風な衣装で、お世辞にも上手とは言えない踊りを先導して踊っていたら、驚いたことに、亡霊になった次男、恋人などがそれぞれに思いのたけを叫びながらゆらりと出てきて・・・もー全く意味不明の大空間に変貌しました。(平たく言うと回想シーンなんでしょうね。)
服装にしろ踊りにしろ、どの国籍にも属さないものを目指されたのかもしれないなー。栗山民也さんの演出ですし、てんやわんや、何でもござれの日本の祭り状態にしたかったのではと思いましたが、決して正解じゃなかったですねぇ・・・。前半をもっと猥雑に滑稽にリラックスした形にしておけば、はじけちゃえるのかもしれません。最後の最後、大きな足音をかき鳴らしながら民衆が舞台前面に集まってくるのはとても良かったです。
私としてはもっと山崎さんの脚本をじっくり味わいたかったので、演出自体に心奪われるのは期待通りじゃなかったです。公演期間が一ヶ月ぐらいありますから後半ぐらいからは、こなれて良くなってくるのではないでしょうか。この演出で成功したらものすごい作品になると思います。
信じられないほど豪華な出演陣です。目移りしちゃって幸せでした。
坂東三津五郎さん。ほんっとに演技がお上手でした。中年から老年までを演じられたのですが70歳を過ぎた老人に本当に見えるんです。感動しました。ただ、上手すぎて例の「踊り」の演出と全然かみ合ってなかった気がします。重厚すぎたんです。歌舞伎役者さんなので「大和屋!」と3回ほど声がかかったのが楽しかった。
風間杜夫さん。最近観た『死と乙女』ではあんまりだったのですが、今回はキレてましたねー。かっこ良かった。相槌を打つようなところはちょっと予定調和が見え隠れしちゃってましたが。
山路和弘さん。世阿弥の次男役。宮本亜門 演出『ファンタスティックス』で素敵だなーと思っていたのですが、今回も渋いハンサムでした。亡霊で出てきた時も血の滴りがきれいだった。
田代隆秀さん。風間杜夫さんの兄役。前半の最初の方にしか出てこられませんでしたが、最後の最後までその存在感が消えませんでした。上品な声がまだ心に残っています。
寺島しのぶさん、宮本裕子さん、倉野章子さんの3人の女優さんが神々しいほどの輝きでした。
寺島しのぶさん。知性ある狂女の、しかもどん底の悲しみを胸に抱いた様子を演じさせたら彼女に並ぶ人はいないと思います。かなり具体的な制限つきな誉め言葉ですが(笑)、坂手洋二 演出『マッチ売りの少女』でもそうでした。立ち姿があまりに恐ろしく美しく、存在そのものが鋭利な刃物の切っ先のよう。
宮本裕子さん。劇場之隅々まで響き渡る清らかではりのある歌声。スタイルもいい。鋭い表情にあの美しいおみあし。ダンスもかろやか。表情は童顔なのに究極の色っぽさ。
倉野章子さん。声に凄みがあるんです。抜群の説得力があります。幕開け一番に登場した時の老婆の後ろ姿に目を奪われました。
新国立劇場HP : http://www.nntt.jac.go.jp/
ブラジル『性病は何よりの証拠』11/28-12/1阿佐ヶ谷アートスペースプロット
ブラジリィー・アン・山田さんが作・演出をする演劇ユニット”ブラジル”。『苦笑系喜劇』というジャンルだそうです。前回の『ロマンティック海岸/科学ノトリコ』が最高に面白かったのですごく楽しみにしていたのですが、期待を裏切らない内容でした。もー・・・やり過ぎ大歓迎!!
「陸ひとつ見えない海に浮かぶ、たったひとつの小さなボートの上、8人の男女の疑心渦巻く密室劇。」ということで、本当に劇場のド真ん中にゴムボートがあるだけの舞台装置でした。そこに8人がすし詰め。見ているだけで暑苦しいのに、そこでさらに熱く激しく繰り広げられる、目も当てられない、見るも無残な、笑ってる場合じゃないのに笑えてしまう、実質的”密室”の惨劇。あぁ~・・・ちょっぴり罪悪感がともなう密閉感にニヤニヤしちゃいました。
ここからネタバレします。
赤裸々なエロ発言がめいっぱい出てきますが、笑える範囲内にちゃんと収まります。しかも大声でおおっぴらに笑える状況ではなく、「苦笑」するしかないように持っていくんですね。大人のしたたかさがかっこ良いです。
病気に松竹梅のランクがあるという架空の設定にはうなりました。梅毒のひとつ上のランクの竹毒(チクドク)て・・・ネーミングも苦笑です。ファンタジーにすることで演劇的な楽しみが増えています。
そして、しっかりと計算された芸、ならぬゲロ、でした。役者さん、大変だな~とおもんぱかりつつ、実は「もっとやって!!」とわくわくしちゃう、観客心理そのままに楽しませていただきました。
「渚のバルコニー」が流れる中、残された2人が狂いかけつつ踊るエンディングは圧巻でした。あともうちょっとで私もトランスできたと思うんですが、そこまでは行かなかったなー。こういうお芝居は少しの呼吸や間の違いでイけるかどうかが変わってくるんですよね。でも満足のレベルです。
辰巳智秋さん。社長。大きな体型を生かしたキャラと演技で圧倒されます。汗がっ、汗がっ!
諫山幸治さん(青島レコード)。遭難3回目男。うまいなーと思いました。相当おトボケさんだったのに最後は熱血&爆発。
近藤美月さん(bird's-eye view)。最初のチクドク女。何をやっても、やらなくても、注目せずにいられない女優さん。一言一言が面白くてたまらない。
吉田久代さん(ククルカン)。不倫している女。すごい美人でセクシー。涙を流して迫真の演技でした。
長嶺加奈子さん。妊娠している女。この方も可愛いらしかった。可愛い女の子、大好きです。
ブラジル : http://www.medianetjapan.com/10/drama_art/brazil/