2003年12月21日
演為(エンタメ)『シカカノロココ』12/12-14パンプルムス
お世話になっている方が座付き制作をされているのでお邪魔しました。旗揚げ公演なんですね。
起承転結のあるストーリーもので1時間50分ぐらいありましたかね。ものすごい傑作は別として、どんなお芝居でも1時間半にまとまっていればだいたい気持ちよく帰れます。私的感情を殺ぎ落とせばお客様フレンドリーなお芝居になるので、そのヘンは観客として声高に言いたいところです。
江戸時代なのか室町時代なのか、とにかく着物が日常着で稲作を営む人が国民の大半だった時代の日本が舞台でした。学生の旗揚げ公演でこういう設定を選ぶ事に驚きます。現代ものにすれば演技も衣装も簡単だったのでは?とか思うのは私だけなのかなー。昔観たくろいぬパレード『欲動物』@中野ザ・ポケットも農民のお話でしたが、かなりつらかったです。踊るシーンが何度かありましたが、設定として無理があったんじゃないかなぁ。気持ち良い転換につながったこともありましたが必然性を感じられません。
災いと争いの違いに言及し、反戦ものにつながったのは時代を反映していますね。日本人なんだなーとしみじみ感じ入り、また、若い人も戦争について敏感に感じ取っているんだなと思いました。
ちゃんと役者さんの力で笑いを取れているところに、その説明ゼリフが後から付け足されるのはもったいなかったです。
役者さんは・・・初めて舞台に立ったんだろうな~って感じる状態でした。舞台を見ていられないです。恥ずかしくなってうつむいてしまいます。そして、私は眠りに落ちていく・・・。クライマックスは、照明がきれいで音楽も大胆に流れたからか、役者さんも堂々と演技されるようになりました。そこは見ていられましたね。
前売り1000円の旗揚げ公演ということを考慮すれば、あの舞台美術(菅原あやさん)はなかなか良かったと思います。衣装は・・・手作り感がにじみ出ていましたが、面を被るなどの工夫が見られて好感が持てました。
パンプルムスってあの規模にしては音響(スピーカー?)が良いですね。聞きほれるほどいい音が出ていました。
演為 : http://page.freett.com/entamehp/index.htm
ホリプロ『リチャードⅢ』12/5-28 日生劇場
シェイクスピアの作品です。蜷川幸雄さん演出で市村正親さん主演の『リチャードⅢ』は再演です。
ものすごくわかりやすい娯楽作品でした。日生劇場に市村さん、夏木マリさん、香寿たつきさんが出ていて客席はマダムがいっぱい。年末の同窓会で「あーら奥様お久しぶりぃ♪」みたいな。
『リチャードⅢ』というと、ものすごい(論理的には支離滅裂な)口説き文句で、自分が殺した男の妻(香寿たつき)を妻にしたり、自分が殺した少年たちの母親(夏木マリ)をうまく説き伏せたり、普通ならありえない展開に持っていく話術が見所なんですよね。なのに市村さんと夏木さんとのやりとりだけはかろうじて見るところがありましたが、他はてんでダメでした。全く説得力なし。市村さんはがんばっているんだけど、それを受ける役者さんたちがほぼ全員弱いんです。会話が成立しないんですよね。
そして、リチャードの母親役(東恵美子さん)の下手なこと!驚くほどマジ下手でした。自分が演じている役柄の気持ちなんて全くわかっていない様子。棒読みならまだしもヘンにわかったようなしゃべり方をするからまた見苦しい。更にリチャードが殺した先王の妃(だったかな?)マーガレット役(松下砂稚子さん)もひどかった。狂った役なのに全然狂ってないし。朗々と老女っぽくしゃべるだけ。香寿たつきさんもダメでしたねぇ。夫を殺されたのにリチャードにほだされる、という展開に全く説得力がありませんでした。
素敵だなーと思ったのはリチャードの兄役の高橋長英さん。声が本当にきれい。かつらがお似合いでしたね。最初に利用されて裏切られる部下役の瑳川哲朗さんもいつも通り安心できる存在でした。
オープニングはインパクトがありました。格子のパネルがそびえたつ、がらーんとした舞台に突然落ちてくる馬や牛の死体。花束。「ズシン!」「ボスっ!」等のものすごい音でした。そこにひっそりたたずむリチャード。かっこいいっ。でもラストはおなじみ蜷川メソッドですよ。『ハムレット』と同様、悪い王を倒して良い王が国を治めるようになってめでたしめでたし、というのを「その良い王」もやっぱり悪者で、人民の生活はまたもや暗雲が立ち込める・・・という展開にしちゃうんだよね。もう免疫ができました。
リチャードが死ぬ時、兄が死んだのと同じように仰向けに倒れたのが良かった。わざわざ言うこともないんですが、そういうところが非常にわかりやすく、娯楽作品として成立しているんですよね。
こんなに好き勝手に言っていますが、衣装(小峰リリーさん)が本当に素晴らしかったです!特にリチャード(市村正親)がはおっている赤いマントは絶品です。しなやかで、艶があって、大きいのにすごく軽そうで、ちょっと透け感があって、同じ布だけでのっぺらぼうに作っているのではなく、途中で違う織りも入っているのがまたおしゃれ。マントのはためき加減もしっかり計算されていますね。市村さんがふわっとなびかせる度にその布の気高さに見とれました。
市村正親さん。足が悪いせむし男の役なのでずっとびっこを引いてらっしゃいました。何をやっても上手い。必ず良いポイントでユーモアを入れてくださいます。どんなお芝居でも市村さんを観られたからいいかなって、終演後には思えます。でも、今回はなー・・・・。
実は、隣の席がゲイのカップルだったのが何よりも衝撃的でした。うーん素敵なデートね~。
日生劇場内『リチャードⅢ』 : http://www.nissaytheatre.or.jp/paf/main.html
ホリプロ内『リチャードⅢ』 : http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=32
阿佐ヶ谷スパイダース『ともだちが来た』12/17-30ザ・スズナリ
阿佐ヶ谷スパイダースは、長塚圭史さん(作・演出・役者)、中山祐一朗さん(役者)、伊達暁さん(役者)の3人組です。いつもは長塚さんの作・演出で、いろんな客演の役者さんを集めて公演されるのですが、今回は役者の中山さんが演出で、長塚さんと伊達さんにによる二人芝居でした。面白い企画だなーと思いました。
”私(長塚)”のところに”友(伊達)”が突然たずねてきた。その2人が一人暮らしの狭い和室で語らうだけの2時間。男二人芝居です。
緊張感が最後まで途切れない、上質の二人芝居でした。若い男優さん2人と同じく若い演出家とで作り上げたという点からしても素晴らしいことだなーと思います。阿佐スパというと、比較的若者向けで、基本的にグロテスク&ブラックで、乾いたギャグ満載の、ちょっぴり切なく悲しげで、だけど一貫してドライなストーリーもの、という作風だと思っていましたので(私の勝手な感想です)、それを全く裏切る作品になっていました。もちろんギャグもありましたけど、静かにツーっと、一本の重たい線が通っている感じで、セリフもかなり観念的でしめっぽいです。こういう作品をやるってことが非常に個性的だと思いました。企画としてすごい。初めて阿佐スパを観た人は「こんなことをやる若い男の人達なのか!」と感動することでしょう。いや、好みに合わない人の方が多いかもしれません。それほどクセのある公演だと思います。
私が一番感動したのは、私”のところに”友”が来てから初めて”友”が”私”の体に触ったシーンです。物語の始まりの方で、まだ”友”が何者なのかが観客にわかる前です。”友”が「気持ちいい?」と聞くと”私”はどぎまぎしながらも「・・き、気持ちいいよ」と答えます。その後で”友”が「俺はそうじゃない・・・ペッタンコだから(等)。・・・」と、静かに本音を吐露するくだりで涙がこぼれました。「ああ、この自転車に乗ってきた少年(”友”)は、自分に、人間に、絶望しちゃったんだな。もう昔みたいにはコミュニケーションできないんだな」って感じて、そのどん底の悲しみと、それに対峙する”友”と”私”に共感したんです。そう感じる具体的理由がちゃんとあるのですが、その設定が判明する前に、会話だけで彼の気持ちが感じられたのは、伊達さんの演技が素晴らしかったからだと思います。
麦茶が何度も無造作にたたみの上に置かれます。いつこぼすかと観ている方がハラハラするんです。静かな2人芝居ですから、そういうスリルを要所要所に入れる演出(中山)は巧いし、かっこいいなと思いました。
舞台美術(加藤ちかさん)は仕掛けや作りなどは本当にしっかりしていました。清潔感があります。でも大学生の一人暮しの部屋には思えなかったな~。少しだけ広すぎた感じ。自転車で走ることを考えるとああでなきゃだめかもしれないけど、あの畳の組み方は不自然じゃないのかなー。いたしかたないことかもしれませんが。柿の木がリアルで良かった。
プロジェクター映像で部屋が海の中になるシーンで、二人が入っている押入れには明るい照明が当てられて、海の中に浮かぶコックピットのようになっていたのはSF感が増してきれいでした。でも、海の映像がリアル過ぎた気がします。想像できる程度で止めてもらえる方が私好み。
脚本は劇団八時半の鈴江俊郎さん。1月にスズナリでの公演を控えてらっしゃいます。新国立劇場演劇の来期のレパートリーにも入ってらっしゃるようです。
長塚圭史さん。”私”役。高校の剣道部室で女の子を口説くシーンは絶品。だから役者の長塚さんが大好きだっ!でも全般的には伊達さんと比べるとちょっと詰めが甘いように感じました。私が観た回が本調子じゃなかったのかもしれません。
伊達暁さん。”友”役。決まった演技(演出通りの動き)を次々と着実にこなしていくプロフェッショナル。脚本解釈が深いと思います。声がいい。セリフがいい。瞳が奥だけ重たく光っている。目が離せない。
『ともだちが来た』というタイトル、良いなぁとしみじみ感じます。そうなんだよな。ともだちが来てくれたんだよな。
ネタバレ感想を少し
思いつくままに細かいところを書いてみます。
”友”が訪ねて来る前に”私”が長い時間たたみの部屋で独り言を言っている。はっと気が向いて、部屋の出入り口のドアを空けると、そこには自転車を手で引いた”友”が立っている。そのシーンで、客席からは自転車のハンドルと手ぐらいしか見えないのが良かった。
「おまえが来てくれて嬉しいよ」と”私”は間を空けて3度ぐらい言います。それがいい。本当にそう思っているんだよって”友”に伝えたい気持ちが伝わります。
「死んで何を確かめたかったんだ?」というセリフが、”友”が「死んでいる」と観客にわかる前に発せられるのが良かった。
自転車の籠の中の風船が膨らむのはすごい。あれに服を着せるのが、またすごい。ペッタンコだ。本当にペッタンコだ。
「忘れてほしくないんだよ、お前に」は、本来なら最も心を打つセリフかもしれないのですが、私はやっぱり「ぺったんこ」が一番心にキてたので、そこは普通に通りすぎてしまいました。(セリフは完全に正確ではありません)
なぜ”友”が海に飛び込むことを選んだのかについて”私”が答えるシーン。「ピカっと光るやつ、待ってるやつ・・・」など、同じような言葉を怒涛のように浴びせ掛けるのですが、ちょっと流れちゃっていた気がしました。あれが全部伝わっていたら、死んでしまった”友”だけでなく”私”の孤独も浮かび上がってきたんじゃないかなーと思います。
阿佐ヶ谷スパイダース : http://www.spiders.jp/