2004年01月31日
ONEOR8『最後の恐竜』01/28-2/4下北沢駅前劇場
ONEOR8(ワンオアエイト)は田村孝裕さんが作・演出をする劇団です。いろんな雑誌にも取り上げられていますね。「静かな演劇」と言われるジャンルに入るのではないでしょう
参考:「「静かな劇」をめぐって」扇田昭彦
「現在の演劇状況」中西理(演劇コラムニスト)
舞台は雪山の中のベースキャンプ。雪男(イエティ)を捜索するために雪山生活をしている男6人、女3人の登山家チームと、それを取材する記者1人。コツコツ地道な捜索にも関わらず雪男は全然見つからない。
舞台美術に味があって良かったです。チームのみんなが食事をしたりするテントはとてもリアルで生活臭が漂っていました。その前(舞台のツラ)が雪の地面なんですよ、ふわーっとパウダースノー。素敵です。テントが斜めに配置されているから広がりがあります。
作品全体の雰囲気は、ちょっとソフトにした青年団、という感じかな。青年団よりも笑いが多めです。私は笑えなかったんですが、客席はけっこう受けていたと思います。
ポップな民族音楽系の曲が何度もかかりました。おそらく音楽はあの1曲だけですね。オープニングの登場人物紹介のBGMとして大音量でかかったのが楽しかったのですが、だんだんとあざとらしさが鼻についてきて残念でした。曲の狙いとしてはペンギンプルパイルズ『不満足な旅』(2002年01/16-20下北沢OFF OFFシアター)に似ているように思いました。
期待を胸いっぱいにして雪男探索に行ったのに、残念ながら何の形跡も見つからず、ベースキャンプに帰ってからみんなで雪合戦をするシーンが良かったです。祭りのパワーはすごい。あそこで終わるのかなーと思ったら、またしっかり暗転してエピローグのようなラストシーンがありました。雪男にしても女の子達の人間関係にしても、きれいに丸く治めてしまって、顛末としてはちょっと安直だったんじゃないかなーと思います。
昔(1、2年前)に比べるとずいぶんお話がわかりやすくなったそうです。一度見ただけではわからないような観劇玄人向けの作品だったとか。ということは今は変わられたんですね。確かにとってもわかりやすかったです。
作・演出 田村孝裕
出演:冨塚智 野本光一郎 恩田隆一 平野圭 今井千恵 和田ひろこ 冨田直美 古屋治男 正村嘉浩 モロ師岡
舞台美術:小野寺綾乃 照明:和田典夫 音響:今西工 舞台監督:村岡晋、藤林美樹 宣伝美術:美香 宣伝写真:岩田えり 制作:今井千恵 票券・受付:上田郁子
ONEOR8 : http://www17.big.or.jp/~oneor8/
2004年01月29日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第13弾『タイタス・アンドロニカス』01/16-2/1彩の国さいたま芸術劇場
去年、彩の国さいたま芸術劇場で上演された蜷川幸雄さん演出の『ぺリクリーズ』がとても良かったので、少し期待して与野本町まで足を伸ばしました。
『タイタス・アンドロニカス』はシェイクスピアの作品の中でも『ロミオとジュリエット』以前に書かれたもので、かなり昔のものなんですね。シャレにならないほど残虐非道な登場人物が出てくる上に、卑猥な表現炸裂の作品でした(笑)。
まず、ロビーに入ると衣装や小道具が所狭しと置かれていました。役者さんも衣装を着けて歩き回っています。うわーっ!楽しぃーっっ!!舞台上ではスタッフさんがマイクで話して指示を出してますし、両袖にそびえ立つ壁のドアからはスタンバイしているスタッフさんが丸見えです。「そろそろいくよっ」のようなカジュアルな掛け声の後、すぐさま照明がパっと変わり、お芝居が始まりました。かっこいいです。
オープニングから30分ぐらいまでは絶品でした。この短時間に何度もどんでん返しがおこり、人間の愚かで悲しい性(さが)に涙が溢れました。老タイタス(吉田鋼太郎)が皇帝(鶴見辰吾)のためにと思ってやったことが次々と裏目に出るんです。慈悲を与えずなぐさみものにしたゴート族の王妃(麻実れい)が皇帝の后になってしまうのは、本当に皮肉ですよね。
しかし、その後は物語の進み具合が徐々にゆったりとしてきて、休憩の時には長いよ~と感じるようになって、終わる頃にはすっかり疲れてしまいました。子役の悲痛な嗚咽の声でエンディングというのもさらにつらかったな~。物語のメインが恨みや復讐である上に、あの強烈な血の演出がすごかったんだと思います。
舞台は美術も衣装も含めて全体的に白色に統一されていました。だからこそ血の赤色が強烈な印象を残します。何か起こる度に血がドバーっ。それの繰り返しでした。そしてクライマックスの血の惨劇は・・・私は笑ってしまいました。うおーっ!って言いながら切りかかり、切られた方の胸元から赤いリリアンの糸をゴッソリ引っ張り出すんですが、形式美にするならもうちょっとテンションを下げるべきだし、リアルにするならもっとスムーズにしないと感情移入しづらいと思います。
真っ白で大きな壁が両袖にそびえたっていて、そこに照らす柄モノの照明で場面が転換します。神殿からどうやって森にするんだろうと思っていたら、胸の高さぐらいのハスの葉が沢山出てきました。唐沢寿明&大竹しのぶ主演『マクベス』の時に似ていますね。上から大きな木が降りてきてハスの間に立つと、暗い青緑色の森の照明に包まれて、そこは深い穴底のような森になりました。美しかった~。
巨大な獅子とその乳を吸う赤子の像はパンフレットによると“親子の愛”を表していたようですが、私には“野獣の乳を吸ったために野獣の血が流れるようになった人間”というイメージも付加されました。それはそれで味わいが増えたと思います。なにしろその像が巨大でとても良く出来ていたので、その存在だけで空間が成立していました。
パンフレットの河合隼雄さんと松岡和子さんの対談を読んでやっとこの作品の奥深さがわかりました。やっぱりビジュアル的に“血”にこだわりすぎたのではないでしょうか。残酷から滑稽になって行ったのは果たして意図的だったのかどうか。前半が素晴らしかったので私としては残念ですね。
麻実れいさん。カーテンコールの妖しさと艶やかさにノックアウト。またもや恍惚のため息をつかせていただきました。早口で怒鳴ってしまう人が多い中、セリフもしっかり、しっとり聞かせてくださいました。
真中瞳さん。レイプされて舌と両手を切り落とされた娘役。残念ながらお姫様には見えませんでした。“深窓の令嬢”的なお姫様像は求められていなかったでしょうけれど、もうちょっと皇族らしさが欲しかったです。
作:W.シェイクスピア 演出:蜷川幸雄 翻訳:松岡和子 装置:中越司 照明:原田保 衣裳:小峰リリー 音響:井上正弘 ヘアメイク:武田千卷 ファイト・コレオグラファー:國井正廣 音楽:笠松泰洋 演出助手:井上尊晶、石内詠子、古澤直子 舞台監督:明石伸一 技術監督:白石良高 特殊美術:福田秋雄 小道具デザイン:安津満美子、田淵英奈 制作:稲村宗子 劇中歌:月川勇気
出演:吉田鋼太郎/麻実れい/萩原流行/鶴見辰吾/真中瞳/岡本健一/川辺久造/山本道子/高橋洋/保村大和/廣田高志/横田栄司/大友龍三郎/新川將人/グレート義太夫/二反田正澄/村井克行/佐々木帯刀/栗原直樹/田村真/野辺富三/杉浦大介/石岡剛/秋山拓也/朝倉崇/谷田歩/高橋光宏/鹿野良太/金子岳憲/岩寺真志/伊藤一樹 他
さいたま芸術劇場 : http://www.saf.or.jp/
2004年01月27日
ロリータ男爵『あいつは裸足-その足で逢いに行け-』01/22-26下北沢駅前劇場
荒唐無稽でファンタジックなストーリーの“へなちょこ”ミュージカルをプロデュースしているロリータ男爵。いつも必ずお邪魔しています。
今回のテーマは「野生児」だったようです。その野生児役の大佐藤崇さんのパワーがすごかった。とりあえずほぼ全裸ですから(笑)。他の役者さんも皆さんすごく体を張っていた感じです。
現代社会が飢餓で一度滅びた後の世界。発掘とか土を掘るとかは地下のイメージで、野生児をつかまえて見世物小屋(サーカス)へ・・・というとちょっとメランコリックな感じですので、全般的に暗めのテイストが舞台空間を支配していました。美術には汚しが入ってますし、照明の色もちょっと抑え目。私はロリータ男爵というとパーッと明るい方が好きなのもあり、前半から中盤にかけては乗れずじまいでした。
でも、クライマックスで野生児ヴィクトリア(チロ)が背広を着て帰って来て、大爆発。その後の展開はもー、ブっ飛びました。さすがだなー。いつも作・演出の田辺さんのラストの締めのやんちゃが、私には最高にツボです。
ただの偶然なのですが「チロ」というのは私が小さい頃に、自分の飼う犬につけようと思っていた名前です。採用されなかったんですけどね。なんだか懐かしくて切なかった。
作・演出・出演:田辺茂範
出演:大佐藤崇/斉藤マリ/役者松尾マリヲ/加瀬澤拓未/丹野晶子/大沢ラーク/草野イニ/西部トシヒロ/伊藤修子(拙者ムニエル)/足立雲平
舞台監督:海老沢栄 照明:中山仁〈(株)ライトスタッフ〉 音響:中村嘉宏(at sound) 音楽:佐藤こうじ(現在位置) 映像:河内大佑 舞台美術:青木すみ子、森知行、濱井海 小道具:清水克晋(SEEMS)、山本愛 衣装:小川広野、川島今日子、斎藤美穂、堀内愛、斉藤由香理、大沢ラーク メイク:斉藤麻耶 宣伝美術:森田涼子 演出助手:加瀬澤拓未、清水俊樹 制作:今井香月 当日運営協力:三村里奈(MRco.)
ロリータ男爵 : http://www.lolidan.com/
2004年01月25日
少年王者舘KUDAN Project『真夜中の弥次さん喜多さん』01/6-13シアターグリーン
しりあがり寿さんの漫画が原作の傑作二人芝居の再演です。初演は2001年。漫画『真夜中の弥次さん喜多さん』『弥次喜多 in DEEP』は手塚治虫文化賞を受賞してます。原作のあのイラストが入ったチラシのインパクトはものすごいですよね。
2003年中国3都市ツアーの凱旋公演でした。私が拝見したのは超満員の千秋楽。立ち見も30人ぐらい出ていました。
漫画の原作は一話ぐらい読んだことがあるのですが、この作品はそれをなぞっているわけではないようです。天野天街さん(少年王者館)の脚本・演出で全く新しい作品になっています。原作をそのまま舞台化するよりも、よりリアルに原作のイメージやパワーが伝わってくるんですね。ある表現方法が全く別の表現方法にきれいに翻訳・変換されたような、そんな感触です。偉大だと思います。
ウニタモミイチさんによる当日パンフレットの文章にも書かれていましたが、天野天街さんの作風は、原作の要素全てをバラバラのパーツにしてから、それを組み合わせて貼り直したような感じ。単語で書くとコラージュ、パッチワーク、モザイク、パズル、等。
また、この作品の大きな見所の1つはイリュージョンですね。トリックというかマジックというか。手品をいっぱい見せていただいた感じ。頭の切れる遊び好きの演劇マジシャン達に頭の中身をかき混ぜられて、再び新しく練り合わせられた心地、と言えばいいでしょうか。
私は感動するとよく涙が出るのですが、この作品では涙ではなく鳥肌でした。前のめりになって口がポカーンと開いたまま、背筋がゾゾゾっ。
弥次さん:寺十吾さん(tsumazuki no ishi)。ドロくさいんだけどキュート。目が離せませんでした。恋に落ちる感覚に似た感じで。あ、すっかり見とれたってことですね。
喜多さん:小熊ヒデジさん(てんぷくプロ)。“顔箱”をかぶってうどんを1本ちゅーちゅーと吸い込まれた時は心がよじれました。
以下、少々ネタバレします。たとえば再々演があったとして、読まれてから観に行かれても衝撃が薄れるわけじゃないと思います。言葉ではこの作品の味わいを決して表せないですから大丈夫(笑)。
ある宿に泊まっている二人。二人でひとつの布団に寝ている。弥次さんは喜多さんにホレていて、ヤクチュウ(薬中毒)の喜多さんの更正のために伊勢参りに行こうと決心する二人。
さすが天野さんの演出ということで、映像がパワフルでした。マトリックスみたいに“ザーザー”と降る雨。意味もなく夏がくる→セミの声が“mean mean”。
ラストはキャスト・スタッフ紹介の字幕スーパー映像が舞台全面を覆い、なめるように上へ上へ轟々と繰り出されました。浴びるような映像の洪水。腰から背中に向かって震えが来ました。
だじゃれの言葉遊びに鬼気迫るものがありました。野田秀樹さんもよく使われますが、このお芝居ではそれが命につながっていました。「旅」をカタカナで「タビ」と書いて、それが「死」になるとか。人が亡くなって火葬されることを仏教用語で「蛇尾(だび)にふす」といいますよね。その「ダビ」さえ「死」関係あるのじゃないかなと連想しました。おぉ、すっかり洗脳されているっ。
うどんを食べるシーン。舞台上で松屋(おそらく定食屋のチェーン店)に出前を電話注文し、うどんが到着します。本物かと思ったら実はマイム。後ほど本物が届き、今度は本当にうどんを食べながら、全く同じ演技を繰り返します。「実験的」と言うのかどういうのかわかりませんが、まるで自分が実験台にされている心持ちでした。あぁ、人間ってとても曖昧な、個人的感覚で幸せや不幸せを決めているんだなと感じました。
その他、ちょっと箇条書きさせていただきます↓
踏むと時間がリセットされるボタン。
突然カラオケ。
手がうどんのように長くなり、しかも二人の腕がつながってしまう。
ふりだし&あがり等のさまざまな二項対立。
「これは夢だ。」
「生きているのか死んでいるのかわからねぇ。」
「でも俺は喜多さんが好き!」
私は「世界は“組み合わせ”と“繰り返し”で出来ているんだなー・・・」等と勝手に直感しました。これも洗脳かもしれませんね。あ、催眠かも?
原作:しりあがり寿 脚本・演出:天野天街
出演:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)/寺十吾(tsumazuki no ishi)
舞台美術:田岡一遠 大道具:子森祐美加/中村公彦(イリスパンシブルティ) 小道具:丹羽純子(少年王者館)/田村愛(少年王者館) 作曲:珠水(少年王者館) 音響:戸崎数子(マナコ・プロジェクト) 照明:小木曽千倉 照明オペ 富玲子 映像:浜嶋英子(マナコ・プロジェクト) 振り付:夕沈(少年王者館) 舞台監督:井村昴(少年王者館) 宣伝美術:しりあがり寿(イラスト)/アマノテンガイ(デザイン) 制作:山崎のりあき/小熊秀司 企画・製作:KUDAN Project
シアターガイドWEBチラシ : http://www.theaterguide.co.jp/C_Web/200312/20031209001.html
少年王者舘ノ函 : http://www.officek.jp/oujakan/
松竹『おはつ』01/2-27新橋演舞場
マキノノゾミ(脚本)&鈴木裕美(演出)コンビで松たか子さん主演の新橋演舞場公演。
脇を固める俳優も超豪華。チラシもまた豪華で美しいのでちょっぴり期待して伺ったのですが、全般的に地味でしたね。
時は幕末。胸の病を持つ女郎のおはつ(松たか子)の夢は、命が尽きる前に「曽根崎心中」のお初、徳兵衛のような激しい恋をすること。おはつには結婚を誓い合った正太郎(小市慢太郎)がいるが、2人の間に近藤勇(渡辺いっけい)が割り込んでくる。しかし、その仲裁に入った正太郎の幼なじみの直助(佐々木蔵之介)の方に、おはつは惹かれてしまい・・・。
おはつと直助の狂おしく熱い恋をメインに描く演出だったようですが、新春の興行としては狙いが細やかすぎたんじゃないかと思います。細やかなのは本当は大好きなんですけど、お正月の新橋演舞場ということで、もっと華やかなものを期待していた私にとってはちょっと残念でした。
おはつと直助は、お互いのせっぱつまった環境から、恋をするために恋をしているという印象を受けました。だから本当に恋に落ちているように見えにくかったです。でも、一目ぼれをしたその夜に褥(しとね)をともにするシーンのあの野獣っぽさはかっこ良かったな~。
美術(松井るみ)はわざと作りこみ過ぎない、地味な感じにされたようですね。紐が垂れているのはさすが女性ならではの繊細な狙いだと思います。色もきれい。でも空間が抜けすぎていた気がします。
きらびやかな遊郭から一転して貧しい2人暮らしになり、最後は本当に悲しい幕切れになります。全編通してメランコリックな音楽が何度も流れ続けるのがつらかった。
直助(佐々木蔵之介)が最後に、本当にあっけなく沖田総司(北村有起哉)に殺されたのが素晴らしかったです。決闘をする人って、自分が死ぬとは思ってないんですよね。
松たか子さん(おはつ)。一本調子過ぎたような気がします。私には残念ながら恋しているように見えなかったんですよね。直助が切られた後に沖田総司に向かっていく演技は熱くてとても良かったです。
佐々木蔵之介さん(直助)。私は優しい蔵之介さんが好きですね。大きな目をさらにギョロリとされるのは、アクション系芝居の時に存分に発揮していただけたらいいなと思います。今回はちょっと怖すぎたな~。
小市慢太郎さん(正太郎)。優しさゆえ弱い男っぷりが愛らしかったです。でもちょっと間が長すぎたかなぁ。
北村有起哉さん(沖田総司)。とにかく輝いていました。瑞々しい若さと体全体からあふれる優しさに、胸が晴れやかになりました。コミカルな演技も暖かかったです。朝日新聞でも「新しい沖田総司像」と評されていましたが、本当にその通り。北村さんのこの演技を観られただけで幸せです。
渡辺いっけいさん(近藤勇)。花道で拍手したくなったのはいっけいさんだけでした。渋かったな~。
当日パンフレット(筋書き)のカバーがものすごく素敵でした。紙質もいいしデザインも上品で、新橋演舞場のパンフは大好きです。
作:マキノノゾミ 演出:鈴木裕美
出演:松たか子/佐々木蔵之介/小市慢太郎/北村有起哉/佐藤江梨子/渡辺いっけい/江波杏子/田鍋謙一郎/八十田勇一/武田浩二/松島正芳/平田敦子/歌川椎子/福井貴一
美術:松井るみ 照明:中川隆一 効果:井上正弘 衣裳:宮本宣子 ヘアメイク:河村陽子 殺陣指導:川原正嗣、前田悟 方言指導:大原穣子 演出助手:坂本聖子 演出部:赤羽宏郎、宇野奈津子 舞台監督:菅野将機、浅香哲也 制作:岡崎哲也(松竹)、吉川博宗(松竹)、佐藤玄(パルコ)
松竹(歌舞伎・演劇) : http://www.shochiku.co.jp/play/
木山事務所『仮名手本ハムレット』01/21-25東京芸術劇場 中ホール
1991年初演で第44回読売文学賞(戯曲部門)受賞。
ニューヨーク(1997年)、ロンドン(2001年)でも上演され、今回が5度目の上演です。来月にはモスクワ公演が控えています。
私は2001年に初めて拝見し、笑いと涙が溢れて止まりませんでした。今回もまた然り。
1897年、明治30年の東京。舞台は本邦初演の『ハムレット』を上演しようとする劇場・新富座。演出家が必死で西洋の芝居らしく作ろうとするが、『忠臣蔵』をやるものだと思っていた役者たちはブーイング。しかも新富座には膨大な借金があり・・・。
『ハムレット』と『忠臣蔵』の類似点を見出しつつ、そこに主人公の新富座の座主・守田勘弥の人生をも映し出されていきます。不恰好だった歌舞伎風『ハムレット』がだんだん美しく、神々しくその姿を見せ始め、このお芝居自体も『ハムレット』と同じ展開になっていく巧妙な脚本の力にまず唸ります。
“To be, or not to be. That is a question.”の日本語(坪内逍遥訳)「ながらふるか、ながらへぬか、それが疑問じゃ。」がハムレットの本当の心に近づいていく様に、目を耳を奪われました。
『ハムレット』の劇中劇「ゴンザーゴ殺し」のシーンを「庶民のための芝居を殺し、貴族のための芝居に摩り替えてしまった」守田勘弥に当てはめたのもすごかった。胸に刺さりました。
私が2001年に拝見したものとの大きな違いは、まず東京芸術劇場 中ホール(841人)が俳優座劇場(300人)より2倍以上大きいということです。演出もそれ用に変わっていた気がします。照明や音響がちょっと大掛かりな感じ。また、六本木と池袋では客層も全然違うんですよね。それから前回の主役は内田稔さんでした。これも相当違います。木場勝己さんはすごく気が強くて頑固なイメージでした。内田さんは吹けば飛びそうだった(笑)。
開演5分前に開演前のアナウンスが流れると、その直後になぜか拍子木がチョーンと一度打たれました。「あら、もう始まるのかな」と思って構えていたのですが全然始まらず、結局5分ほど経ってやっと始まりました。この5分間せいで客席は怖いほどの静寂に陥ってしまい、去年はドっと笑いがおこった“裃(かみしも)を羽織った父王の亡霊登場”のオープニングで、お客様はおそるおそる笑う程度。結果、劇場がこの作品ならではの温かさになるのに30分ぐらいかかってしまったように思います。もったいない!
・・・とは言ってもそれも小っちゃなことです。ゆっくりと自分の人生を振り返ることが出来、日本(祖国)の文化に対して誇りを持つことが出来、達者な役者さんの演技に心奪われ、しかも大声で笑わせてくれるお芝居になんて、めったにめぐり合えないですから♪
脚本:堤春恵 演出:末木利文 美術:石井みつる 照明:森脇清治 音響:小山田 昭 振付:根布谷翔山 衣裳:新井喜一 かつら:斎藤三郎 舞台監督:木島 恭 制作担当:松本美文 制作:木山潔
出演者:木場勝己/村上博/坂本長利/内山森彦/小田豊/本田次布/平田広明/林次樹/磯貝誠/内田龍磨/根布谷翔山/一川靖司/勅使瓦武志/森源次郎/菊池章友/齊藤翔平/田谷淳/宮内宏道/長谷川敦央
東京芸術劇場 : http://www.geigeki.jp/selection.html
2004年01月24日
コマツ企画『戦いの今日』01/22~25 早稲田大学学生会館B202
早稲田大学のお友達が出演されるため早稲田の学館まで伺いました。私自身も大学の時に学内の劇場でお芝居をしていたので、立て看板や客席の瑞々しい雰囲気などにふんわり郷愁など感じます。
コマツ企画は、こまつみちるさんという女性が作・演出をしている劇団で、前回は一人の男優さんが全裸で学内を走り、それを背後からビデオで追いかけて劇場生中継したそうです。それに比べると今回は相当ソフトでした。作風はいわゆる「早稲田っぽい」ものだったと思います。
ストーリーがすごくしっかりしていて、最後まで「どうなるのかな~」と集中して観られました。チラシのビジュアルが「戦争」なのですが、舞台は現代日本のとある家族のお話だったのでホっとしました。普通に生きていると思っているこの日常こそが、そもそも「戦い」なんだ、という考え方にはうなづけるところもありました。
物語のクライマックスで主宰のこまつみちるさん(ババア役)が、長くしなびた手作りおっぱいを客席にブン投げながら色々がんばって主張をし始めたのには驚きました。言ってる内容やタイミングはどうであれ注目せずにはいられないし、ものすごく愛嬌のある女性だなーと思いましたが、それまでみっちり作り上げてきた舞台空間がすっかり真っ白になっちゃったというか、ゼロになりましたね。私はもったいないと思いました。コレをやりたいためだけに演劇やってるのかなって思っちゃうほどのインパクトですから。
終演後に5分間の休憩をはさんで“恒例のおまけ”というのがあったのも、本編のイメージが消えてしまう原因です。コント集のような、にぎやかしイベントのような20分強。私は本編だけで相当疲れていたので、若い人のはしゃぎっぷりをただ受身で流しました。なるほどねー学生さんですねー。楽しそうでいいんじゃないでしょうか。こんなことなかなかできませんし。笑ってくれる観客も学館ならではでしょう。それにしても前から2列目のベンチシートで観るものじゃないですね。披露困憊です。
選曲センスが私好みでした。きっと世代がかぶっているんだと思います。荒井由美の“あの日に帰りたい”のカバー曲がかなり作品に合ってたと思いますし、カーテンコール後の松任谷由美の“春よ”も良かった。筋肉少女隊とかも効果的でした。
前売り料金1,000円であそこまで美術と照明を作れるって、ものすごいと思いました。早稲田出身の劇団が総じて美術・音響・照明などがウリのところが多いのも納得です。大学に入ったばかりの10代の頃からこんなにレベルの高いものを観ているんだから、これが当たり前だと思うんでしょうね。素晴らしいことだと思います。ただ、作風が偏ってくるというリスクもあると思いますが。
明石修平さん(オードブル)。電車恐怖症の息子役。静かな佇まいの美形でした。クールなおとぼけで笑わせて頂けて嬉しかった。bird's-eye viewで何度かお見かけしていたのですが、本領発揮という感じ。
浦井大輔さん(劇団まくらまくら)。介護バイト役。心が清らか。今時めずらしい若者な気がします。貴重。“おまけ”の時の司会がお上手で驚きました。
宇田川千珠子さん(サッカリンサーカス)。今回は出番が少なく、しかも前に拝見したのと同じように女学生の役だったので残念。でもやっぱり可愛いです。
舞台監督:佐藤恵(てあとろ’50) 舞台美術:加藤真由子 照明:工藤雅弘(サッカリンサーカス)音響:角張正雄(SoundCube) 映像:平井真貴、鎌鼬 宣伝美術:風見尚子(innocentsphere) 制作:コマツ企画
出演:本井博之 佐々木香与子(東京ネジ) 佐々木富貴子(東京ネジ) 明石修平(オードブル) アイハラミホ 川島潤哉 須貝英(てあとろ’50) 浦井大輔(劇団まくらまくら) 宇留野佳織 渡辺多恵子(劇団P.P.P) 折原敬一(バングラッシー) 宇田川千珠子(サッカリンサーカス) 白井三紀子(劇団森) こまつみちる
コマツ企画 : http://www.babu.jp/~komatu/
2004年01月23日
ビバノン『ククラチョフさんは印度人』01/22-25新宿タイニィアリス
お友達が多数関わっているので観に行きました。
短編コント集の合間にキーボードとギターの生演奏のある、軽いノリのステージでした。
20代から40代であろう年齢層の広い出演者で“コント”をやるというのは独特な気がします。「ちょっと楽しくやっちゃうよ~ん」と大人が舞台で気軽に楽しんでるという感じ。お芝居が始まる前と後の両方に役者紹介があるのもそういう雰囲気をかもし出していました。
ウルトラマンガイアをやってらした(やっている)吉岡毅志さんファンの女性の黄色い声援が客席をいやおうなく盛り上げていました。それもあってか客席は終始大ウケでしたが、私は細かいところで一人で笑ったりじ~んとしたり、勝手な楽しみ方をしました。「なんで?」で落ちになる超短編コント集が好き。特に携帯シリーズ。あぁ私って関西人だな~。全体的に社会派ブラックなネタが多かったですね。私の好みではなかったです。
「母と息子」のコントで始まり、1時間20分ほど経ってまたその設定が現れたので「あぁこれで終わるのかな、短くって良いな」と思ったら全く終わらず、それから40分ありました。全体の上演時間としては長編コント1本分長かったかなーと思います。
腹筋善之介さんのパワーマイムを存分に観られるのがすごくお得です。しかもタイニィアリスですから目の前なんですよ♪ いや~面白かった。すごい迫力でした。またファン度が増してしまいました。
TVに出ている方など有名な役者さんが出演されているので豪華なお花がいっぱい届いていたのですが、なんと通りがかりにオカマさんが堂々と花を抜いて持って行っちゃったとか。おそるべし新宿2丁目。
脚本:かわら長介/沼田健/東野ひろあき 構成:東野ひろあき 演出:吉廣貫一
出演 腹筋善之介/川村黄粉/吉廣貫一/東野ひろあき/かわら長介/吉岡毅志(ウルトラマンガイア)/坪内悟/松山彗湖(ハラホロシャングリラ)
MUSIC P:赤石香喜/G:緒方義弘
STAFF 照明:榊原大輔 舞台美術:箕田英二 宣伝美術:三井雅弘(三笑堂) 制作:ビバノン・camp.03
後援:TBS R&C
ビバノン : http://homepage2.nifty.com/napyo/
2004年01月21日
グループる・ばる『片づけたい女たち』01/10-25シアタートラム
永井愛さんの書き下ろし新作なので勇んで伺いました。
「グループ る・ばる」は松金よね子・岡本麗・田岡美也子の女優3人の演劇ユニットです。
高校時代、バスケットボール部で同級生だった女3人組。みな50代になっている。ツンコ(岡本麗)と連絡が取れないため、オチョビ(松金よね子)とバツミ(田岡美也子)がツンコの家に押しかけてみたら、ツンコはすっかり引きこもってしまっていて、ゴミ溜めのようになった部屋にうずもれていた。
お芝居が大好きな仲良し女優さん3人組と劇作家が集まって、色んなアイデアを出しつつ作り上げた(と思われる)、心温まるコメディーでした。笑いに包まれた社会派演劇といいますか、永井愛さんの脚本には本当に心打たれます。
客席には年配の方々も若者もたくさん。立ち見も出ていました。笑いが絶えませんでしたね。私は笑うよりも涙ぐむ方が多かったですが。
仕事に忙殺されて課長まで上りつめたが、悩みを抱えて部屋を全く片付けられないまま引きこもっている独身のツンコ。
金目当てでじじぃと結婚し、子供は作らず暇を持て余しているが、そろそろ羽振りが悪くなってきたバツミ。
しなびた定食屋のオカミとして毎日朝から晩まで働き、ウマの合わない嫁との争いで心が休まらず、般若心経をとなえるのが日課になっているオチョビ。
今回の脚本で永井さんは“決して告発されない傍観者の罪”について最も強く描かれていた気がします。身につまされる思いです。また、“跳び箱の後ろ会議(のような名前でしたが正確ではありません)”の弊害は私にも思い当たることでした。他人に相談するよりもまず自分の頭で考えて、自分一人で実行することから始めるのが大切な気がしています。難しいと思いますが、ツンコが気づいたのと同じように、私も1つずつやっていけたらと思いました。
片付けたいんだけど、片付かないという気持ちにものすごく共感しつつ、どんどんと片付いていく部屋を見て爽快な気持ちになっている自分に気づきました。年を取れば取るほど片付かなくなっていく自分の部屋(家)。さ、私も片付けよっ。・・・あ、今日はムリだから、明日・・・(笑)。
主演者:「グループ る・ばる」松金よね子・岡本麗・田岡美也子
スタッフ 作・演出:永井愛 美術大田創 照明:中川隆一 音響:原島正治 衣裳:竹原典子 演出助手:鈴木修 イラスト:荒井良二 宣伝美術:高橋雅之 舞台監督:小山博道 制作進行:加治真理 制作補助:西原栄 制作協力:トム・プロジェクト グループ る・ばる顧問:篠原公雄 共催:世田谷パブリックシアター 企画制作:グループ る・ばる 協力:二兎社/東京乾電池/(株)テイクワンオフィス/エム・カンパニー
グループ る・ばる : http://www5f.biglobe.ne.jp/~lebal/
2004年01月20日
日生劇場・東宝新春特別公演『芥川龍之介作品集 羅生門-女たちのまぼろし-』01/4-29日生劇場
浅丘ルリ子さん初見&仲村トオルさん初舞台ということで私はずいぶん前からチケットを取っていたのですが、やっぱり安売りになっちゃってショック。チラシのビジュアルにもおののきましたし、全然期待せずに伺いました。
川底に住む河童の4姉妹が、悩める若い弁護士(仲村トオル)を助けるために、人間の世界に出て来て彼にさまざまなお芝居を見せていきます。芥川龍之介さんの作品を次々にダイジェストで披露してくれるのでとっても楽しかったです。「羅生門」「偸盗」「開化の殺人」「藪の中」「河童」等。「地獄変」が特にエキサイティングでした。
ただ、後半は無理だらけで疲れちゃいました。「河童」のストーリーどおり主人公の青年(仲村トオル)が精神病院に入ってしまうんです。新春公演なのにクライマックスが精神病院っていうのはどう考えても暗すぎですよね。また、富田靖子さんの役がとって付けたような展開になってしまっていたと思います。浅丘さんと仲村さんのラブシーンってお約束なんでしょうけど、私は正視できなかったです。なんか恥ずかしくって。
衣装(小峰リリー)が豪華絢爛でした。多くの出演者が何度も着替えるし、それぞれのデザインも個性的で材質も良いものばかり。浅丘さんがこれでもか!これでもか!とカツラも衣装もとっかえひっかえ着替えて出て来てくださるのが楽しくてしょうがなかったです。ただ、ラストに近づくにしたがってデザインがエスカレートしてきて、挙句の果てのカーテンコールでの河童のお皿帽子には、笑いがこらえられませんでした。浅丘さん、すごい。爆笑してすみません。
舞台美術(荒川淳彦)が物語ごとに大胆に変化して嬉しかったです。やっぱり日生劇場ですから基本的に「豪華」で行ってもらいたいです。
浅丘ルリ子さん。一つ一つのセリフに愛がこもっていました。女優ってこういう人のことを言うんだなって感動。「浅丘ルリ子」というブランドは本物なんですね。
仲村トオルさん。映画「ビー・バップ・ハイスクール」の頃と同じ声で懐かしかったです。乱暴な役は迫力がありました。体も大きいしとっても舞台栄えされる方ですね。日本総合悲劇協会に出られるのが非常に楽しみ。
深沢敦さん。安定した演技で多くの役柄をリアルに見せてくださいました。かっこいいです。
原作:芥川龍之介 脚本:堀井康明 演出:星田良子 装置:荒川淳彦 衣裳:小峰リリー
出演:浅丘ルリ子・原田美枝子・仲村トオル・保田圭・富田靖子 笹野高史・岩崎加根子・深沢敦 他
製作:細川潤一・吉田訓和 製作=東宝 後援:フジテレビジョン
日生劇場 : http://www.nissaytheatre.or.jp/
2004年01月14日
Bunkamura『夜会「24時着 0時発」』1/3-28シアターコクーン
中島みゆきさんご自身が構成・演出・作詞・作曲を手がけ、主演する「夜会(やかい)」。1989年のBunkamuraオープンの年にスタートしたそうです。私は初見です。
昔から「夜会」っていったい何なんだろうと思っていたのですが、ミュージカルではなかったですね。お芝居でもありません。演劇仕立てのコンサートという感じでした。
少々あらすじをご紹介します。懸賞で当選した海外旅行先で、突然に夫が無実の罪で牢屋に入れられ、妻(中島みゆき)は国外追放を命じられる。無理やり乗せられた列車が見知らぬ駅で止まり、妻はMirage Hotel(ミラージュ・ホテル)という不思議な場所へと導かれるが・・・。
お話がどうも、ちゃんとつながっていないような気がしました。メインテーマは鮭の話だったんですよ。私はパンフレットを読んでから観たので意味はわかりましたが、読んでなかったらわからなかったんじゃないかな。突然、這いつくばっている人達(鮭)が出てきても、ね。
昔、シアターコクーンの座席に本物の雪を降らせたと聞きましたので、舞台美術(島次郎)にとっても期待していたのですが、特にものすごいことはなかったです。というか、あまり好みじゃなかったですね。上下(かみしも)の袖にある壁が同じ形でまっすぐそそり立っているだけなのは退屈です。ドアがぽつんと1つずつ現れたのは面白かったですが、もうちょっと大掛かりなものが欲しかったな。
三代目魚武濱田成夫さんがどうしても苦手でした。セリフを覚えてらっしゃらないようで、ずっとカンペを持ってらっしゃいました。詩人でらっしゃるからでしょうか。それで生々しく怒鳴るんです。ポエティックじゃない。大きな体と堂々とした姿は良かったです。
中島みゆきさん。歌がすごかったです。あの声はいったいどこから発せられるのでしょうか。あの細い体のどこから?
一昨年(2002年)の紅白歌合戦で「地上の星」を歌われましたよね。黒部ダムで真っ赤なドレスを着て歌う、凛としたお姿に感動しました。そのお姿、歌声を生で味わえるだけでも幸せなのかもしれません。
カーテンコールの後にアンコール(?)として2曲歌ってくださいました。2曲目の時の黄色いワンピースが最高に可愛かった。真っ暗な舞台で一人ピンスポットを浴びる黄色いドレスの中島さん。徐々に明るくなってきたら、そこは真っ青な空になり、小さな星がシアターコクーン全体に散りばめられていました。
♪生きて泳げ 涙は後ろへ流せ 向かい潮の国で もう一度生まれなおそう
この一生では たどり着けないとしても 命のバトンをつかんで 願いを引き継いでゆけ♪
最後のお辞儀もすごかったな~。客席のお客様全員を抱きしめてくださいました。
構成・演出・作詞・作曲:中島みゆき
出演:中島みゆき、香坂千晶、三代目魚武濱田成夫 他
音楽監督・編曲:瀬尾一三 制作:竹中良一 美術:島次郎 照明:小川幾雄 音響:鳥羽正生 音響効果:井上正弘 Staging & Choreograph:竹邑類 舞台監督:小高則明 衣裳:鈴木紀男、デヴィッド.T.マルチネス.S.ハザマ Hair & Make-up:泉沢紀子
文化村 : http://www.bunkamura.co.jp/
2004年01月12日
ラッパ屋『裸でスキップ』01/3-25THEATER/TOPS
下町の家具工場で働くイケてないオヤジさん達のセミ・ドラマティックな日常を、ブロードウェイの大ヒット・ミュージカルのメロディーに乗せて描く、笑いあり涙ありの傑作・大人向けコメディーでした。今年の初笑いには最適ですね。少々ネタバレしますが、読んでから行かれても大丈夫だと思います。
舞台は下町の零細企業の社員寮。男を部屋に連れこんでも「あらら、ヤっちゃったのね~」で済んでしまうおおらかな場所(笑)。
オープニングの“ゆきづりの恋”で、まずうっとり胸きゅん。鈴木聡さんの脚本って本当に優しいです。生まれた時からごく平々凡々に生きてきた男(区役所づとめ)と、埋もれるのが嫌で他人と違った人生を歩んできた破天荒な女(家具デザイナー)の出会いから始まり、その後の2人のもろもろの展開を軸にして、家具工場の行く末とそこで働く人々を描きます。
一夜の恋、結婚、浮気、不倫、離婚・・・不渡り、リストラ、脱サラ、倒産・・・。現代社会の日常となってしまっている、本来なら決して笑えない不幸な出来事を、ぐっとこらえて地道に乗り越えていく愛らしい日本のオヤジたちに感動です。もちろん鈴木さんの創作ですが、私は現代サラリーマンの様子をよく表していると思います。大人ってこんなにスゴイんだぜっ!って胸を張りたくなります。同時に可愛らしくって情けなくって涙も出ますが(笑)。
悲鳴を上げたり罵声を浴びせたりせず『裸でスキップ』しちゃう日本人に乾杯!人間はお祭りが好きです。どうにも納まり切らない感情をお祭りで昇華させるのだと思います。笑いながら、涙、涙です。
「なんだかいい話が始まりそうだけど、私、行くわ。」と、本題のところでぶった切るのがかっこ良かった。ハッピーともアンハッピーとも取れる途中のままのラスト。変にまとめることなく、本当に気持ちのいい仕切りでした。
メロドラマチックなミュージカルの大音量の中、歌に合わせてセリフのやりとりが歌の緩急にぴったりだったのは痛快です。音楽が大音量になるタイミングが笑えます。選曲は時には笑えるし、時にはしみじみ。
舞台装置に味がありました。その部屋を愛することが出来ました。照明で季節と時間の経過がきっちりわかりました。キメなきゃダメなところを逃さずキメています。
かわいらしかったセリフたち。(完全に正確ではありません)
「自分の中に夢がないのではない。まだ見つかっていないだけ。」
「僕は言うよ。君は素敵だ!君には才能がある!!僕は54歳だよ。だけど僕には”君に振り向いてもらいたい”という夢がある。」
「ばかやろう」「ふざけるな」「このやろう」等のあらゆる罵声。兄弟、幼馴染みの愛情が惜しみなく伝わりました。
「お前、俺ら全員を亭主だと思ってたのか?」経理のおばちゃんの女っぷりに脱帽。
大人の可愛らしさと優しさを堪能できる、年明けのハッピーコメディーです。普段はお芝居になじみのない方々にもガンガンお薦めできます。
作・演出:鈴木聡
出演:三鴨絵里子/木村靖司/おかやまはじめ/岩橋道子/弘中麻紀/俵木藤汰/他
舞台美術:キヤマ晃二 照明:佐藤公穂 音響:島猛(ステージオフィス) 衣装:木村猛志(A.C.T.) 演出助手:則岡正昭 舞台監督助手:山本修司、村西恵 舞台監督:村岡晋 宣伝美術:芹沢ケージ、冨宇加淳
ラッパ屋 : http://homepage3.nifty.com/rappaya/
劇団八時半『久保君をのぞくすべてのすみっこ』01/10-12下北沢・ザ・スズナリ
劇団八時半は京都の劇団です。今年の新国立劇場のラインナップにも入っている鈴江俊郎さんの作品を拝見したいので伺いました。
舞台は売れっこマンガ家さんのアトリエ。年中無休で夜も寝ずに働いているアシスタントさん達と作家先生の日常。住み込み家政婦は作家の姉。雑誌の編集者も女性で、職場は女ばかり。夜な夜な訪れる一人の男を除けば。
セリフを味わいました。フタを空けると登場人物全員がそれぞれに深い問題を抱えていたというのは、よくある展開とも言えますが、素朴で淡々としていて、地に脚のついたほんわかギャグともあいまって、独特の不幸の感触でした。観ている方がつらくならないのってとても優しいと思います。
「久保君はおもらしする。小さい子はおもらしするんだよ。小さいから隠そうとしてもちゃんと隠せない。」「そんな久保君のために描こう。そう思って始めたのに・・・」(セリフは正確ではありません。)
時々涙がこぼれました。現代の人間ならではの個人的な悩みをポツポツと並べていき、その解決法のなさを嘆きつつも、常に優しく登場人物たちを見つめる脚本でした。
ただ、演技の演出がどうも私には合いませんでした。関西の小劇場の役者さんの演技の仕方って、特有の色があるな~と思います。まず、声が大きい。叫ぶ。セリフがいかにもセリフとして聞こえてきちゃいます。簡単にいうと不自然。このお芝居については桃園会という劇団のタッチと似ていました(2002年11月『blue film』@シアタートラム)。
また、静かにしゃべる演技と怒鳴ってしゃべる演技がきっちり区別できるほど明確に分かれていて、しかもそれらが交互に出て来るのがパターン化していました。残念なことに私は途中で何度も覚めちゃいました。そして、あの露骨な棒読みは効果的ではない気がします。誰か特定の人物がそういうキャラクターなのだというわけでもないんです。いろんな人が棒読みしちゃうので。
舞台装置がちょっとおしゃれな感じでした。丸く大きな穴から照明が差し込むのってかわいいですよね。壁の小窓も奥まっている感じがメルヘンチック。ソファがシャーベット・グリーン色っていうのも気持ちいい。いっぱいいっぱい散らかして、明るめの転換の中でちゃんと片付けてから次のシーンになるのは新鮮でした。
遊佐未森さんみたいな感じの歌がオープニングとエンディングで流れて、雰囲気に合っているなと思いました。オルゴールの音楽が良かったな。
作・演出:鈴江俊郎
出演:中村美保/東理子/浦本和典/金城幸子/長沼久実子/茨木薫/田之室かおり
舞台監督:永易健介 舞台美術:柴田隆弘 照明:西岡奈美 音響:狩場直史(KTカムパニー) 制作:大屋さよ/三輪繭苗/福田尚子
劇団八時半 : http://hatijihan.at.infoseek.co.jp/
2004年01月11日
2003年しのぶの観劇ベストテン
2003年は多くの良い作品にめぐり合えたようで、ベストテンまで絞るのが大変でした。とても幸せです。
2003年の観劇数は、私の今までの年間観劇数の中で最多の261本でした。
それでは、『しのぶの演劇レビュー』リニューアルオープン記念♪
「2003年しのぶの観劇ベストテン」の発表です!!
■芝居■
①新国立劇場演劇『浮標(ブイ)』02/19-03/7新国立劇場 小劇場
②八月納涼歌舞伎『野田版 鼠小僧』08/11-27歌舞伎座
③コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』06/2-26シアターコクーン
④俳優座プロデュース『高き彼物(たかきかのもの)』09/1-6俳優座劇場
⑤新国立劇場演劇『マッチ売りの少女』04/8-27新国立劇場 小劇場
⑥ホリプロ『法王庁の避妊法』12/11-28世田谷パブリックシアター
⑦ク・ナウカ『マハーバーラタ』11/4-16東京国立博物館東洋館地下1階
⑧燐光群『象』07/3-24梅丘BOX
⑨MONO『京都11区』08/29-09/1紀伊国屋サザンシアター
⑩RUP『つかこうへいダブルス2003「飛龍伝」』11/27-12/7青山劇場
※次点 青年団『隣にいても一人』05/8-11、06/18-22こまばアゴラ劇場
■演出■
栗山民也
(新国立劇場演劇『涙の谷、銀河の丘』05/13-25新国立劇場 中劇場)
■男優■
曽世海児(StudioLife)
(StudioLife『OZ(オズ)』06/4-18シアターサンモール
クリオネプロデュース『SLEEPLESS』07/8-13青山円形劇場
Studio Life『LILIES』09/10-23紀伊国屋ホール
G2プロデュース『止まれない12人』12/10-23スペース・ゼロ
■女優■
寺島しのぶ
(新国立劇場演劇『マッチ売りの少女』04/8-27新国立劇場 小劇場
新国立劇場演劇『世阿弥』11/27-12/21新国立劇場 中劇場)
■脚本■
永井愛
(青年座『見よ、飛行機の高く飛べるを』01/22-26本多劇場
青年座『パートタイマー・秋子』06/5-15紀伊国屋ホール
新国立劇場演劇『ゴロブリョフ家の人々』06/18-07/6新国立劇場 小劇場)
ニ兎社『萩家の三姉妹』10/11-19世田谷パブリックシアター
RUP『月影十番勝負第八番「ダブルアルバム」』11/19-24スペース・ゼロ)
■美術■
島次郎
(新国立劇場演劇『浮標(ブイ)』02/19-03/7新国立劇場 小劇場
ひょうご舞台芸術『ニュルンベルク裁判』11/20-28紀伊国屋サザンシアター)
■衣装■
前田文子
(パルコ+キューブプロデュース『SLAPSTICKS』01/31-2/16パルコ劇場
新国立劇場演劇『サド侯爵婦人』05/26-06/21新国立劇場 小劇場
松竹『若き日のゴッホ Vincent in Brixton』10/1-13日生劇場)
●話題●
ホリプロ『Hamlet(野村萬斎 主演)』06/7-07/26世田谷パブリックシアター
※舞台美術費が4500万円だったとか?
●プロデュース公演●
クリオネプロデュース『SLEEPLESS』07/8-13青山円形劇場
※ハズレが多い“プロデュース公演”の数々の中、改心の一撃でした。
●最多小道具●
Bunkamura『ニンゲン御破算』02/4-24シアターコクーン
※あんなに小道具が多い芝居は二度と観られないのでは・・・。
★小劇場系(3作品 劇団名あいうえお順)★
ピチチ5(クインテット)『大クラシック』10/24-26中野スタジオあくとれ
ブラジル『ロマンティック海岸/科学ノトリコ』03/20-23王子小劇場
ベターポーヅ『おやや ヒューマン スヰッチ』09/25-29THEATER/TOPS
※企業スポンサーがついた公演や、大手のプロデュース公演と区別しています。
☆オペラ☆
エディタ・グルベローヴァ主演『ノルマ《演奏会形式》』04/21, 25, 29東京文化会館
◎選出対象作品
2003年1月1日から12月31日までの間に初日を迎えた公演のうち、高野しのぶが観劇した舞台作品。
2003年初演ではない作品(再演)も含まれます。
◎判断基準
・最初から最後まで心地良く観られたか
・知らなかったことに気づかせてくれたか
・恋のときめきを感じさせてくれたか
・終演後、心に幸せな気持ちを残してくれたか
・明日からの活力の源になってくれたか
◎ひとつの作品が複数の部門で選ばれることがないように選出されています。
◎団体、個人等についての表記は敬称略です。
しのぶの演劇レビュー メルマガサンプル
面白い舞台を見逃さない! オンタイムのお薦め演劇情報メールマガジン |
||||||||||
『 今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台♪ 』 年間200本以上の様々な舞台作品を観ている高野しのぶが発行する、 “今、東京で観られる面白い演劇”をご紹介するメルマガです。 テレビや映画で人気の大スターが出演する舞台作品が目白押しの今、 演劇は日本でも注目されるエンタテインメントになってきました。 日本の舞台作品は世界的にも評価が高く、歌舞伎などの伝統芸能はもちろんのこと、 現代演劇やミュージカルが、どんどんと世界中へ飛び立っています。 演劇はその時、目の前で繰り広げられる、感動の宝箱です。 ひとつの作品との出会いが人生を変えることもあります。 世界で一番、公演数が多い街・東京では、毎日、多くの舞台が初日を迎えています。 このメルマガをチェックして、面白い作品と確実に出会ってください! |
||||||||||
|
||||||||||
●高野しのぶ・・・ Shinobu TAKANO ・・・プロフィール 大阪出身・東京在住。学生時代に小劇場の役者として活動。 1999年より日本の演劇界を知るべく観劇を開始。 劇評サイト“しのぶの演劇レビュー”に観劇感想を月20本ペースで更新中。 演劇ユニットRel-ay(リレイ)の制作としても活動経験があり、 小劇場演劇の制作者を支援するサイトfringe(フリンジ)のfringe blogにも 執筆参加している。 |
||||||||||
※配信は「まぐまぐ」を利用しています。 |
||||||||||
●執筆者への取材申込・執筆依頼・ご質問などはこちらへ。 高野しのぶ shinobu@mtr-standard.co.jp 劇評サイト “しのぶの演劇レビュー” http://www.shinobu-review.jp/ |
||||||||||
INTRODUCTION
★「しのぶの演劇レビュー」新サイトを2015年9月11に公開。こちらは旧サイトです。新しい「INTRODUCTION」をどうぞ。
|
2004年01月09日
パルコプロデュース『BENT』1/7-2/1パルコ劇場
ヒットラー政権下のドイツはダッハウ強制収容所での、男同士の極限の愛の物語。
去年のtpt『BENT』とは比べ様がないほど色の違う作品でした。私の好みの作風ではなかったですね。
ユダヤ人の他にも政治犯、刑事犯、同性愛者が収容されていて、その中でも同性愛者が最も卑劣な扱いを受けていたことや、ユダヤの星のマークが収容所内ではうらやましがられる対象だったことなど、知っておくべき歴史的事実が沢山の人に知られる機会となる意味でも、パルコ劇場で人気俳優さんをキャスティングしたことは意義深いと思います。
少々ネタバレします。
チラシにも表れているように、美形男優さんの同性愛モノだということが作品の目玉になっていますよね。それを狙った演出がたっぷりでした。とりあえず異様に体が美しい男優さんが多いです。そして、脱ぎます。激しくからみます。ふ~・・・さまざまにサービス満点でしたが、残念ながら私は苦手なんですよね。特に篠井英介さんのあのお姿(ボンデージ黒下着ルック)は・・・。もっと意味を付加してもらいたかった。
何と言っても脚本の力がすごいのでしみじみと涙が流れたシーンもありましたが、tpt『BENT』の時のような、いやがおうにも溢れ出てくる、悲しくて苦しい、熱い涙とは違いました。メロディアスなPOP系の音楽や現代風のダンス、メインキャストの少し軽めの演技などから想像するに、あまり深刻にならないように気遣った演出だったのでしょう。観に来るお客様の多くが演劇ファンではなく、椎名桔平さんのファンだろうことが予想されていますし。
マックスとホルストのプラトニックなセックスシーンがこのお芝居の見所だと思います。体を触れることができなくても、互いを近くに感じることができる。そこには生き生きとした熱い愛がある。人間であることの証明なんですよね。
意外だったのは、マックス(椎名桔平)が「俺はおまえを抱きしめている」「俺はおまえを離さない」「ほら、暖かくなってきた」とホルスト(遠藤憲一)に愛を語るところで、私がそうされているように感じたことです。手や体が温まってきたんです・・・。なんて調子のいい観客なんでしょうっ!でもね、本当にそうなったのっ!体がホカホカしてきちゃって、じーんと彼の顔を見つめてちゃったりしてっっ!(大笑)。
つまりですね、椎名さんはその愛の言葉をホルストに言ったのではなく、お客様全員に言ってしまってたんだと思います。それは・・・違うんじゃないかな。やっぱりホルストへの愛を感じたかった。舞台上にマックスとホルスト2人だけのシーンが長いのですが、お2人の演技は後ろの方の席までちゃんと届いていたのか疑問ですね。また、彼等以外の収容されている人たちの姿が想像できませんでした。
椎名桔平さん(マックス)。テンションを上げるところと冷ますところの差が激しくて、素が見えてしまった感じでした。椎名さんのマックスは常にいい気になっていて強気な男性でしたが、私はもっと弱い人物としてのマックスの方が良い気がします。観客全員を愛してしまえるという性質はスターならでは。さすがですね。
遠藤憲一さん(ホルスト)。熱のこもった演技を見せてくださっていたのですが、命がけでマックスを愛しているようには感じませんでした。なんか、一人なんですよね。
篠井英介さん。役割をしっかり果たされたというイメージ。残酷な仕官役はあまり・・・篠井さんの優しさが滲み出てしまっていました。
佐藤誓さん。コミカルな演技が生かされていました。出てこられるとホッとすると同時に、笑いを狙っていることがわかってしまいました。これも演出ですからね。好みによると思います。
前半で追われる側の人物として登場していた篠井さんと佐藤さんを、後半で収容所のドイツ人士官として登場させたのは、ストーリーを重視する視点から考えると良くないと思います。お二人とも残忍なゲシュタポには見えないんですよね。
美術はパルコ劇場の広い舞台を埋めるには殺風景すぎた気がします。大きな木々に落ちる青黒い照明はきれいでした。
パルコ劇場 : http://www.parco-city.co.jp/play/
2004年01月08日
シベリア少女鉄道『ウォッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』1/7-12下北沢駅前劇場
演劇界全体で話題の劇団です。作・演出の土屋亮一さんの“独特の”センスが堪能できます。
今回も口あんぐり(笑)。好みがわかれるかもしれませんが、私はすっごく楽しかったしクライマックスではちゃんと泣かせていただきました。ふふふ。
駅前劇場にあんなにお客様が入っていたのを初めて見ました。物理的にそう見える状態だったので・・・。
以下、少々ネタバレしています。何を書いてもネタバレになっちゃうので!
※前売りは完売です。当日券はかなり並んでいるようでしたが、ちゃんと出ていました。
舞台は昭和25年の日本。ある美しい女性と真面目な好青年の普通の純愛の物語・・・のはずが、最後はド派手な演出でストーリーと手段がごちゃまぜになり、どう楽しんでいいのかわからなくなります。いえ、これは自分の楽しいと感じることを自由に楽しめばいいのでしょう。踊ってもよし、首を振ってもよし(笑)。
最初のうちはだらだらと長いなーと思っても、いつものぶっ潰しパターンが始まったらもうびっくり仰天でノンストップです。その落差と程度のはなはだしさが、心をむずがゆくします。大人計画のお芝居でよく感じるのですが、何事もある飽和点を超えると笑うしかなくなるんですよね。笑うのでなければ驚いて思考停止するとか。
あの映像と音楽とセリフと演技との組み合わせを、せこせこと考えてみんなで稽古して、まんまと実現してしまったことに大拍手です。あっけに取られて、我を忘れて、思わず吹き出してしまう、日常をヒョイっと飛び越える瞬間をありがとう!
作・演出の土屋亮一さんが出てらっしゃらなくて残念でした。あの、ものすごい照明オペとかされてたのかしら。まさかね(笑)。
秋澤弥里さん。堂々主演女優さんでした。あまりに可愛くて追っかけとか居そう。ラストはお見事。
横溝茂雄さん。製薬会社の部長役。この人が私にとってのシベリア少女鉄道の顔。応援したい。
吉田友則さん。ヤな院長役。うまいなー。見つめてしまう。こっそり笑ってしまう。
染谷景子さん。妹役。出番が少なくて残念。ダンスも歌もお上手でキュートです。
次回は5月にTHEATER/TOPSだそうです。ものすごい快進撃ですね。トップスがどうなってしまうのかが楽しみです。
シベリア少女鉄道 : http://www.siberia.jp/
2004年01月06日
サラ・ケイン何かがはじまる『4時48分サイコシス』1/6-8こまばアゴラ劇場
28歳で鬱病で自殺したイギリスの女流作家サラ・ケインが死ぬ直前に書いた作品だそうです。出演者の方から丁寧な自筆のDMをいただいたので嬉しく思い、伺いました。
モノローグ(独白)の連続のような作風でした。出演者は5名の女性。友人同士で対話をしている風な設定もありましたが、総じてサラ・ケインさんの個人的なつぶやきのように受け取りました。
絶対的に孤独な人間が、自分は孤独ではないんだと感じることをゴールとするならば、そこへの道は決して1つではなく無数にあると思います。サラ・ケインさんにとっては死ぬことがそのたった1つの方法だったのではないかと思います。
目の前に居る人を敵だと思うことが、得体の知れない恐怖の始まりなのではないかと私は最近感じています。サラさんのモノローグにはそういう言葉が多かったです。
演出は久保亜紀子さん。女性ならではの手法だと感じました。私は女性の方が男性よりも、何かを捨て去ったり、ガラっと変身したりしやすい性質なのではないかと感じています。この作品に身を投げ出して挑んでいる女優さん達を見つめて、女性のスゴさを実感しました。
終盤あたりで「私はあなたが好き」「あなたが私を救ってくれなかったら良かったのに(というような意味。セリフは正確ではありません)」という言葉が出てきた時、出演者の人達が色っぽく見えました。それまでは、なんだか強面(こわもて)な感じで存在が遠かったです。言葉がちゃんと届かない女優さんがしゃべっている時はかなり眠かったし。
当日パンフレットの久保さんの文章に「この作品を観た後、『ああ、あそこにも私がいる』と、そしてこれらの問題を抱えているのは私だけではないのだ、と感じていただけることを私は望んでいる。そこには希望があるからだ。」とありましたが、それは観客が自然に感じられるんじゃないかな。パンフレットで手助けしたり誘導したりすると、かえってそれに反発してしまう観客も多い気がします。
また、パンフレットに出演者の名前しか載っていなかったので、誰がどの役だったのかがわかりませんでした。「お客様には作品を観てもらいたいのであって、役者を見てもらいたいわけではない」という主張を感じます。それは私にとってはとても残念なことです。
お芝居が始まって終わるまでの全般に渡って、作品に関わっている方々のこの作品に対する強い気負いを感じました。ただの観客としての私には、そういうのはちょっと重荷でした。
Link 「サラ・ケイン何かがはじまる」プロジェクト :http://www1.odn.ne.jp/sarah_kyoto/
こまばアゴラ劇場「冬のサミット2003」 : http://www.agora-summit.com/
2004年01月04日
青年団プロデュース『夏の砂の上』12/20-1/4こまばアゴラ劇場
脚本は松田正隆さん。読売文学賞 戯曲・シナリオ賞受賞作品です。1999年初演で今回が初の再演です。作:松田正隆・演出:平田オリザのコンビには定評があるそうで、楽しみにしていました。
長崎県のある田舎町。ある夫婦の住む家。関係がすっかり冷え切ってしまって別居を始めていたのだが、ある日突然、夫(金替康博)の妹がやってきて彼女の娘を置いて行ってしまう。叔父と姪の奇妙な同居生活が始まる。
松田さんの脚本なので予想はしていましたが、暗い話でした。造船所が倒産して社員がみんなクビになった状態のところに、別居、不倫、交通事故・・・と重なって行きますしね。ところどころ人間の滑稽さが身にしみて、あきらめにも似た笑いが生まれました。
中学校を卒業したけれど高校に行かせてもらっていない姪と、アルバイトで一緒になった大学生との恋が楽しかったです。若者の恋ってこんなのだよなって共感できる部分が多かった。でも姪の発言が大人び過ぎていた気がします。もっともっと無邪気な状態だと思うんですよね。素行が悪くてもまだ子供のはず。セリフは1つ1つ魅力的だったのですが信憑性が薄かったです。
渇水の真夏の長崎という舞台設定でしたが、その暑さや渇きを感じられなかったのは致命的だったんじゃないかな。雨が降ってきても全然嬉しくなかったし。ただ、「雨だ!」と言って鍋やバケツを抱えて玄関へと必死で駆けて行く演技は良かったです。あれは行動と感情が一致していました。そう、会話の時の自然な演技は皆さん素晴らしいと思うのですが、舞台からはける(退出する)時の歩き方が、全編とおして妙に遅いんです。観客の目を意識した動きになっていて、わざとらしさを感じていました。終始、自然な演技をしているのだから、立ち去る時もそうしないと変だと思います。もしかしたらそれが演出意図なのかもしれませんが、そうだとしたら私の嗜好には合わないということです。
ラスト近く、夫婦の間に子供がいたことを確かめような会話をするのですが、昔のことなど覚えていられないという夫の哀しい気持ちにいたく共感し、涙が流れました。気にかけていなければ無意識の内に闇に葬られていく重たい事実があるのです。長崎に落とされた原爆で一瞬のうちに数万人が殺されたことも、なかったことのように忘れてしまうのか。人間は忘れます。忘れないと生きていられないから。でも決して考え違いをしてはいけないのは、そこに、確かに、在ったということ。無かったのではないのです。
舞台美術(奥村泰彦さん)が良かったな〜。少し南国テイストの入った日本家屋で、壁がさびた鉄格子で出来ているんです。そんなことは現実にはありえないのですが、古びた造船所のイメージが染み付いていて哀愁を感じました。
金替康博さん(MONO)。夫役。優しい佇まいで、指がなくなっても平気でした。金替さんだったから安心して観ていられたように思います。
占部房子さん。 姪役。どうもフィットしませんでした。最初の、何もしゃべっていなかった時が一番良かった。
松井周さん(青年団)。姪の恋人役。今時の若者の軽薄さがよく表れていた、あのとってつけたような笑顔が最高でした。
内田淳子さん。娘を置いていく妹役。面白かった。彼女が出てきたら空気が生き生きとしました。
太田宏さん(青年団)。妻の不倫相手役。reset-N「キリエ」にも出演されていましたよね?めちゃくちゃクールなサド男役で。あいかわらずハンサムで素敵でした。
山村崇子さん(青年団)。妻の不倫相手の、妻役。『隣りにいても一人』の姉役も素敵でしたが、今回も良かったです。でも怒るシーンはちょっとズレてたかも。
青年団 : http://www.seinendan.org/
2004年01月03日
作:井上ひさし/演出:栗山民也『夢の泪〈東京裁判三部作・第二部〉』10/9-11/3新国立劇場 小劇場
井上ひさしさんの書き下ろし新作です。2001年に新国立劇場で上演された『夢の裂け目』が東京裁判三部作の第一部で、これは第二部です。『夢の裂け目』は私の2001年観劇ベスト10の第3位でした(216本中)。
またもや涙が溢れて、溢れて、止まりませんでした。なんでもないシーンで涙がポロポロ。歌を聴いていたら頬にツー・・・。私だけではありません。客席中で鼻をすする音。そしてハンカチ、ハンカチ、ハンカチ・・・。劇場は井上さんを始め、この作品を作った全ての人々の愛で暖かく満たされました。
『夢の裂け目』と同じく音楽劇でした。ほぼ同じ装置で同じキャスト(1人だけ違います)。笑いがいっぱい、涙がいっぱいなのも同じ。井上さんの心を受け取ることが出来て良かった、としみじみ感謝をするのも前作同様です。
東京裁判という重要な事件を複数の違った視点から描くことは、観客がその全体像を理解するのに効果的だと思います。また、同じ役者さんが出てきてくれることで、昔から今そして未来へと演劇(歴史)がつながっていくことも実感できます。
前回は紙芝居屋さんが主人公でしたが、今回はある弁護士事務所のお話でした。夫婦で弁護士をしているのですが、妻の方が東京裁判(極東国際軍事裁判)の戦犯の弁護人になったため、第2次世界大戦勃発の理由、日本敗戦の原因、東京裁判の意義などを深く考えることになります。
東京裁判以外にも、2人の歌手による1つの歌の無体財産権争いが描かれます。果たしてその歌は「丘の桜」なのか「丘の上の桜の木」なのか。実は2人の夫が同じ部隊に配属されていて、そこの部隊長が作った歌だったことがわかると、顔を合わす度にいがみ合っていた2人が初めて心を開き、2人一緒にその歌を歌います。その旋律の美しいこと・・・今も耳に残っています。
♪桜の花 咲いているかな もう一度見たかった それだけが心のこり♪ (歌詞は完全に正確ではありません)
セリフを聞くよりも歌を味わうことによって、作者の伝えたいことの本当の意味がわかりやすいことがあると思います。例えばオペラでもそうです。歌の方が感情が直接的に伝わるのです。
♪人は場所に染み付いている。その場所がなくなったら、みんな浮き草♪
敗戦した日本人は「ただ、捨てられたんだ」というセリフがありました。憎まれたのではない、復讐されてるのでもない、ただ、ポイとゴミ同然に捨てられただけ。マザー・テレサの言葉を思い出しました。「愛情の反対は憎しみではありません。無視です。」(言葉は完全に正確ではありません)
舞台美術は、音楽を生演奏する人達が舞台つら側の小さな穴に入っていたり、家のセットが袖からスライドして出てくるなどは『夢の裂け目』とほぼ同じなのですが、舞台奥の幕が印象的でした。白い幕がしわしわの模様になっていて、ところどころ焦げたように黒ずんでいるんです。幕の右上の方には丸く大きな穴が空いていて、それが夜空を照らす月のように見えます。朽ち果てた東京や荒廃した日本人の心を、空にポッカリと空いた穴で表現していたようにも感じました。
2人の歌手の心のわだかまりが消え、一緒に桜の木の歌を歌うシーンで、その幕が上にスルスルと上がって行きました。穴が天井に隠れて見えなくなると、舞台奥全面を覆おう白黒のしわ模様が、桜の木のように見えたんです。また、穴が見えなくなったことで人々の心の空洞が満たされたことも表されていました。10年後の様子が描かれるエンディングで再びその穴がもとの位置に戻って来ていたのが憎い演出でした。戦争が終わって平和になったようだけれども、人間の心にはまだ得体の知れない穴が空いたままなのだということだと思います。
演出は前作に引き続き栗山民也さん。演出については前作『夢の裂け目』方が好きでした。というのも今回は演出という演出があまりついていなかったように感じたので。やっぱり脚本が遅かったからですかね。前回も遅かったらしいのですが。
TANI Kenichiさんのおっしゃるように、説明ばかりが目だってビジュアル的に見せていただける瞬間は少なかったと思いますが、私は東京裁判の詳しい状態を知ることが出来ただけでも満足でした。もっと詳しく知りたくなったので本も買いました。中公文庫「秘録 東京裁判」清瀬一郎著 中央公論新社 857円+税
藤谷美紀さん。清楚で美しい人です。こんなに心がきれいな舞台女優さんはいないんじゃないかって思います。彼女が居るだけで優しい気持ちになれます。癒されて涙さえ出てしまいそう。
三田和代さん。膨大な説明ゼリフでした。ユーモアを交えつつ、的確に意味を伝えてくださいました。女優ってこういう仕事なんだな、プロはこうじゃなきゃな、と襟を正す思いです。
福本伸一さん。差別されていた韓国人の燃える思い。いつもになく目が鋭くぎらぎらしていました。学生服を着ても無理がないですね。福本さんは井上ひさし芝居には初出演だそうです。
私はこの作品を母親と一緒に観に行きました。母も大満足でぜひ次も観たいと言っています。井上ひさしさんは今年70歳になられます。彼の書き下ろし新作を見ることのできる幸せを、これからもなるべく多くの人と享受したいものです。
新国立劇場HP : http://www.nntt.jac.go.jp/
2004年01月02日
Studio Life『DAISY PULLS IT OFF』12/20-1/7東京芸術劇場 小ホール1
イギリスの名門女学校のお話。原作はDENISE DEEGANさん。ハラハラドキドキの学園生活に幸せなミラクルが起こって最高のハッピーエンドがやってくる青春コメディーの王道でした。
もー・・・涙がポロポロ止まりませんでした。何かを起こしたり成し遂げたりするのは、お金でも名誉でもない、信じる心なんだなって思いました。そんな道徳的なことを何のとまどいもなく素直に受け入れられたのは、この作品の純潔さのおかげです。また、男が女役を演じていることも大きな要因だと思います。作品の外郭や見かけにとらわれず、本筋が見えてくるからです。
私がスタジオ・ライフのお芝居を観続けているのは、美しいものを愛する心を感じるからです。上演台本と演出を手がけていらっしゃる倉田淳さんは、まず原作の持つ魅力を最大限に表現することを第一の目的として作品作りをされていると思います。この『デイジー・プルズ・イット・オフ』についても然り。少女達が持っている心の宝物を余すところなく表現してくださいました。
また、劇団スタジオ・ライフのファン・サービスを最重要視している姿勢に惚れこんでいます。例えば今公演については、美形男優が女子生徒の姿で出てくるだけでファンの心はくすぐられます。Assamバージョンに出演されている看板俳優の笠原浩夫さんがDarjeelingバージョンに用務員役で出演されていたのも心憎いです。The Other Life公演として本公演以外に比較的小さな劇場で公演を打っていること自体も大きなファンサービスだと思います。今回も俳優が客席を縦横無尽に駆け回っていました。もちろん客いじりアリです。ダブルキャストの区別をAプロ・Bプロとかにせず、きれいな名前をつけているのも好き。今回は紅茶の名前でAssam(アッサム)とDarjeeling(ダージリン)でした。イギリスのお話ですものね。そういう細かいところまで行き届いた公演の演出が女性心理を掴むのだと思います。
私は拝見したのはDarjeelingバージョンです。
川原田 樹さん(客演) 。主役のデイジー・メレディス役。透き通るような純粋な演技にすっかりハマってしまいました。「お母さん、家に帰りたい」の一言で泣けました。
深山洋貴さん。デイジーの親友トリクシー役。安定したコメディーセンスとキュートさ。この人が出ているバージョンを観たいなっていつも思います。
山﨑康一さん。意地悪なシビル役。篠井英介 主演『欲望という名の電車』でも好演でした。優しい役も意地悪な役もお上手です。Assamバージョンでは笠原浩夫さんが演じられています。両バージョンとも観たくなりますね。
藤原啓児さん。用務員のミスター・トンプソン役。前説も会場アナウンスもされています。いい声で、常に謙虚な姿勢でいらっしゃるのが素敵だなと思います。
スタジオ・ライフ : http://www.studio-life.com/
土井笑会『仏教徒のクリスマス』12/27-28movement space Gambetta
お友達が沢山関わっているので観に行きました。各ステージ30名限定ということで、本当に小さなスペースでのコント公演でした。
オープニングは般若心経でした。なるほど『仏教徒のクリスマス』ですね。でもお経を読む時間が長かったです。一瞬でネタに行ってれば笑えたんじゃないかな。コント集って最初が肝心ですよね。
私が普通に笑えたのは”教育漫才「ゼロの発見」”と”火星人”。全般的にコントらしくないコントが多かったです。特徴としては”落ち”がないんですよね。みんなスルっと終わっちゃうので戸惑いました。
特に驚いたのは最後のコント”男たち”。2人の男性がバーで出会って話をするんですが、たまたま二人とも慶応大学卒だったんです。そこで一人は自分から自分を「電通マン」って名乗るし、もう一人は「モフ(財務省/元・大蔵省)です。」とか言うんです。笑うことを意図していないようでしたが、私は心の中で大爆笑でした。また、その設定がコントの顛末に全く関係なかったのがすごかった。異質ですね。
10本立てのうち2本は歌で、佐藤千鶴さんという女性が「アヴェマリア」と「アメージング・グレース」を歌われたのですが、本当に歌うためだけに出てきて歌うだけでした。それにもびっくり。
オフィス・ビショップ : http://www.office-bishop.com
演劇実験室◎万有引力『奴婢訓』12/25-28新国立劇場 中劇場
作:寺山修司 (原作:ジョナサン・スウィフト『Directions to Servants』)
演出・音楽:J・A・シーザー
『奴婢訓』は「ぬひくん」と読みます。寺山修司さん率いる演劇実験室◎天井桟敷によって1978年に初演。1982年までに世界31都市で計119回上演された作品です。その後1989年から1991年まで演劇実験室◎万有引力が37回上演しています。
主人不在の屋敷で召使いたちが順番に主人の役を演じているという設定は絶品ですね。奴婢っていうとつまり奴隷のことです。そのタイトルから、背筋にビビッと来るぐらい強烈な禁断のSM系エロティシズムを期待していたのですが、残念ながらそこまでは味わえませんでしたね。
全身剃毛をして全裸で出てくる役者さんが男優と女優と一人ずついたのは強烈です。寺山さんのお芝居じゃないと成立しない厳かさと猥雑さの共存を感じました。
SM器具まがいの装置が面白かったです。尻たたき機とか最高。主従入れ替わりシーソーも素敵。
万有引力のいつものマッチの演出が大好きなんですが、今回はなぜかちょっとパワー不足でした。『さよならの城』の方が良かった。
新国立劇場の中劇場というと目立つのはあの巨大な奥行きですが、もう私は観慣れているのでよっぽど良い演出でないと魅了はされません。そういう意味で観ると今回のは特別に効果的ではなかったです。また、端の方の席が本当に観づらいという点でも中劇場は有名です。真ん中ブロックに座っていたならもっと面白いし見所もあっただろうと確信できるような演出だったのがとても残念。長いと感じたのも非常に残念でした。「もう終わるかな?もう終わるよね?・・・ええ!まだ続くの!?」って。
寺山さんの素敵なセリフを1つ。財産目録を読み上げるところで出てきました。
「意志のない過去。過去のない意志。」
演劇実験室◎万有引力 : http://www.banyu-inryoku.com/
メジャーリーグ : http://www.majorleague.co.jp/
ペテカン『温度計』12/24-29THEATER/TOPS
ある流行らない喫茶店のお話。冬、春、夏、秋、と1年が巡り、また冬がやってきます。
まず、こんな喫茶店には行きたくないって思いました。客を客とも思っていない店員。社会性の全くない店長。だから当然のごとく閉店に追いこまれるわけですが、信憑性に欠け過ぎました。「こんなサテン、ないって!」って思っちゃって、それだけで物語に入れないんですよね。とても残念です。
マイナス4℃のままずっと動かなかった温度計が、喫茶店の閉店パーティーの時に突然に直って正しい温度を表示し出す、という顛末だったのですが、それってものすごいマイナス思考ですよね?どんどんとダメになっていく人々がいて、その人達がやっとあきらめて出ていくとなった時に、タイトルにもなっている”温度計”が正常になるなんて。めちゃくちゃびっくりしました。
閉店パーティーで「私には歌うことしかできないので、歌わせてください」と自ら言い出して歌う女性がいましたが、それはつらいよねーって思います。「歌ってよ!」と言われておずおず歌ってみたらすごく巧かった、というのならすんなり聴けますが、自分から進んで歌っちゃうと、いくら巧くても「それほど巧くないのに、でしゃばらないほうがいいんじゃない?」って思っちゃいます。歌を歌うためだけの登場人物ってとても悲しいです。
場面転換の時にTV画面で流れるアニメーションが可愛かったですね。オープニングの時も黒い画面上で白い線がもぞもぞ現れて『温度計』という文字になるのは素敵でした。また、TV画面は電源を切るとその瞬間プチ!と光ってしまうんですよね。それを避けるためだったと思いますが、ずーっと電源が入ったままだったのも良かったと思います。
齋田吾朗さん。いつも三枚目風だったのが今回はクールな面がクローズアップされていて、とても良かったです。
ペテカン : http://www.petekan.com/
東京ヴォードヴィルショー『その場しのぎの男たち』10/11-11/3本多劇場
1992年初演。1994年再演。今回が2度目の再演で東京ヴォードヴィルショー30周年記念公演です。
三谷幸喜さんの脚本なので必死でチケットをGETしました。演出が山田和也さんというのも魅力です。いろんな先行抽選を全て逃したのでチケット発売日にぴあとローソンに走ったのですが、ダブルキャストの伊東四郎さんの方は全然無理で山本龍二さん(青年座)の方がかろうじて取れました。
明治24年、大津事件(訪日中のロシア皇太子を警備の巡査が切りつけてしまった大事件)勃発の翌日のお話。時の総理大臣・松方正義チームと元老・伊藤博文(山本龍二さん)チームとの対決。
タイトル通り本当に「その場しのぎ」なんです。やることなすこと裏目に出てしまって、その後の行動がもはや恥の上塗りになり、それがさらに「その場しのぎ」になっちゃう。シチュエーション・コメディーの約束をきっちり守って実行し、笑いも確実に生んでいきます。うまいこと展開させるな~って、感心しました。作:三谷幸喜/演出:山田和也ですものね。さすがです。私がえらそうに言えることじゃないですよね。
ただ、笑えるんですがー・・・ドタバタしすぎて観るのが疲れちゃったんですよねー・・・なんと、もったいないことに寝てしまいました。自分がびっくりですよ、三谷さんの作品で寝るなんて。あんなにがんばってチケット取ったのに。
東京ヴォードヴィルショーの役者さんの演技がわかりやす過ぎる、というのも私の好みでなかったのかもしれません。大げさ過ぎてあざとくなりがちだと思います。本編『その場しのぎの男たち』の前に歌と踊り満載のコント集が披露されるのでもわかりますが、東京ヴォードヴィルショーというと、あくまでも大衆向け(しかもちょっと高年齢層を狙った)の作品をプロデュースされている劇団ですよね。また、コメディーで私がよく感じるギャップなのですが、あめくみちこさんの役をみんなで笑いものにする感覚とかを私は楽しめなかったです。
今さらですが、やっぱり伊東四郎さんバージョンで観たかったなー。山本龍二さんはそのままの見かけがちょっぴり怖いめなんです。伊東さんならどんなに怖く見せてもそれが笑えるでしょうし(笑)。そうは言ってもそれだけで作品が完全に違うものになるとは思えないので、きっと同じような感想だったんじゃないかな、とも思います。
東京ヴォードヴィルショー : http://www.vaudeville-show.com/