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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年01月09日

パルコプロデュース『BENT』1/7-2/1パルコ劇場

 ヒットラー政権下のドイツはダッハウ強制収容所での、男同士の極限の愛の物語。
 去年のtpt『BENT』とは比べ様がないほど色の違う作品でした。私の好みの作風ではなかったですね。

 ユダヤ人の他にも政治犯、刑事犯、同性愛者が収容されていて、その中でも同性愛者が最も卑劣な扱いを受けていたことや、ユダヤの星のマークが収容所内ではうらやましがられる対象だったことなど、知っておくべき歴史的事実が沢山の人に知られる機会となる意味でも、パルコ劇場で人気俳優さんをキャスティングしたことは意義深いと思います。

 少々ネタバレします。

 チラシにも表れているように、美形男優さんの同性愛モノだということが作品の目玉になっていますよね。それを狙った演出がたっぷりでした。とりあえず異様に体が美しい男優さんが多いです。そして、脱ぎます。激しくからみます。ふ~・・・さまざまにサービス満点でしたが、残念ながら私は苦手なんですよね。特に篠井英介さんのあのお姿(ボンデージ黒下着ルック)は・・・。もっと意味を付加してもらいたかった。

 何と言っても脚本の力がすごいのでしみじみと涙が流れたシーンもありましたが、tpt『BENT』の時のような、いやがおうにも溢れ出てくる、悲しくて苦しい、熱い涙とは違いました。メロディアスなPOP系の音楽や現代風のダンス、メインキャストの少し軽めの演技などから想像するに、あまり深刻にならないように気遣った演出だったのでしょう。観に来るお客様の多くが演劇ファンではなく、椎名桔平さんのファンだろうことが予想されていますし。

 マックスとホルストのプラトニックなセックスシーンがこのお芝居の見所だと思います。体を触れることができなくても、互いを近くに感じることができる。そこには生き生きとした熱い愛がある。人間であることの証明なんですよね。
 意外だったのは、マックス(椎名桔平)が「俺はおまえを抱きしめている」「俺はおまえを離さない」「ほら、暖かくなってきた」とホルスト(遠藤憲一)に愛を語るところで、私がそうされているように感じたことです。手や体が温まってきたんです・・・。なんて調子のいい観客なんでしょうっ!でもね、本当にそうなったのっ!体がホカホカしてきちゃって、じーんと彼の顔を見つめてちゃったりしてっっ!(大笑)。
 つまりですね、椎名さんはその愛の言葉をホルストに言ったのではなく、お客様全員に言ってしまってたんだと思います。それは・・・違うんじゃないかな。やっぱりホルストへの愛を感じたかった。舞台上にマックスとホルスト2人だけのシーンが長いのですが、お2人の演技は後ろの方の席までちゃんと届いていたのか疑問ですね。また、彼等以外の収容されている人たちの姿が想像できませんでした。

 椎名桔平さん(マックス)。テンションを上げるところと冷ますところの差が激しくて、素が見えてしまった感じでした。椎名さんのマックスは常にいい気になっていて強気な男性でしたが、私はもっと弱い人物としてのマックスの方が良い気がします。観客全員を愛してしまえるという性質はスターならでは。さすがですね。
 遠藤憲一さん(ホルスト)。熱のこもった演技を見せてくださっていたのですが、命がけでマックスを愛しているようには感じませんでした。なんか、一人なんですよね。
 篠井英介さん。役割をしっかり果たされたというイメージ。残酷な仕官役はあまり・・・篠井さんの優しさが滲み出てしまっていました。
 佐藤誓さん。コミカルな演技が生かされていました。出てこられるとホッとすると同時に、笑いを狙っていることがわかってしまいました。これも演出ですからね。好みによると思います。

 前半で追われる側の人物として登場していた篠井さんと佐藤さんを、後半で収容所のドイツ人士官として登場させたのは、ストーリーを重視する視点から考えると良くないと思います。お二人とも残忍なゲシュタポには見えないんですよね。
 美術はパルコ劇場の広い舞台を埋めるには殺風景すぎた気がします。大きな木々に落ちる青黒い照明はきれいでした。

 パルコ劇場 : http://www.parco-city.co.jp/play/

Posted by shinobu at 2004年01月09日 00:44