1991年初演で第44回読売文学賞(戯曲部門)受賞。
ニューヨーク(1997年)、ロンドン(2001年)でも上演され、今回が5度目の上演です。来月にはモスクワ公演が控えています。
私は2001年に初めて拝見し、笑いと涙が溢れて止まりませんでした。今回もまた然り。
1897年、明治30年の東京。舞台は本邦初演の『ハムレット』を上演しようとする劇場・新富座。演出家が必死で西洋の芝居らしく作ろうとするが、『忠臣蔵』をやるものだと思っていた役者たちはブーイング。しかも新富座には膨大な借金があり・・・。
『ハムレット』と『忠臣蔵』の類似点を見出しつつ、そこに主人公の新富座の座主・守田勘弥の人生をも映し出されていきます。不恰好だった歌舞伎風『ハムレット』がだんだん美しく、神々しくその姿を見せ始め、このお芝居自体も『ハムレット』と同じ展開になっていく巧妙な脚本の力にまず唸ります。
“To be, or not to be. That is a question.”の日本語(坪内逍遥訳)「ながらふるか、ながらへぬか、それが疑問じゃ。」がハムレットの本当の心に近づいていく様に、目を耳を奪われました。
『ハムレット』の劇中劇「ゴンザーゴ殺し」のシーンを「庶民のための芝居を殺し、貴族のための芝居に摩り替えてしまった」守田勘弥に当てはめたのもすごかった。胸に刺さりました。
私が2001年に拝見したものとの大きな違いは、まず東京芸術劇場 中ホール(841人)が俳優座劇場(300人)より2倍以上大きいということです。演出もそれ用に変わっていた気がします。照明や音響がちょっと大掛かりな感じ。また、六本木と池袋では客層も全然違うんですよね。それから前回の主役は内田稔さんでした。これも相当違います。木場勝己さんはすごく気が強くて頑固なイメージでした。内田さんは吹けば飛びそうだった(笑)。
開演5分前に開演前のアナウンスが流れると、その直後になぜか拍子木がチョーンと一度打たれました。「あら、もう始まるのかな」と思って構えていたのですが全然始まらず、結局5分ほど経ってやっと始まりました。この5分間せいで客席は怖いほどの静寂に陥ってしまい、去年はドっと笑いがおこった“裃(かみしも)を羽織った父王の亡霊登場”のオープニングで、お客様はおそるおそる笑う程度。結果、劇場がこの作品ならではの温かさになるのに30分ぐらいかかってしまったように思います。もったいない!
・・・とは言ってもそれも小っちゃなことです。ゆっくりと自分の人生を振り返ることが出来、日本(祖国)の文化に対して誇りを持つことが出来、達者な役者さんの演技に心奪われ、しかも大声で笑わせてくれるお芝居になんて、めったにめぐり合えないですから♪
脚本:堤春恵 演出:末木利文 美術:石井みつる 照明:森脇清治 音響:小山田 昭 振付:根布谷翔山 衣裳:新井喜一 かつら:斎藤三郎 舞台監督:木島 恭 制作担当:松本美文 制作:木山潔
出演者:木場勝己/村上博/坂本長利/内山森彦/小田豊/本田次布/平田広明/林次樹/磯貝誠/内田龍磨/根布谷翔山/一川靖司/勅使瓦武志/森源次郎/菊池章友/齊藤翔平/田谷淳/宮内宏道/長谷川敦央
東京芸術劇場 : http://www.geigeki.jp/selection.html