去年、彩の国さいたま芸術劇場で上演された蜷川幸雄さん演出の『ぺリクリーズ』がとても良かったので、少し期待して与野本町まで足を伸ばしました。
『タイタス・アンドロニカス』はシェイクスピアの作品の中でも『ロミオとジュリエット』以前に書かれたもので、かなり昔のものなんですね。シャレにならないほど残虐非道な登場人物が出てくる上に、卑猥な表現炸裂の作品でした(笑)。
まず、ロビーに入ると衣装や小道具が所狭しと置かれていました。役者さんも衣装を着けて歩き回っています。うわーっ!楽しぃーっっ!!舞台上ではスタッフさんがマイクで話して指示を出してますし、両袖にそびえ立つ壁のドアからはスタンバイしているスタッフさんが丸見えです。「そろそろいくよっ」のようなカジュアルな掛け声の後、すぐさま照明がパっと変わり、お芝居が始まりました。かっこいいです。
オープニングから30分ぐらいまでは絶品でした。この短時間に何度もどんでん返しがおこり、人間の愚かで悲しい性(さが)に涙が溢れました。老タイタス(吉田鋼太郎)が皇帝(鶴見辰吾)のためにと思ってやったことが次々と裏目に出るんです。慈悲を与えずなぐさみものにしたゴート族の王妃(麻実れい)が皇帝の后になってしまうのは、本当に皮肉ですよね。
しかし、その後は物語の進み具合が徐々にゆったりとしてきて、休憩の時には長いよ~と感じるようになって、終わる頃にはすっかり疲れてしまいました。子役の悲痛な嗚咽の声でエンディングというのもさらにつらかったな~。物語のメインが恨みや復讐である上に、あの強烈な血の演出がすごかったんだと思います。
舞台は美術も衣装も含めて全体的に白色に統一されていました。だからこそ血の赤色が強烈な印象を残します。何か起こる度に血がドバーっ。それの繰り返しでした。そしてクライマックスの血の惨劇は・・・私は笑ってしまいました。うおーっ!って言いながら切りかかり、切られた方の胸元から赤いリリアンの糸をゴッソリ引っ張り出すんですが、形式美にするならもうちょっとテンションを下げるべきだし、リアルにするならもっとスムーズにしないと感情移入しづらいと思います。
真っ白で大きな壁が両袖にそびえたっていて、そこに照らす柄モノの照明で場面が転換します。神殿からどうやって森にするんだろうと思っていたら、胸の高さぐらいのハスの葉が沢山出てきました。唐沢寿明&大竹しのぶ主演『マクベス』の時に似ていますね。上から大きな木が降りてきてハスの間に立つと、暗い青緑色の森の照明に包まれて、そこは深い穴底のような森になりました。美しかった~。
巨大な獅子とその乳を吸う赤子の像はパンフレットによると“親子の愛”を表していたようですが、私には“野獣の乳を吸ったために野獣の血が流れるようになった人間”というイメージも付加されました。それはそれで味わいが増えたと思います。なにしろその像が巨大でとても良く出来ていたので、その存在だけで空間が成立していました。
パンフレットの河合隼雄さんと松岡和子さんの対談を読んでやっとこの作品の奥深さがわかりました。やっぱりビジュアル的に“血”にこだわりすぎたのではないでしょうか。残酷から滑稽になって行ったのは果たして意図的だったのかどうか。前半が素晴らしかったので私としては残念ですね。
麻実れいさん。カーテンコールの妖しさと艶やかさにノックアウト。またもや恍惚のため息をつかせていただきました。早口で怒鳴ってしまう人が多い中、セリフもしっかり、しっとり聞かせてくださいました。
真中瞳さん。レイプされて舌と両手を切り落とされた娘役。残念ながらお姫様には見えませんでした。“深窓の令嬢”的なお姫様像は求められていなかったでしょうけれど、もうちょっと皇族らしさが欲しかったです。
作:W.シェイクスピア 演出:蜷川幸雄 翻訳:松岡和子 装置:中越司 照明:原田保 衣裳:小峰リリー 音響:井上正弘 ヘアメイク:武田千卷 ファイト・コレオグラファー:國井正廣 音楽:笠松泰洋 演出助手:井上尊晶、石内詠子、古澤直子 舞台監督:明石伸一 技術監督:白石良高 特殊美術:福田秋雄 小道具デザイン:安津満美子、田淵英奈 制作:稲村宗子 劇中歌:月川勇気
出演:吉田鋼太郎/麻実れい/萩原流行/鶴見辰吾/真中瞳/岡本健一/川辺久造/山本道子/高橋洋/保村大和/廣田高志/横田栄司/大友龍三郎/新川將人/グレート義太夫/二反田正澄/村井克行/佐々木帯刀/栗原直樹/田村真/野辺富三/杉浦大介/石岡剛/秋山拓也/朝倉崇/谷田歩/高橋光宏/鹿野良太/金子岳憲/岩寺真志/伊藤一樹 他
さいたま芸術劇場 : http://www.saf.or.jp/
Posted by shinobu at 2004年01月29日 23:52