Oi-SCALE(オイスケール)は林灰二さんが作・演出をされる劇団です(少し出演も)。私は林さんのポエティックなセリフが大好きで、見逃したくない劇団になっています。
今回は安部公房・作「箱男」をモチーフにした作品だそうです。
不可抗力で人を殺してしまい少年院に入っていた少年「僕」が主人公。院を出てからはほぼ家に引きこもっている。姉とその夫との3人暮らしと思いきや、実はダンボール箱に入ったままの兄も同居している。少年院で一緒だった友達が2人いて、1人はコンビニのバイトの面接に行く。もう1人は少年院にいた頃のことを小説にして売れっ子作家になっていた。
勇気を出してアルバイトの面接に行ったけれど、うまく人と向かい合えない。小説を書いてみるけれど、続きが書けない。救いようもないほど不器用な自分に、暖かく声をかけてくれる人がいる。自分とは違う生き方だけれど、自分と同じように悩んでいる人がいる。か弱いコミュニケーションをつむぎながら、それぞれの世界は悲しい結末を迎えていき・・・。
少年が住むマンションのリビング(10階)、コンビニの事務所、作家の書斎(5階)、そして公園の計4箇所で登場人物各々の世界が描かれますが、最後には全てが主人公の「僕」のことだったとわかります。全て「僕」の世界の出来事であり「僕」自身が起こした事件なのです。でも、それさえも空想だったのかもしれない・・・。そんな凝った構成が成功しているのは、一つ一つの世界がしっかり作り上げられていたことと、オイスケール作品にいつも漂うヒヤっとした夢心地の空気のせいではないかと思います。
少年院から出てきた主人公が箱に入って引きこもっているという設定ですから、そもそもが閉塞感ただよう暗いお話です。登場人物も不良が多いですし。それが、若者らしいちょっとブラックで可愛いいギャグやスライド文字映像の正直で暖かいメッセージ等により、ふんわりと心に沁み込むファンタジーに仕上げられているところが、オイスケール作品の特徴のような気がします。
舞台美術は大きな壁で舞台の三方を囲み、のっぺらぼうな“箱”の印象でした。机をはじめとした家具はダンボールの材質で作られて、壁の茶色(かな?)が良い色でした。シンプルで象徴的な美術を見たのはオイスケールでは初めてでしたが、こういうのもかっこいいですね。仕掛けも凝っていて特にドアが移動するのに感心しました。
いつもながら音楽がとても良かったです。パンクも多いですがメロディーのある切ない音も効果的でした。物語を邪魔しないし、かといって決して地味でもなく。
細かい所ですが、ビルの5階と10階の部屋の名称が01-5号室、S-10号室なのが面白いですよね。Oi-5(SCALE)をもじっています。
オイスケールお馴染みのスライド文字映像で「僕」のささやきが壁に映し出されます。今回はプロジェクターを2台使って文字が重なったりする演出があったのですが、プロジェクターを手で動かしているため絵が揺れていました。そういう手作業を感じられるのが可愛かったです。でも手作り感覚については好みがわかれるところかもしれませんね。もっとスマートにシステマチックになったオイスケールを観てみたい気もします。
今回、私が心に持って帰った言葉はコレ↓
・僕は自分が偽者なことにいつも気付いていたんだ
・だけど、本当の自分にも期待ができなかったから
・嘘の咳で君の気を惹いて病気のふりを続けたんだ
脚本、演出、美術、音響、役者さんなど、全体の劇団のカラーがしっかりと固まっていると思います。林さんが全てディレクションされているからなのかもしれませんね。ここに来ればこういうのが観られる、という保証があるのは大切なことだし、すごいことだと思います。
町田水城さん(はえぎわ)。コンビニのアルバイター役。間もセリフも味があって狙いも定かですごいです。
多田明弘さん(FICTION)。姉の夫役。淡々と静かにイヤなセリフの洪水。見ていて安心だし面白かったです。
CAST 星耕介 清成慎太郎 清水慎太郎 トモヒカン 中村太陽 林灰二 多田明弘(FICTION) 川崎賢一 町田水城(はえぎわ) ビッグ・ザ・加糖 倉庫主任(鯨養殖組合) 渡辺詩子 小堀友里絵 高橋唯子(projectサマカトポロジー)
STAFF 脚本/演出 林灰二 舞台監督 掛樋亮太 美術 仁平祐也 音楽/音響効果 ナガセナイフ 演出助手 中村紘彰 選曲/衣装/デザイン/写真 林灰二 Mac 清水慎太郎 /照明 高野由美絵((株)綜合舞台サービス) 制作 僕AREA←Spectators[B.A.S.]
Oi-SCALE(オイスケール) : http://www.oi-scale.com/
↑林灰二さんを始め他のメンバーのポエムやエッセイが公開されていて、お芝居で使われたスライドの文章も見られます。充実した劇団HPです。