1968年初演で色々な演出家の手で何度も上演されている名作だそうです。私はシス・カンパニーの豪華キャストなのでチケットを取りました。
やっぱりマキノノゾミさんの演出は私の好みじゃないですね。脚本(マキノさんの)は大好きなんだけどな。
ネタバレします。
大正時代の東京の約十数年間のお話。文化の花が咲き誇ったベル・エポックと呼ばれる時代であると同時に、大逆事件などに見られるように言論の自由がいちじるしく損なわれた時代でもあった。政治や演劇に命をかける日本人の若者たちの群像劇。登場人物は教科書に出てくるような実在の人物です。
演劇界きっての超豪華キャスティングですから、当然一人ひとりのキャラクターがしっかりしていますし、皆さん演技もお上手なはずなのに、どうもバラバラな感じで物語が見えてきませんでした。まず、時間が経過していくのが感じられなかった。服装やメイクが変わるだけのようでした。
ラストに向けて頭をかしげちゃうような演出が目立ちました。照明と効果音で主役カップルが死ぬ瞬間を表しちゃったり、モノクロになる黄色い照明で登場人物たちが過去の人だった(みな死んでいる)のを表したり、役者全員をストップモーションで舞わせたり、声を合わせてセリフを群読させたり。かっこよくないですよね。
クライマックスの音楽に松任谷由美の「春よ来い」はないと思います。あの歌以外の音楽は全体的にすごく控えめでしたから目立ちましたよね。“はーるーよー♪”とか大音量でやられても・・・大正ロマンのおもかげが消えてしまいました。歌詞がぴったりだったから選んだのかしら?
カーテンコール後のあのシャッターは何だったのでしょう。紀伊国屋ホールのプロセニアム・アーチ全てを覆う大きさの電動シャッターが緞帳(どんちょう)のように舞台を閉ざすエンディング。なんだか後ろ向きだし機械的だしで不快でした。また観客は、もう一度役者さんが出て来てくれるかもしれない・・・という期待もあったので拍手を強制されることになってしまいました。結局シャッターがすごくゆっくりと降りてくるのを見守るだけで2度目のカーテンコールはなかったんです。残酷だよなー。
松井須磨子という大女優の役と主役の女性の2役をキムラ緑子さんが演じられていましたが、別々の方が良かったのではないでしょうか。もともと脚本にその役があるのかどうか私は知りませんが、その時代のキーパーソンである松井須磨子という女性にはぜひ出てきてもらいたかったです。
美術(堀尾幸男)はカーテンが素敵でした。文字映像が写されている間は固い素材(板)かしらと思っていんです。色も青銅色だったりこげ茶だったり変化して美しかったです。美術全体としてはちょっとがらんどう過ぎたかなーと感じましたが、美術のせいじゃないかも。
セリフを噛む(言い間違う)役者さんが多かったです。浅野和之さんは特に早口だし声も小さいし間違うしで、いいところなかったですね。大好きな俳優さんだけに残念さもひとしお。
役者さんの中では綾田俊樹さんがダントツで良かったです。ちゃんとその人物として存在していながらお客様へのサービスも満載。綾田さんが立っているだけで微笑みがこぼれました。
一昨年の新国立劇場での『かもめ』(演出:マキノノゾミ)は初日に見たので、作品の全体が完成していない印象でもまあ仕方ないかなと思えたのですが、今回は幕が開いてから結構経っていますのでこれが完成版なのでしょうね。となるとやっぱり私の好みではないってことですね。
作:宮本研/演出:マキノノゾミ
出演:段田安則 キムラ緑子 浅野和之 高橋克実 深浦加奈子 田山涼成 羽場裕一 佐戸井けん太 綾田俊樹 松澤一之 山下容莉枝 樋渡真司 西川忠志 廻 飛雄 少路勇介 米田弥央 小林彩子
美術:堀尾幸男/照明:小川幾雄/衣装:三大寺志保美/音響:堂岡俊弘/舞台監督:津田光正/プロデューサー:北村明子/企画・製作:シス・カンパニー/提携:紀伊國屋書店
シス・カンパニー : http://www.siscompany.com/