2004年03月29日
北九州芸術劇場プロデュース『ワルプルギスの音楽劇 FAUST《ファウスト》』03/06-21世田谷パブリックシアター
ゲーテが60年かけて完成させた一万二千行におよぶ文学作品「ファウスト」の舞台化です。ドイツの演出家ピーター・シェーファーは11時間かけて上演したそうですが、3時間に短縮して作ろうというのがこの企画の冒険的なところだと思います。
楽しくて集中しっぱなしであっという間の2時間半でした。脚本、美術、衣装、音楽、役者、歌・・・演出。舞台の要素ひとつひとつの完成度がすべからく高く、それゆえ作品全体のレベルも自動的に高まり、パワーが昇華して奇跡が起こっています。
「日本は加工貿易が盛んだ」と小学校の社会の時間で習った覚えがあります。日本人って物事の核心を見抜いて再構成する作業が得意なんじゃないかしら。私は『ファウスト』を読んだことがないのでゲーテの本心はわからないし作品の意図も知りませんが、ものすごく強い説得力を感じました。人間ファウストと悪魔メフィストの、尽きることのない欲望のままの旅を通じて、私も共に欲望を満たしていき、そして最後に神に祝福を受けたのです。
神様:この男、見事に生き抜いた。自分の力で。 メフィスト:まぶしかった。お前の魂。
何もかも良かったと言える作品でしたが、特筆すべきはやはり美術(松井るみ)だと思います。世田谷パブリックシアターの高い天井のてっぺんまでそびえ立つ壁が、上下(かみしも)に移動して場面が転換します。あくまでもシンプルで幾何学的なたたずまい。そこにさまざまな映像(上田大樹)が大きく映し出されます。映像とお芝居が融合しているというのではなく、映像がすっかり舞台の壁になっていました。両袖以外に舞台面に開けられた2箇所の穴から役者さんが出入りし、上手から照明が神々しく降り注ぎます。いつどこを観ても美しい、完璧な空間でした。特にマルガレーテ(篠原ともえ)がつかまっている牢屋への転換で、天井が半分降りて来た時はその大胆さと計算された美しさに涙しました。
音楽も歌も良かったです(音楽監督:中西俊博)。天上人(神たち)の声はちゃんと声楽の人が起用されていたので歌声も美しかった。ストーリーと演技の中に、わざとらしくなく構成されていました。
ダンスの振付(近藤良平)もしかり。あくまでもダンスは脇役に徹していたというか、楽しく面白く、作品の重要な一部分として存在していました。
もう、ひとつひとつ挙げていくのはキリがないし、本質ではない気がします。複数の人間の想像力によって、その一人一人の想像を遥かに超える傑作が生み出されることがあるのです。だから舞台はやめられない、ものづくりは面白いのではないでしょうか。
石井一孝さん (メフィスト) 。帝国劇場常連のミュージカル・スターさん。私は初めて拝見しましたがとても面白かった。ミュージカルならではの演技と動きがうまくはまって面白いし、意味をまっすぐ飾らずにパワフルに伝えてくださいます。目が大きくてとがってて、悪魔にはぴったり。
篠原ともえさん (マルガレーテ) 。めちゃくちゃ儚くてキュートでした。登場してからファウストと恋に落ちるまでは目が離せないほど輝いていて、どんな男の子でもきっと彼女を好きになっちゃうなーと思うほどでした。メフィストの企み(悪魔だから企む必要もないのですが)でどんどんと堕ちていき、最後には気がふれて処刑されるのですが、その気が狂っているシーンはちょっと硬かったですね。でもとっても魅力的。すごい女優さんになるのではないでしょうか。
私が行った回のアフタートークではプロデューサー・脚本の能祖将夫さん、構成・演出の白井晃さん、音楽監督の中西俊博さん、振付の近藤良平さんのお話が聞けました。
近藤さん以外は何度もお仕事をされているお仲間だそうで、そのチームワークがこの傑作を生み出したんだな、とあらためて納得しました。
言葉は完全に正確ではありませんが、心に残ったことを書いてみます。
●白井晃さん
全てが同じ方向だと隙間が埋まってぺったりしてしまう。だから色々違う方向に作りました。
ミュージカルではなく、音楽劇:歌でシーンを進行しないことが音楽劇。ブレヒトの『三文オペラ』のように歌でお話が中断してしまうような。心情を表す歌詞か、もしくは主観や心象を客観視する歌詞にした。
歌:音楽が先で歌詞が後。どんなに意味をなくしても言葉には意味がある。だから音楽が先の方が良い。
衣裳:記号をつけない。壁に溶け込んでも違和感がない。
照明:舞台の天井にはたいてい照明器具がぶら下がっているのですが、この装置には板の天井があり、照明器具は全く吊られていません。天井を完全に覆う壁を作るのは舞台では禁じ手です。今回は演劇で都合の良いこと、当たり前のことをなくしていこうと思いました。普通は役者さんの顔をフォローピン(照明)で追うんですが、それもやらなかった。アンケートにも「舞台が暗い」とか書かれるんですが、この作品はそういう(暗い)ものなんです。だからこそ返って最後の神の光明が明るく感じられるでしょ??
●中西俊博さん
(最初に与えられた情報が非常に少なかったため)少ないイメージだったから想像力が広がっちゃった。できあがってきて「あぁ、こういうエネルギーの出かたになるのか」と思いました。
シンクロニシティ(偶然性)が非常に多く起こった。起こるべくして起こった必然。
●能祖将夫さん(観客の質問に答えて)
どこまでがゲーテ作でどこまでが自分作なのか今ではもうわからなくなってきました(笑)。最後のメフィストのセリフ「まぶしかった、お前の魂」は私の創作です。欲望に沿って、悪魔メフィストが人間ファウストに惚れていくのです。
【原作】ゲーテ【構成・演出】白井晃
【出演】:筒井道隆 (ファウスト) 篠原ともえ (マルガレーテ) 床嶋佳子 (ヘレナ) 石井一孝 (メフィスト) 冨岡弘 河野洋一郎 原田修一 草野徹 山崎華奈 内田滋啓 大崎由利子 壤晴彦 他
【作曲・音楽監督】中西俊博【脚本・作詞】能祖将夫【振付】近藤良平【美術】松井るみ【照明】高見和義【音響】山本浩一【衣裳】太田雅公【映像】上田大樹【技術監督】眞野純【プロダクションマネージャー】大平久美【舞台監督】安田武司【プロデューサー】能祖将夫、津村卓
公演サイト : http://www.dpcity.com/sept/faust/
2004年03月26日
THE SHAMPOO HAT・エスラボ『みかん THE SHAMPOO VERSION』02/07-15下北沢ザ・スズナリ
エスラボはTHE SHAMPOO HATがプロデュース公演をする際の演劇ユニット名だそうです。今回がエスラボVol.1で、シャンプーハット・メンバーと客演メンバーの2種類のキャストで一つの作品を上演する企画です。
警察官の独身寮(おそらく女子禁制)の古びたビルの屋上。元旦だというのに里帰りをしない独り者たちがつどう。それぞれに問題(個性)をかかえた登場人物たちの可笑しくて悲しい休日。
いつものシャンプーハットの独特の空気でした。むずむずとむずがゆくなってくるような絶妙の間でたくさん笑わせていただきました。
ひょっこりひょうたん島の歌を歌いながら一般人(福田暢秀)が突然飛び降りた時は、胸にグサっと来ました。ビルの屋上から眺めた自分のアパートはあんなにちっぽけだったんだな、と思った彼は、そのアパート同様の自分の命のちっぽけさを噛み締めて、衝動的に死を選んだのだ、大都会の片隅の小さな命の終焉・・・と思って私は涙したのに、怪我しながらも元気にまた戻って来ちゃって参りました(笑)。
リアルな世界の中にこういう拍子抜けするファンタジーが織り込まれているのが、本当に面白いと思います。
赤堀さんは本も演出もすごいですが、演技もすばらしいですね。一人で攻めて一人で転んだのには爆笑。情けない笑顔がまたバツ悪くって、かさねて苦笑です。
シャンプーおなじみのトム・ウェイツの音楽がぴったり。
ほんと、毎回ハズレがない劇団です。すごい。
作・演出 赤掘雅秋
出演:児玉貴志 赤掘雅秋 日比大介 野中孝光 多門優 福田暢秀
舞台監督:高橋大輔(至福団) 照明:杉本公亮 音響:井上直裕(atSound) 舞台美術:福田暢秀 舞台製作:F.A.T STUDIO 宣伝美術:斉藤いづみ 宣伝PD:野中孝光 舞台写真:引地信彦 演出助手:佐藤俊文 黒田大輔 制作助手:市川絵美 相田英子 滝沢恵 岩堀美紀 制作:HOT LIPS 企画:エスラボ 製作:THE SHAMPOO HAT
ザ・シャンプーハット : http://www33.ocn.ne.jp/%7Eshampoohat/
2004年03月24日
明治座・テレビ東京『新・近松心中物語~それは恋~』03/4-4/29日生劇場
寺島しのぶさんが好きなので恐る恐るチケットを取りました。・・・案の定、途中休憩で帰りました。
互いに一目ぼれした男と女の悲恋のお話。先日の松たか子さん主演『おはつ』もそうでしたが、男がムリして女郎を身受けするんですよね。それでお金がなくって困って・・・という見るも無残な展開。は~・・・。最後まで観てないので結末は知りませんが(ていうかタイトルが心中ですけど)、体調がどんどん悪化してきちゃいました。
森山良子さんが歌う主題歌『それは恋』がここぞとばかりにわざとらしく流れるのがダサイです。宇崎竜童さんの歌も流れましたよね?蜷川さんのお芝居に宇崎さんの音楽というのはお決まりですし、それはそれはかっこ良いと思うんですよ、でも今回はダメでした。テンションがだらだらです。
演出が悪いのか演技指導が悪いのか。役者さんの演技のあの不自然な間(ま)は一体何なんでしょう。へんな関西弁だけでも気持ちが悪いのに、あの、気持ちのこもっていない、紋切り型の、自意識過剰な動き。辟易します。
でも、さすがは寺島しのぶさんでした。ゆっくり歌うようにしゃべっても気持ちが途絶えない。一途で不幸な女郎、あっぱれでした。席を立つのを途中休憩まで待つだけでもつらかったんですが、寺島さんのおかげで持ちこたえました。
阿部寛さんはいつ観ても私にはNGです。のどから出す作りすぎた声色といい、大げさな動きといい、どうしても感情移入できません。
田辺誠一さん。舞台上で初めて拝見しました。ぜひ他のお芝居で見たいです。
演出:蜷川幸雄 脚本/秋元松代 音楽/宇崎竜童 歌/森山良子 衣裳/辻村寿三郎 装置:朝倉摂 照明:吉井澄雄 効果:本間明 振付:鼻柳錦之輔 ファイトコリオグラファー:國井正廣 演出補:石丸さち子 舞台監督:高橋良直 プロデューサー:中根公夫 高屋潤子
出演:阿部寛 寺島しのぶ 田辺誠一 須藤理彩 他
明治座 : http://www.meijiza.co.jp
サードステージ『ハルシオン・デイズ~もうひとつのトランス~』03/19-4/11紀伊國屋ホール
自殺サイトで知り合った3人とおまけ(?)1人の4人芝居。セリフに次ぐセリフでお話が展開していきます。
『トランス』は演出:木野花、出演:ともさかりえ・河原雅彦・山崎銀之丞バージョンを拝見しましたが、似ていたのは登場人物の設定ぐらいで狙いも質も全く違う作品だったように思います。
美術(松井るみ)に一番感動しました。紀伊国屋ホールの木の壁と続くように作られた抽象的な装置でした。パルコ劇場での『Bad News☆Good Timing』もそうでしたよね。大きな木のアーチが3つつらなり、高さと奥行きを感じさせながら温かみもありました。映像や照明との相性も最高でした。
オープニングがかっこ良かった~っ!!音楽と映像、照明、美術に役者さんのライブ感がきれいに解け込んで、ゾクっとしました。エンディングも同じ曲でしたよね。ご存知の方いらしたらぜひ教えてください♪
「泣いた赤おに」の劇中劇はどうかと思ったんですが、最後は涙しちゃいました。何もかも自分のせいだと思い込んでしまう青年(北村有起哉)、ゲイだということを隠して妻も子供もいる生活をしてきた中年(大高洋夫)、自分が患者(高橋一生)を自殺に追い込んでしまったと思い込むカウンセラー(辺見えみり)。登場人物はみんな優しくて弱い人ばかりです。鴻上尚史さんもそういう方なんだろうなーと思いました。
でも、会話劇とはいえ言葉でばかり説明してしまってちょっと物足りないというか、耳ばかり使わなきゃだめだったから疲れました。登場人物が4人だけだし展開も地味だし、なかなか集中力が続かないと思うんですよね。視覚や聴覚に訴えかける演出がもっとあれば、より楽しめたかもしれません。でも、出演者の皆さんの一生懸命さが伝わってきたので私は最後まできちんと観ていられました。皆さん真面目で正直で優しくて、良い人ばかりな気がします。
独特だなーと感じたことは、舞台奥にセリフが1フレーズずつ文字映像で映し出されるのですが、そのセリフが発せられる前のものだということ。第一幕、第二幕という風に区切りをつけるよりも、その幕で最も観客に汲み取ってもらいたい(笑ってもらいたい)セリフを文字にした、というところでしょうか。私はあまり面白みは感じませんでした。内輪ウケっぽい笑いが生まれてしまっていた気がしたので。ずーっと時系列に進むお芝居で展開があまり激しくないものには、そういう工夫が必要なのかもしれませんね。映像はみんな素敵でしたが、屋上のシーンで映される空がきれいでした。
辺見えみりさんの体の動きがちょっと見づらかったですね。手がずーっと下にぶらさがったままだったり、不自然な静止状態が長かったです。でも声が独特だしきれいな方ですよね。可愛らしいスカートが素足によくお似合いでした。あのスカート欲しいな~。
作・演出:鴻上尚史
出演:辺見えみり 北村有起哉 高橋一生 / 大高洋夫
美術:松井るみ 照明:坂本明博 音楽:渡邉裕之 音響:堀江潤 衣裳:古池慶次郎 ヘアメイク:西川直子 舞台監督:上野博司 演出部:早津信久 森谷亜紀子 清水将司 演出助手:黒川竹春 松倉良子 照明操作:伊賀康 角田和子 清家玲子 小道具デザイン:小松信雄 特効:鈴木俊光 音楽制作協力:平河欣樹 衣裳協力:横山千花子 制作助手:渡部千恵 大道具:金井大道具 小道具:高津映画装飾 映像製作:イーグル 写真撮影:萩庭桂太 宣伝美術:プラグイングラフィック 制作:中島隆裕 高田雅士
サードステージ : http://www.thirdstage.com/
2004年03月23日
とくお組『トリップ☆オーバー』3/19-21新宿THEATER BRATS
江口寿史さんのイラストっぽいアニメ調のチラシにちょっぴり惹かれていたのですが、制作さんからとても丁寧なご招待をいただいたので伺いました。旗揚げ公演です。
作・演出の徳尾浩司さんは主に慶応劇研でご活躍されていた方で、サラリーマンになってから始めての公演とのこと。制作さんからのメールでは『作風を一言で言うと、「非現実世界」で巻き起こる「現実的な」青春群像劇』だそうです。
舞台は貨物宇宙船の機関室。なぜか動力が備長炭。その炭を炉に入れ続ける機関士さんたちや招かれざる乗客のドタバタコメディー。
シチュエーション・コメディーは最初の説得力が全てだと思います。物語に入れなかった時点で何もかも信じられないまま最後まで・・・というのがよくあるパターンです。設定は面白いと思うし装置も工夫があったと思いますが、残念ながら私は全く入れずじまいでした。
客席は笑い声に包まれていましたが、私が笑ったのは一度だけ。うさぎのぬいぐるみ男が「ぬいぐるみを着ていたことに20年間気づかなかった!」というシーン。絶対にありえないことを笑いに持っていくには、役者さんの演技と用意周到な演出が必要だと思います。ここではそのうさぎ男(作・演出の徳尾さん)の演技が良かったから成立したのではないでしょうか。
オープニングの役者紹介映像は長すぎます。まず画質が悪くて何も見えないし。宇宙戦艦ヤマトの映像を使ったエピソード説明の映像も長いですよね。一瞬で終わっていたなら楽しめたかもしれません。
宇宙警察の登場に小窓を使ったり、その警察官がパネル絵だったりするのは楽しいアイデアですよね。シアターブラッツの奥行きを上手に使った廊下は良かったと思います。でもうさぎのぬいぐるみが大きすぎてその廊下を通れない、というギャグは、本当に入れないほどぬいぐるみを大きくしておかないとダメですよね。
ラストは・・・苦しかったんだろうな~と思ってしましました。一つにまとめることを考えずに自由に気楽に作られるといいのではないでしょうか。シチュエーション・コメディーの壁は厚いし高いと思います。
〔出演〕石切山哲也 樫岡佐弥香 高良真秀 斉藤広之 崔太均 島優子 山室智美 徳尾浩司
〔脚本演出〕徳尾浩司 〔舞台監督〕三浦佑介 〔舞台美術〕金子隆一 恩地文夫 飯塚美江
〔照明〕小峯裕之 〔制作〕日野慎也 菊池廣平 久保明世 〔宣伝美術〕齊藤直紀 〔映像〕岡野勇
とくお組 : http://www.tokuo-gumi.com/
2004年03月22日
燐光群『だるまさんがころんだ』02/20-03/07下北沢ザ・スズナリ
坂手洋二さん久々の燐光群での書き下ろし新作です。
地雷をテーマにした短編がせめぎ合うオムニバス・ファンタジー。
黒いアスファルトのイメージのシンプルな八百屋舞台で繰り広げられる「地雷」をテーマにした短編たちは、地雷の今を伝えてくれます。
突然の爆撃音でお芝居は始まりました。客席からは「きゃ!」とか「えっ!」声が漏れて、私も体がビクっとなりました。驚かされるのって本当に苦手なんですよ、私。心がムカムカして怒っちゃうほど。でもこのオープニングには納得です。そうやって突然に体が吹っ飛ぶんですよね、地雷に当たると。
私が覚えている短編の登場人物を挙げると↓
地雷原に迷い込んでしまった自衛隊員。
日本で唯一の地雷製造メーカーで働いている父親。
地雷撤去に命を燃やす義足の女。何度も地雷に当たり、サイボーグになる。
親分に地雷をとって来いと命令された極道の男。
地雷商人の2人組(実はすでに地雷で死んでいる)。
地雷原で暮らす人々。双子の兄弟。
地雷を見つけて食べる巨大トカゲ。
セントラル・パークに埋まる地雷。 など
地雷についてのリアルな知識をじゃんじゃん垂れ流すように教えてくれます。物語としてはちょっと説明くさすぎるなーと思いながらも、やっぱり知りたいし引き込まれます。
地雷って・・・数が尋常じゃないですね。ひとつの地雷で2人に1人は死ぬ。死ななかったとしても手足がなくなったり目が見えなくなったりします。以下、パンフレットより→今、世界中に約1億数千万個の地雷が埋められている。20分間に1人の割合で負傷or死亡。1個作るのに3ドル。取り除くには千ドル以上。1分間に千個以上が撒かれる。
「地雷にあたるのは日頃の行いが良くないからだ、と親に教えられるから、足が無くなった子は恥ずかしそうに義足の順番待ちをしている」そうです。胸が締め付けられました。
目を背けたくなる現実を生々しく伝えながら、笑いも満載でした。地雷ラップは楽しかった。特に極道の男と義足の女のロマンスには胸がときめきました。「君はだるまさんだ。俺は君を転がしたい。」まさか一番のけなし言葉がくどき文句になるとは。
地雷商人の2人組のシーンで彼らが大切そうに地雷を扱っているのを見ていると、不思議なことに、地雷に心があるような気がしてきました。作られて埋められて時限装置で自爆させられて。責務を果たせぬまま眠り続けるのもあれば、突然目覚めさせられるものもある。
世界の多くの国々で遊ばれる「だるまさんがころんだ」の言葉の洪水でエンディング。人間同士、傷つけ合いたくないです。愛し合いたいです。そんな気恥ずかしくなるぐらいの素直な気持ちがすんなりと心から溢れてきます。だから坂手さんの作品は見逃せないです。ずっとずっと。
<作・演出>坂手洋二
<出演>中山マリ 川中健次郎 猪熊恒和 下総源太朗 大西孝洋 鴨川てんし 江口敦子 JOHN OGLEVEE 樋尾麻衣子 宇賀神範子 内海常葉 向井孝成 瀧口修央 宮島千栄 工藤清美 裴優宇 桐畑理佳 久保島隆 杉山英之 小金井篤 亀ヶ谷美也子 塚田菜津子
<スタッフ>照明=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)音響=島猛(ステージオフィス)美術=じょん万次郎 舞台監督=海老澤栄 衣裳=大野典子 演出助手=吉田智久 文芸助手=久保志乃ぶ 宣伝意匠=プリグラフィックス 美術協力=加藤ちか・丸岡祥宏 制作=古元道広・国光千世・大場さと子・川崎百世
燐光群 : http://www.alles.or.jp/~rinkogun/
ク・ナウカ『ウチハソバヤジャナイ』03/18-23東京芸術劇場小ホール1
ギリシャ悲劇などの古典を独特の表現方法で上演してきたク・ナウカが、ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチさん作のナンセンスコメディーを上演。しかも前半と後半が違う演出家なんて、一体どういう目論見なのでしょうか?企画としてめちゃくちゃ注目度大です。
ちょうど時期が重なっていたので私はブルースカイさん演出の『ウチソバ』を拝見した後の観劇になりました。これもまた面白さ上乗せですよね。
まず宮城さんの演出で幕開け。ク・ナウカの今までの作品の衣装や小道具、大道具が舞台の周りに並べられています。民族衣装を着てパーカッションを鳴らして、いつものク・ナウカらしいオープニングだったのですが、ク・ナウカの役者さんが「クラフトっていいよね?」「君、踊りうまいね」「お前バカか」というケラさんならではの吐き捨てるような乾いたセリフをしゃべります。しかも舞いながら。笑いがこらえられませんでした。
宮城さんご自身の写真が出て来て「はい、私がボヨヨンちゃんです。」と宮城さんの声がしゃべったのには爆笑。その後に出演者やスタッフ紹介の文字映像がディスプレイに映ったかと思いきや最後に「完」とか出てきちゃうし。まだ40分も経ってないよ!!あぁ~・・・ナンセンス。さすがです宮城さん。
宮城さんバージョンがいつ終わったのかよくわからなかったのですが、アニメ「うる星やつら」の主題歌“ラムのラブソング”が大音量で流れる中、役者さんが着ている服をどんどん脱いで露出度の高い白い衣装になっていきます。ほぼ下着ですね。あ、ここから外輪さんバージョンなんだなぁとはっきりわかりました。なにせ相当毛並みが違います。ド派手です(笑)。
外輪さんバージョンは・・・女優さんのおなかや胸元ばっかり気になっちゃいました。だって美しいんだもの!!
音響で笑い声がかかるのは好きじゃないです。アメリカのTVドラマで鳴る声と質や意味は違うのですが、やっぱりしらけちゃうんですよね。観客が笑えなくなります。
外国人男性(おそらくフランス人)の方の演技は気になりました。たどたどしい日本語だから可笑しい、ということだけでは私は面白みを感じられなかったです。
2本とも見終わって、自分でもよくわからない後味が残りました。ケラさんの脚本をク・ナウカの役者さんで宮城さんが演出するというのならまだしも、前半と後半で違う演出家による演出というのはすごく複雑です。やっぱり2本を比べることになってしまいますね。
どちらが良かったかを無理やり選ぶとすれば、外輪バージョンでは裸ばっか気になっちゃったので、私は宮城バージョンに軍配!ク・ナウカのファンも、ク・ナウカを知らない人でも楽しめたと思います。
阿部一徳さん。良い声だからこそ笑えるネタがいっぱい。動いても面白い。
日比大介さん(THE SHAMPOO HAT) 。日比さんが出てらっしゃるおかげで角ばるばかりでなくソフトな印象になって良かったと思います。
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 前半演出:宮城聰 後半演出:外輪能隆(エレベーター企画)
出演:阿部一徳 吉植荘一郎 野原有未 稲川光 片岡佐知子 加藤幸夫 桜内結う 牧野隆二 奥島敦子 佐々木リクウ 高橋昭安 たきいみき 山本智美 杉山夏美 日比大介(THE SHAMPOO HAT)
照明:大迫浩二 音響:AZTEC(水村良、千田友美恵) 美術:深沢襟 衣裳:忠内もも(モマ・ワークショップ) 衣裳製作:鈴木美和子 かつら製作:能町愛子 小道具:後藤敦子 舞台監督助手:弘光哲也 舞台監督:野口毅 宣伝美術:三田秀共 制作:大和田尚子、久我晴子
ク・ナウカ : http://www.kunauka.or.jp/
2004年03月18日
AGAPE store『しかたがない穴』03/02-10紀伊國屋サザンシアター
AGAPE store(アガペーストア)は松尾貴史さんとG2さんの演劇ユニットです。今回は岸田國士戯曲賞を受賞して間もない倉持裕さん(ペンギンプルペイルパイルズ)の脚本で。
謎の巨大な穴の中を探索に行く人たち。穴の中に建てられた六角形の住居の中にほぼ閉じ込められてしまった彼らは、自己の不確かさに包まれて少しずつおかしくなっていく。
あまりに笑いが多いのでホラーだということを後半になるまで忘れていました。少しずつ常軌を逸していく登場人物たちのうっすらとした恐怖を感じたのはクライマックスになってから。でも楽しかったのでOKです。
ラストがいったいどういう意味なのかは正直なところ見終わった時にはわからなかったですが、別に気にならなかったな~。あの不可思議でクールなサスペンス調ナンセンスが味わえるだけで、倉持裕さん脚本は楽しめます。
ぐるぐる動く照明で部屋の間取りが表されている(ネタバレに近い)のは親切だなーと思います。小さな劇場で濃い演劇ファンだけのために上演する作品ならちょっと説明し過ぎかもしれませんが、芸能人も出演している紀伊国屋サザンシアターでの公演ですし、そういう気遣いって必要ですよね。
壁が動く装置が大胆で良かったです。上手のあの壁は一体どうなっていたんだろう・・・。
秋本奈緒美さん。スタイル良くて美しい女性が生で舞台にいらっしゃるって嬉しいです。だって観てるだけで楽しいんだもの。『Happy Birthday!』@アートスフィアの初演ではエロエロ愛人の役で悲しかったのですが、今回はスマートで良かった。
作:倉持裕 演出:G2
出演:松尾貴史/山内圭哉/松永玲子/小林高鹿/秋本奈緒美
スタッフ 美術:加藤ちか 照明:黒尾芳昭 音楽:G2、山内圭哉 音響:内藤勝博 スタイリスト:内村淳子 演出助手:高野玲 舞台監督:村岡晋 演出部:村西恵、唐崎修 照明操作:山崎哲也 衣裳:桑原理恵 小道具:高津映画装飾 大道具製作:C-COM 宣伝美術・パフレット花写真:東学 宣伝写真:福永幸治 ヘアメイク:小島裕司 仮チラシデザイン:植田聡史 Web:川村公一、酒井元舟 制作:尾崎裕子、中村真由美、安積智子 制作協力:若菜千依子 プロデューサー:大西規世子 製作総指揮:G2
G2プロデュース : http://www.g2produce.com/
新国立劇場演劇『透明人間の蒸気(ゆげ)』03/17-4/13新国立劇場 中劇場
1991年に夢の遊眠社で初演。原作者の野田秀樹さんの手による再演です。私は小西真奈美さんと筧利夫さん主演の青山劇場での公演(演出は誰だったか忘れました)を拝見したことがあり、その時はややこしくてよくわからなかっただけ、という残念な感想でした。今回もそれに近いものがないわけではないです。
でも、宮沢りえさんという清々しいそよ風のような、深く透き通る水のような、遠くにまたたく星のような女優さんにお会いできたことに感激です。
鳥取砂丘でお土産屋を営むサリバン先生(野田秀樹)のもとで暮らすヘレン・ケラ(宮沢りえ)は盲目の少女。彼女は足の裏で音を感じて会話する。ある日、詐欺師の女たらし男(阿部サダヲ)がやってきてケラの心を奪った。「あなたは神様なのね!」 一方、20世紀の遺物を探して21世紀に送れとの勅命を受けた者たち(手塚とおる等)は詐欺師の男の度重なる悪行を見て、彼を21世紀に送り届ける人間に選んだ。しかし彼はうまく未来へは行けず、皮だけがはがれて透明人間となってこの世に残ってしまう。
この後さらに黄泉の国とこの世、現在、過去、未来とひっきりなしに場面転換します。もともと難しい話である上に役者さんが早口で怒鳴るのでセリフが聞き取れなくて、よく意味がわからないまま終わってしまいました。とってもとっても残念でした。
わからないながらも、物語の後半での手塚とおるさんの長ゼリフに野田さんの言いたいことが託されていたような気がしました。1945年に日本は敗戦国となったわけですが、敗戦する前まで日本が全く無くなったわけではないですよね。臭いものに蓋をするように全てを置き去りにして忘れて来てしまっている日本人に、全身全霊で伝えようとする13年前の野田さんの心を感じました。
詐欺師(阿部サダヲ)が透明人間になった時、衣装が水色になり、髪の毛もあざやかな水色になります。その姿が見えるのは盲目のケラにだけだ、という設定は非常にわかりやすかった。照明で世界が変わるのもしっかり表現されていましたので中盤ぐらいまでは付いて行けてたと思うのですが、後半はもうムリだったなぁ。
舞台(堀尾幸雄)は中劇場の奥行きを活かした大きな大きな空間をそのまま使っていました。3年前の『桜の森の満開の下』と似ていますが、今回の方がシンプル。荒涼とした砂丘のイメージですよ。美術はセットも小道具もほぼ全てダンボールでした。ダンボールの電話ボックス、ダンボールの湯たんぽ、ダンボールのみそかつ・・・。次から次へとオブジェが出てきてダンボールなのに豪華でした。でもやっぱり、「ダンボール」なんだよなー・・・。
衣装(日比野克彦)が新聞紙だったので美術とは「紙」つながりですよね。新聞紙を使うというのは、過ぎ去ったけど確かに存在した歴史を表現している気がして良い視点だなーとは思いましたが、見た目は単にヘンだったな~。日本っぽさを表したかったからあのかつら?全身白タイツにトイレットペーパーふんどし、全身黒タイツのダンサーの手足に白いオブジェ、なんか物体自体がヘンなんですよね。決してカッコ良くないです。宮沢りえさんの衣装だけ見た目もバランスも良かったと思います。
選曲はいつもどおりでした。同じような音を何度も使うのにももう慣れてきましたね。野田作品ではこの音ってことで。今回は音が小さかったし非常に遠くからかすかに聞こえてくるのは良かったです。
振付(川崎悦子)は群舞というよりはバレエっぽかったです。謝珠栄さんの振付の方が私好み。
役者さんに関しては始まってから終わるまで、宮沢さんと阿部さんばかりに目が奪われていました。「宮沢りえ、長いキスシーン!」というような見出しで新聞に載っていたそうですが、あれはキスシーン?本当にキスしてたなら笑えます(笑)。そのキスで盲目の少女は「私は神様から蒸気(ゆげ)をもらったんだ」と思い、気づかないうちに恋に落ちているんですよね。とってもロマンティックで重要なシーンをお二人が完璧に表現してくださったように思います。
宮沢りえさん。中劇場の奥から走って登場しました。彼女のまわりの空気が白い光を放っていました。なんて美しいのでしょう。初めて現れたその瞬間に涙が溢れてきたのは3度目です。最初は阿部聡子さん(青年団)、次は最近ですが広末涼子さん、そして今回の宮沢りえさんです。セリフにしっかり心が載っていて、決して早口ではないから確実に観客に伝わります。清らかな心が声に表れるんですよね。遠くを見つめる大きな瞳に慈しみさえ感じました。
阿部サダヲさん。素通りしそうなやりとりを爆笑シーンに作り変えてくださっていたように思います。全く、何をやってもかっこいいです。
野田秀樹さん。登場した時めちゃくちゃ面白かったな~。あの髪型はぶっ飛んだギャグでした。でも後から後から同じような髪型の人が出てきちゃったから残念。舞台を走り回って楽しんでいらっしゃる様子を見るにつけ、ずっと作品を作り続けてほしい、ずっとずっとこの人を追いかけたいと思いました。
作・演出 :野田秀樹
出演:宮沢りえ 阿部サダヲ 野田秀樹 高橋由美子 手塚とおる 有薗芳記 大沢健 秋山奈津子 篠崎はるく(降板) 六平直政 池谷のぶえ 小林功 小手伸也 山中崇 福寿奈央 櫻井章喜 須永祥之 阿部仁美 木下菜津子 中川聖子 浜手綾子 小椋太郎
演奏:福原寛菜 松坂典子 山田貴之
美術:堀尾幸男 照明:小川幾雄 衣装:日比野克彦 美粧:柘殖伊佐夫 選曲・効果・演出補:高都幸男 振付:川崎悦子 演出助手:坂本聖子 舞台監督:矢野森一
新国立劇場 : http://www.nntt.jac.go.jp/
2004年03月17日
毛皮族『DEEPキリスト狂』03/4-28下北沢駅前劇場
若い女の子がおっぱいあらわに踊って歌って、小劇場がものすごいことになってるぜぃ!・・・ってことで大人気の毛皮族。脱ぐだけじゃなくて独特の世界観があります。
毛皮族のトップさんこと江本純子さんは本当に魅力的です。めちゃくちゃ迷った末にですが、彼女のデビューCDまで買ってしまいました。
ストーリーは前回(『夢中にさせて』)よりもスマートになっているし顛末もきちんとしていたようですが、私にはどうでも良かったですね~。なにしろ江本さんがかっこいいので、それで大満足・大感謝。
江本さんがお好きなのであろうアーティストや俳優、映画関連のエピソード等ところかまわず出没します。マリリン・モンロー、マイケル・ジャクソン、エマニュエル夫人、コスプレ看護婦、SM女王、インド人、フランス人・・・。何の脈絡もなく踊って歌って脱いでからんで、なんのこっちゃよくわからないけど盛り上がりまくり。大笑いとまではいきませんがギャグも面白いし。水、煙、血のり、シャボン玉など仕掛けもいっぱい。
やっちゃっていることは破天荒ですが、観客がお芝居を気持ちよく観続けられるようにしてくれるサービスが感じられて大好きです。江本さんが「Michealの幕」で後ろからの照明を浴びながら一人でずーっと踊られた時は、あまりのかっこよさに涙ぐみました。
露出は噂どおりすごいです。まず幕が開く前に江本さんがトップレスで登場します(笑)。だいたいのシーンでは女の子が超ミニでパンツ丸見え状態です。私は女なのでただただ笑いますが、男の人はどうなのかなー。思惑通りなのでしょうか。私が観た回の最前列は学生やフリーターの若い男女でしたので(江本さんが観客に聞いたから判明)、中年の男性が陣取っているわけではなかったです(笑)。
美術も面白かったです。手作り感溢れるいかがわしそうな街のいかがわしそうな部屋。可動式のパネルでどんどん舞台転換して大変そうでしたが、『8時だよ!全員集合!』の幕が嬉しかった。ルイ・ヴィトンのモチーフの壁に時々シャネルのロゴが現れたりするのも可愛い。
照明は天井に飲み屋やBAR等のネオンがたくさんあって楽しい。めちゃくちゃいっぱい豪華に吊ってあるように見えました。
選曲がいい!映画『ブエノスアイレス』から数曲使われていましたね。あの映画大好きなんです。つかこうへいの『飛龍伝』をパロった特攻隊ものの戦闘シーンでEGO-WRAPPIN'の『サイコアナルシス』がかかったのは良かったな~。これを戦闘シーンで使うのは他でも観たことがあるのですが、パンチがあっておしゃれですよね。
町田マリーさん。ものすごく演技がお上手になられて(えらそうですみません)、ずーっと見つめてしまいました。素敵~。笑いを取るのも確実だし、危険な美しさを完全にものにされた感じ。女は変わるのね~。
澤田育子さん(拙者ムニエル)。かわいい!スタイルいい!露出がだんだん激しくなってきたのでは?(笑)。毛皮族での澤田さんの大ファンです。
作・演出・出演/江本純子
出演:町田マリー/柿丸美智恵/和倉義樹/佐々木幸子/羽鳥名美子/高野ゆらこ/亀田麻衣/金子清文/澤田育子(拙者ムニエル)
舞台監督/村田明 袴田長武 照明/中川隆一 音響/加藤温 舞台美術/小林奈月 小道具/松木淳三郎 衣裳/胡桃澤真理 衣裳助手/田辺雪枝 横山純子 甘利さち子 演出助手/中島奈津子 制作助手/対馬淳子 野本恵美太 沼田幸子 澤辺亜好 稲葉カホル 宣伝美術/(画)宇野亜喜良、(デザイン) 井原靖章 宣伝写真/ハービー山口 宣伝/吉田由紀子 制作/ 西向美有紀 プロデューサー/さすがわささめ 企画・製作 毛皮族 制作協力 ポスターハリス・カンパニー
毛皮族 : http://www.kegawazoku.com/
2004年03月15日
藤原歌劇団 オペラ『アルジェのイタリア女』03/11-14東京文化会館大ホール
オペラ通の方に「人間なら行くでしょう(これを聴かないなんて人間じゃない)」とまで断言されたのでチケットを取りました。
アグネス・バルツァさんというメゾソプラノの方が必聴とのこと。しかも彼女の『アルジェのイタリア女』のイザベッラ役は当たり役だそうです。
オペラにも種類がありまして、例えば作られた時代ごとにその特徴が出ていたりもするのですが、このロッシーニ作曲『アルジェのイタリア女』は1813年ヴェネツィア初演で、オペラ・ブッファと呼ばれるコメディー色の強い作品に分類されます。さらに18世紀末に流行した「トルコもの」の典型だそうです。
私、オペラ・ブッファ初めてだったんですよー・・・うー・・・苦手です。ほんと、ドタバタコメディーの域も超え、お下劣なんですよね・・・。いや、ジャンルとして理解すれば何も問題ないはずなんです。私は歌と音楽だけで満足できるような通じゃないので、まだまだストーリーや演出重視になっちゃいます。ロッシーニといえば大好きな『セビリアの理髪師』もそうですし、そういう気持ちで観に行ったのが間違いでしたね。これで学んで良かったな、と。
オペラってすごいなーと思うのは演出が保存されていることです。この作品はジャン=ピエール・ポネルが1972年に演出・装置・衣裳を担当した作品がそのまま持って来られているようです。演出・装置・衣裳を一人でやるというのがまた驚き。
作曲 ロッシーニ 指揮 コッラード・ロヴァーリス
出演 アグネス・バルツァ ロレンツォ・レガッツォ 佐藤美枝子 牛坂洋美 アントニス・コロネオス ロベルト・デ・カンディア 佐藤泰弘
合唱 藤原歌劇団合唱部 演奏 東京フィルハーモニー交響楽団
主催 (財)日本オペラ振興会/(社)日本演奏連盟
東京文化会館 : http://www.t-bunka.jp/
シリーウォーク・プロデュース『ウチハソバヤジャナイ』03/10-22下北沢ザ・スズナリ
ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチさんの昔の作品を若い演出家にたくす企画2本立て。私はブルースカイさん(演劇弁当猫ニャー)のファンなので『ウチハソバヤジャナイ』の方を拝見することにしました。
2014年の日本。全国民に人工脳を移植してコントロールしようとしている国民管理局と、それに反対する地下組織との戦い。そこに、そばの出前の間違い電話がかかってきてどんどんそば屋になっていく夫婦の話が重なります。
色々あっけに取られました。やっぱりブルースカイさんって面白いなーってしみじみ思いました。
全く関係ないエピソードと会話ばかりが積み重なり、どうでもいいネタに終始します。その一つずつとても丁寧で、面白い。
無駄につぐ無駄。無意味に乗せる無意味。だけどラストはちゃんと話の顛末がついて、私はすんなり納得しちゃってました。普通に拍手してたな~・・・(笑)。
2時間15分は疲れましたが、まあ観てよかったかなと思いました。演劇弁当猫ニャーの解散って悲しいですよね。また、ポカンと口を開けたまま数秒、思考停止させて欲しいんです。きっとしばらく休んだら復帰してくれますよね??
ディスコで踊っていてナイフを振り回し「私、これで死んでやる!!」と息巻いていた女の子が「でも最後にこれだけは言いたい!」と言ったところでグサッと刺す効果音、そしてすかさず真っ赤な照明。まだ刺してないのに。それで仕方なく死ぬことにするまでの長い間がめちゃくちゃ面白かった。大笑いし続けました。
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:ブルースカイ(演劇弁当猫ニャー)
出演(五十音順)荒井タカシ (演劇弁当猫ニャー) 大山鎬則(NYLON100℃)乙井順 (演劇弁当猫ニャー) 喜安浩平(NYLON100℃) 小村裕次郎 立本恭子 (演劇弁当猫ニャー) 千代田信一(拙者ムニエル) 廣川三憲(NYLON100℃) 藤田秀世(NYLON100℃) 正名僕蔵 三谷智子 村上寿子(水性音楽) 渡辺道子(ベタ-ポーヅ)
舞台監督:福澤諭志+至福団、宇野圭一 舞台美術:秋山光洋 照明:山口功一(イベントプロデュース・テイク) 音響:鏑木知宏 宣伝美術:小林陽子(ハイウェイグラフィックス) イラスト:黒木仁史 制作助手:寺地友子、土井さや佳 制作:市川美紀、花澤理恵 協力:ダックスープ/演劇弁当猫ニャー/ナイロビ/拙者ムニエル/クリオネ/大人計画/ベタ-ポーヅ/水性音楽/NYLON100℃ 企画・製作:株式会社シリーウォーク
シリーウォーク : http://www.sillywalk.com/
新国立劇場演劇『こんにちは、母さん』03/10-31新国立劇場 小劇場
画像元はこちら
2001年の初演で読売演劇大賞・最優秀作品賞、最優秀女優賞、最優秀男優賞など数々の賞を総なめした作品です。
客席全体で笑い声と鼻をすする音が鳴り止まない、奇跡の大傑作です。
舞台は東京の下町の古い一軒家とそのご近所。男(平田満)は40代中半になってサラリーマン生活にくたびれ、数年ぶりに実家に訪れると、70代の母(加藤治子)の生活は様変わりしていた。外国人に住居を紹介するボランティア、公民館で源氏物語の勉強、そして彼氏まで出来ていた・・・。
オープニングの巧妙さにまずうなります。かすかに車のエンジン音など街の騒音が流れ出し、突然ビートルズの“I wanna hold your hand”が舞台の方から語りかけるように流れて来ました。それがほぼフルコーラス。非常に長い間聴かされてから、最初の登場人物(息子役の平田満)が中央に配置された勝手口から出てきます。この曲が長くかかるのは、後から大切なエピソードとして出てくることと、もう一つはビートルズの全盛期を観客に思い出してもらうためだと思います。
音楽を味わうというよりは、ビートルズの音楽を通じてその時代の空気が押し寄せてきました。物語の中で語られる60年代の日本にも、物語が進行する現在のこの一軒家にも、ビートルズの音楽はどこかアンマッチで、強烈な印象を残しました。可笑しくも悲しいことだらけの日本の下町の日常に、スコーンと明るい洋楽のヒット曲が流れるのはすごく切ないのです。ビートルズがこんなに痛く苦しいなんて驚きでした。劇中の“イエローサブマリン”のインストゥルメンタルが流れた時は涙が搾り出されてきました。
登場するのはリストラされたサラリーマン、夫と不仲で離婚しそうな妻、独身一人暮らしの壮年の女、息子が出て行ってしまった煎餅店の女将、祖父を日本軍に殺された中国人留学生、など。今どきの言葉で言うと決して「勝ち組」ではない人々のそれぞれの深い悲しみが本当の共感を呼びます。
初演と同じところで最も胸が締め付けられて涙で顔がくちゃくちゃになりました。最も泣けるセリフは初演と同じでした。母の恋人(西本裕行)のセリフです。
「焦がれるような羨望を込めて、私の体から出ているのに、あなたには伝わらない」
言っても伝わらないかもしれない。でも、言わなければ絶対に伝わらない。こんな当たり前のことを一番身近な家族にさえもできていなかった私たち。
知らなかった、ということで済ませてきた。もし知りたかったなら、わかりたかったなら聞けばよかったのに。聞かなかったということは、知りたくなかったということ。
永井愛さんの脚本の一言一言が、観ている者の胸に痛いほど伝わってきます。誰もが心の中で思っていることを代弁してくれて、それをたしなめて、許してくれるからです。
そして最後は花火です。体中が震えました。舞台上の人物たちだけでなく、私の命も祝福してくれたんです。こうやってレビューを書きながらも涙が溢れてきます。
役者さんは皆さん素晴らしく、登場人物そのままの人格なのだろうと思えるほど役が板についていて、完全に心が吸い込まれていきました。シリアスな状況を深刻なだけでなく泣き笑いにしてくれるのも、演出はもちろんですが、役者さんの技があるからこそでしょう。
母(加藤治子)の恋人役の西本裕行さんは初演の杉浦さんよりも柔らかくて、すっかり隠居しているおじいさんでした。杉浦さんの方が大学教授らしかったですが、私は西本裕行さんの方がしっくり来ましたし、泣けました。
この再演に、私は大切な人を2人誘って観に行きました。新国立劇場演劇はレパートリーシステムですからこんな大傑作は再々演が必ずあると思います。どうぞ皆さんも自分の一番身近な、大切な人と一緒に観に行ってください。
※「こんにちは、母さん」の舞台装置が石川県中島町で保存(週刊StagePower)
作・演出 :永井愛
出演:加藤治子 平田満 西本裕行 大西多摩恵 田岡美也子 橘ユキコ 酒向芳 小山萌子
美術 :大田創 照明 :中川隆一 音響 :市来邦比古 衣裳 :竹原典子 ヘアメイク :林裕子 演出助手 :吉村悟 舞台監督 :澁谷壽久
舞台写真:http://www.nntt.jac.go.jp/frecord/play/2003%7E2004/kaasan/kaasan.html
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s225/s225.html
2004年03月11日
珍しいキノコ舞踊団『FLOWER PICKING』03/10-14CLASKA
珍しいキノコ舞踊団は伊藤千枝さんが構成・演出・振付する女の子ばかりのコンテンポラリー・ダンス・グループです。新作を発表する度に話題沸騰ですよね。今回の舞台は今、話題のホテルCLASKA(クラスカ)。チケットは早々に完売していました。
楽しかった~・・・。力の抜け具合がかっこいいです。珍しいキノコ舞踊団の作品はこれまでに2度拝見しているのですが、構成、美術など空間演出が優しくてふんわりしてて可愛くて、それでいてピリリと刺激的。絶対に見逃したくないって思わせます。この人たちを嫌いな人いないんじゃないかな。
それでは、いろいろネタバレしますがご容赦ください。
クラスカの1階ロビーにいつもはない大きなテーブルがあるな~と思ってはいたのですが、まさかそこでダンスが始まるとは!通路にいた観客は「出てきた!」とばかりにそのテーブルに集中しましたが、ロビーのお客様が得等席でしたね。う~ん入っていれば良かった~。キュートな女の子達が楽しくお茶をしてるかと思ったら徐々に激しくダンス。衣装も可愛い!
ダンサー達はエレベーターで2階へ移動。観客も後からぞろぞろと階段で2階へ移動。これがのろのろで窮屈だし不恰好(泣)。でも2階ギャラリーに入ると誘導の間ずっと伊藤千枝さんが持ち歌(笑)を何曲も披露してくださり、観客もリラックスして席に着きました。そのままふんわりと歌が歌われる間にダンスが始まりました。このさりげなさと気楽さがいつもすごいと思います。
全体的に白でまとめられたギャラリーに小さなお部屋やソファ、すべり台。いつも通り活発にに繰り広げられるキュートなキノコダンス。
衣装はいつも素敵ですが今回はピンクが多かったですね。グレーの使い方が上手だなーと思います。ナイキの靴もかっこいい。
観客を移動させたり躍らせたり動画中継したり、盛り沢山にもてなして下さいました。ダンサー達の可愛らしい歌声もご披露。終演後のワンドリンクも余韻を楽しむ最高の演出でした。ダンスをしたギャラリーにそのまま残っていいし、実際に使われた音楽がかかっているし。
色々語りたくなることの多い作品でしたが、中でも新人の女の子(篠崎芽美)のソロがすごかった。♪グライダー~♪というような日本語の歌詞の激しいロック音楽に乗せて、音楽同様に激しく止まることなく踊り続けるのです。あどけない、みずみずしい笑顔の小さな女の子の体から溢れ出す人間の体のダイナミズムを目の当たりにして、私の目からは涙が溢れて溢れて前が見えなくなりそうになって「やばい!踊りが見えない!」と焦りつつ、やっぱり涙は止まってくれることなく・・・。最初からなんか異色な子がいるなぁとは思っていたのですが、まさかソロでこんなに踊るとは。必見です。
構成・演出・振付:伊藤千枝
出演:井出雅子/山田郷美/佐藤昌代/飯田佳代子/篠崎芽美/伊藤千枝
演出助手:小山洋子 舞台監督:野口毅 楽曲提供:ammakasie noka 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 照明オペ:木藤歩(balance,inc.DESIGN) 音響:金子伸也 浅田耕作 美術:久保英夫 美術協力:鶴見泰裕 萩原安雄 衣装:NEW WORLD SERVICE(清水美枝子 小松真紀 宮部恵) 映像効果:藤本康生 宣伝美術・イラスト:生意気 伊藤桂司 スチール:アーノルド・グロッシェル 片岡陽太 映像収録:熊澤森郎 チャーリー 岡田準一 制作:パブロフ(大桶真 長谷川純子) 制作協力:カンバセーション(前田圭蔵 久保風竹)
珍しいキノコ舞踊団 : http://www.strangekinoko.com/
Studio Life『MOON CHILD -月の子-』03/04-16アートスフィア
『月の子』は清水玲子さんのSF少女マンガ大作です。これを舞台化しちゃう倉田淳さんって毎度の事ながら本当に偉大だと思います。
2002年が初演で今回が初の再演。私は初見です。
満月の晩、ニューヨークに3人の天使が舞い降りた。人魚族の子供たちが200年に一度の産卵期をむかえ、生まれ故郷の地球に帰って来たのだ。1980年代に実際に起きた事故とアンデルセンの童話「人魚姫」をからめた壮大なスケールの恋物語です。
休憩をはさんで3時間強、お尻はさすがに疲れましたがお話が確実に面白いので最後まで楽しく拝見しました。ラスト30分ぐらいはラブも事故も白熱ですよね~。日本の少女漫画の大切な要素を歪曲することなく伝えてくれる倉田さんのセンスは、いつもまっすぐで素敵です。そこを信じているからスタジオライフ通いはやめられません。
でも今回は面白いと感じられるまでが長かったですね。特に幕開けが弱いと思いました。主役の人魚ベンジャミン(及川健)が恋に落ちる人間の男アート(姜暢雄)が心もとなくって、観ている方がどぎまぎしちゃいました。前半も終わりの方、ティルト(笠原浩夫)が出てきてからやっとスタジオ・ライフらしさが復活したような。
『トーマの心臓』@アートスフィアでも感じましたが舞台空間が埋まってないですよね。満月や原発事故の写真、水や魚の動画などきれいな画像が次々と大きく映し出されましたが、世界全体を変える要素にはなっていませんでした。スタジオライフ作品だと紀伊国屋ホールでも紀伊国屋サザンシアターでも感動したんだけどなー。東京芸術劇場小ホールもすごく良かった。シアターサンモールは最高でした。スタジオライフの複雑かつ繊細な耽美的世界を表現するためにはアートスフィアは大きすぎるのではないかしら・・・。
私が観たのはSerenade(A)チーム(笠原浩夫さん、曽世海児さん、山崎康一さん目当て)です。ダブルキャストですのでキャストによって感想も全然違ってくる気がします。
笠原浩夫さん(ティルト役)。安定した演技で決してはずさない。やっぱりこの人が決め手ですねー。松葉杖が倒れるハプニングもサラっと自然にこなしてくださいました。
曽世海児さん(ショナ役)。どうしちゃったのかしらと思うほどズレてましたね。いつものかっちりした演技が逆にクサくなっちゃって。ファンとしては残念な限りです。
山崎康一さん(ティルトに横恋慕するリタ役)。ひとつひとつがとても丁寧。いつもキャラクターがしっかり作られていてお上手だと思います。素敵です。
姜暢雄さん(アート役)。ルックス&人気重視ということで目玉俳優さんのようですが、私はあんまり・・・。セリフも動きも軽い気がします。
山本芳樹さん(セツ役)。なよっとした輪郭が耽美派美少年ストーリーにはまるのかもしれないですけど、私はちょっぴり苦手です。姜さんと同じような意味かもしれません。
パンフレットでも少し触れられていましたが清水玲子さんの『ジャック&エレナ』シリーズもいつか舞台化? 絶対観たい!数バージョン作られちゃったら困るだろうなー(笑)。
[原作]清水玲子 [劇作・脚本・演出]倉田淳
[出演]〈Aチーム〉[出演]笠原浩夫/及川健/姜暢雄/曽世海児/山本芳樹/奥田努/佐野考治/山崎康一/他 〈Bチーム〉[出演]伊藤高史/及川健/岩崎大/高根研一/舟見和利/小野健太郎/深山洋貴/石飛幸治/他
美術:松野潤 照明:森田三郎 舞台監督:北条孝、土門眞哉(ニケステージワークス)、倉本徹 音響:竹下亮、中田摩利子(Office my on) ヘアメイク:角田和子 衣裳:竹原典子、今村あずさ、矢作多真美 照明オペ:森川敬子、エルプス ベルント、松本大介 ムービング:(有)ライトオープン 美術助手:小野寺綾乃 映像アートディレクター:河合恭誌(VIA BO, RINK) 宣伝美術:河合恭誌、菅原加奈(VIA BO, RINK) 宣伝写真:峯村隆三 デスク:釣沢一衣、岡村和宏 制作:稲田佳雄、中川月人、赤城由美子 CUBE STAFFプロデューサー:北牧裕幸、高橋典子 制作:北里美織子 宣伝:米田律子 制作協力:RICOMOTION
Studio Life : http://www.studio-life.com/
2004年03月08日
フジテレビジョン・ホリプロ・朝日新聞社『くるみ割り人形』03/03-21東京国際フォーラム ホールC
初見です。マシュー・ボーンさんの振付・演出には『白鳥の湖』でもかなりハマりましたので期待して挑みましたが、期待以上でした。
音楽は誰もが知っているチャイコフスキーのあの名作ですが、振付とストーリーが新しいものになっています。ねずみの出てこない『くるみ割り人形』。
子供の心に戻って空を飛び、恋人と氷の上をすべり、お菓子の国で笑い踊る。マシューボーンさんの夢の中にどっぷり浸かった2時間の幸福でした。
孤児院で院長夫婦やその子供たちにいじめられながら寂しいクリスマスを迎えている孤児の少年少女たち。申し訳程度のクリスマス・プレゼントの中からナットクラッカー(くるみ割り人形)が巨大化。想いを寄せる彼にそっくりのその人形にいざなわれ、クララは孤児院を飛び出した。氷の池で楽しく踊る二人だったが、あっと驚くアクシデントで砂糖菓子の女王様に心を奪われたナットクラッカー。彼を追いかけてクララはお菓子の国へと忍び込む・・・。
バレエって苦手なんですよ、私。必ず寝ちゃいます。だけどマシュー・ボーンさんのでは寝ないです。全然退屈しないし、それどころかうきうきわくわくしっぱなし。バレエならではの技術も美しいハーモニーもあり、型にはまらない自由な振付もあり、次々とたくみに新しい感覚の魔法を繰り出してくれるんです。
衣装が素晴らしいんですよねー・・・ホゥ(ため息)。第1幕は孤児院で全員が灰色を基調とした地味なスタイルなのですが生地が良い!薄いウール地かなぁ。織りや厚みを感じられるなびき方でした。氷の池では若い恋人同士が純白のペアルックでスケートですよっ。現実ではありえない!(笑)円形スカートのすそを丸くて小さいマフで縁取っています。そのすそをわざと手で揺らして風を切っているように見せるんです。ロマンティックでキュートな刹那をありがとう。
『白鳥の湖』でも感じましたが全体の色彩感覚が独特です。全体的に明るいのですが、黒を多用していることで水色やピンク、レモンイエロー等のパステルカラーを引き締めるとともに、華麗でエスプリの効いた空気を作り出していると思います。だから大人も魅了するんですね。私としてはあの空の水色が大好き。あれをスカイブルーと呼ぶのでしょうか。晴れやかで鮮やかでナチュラルで・・・幸せを運ぶ万能の色です。
装置も凝りすぎず派手で良かったな~。わかっているとはいえ孤児院が割れた時はエキサイティングでした。孤児院の壁を両袖に残したまま、空間が開いて空が現れ、床には巨大な枕。そして氷の池で幸せのスケーティング。ピンク色の大きな口の中に入り込んだら巨大なケーキがあり、その上で小さく踊るお菓子の国の貴族たち。全編通してまるでテーマパークのアトラクションみたい!
ラストは・・・ネタバレになるので書きませんが、私はあの暗転・緞帳の降りる早さがツボでした。ああじゃないとこんなに愛すべき余韻にはならないんですよね。
終演後、早速ロビーでDVDを購入し、次回作『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』のチケットも買っちゃいました。ははは、思う壺の客です。
音楽:チャイコフスキー 演出・振付:マシュー・ボーン
翻案 マシュー.ボーン/マーティン・ダンカン 編曲 ローランド・リー 装置 アンソニー・ウォード
「くるみ割り人形」公式サイト : http://www.nut-cracker.jp/
(劇)べっちんプレゼンツ「こども連」公演『鬼ロック'04』03/03-07中野MOMO
(劇)べっちんという劇団は公演ごとに脚本・演出が変わったりするそうです。今回は女優の八日市美保さん脚本・演出ということで、八日市美保企画ユニットの“こども連”の公演だとか。私はべっちん初見です。
飼育小屋のウサギの首を切り取り続ける少年。リストカッターの少女。教師の不倫現場を撮影して脅す少年など。いわゆる非行が横行する中学校が舞台。
・・・暗い話でした。小ドラムを叩く鬼役で少し出演していた小柄な女優さんが今回の脚本・演出の八日市屋さんだったようなのですが、「あんなに可愛いのにこんなに怖いことを考えているの!?」って思っちゃいました。まさに今どきのティーンネイジャーのことを全くわかっていない大人の反応ですよね、我ながらお恥ずかしい。
美術が見た目は非常に気持ち悪いのですが、とても良く出来ているな~と関心させられました。だってあれは内臓ですよね?教室の壁が腸の壁面のようになっているんです。てかてかしたサーモンピンク色でぶよぶよ感がリアル。窓が飼育小屋によく使われる金網になっていたり、壁がぶよよんと縦に開いて出入り口になっていたり、工夫がとても効果的。演出的狙いなのでしょうが一貫して気持ち悪かった。
鬼たちの出てくるシーンの照明が赤と緑でわかりやすく殺気立っていて、それとは対照的に殺人シーンでは青と白の冷たさが美しかった。
音楽がものすごく個性的で面白かったです。選曲も八日市屋さんがなさっているようです。
決して私の好みではないのですが、舞台全体としてしっかりした作品だったように思います。
そして、これは特筆すべきことかなーと思うのですが、こんなに暗くて残酷で陰湿でイヤな話なのに私は最後までちゃんと観られたんです。終わってから考えると、おそらく役者さんのバランスの取れた演技のせいではないか、と。決まりきった演技でもなく、かといって生々しい押し付けがましさもなく。女生徒サイコ(龍田知美)の叫び声もあまりイヤな気がしませんでした。
脚本・演出:八日市屋美保
出演:東島淳一郎(べっちん) 柴田男女(べっちん) 稲垣おかず(べっちん) 矢吹ジャンプ(べっちん)八日市屋美保(べっちん) 龍田知美(東京ネジ) 佐々木香与子(東京ネジ)佐々木富貴子(東京ネジ)佐々木なふみ(東京ネジ)平野圭(ONEOR8)中島真一 明石修平(オードブル)大谷きみお 島崎諒(劇団一都六県)
staff: 舞台美術:田中敏恵 照明:榊美香((有)アイズ) 音響:井上佳代 衣装:依田由紀子(Bloom) プロジェクター操作:華房修 舞台監督:杣谷昌洋 宣伝美術:寺部智英 WEB:大里雄二 制作補助:柴田奈津子 制作:(劇)べっちん
(劇)べっちん : http://homepage3.nifty.com/becchin/index.html
2004年03月02日
らくだ工務店『ダンボール・ブルース’』02/27-29スフィアメックス
第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルのチェルフィッチュ、APEに続く3番目。
2月上旬に新宿シアターモリエールで本公演『ScHOOL』があったばかりです。
病院の屋上と隣り合わせの家のベランダが舞台。看護婦、入院患者、見舞い客。昼間から家でブラブラする若者たち。
らくだ工務店独特の暖かい空気感が薄かった気がします。『ScHOOL』の方が断然面白かったな~。やっぱり時間不足だったんじゃないかしら。それだけで完全な理由になるでしょう。だって前の公演から2週間ぐらいしかないですよね(笑)。
私は病院の設定や会話などが苦手なんです。それもあって残念ながら素直に楽しめなかったです。命に関わる経験(特に大病や死など)は、大概は忘れられない記憶になります。それを題材にするのは、おのずとお客様の実体験と向き合うことになるわけですから、病院のリアルを舞台上で表現することは非常に難しいと思います。
どこかの劇場で見たことのある美術がほぼそのまま利用されているのは、私のようなヘビー観劇人にはつらいところ。どうしても前に見たお芝居が浮かんできてしまいます。
兼島宏典さん。27歳のアルバイター役。どうしても最後には泣き出しちゃう演技がかわいかったです。
今村裕次郎さん。家のベランダで携帯で話し続ける若者役。若者不良ことばがリアルで、間がキュートでした。
作・演出:石曽根有也
出演:一法師豊 志村健一 今村裕次郎 兼島宏典 石曽根有也 瓜田尚美 山内三知 大佐藤崇(ロリータ男爵) 高塩誠(ハナウタカプセル)
舞台美術:福田暢秀 美術製作:F.A.T. STUDIO 音響:菊池秀樹 照明:三瓶栄 宣伝美術:C-FLAT 宣伝写真:NUMBERSICS/エリ 制作補助:高橋邦浩 企画制作:音光堂
らくだ公務店 : http://rakuda.onkoudo.gr.jp/
2004年03月01日
げんこつ団『大拳骨祭』02/25-29下北沢駅前劇場
げんこつ団はしのぶいちおしの女集団。超絶ブラック・コント集を次々と発表されています。
今回はベスト(傑作選)の第2段です。
相変わらずブラックで激しい下ネタ・オン・パレード。知っているネタもありましたが構成が変えられているので違う味わいでした。女性が演じていますので、際どいトピックもあくまでもネタとして楽しめます。
日本の行政機関が全て民営化されそれぞれの都道府県で独立。職(?)にあぶれたロイヤル・ファミリー(皇族ご一家)が自らを宣伝するために歌って踊る・・・というネタが私の今回の一番のお気に入りでした。
おやじヅラを被ったり着ぐるみを着たりものすごいバカを全力でやりきりつつ、ラストの出演者全員でのダンスはため息が出るほどかっこいいです。なんてイカした女たちなんだ!!
げんこつ団のメンバーさんは皆さん大好きですが、特に岡本恵実さんにいつも目が奪われます。あ、ハンサム女優の植木早苗さんは常に別格です。
伊藤美穂さん(動物電気)。笑いを狙うがゆえの真剣でこっけいな演技が的確です。瞬発力が並じゃないんだよなー。あまりの巧さに笑いではなく涙が出そうになりました。オタクキャラもすごかった。
小関ゆかりさん(SPARKO)が初めて出演されていましたが、体が大きくてスタイル良くて目立ちますね。本格的に習得されたのであろうバレエやダンスが美しかった。
げんこつ団って孤高の存在ですよね。尊敬と憧れの視線を送り続けている私に気づいて欲しいわ♪ってそういう奴こそどうでもいいんだろうな(笑)。
げんこつ団 : http://www.genkotu-dan.com/