2004年04月27日
reset-N『裸のランチ』04/15-18シアタートラム
ハードなテキストと達者な役者さん、スタイリッシュな照明・音響で洗練された空間をプロデュースしている劇団。
大ファンなので賛助会員(Support-N)になりました。
ウィリアム・S・バロウズ著『裸のランチ』というと、アメリカのビートニク文学(50年代末から70年代にかけてアメリカの若者の間で流行)で、難解な作品だということだけは聞いたことがありました。デーヴィッド・クローネンバーグ監督が映画化したのが有名ですが、私は怖がりだったので見ていません。
小説なのかエッセイなのか曖昧な作品のようで、なにしろバロウズさんご自身があらゆる覚せい剤を試した人であり、ウィリアム・テルごっこで自分の奥様を射殺とかしちゃったようなパンクな人物なのです。
『裸のランチ』の登場人物、『裸のランチ』の著者バロウズ、『裸のランチ』を上演しようとしている男(夏井さん?)、が同一舞台上に存在します。そしてそれを見ている観客、というのも最後には重なってきて、非常に構造的に複雑な作品でした。それでいてライブ感覚が極上なんですよね。
舞台はシアタートラムをほぼそのまま使っていて、内容とすごくマッチしています。舞台奥の壁のど真ん中にある搬入口(シアターコクーンにもありますよね)の真っ赤な扉がポイントですよね。
照明については、いろ~んな種類の照明器具(パトカーについている回って光るライト、じわ~っと点灯・消灯する蛍光灯など)が、それ自体が舞台装飾になるように設置されています。主張のある照明プランだったな~・・・。ホントかっこいいです。渋いです。舞台美術・照明・音響のトータルデザイン(Massigla lab.)という形なんですね。納得です。
見終わってから色んな場面が次々と思い起こされて、一体何だったのかよくわからない状態になったのですが、一つだけしっかりと体に残っていた感想は、すごく官能的だった、ということです。ストイックでクールな大人のエロティシズムでした。今思い出しても背筋から首、後頭部にかけてじ~んと来る感覚がよみがえります。
すごく共感したシーンを1つ。イスに座っている人たちが一つずつずれて移動していき、しばらくは順調に居場所の交換をしていくのですが、何かの拍子で突然一人だけ仲間はずれになります。人間はそうやって仲間を作り、同時に排除していくのだと思います。
看板女優の町田カナさん。コケティッシュでエキセントリックでセクシー。そして演技も巧い。あぁなんて美しいおみ足。めちゃくちゃカッコいい女優さんだと思います。
脚本・演出:夏井孝裕
出演:町田カナ/久保田芳之/原田紀行/平原哲/文珠康明/奥瀬繁(幻の劇団見て見て)
舞台監督:小野八着(Jet Stream) グランドデザイン:Massigla lab. (舞台美術・照明・音響のトータルデザイン) 照明協力:木藤歩(barance,inc.) 音響協力:荒木まや(ステージオフィス) 演出助手: 浅香実津夫・山本将也 宣伝写真:山本尚明 宣伝美術:鶴牧万里 company posse:篠原麻美・坂本弓子・吉川和海 制作:秋本独人 制作協力:BankART1929 酒井著作権事務所 製作:reset-N
リセット・エヌ:http://www.reset-n.org/
NANYA-SHIP+ウォーキング・スタッフ『カトル(Quatre)』04/16-25HEATER/TOPS
女優の南谷朝子さんとウォーキング・スタッフのプロデュースです。
今回はとにかく佐藤康恵さん!きれいで可愛くてスタイル抜群で、もー・・・ずーっと彼女だけを見つめてしまいました。
『楽屋』(清水邦夫 作)というお芝居を上演している劇場の“楽屋”でのお話。主役を除く3人の女優が、同じ楽屋でそれぞれの初日明けを迎えていた。どうやら上手くいかなかったようで、初日打ち上げも開かれない。1人は「もう出ない(降板する)!」と言って帰ってしまった。次の日の夕方、見知らぬ女が尋ねてきて・・・。
和田憲明さんのお芝居での役者さんは、いつもすごく生々しくてリアルに感じます。私は生っぽいのはちょっと苦手なのですが、ウォーキング・スタッフでは皆さん本当にうまいと思うんです。劇団ではないので公演ごとに出演者が変わるのですが、毎回そう感じます。何か特有の技術があるのでは??と非常に興味津々です。どうやら公演前に勉強会(オーディションも含む)を開催されているようのなので、そこに行かれればノウハウがわかるのかも。
ストーリーは、いつものウォーキング・スタッフに比べると最後がちょっと弱かった気がしますが、ここでしか味わえない手に汗握るスリリングな演技対決は、変わらないクオリティーだったと思います。脚本は『楽屋』を題材に新たに書かれたものですよね。登場人物一人一人の設定が非常にきめ細かく作られているからリアルに感じられる、というのもあると思います。
キッコ(有森成美)が突然に豹変して舞台メイクをしだしたところが私は一番好きでした。それまでは有森さんの嘘っぽい演技がしっくりこなくてイライラしちゃったりしていたのですが、それも全部計算だったのね~。
佐藤康恵さんの美しさ、可愛さにノックアウトされてしまいました。『ウィー・トーマス』@パルコ劇場で初めて拝見して、きらきら光っているお顔や体(スタイル)に感動していたんですけど、今回はそのお姿を、ほぼかぶりつき状態で堪能させていただきました。いやー・・・私は女性ですしノーマルなんですが、本当に穴が開くんじゃないだろうかと思うほど佐藤さんの体を見つめていました(笑)。だってほんっとーーーーーに、きれいなんだもん!白いレースのキャミソール姿でずーっと舞台上にいるんですよ!?男性必見ですよ、マジで。私、あんなに女性の体に見とれたことないです。
いや、演技もものすごくお上手で、私も一緒に怖くなったり怒ったり、完全に佐藤さんのペースにはまっていました。ハマる、というよりは、味方になっていたような・・・。とにかく注目の女優さんをまた見つけられました。
脚本・演出:和田憲明
出演:有森也美 佐藤康恵 植松真美 南谷朝子
照明:佐藤公穂 松村光子 音響:早川毅(ステージオフィス) 音響プラン・オペレーション:長柄篤弘(ステージオフィス) 舞台美術:塚本祐介 舞台監督:八重樫慎一 演出助手:小川いさら 小道具:四方智子 衣装:沢木祐子&安才由紀(スタイリストオフィス・バース) 特殊効果:Vanity Factory 宣伝美術:ラヴ&ピース川津 写真:アライテツヤ 制作協力:ネルケプランニング 石井光三オフィス 制作:石井久美子 松田誠 企画製作:NANYA-SHIP+ウォーキング・スタッフ
THEATER/TOPS:http://members.at.infoseek.co.jp/theatertops/
問い合わせ:(有)石井光三オフィス
2004年04月26日
トラブ6(シックス)『トラブ6の春雨』04/23-25ウエストエンドスタジオ
お友達が多く関わっているので観に行きました。解散公演です。
世界的に有名な画家マスティフ(山岡亮一)が、他人の絵を自分の絵として発表しているのではないかと目をつけたジャーナリストのホガート(勢登健雄)は、マスティフに執拗にせまるのだが尻尾をつかめない。ある日、友人の医者マッケンナ(長井教行)の病院に記憶喪失の女(金谷真由美)が運ばれてきた。実は彼女こそがマスティフのゴーストペインターだったのだ。
BAKASAWAGI(バカ騒ぎ)がキャッチフレーズになっている劇団なのですが、はじけてなかったですね。
もっとも残念だったのは、おそらく稽古場で内輪ウケしていたのであろうことがわかる間(ま)が多かったことです。笑い待ちをしているし、「こんなはずじゃないのに」という気持ちが役者さんの表情からありありと読み取れてしまいました。
棒の上に車の模型を乗っけて、その棒を持って走り回ることでカーチェイスを表現するアイデアはとても面白いですね。しかもタンゴの振付で踊りながらというのも良かった。
クラブ(なのかな?ダンスをする場所)でのクライマックスでの踊りもなかなか見所がありました。
脚本・演出:小島フェニックス
出演:勢登健雄 長井教行 山岡亮一 野崎夏世 森下あかね 武井ゆき 金谷真由美(E-Pin企画) 小島フェニックス
舞台監督:内空閑祐介(双数天使) 照明:猪俣哲史(双数天使) 音響:安達夕夏 メイク・衣装:中西瑞美 ブタ犬制作:湯田商店 映像:山下直樹 イラスト:堀江力也 宣伝美術:酒井純 制作協力:オフィス・ヒューリッド 制作:土屋省子 山田梨香 丸山ともこ 企画・製作:トラブ6
オフィス・ヒューリッド:http://www.hu-lid.com/
Ort-d.d『乱歩プレイ(防空壕・断崖・人でなしの恋・芋虫)』04/24, 25高円寺・山椿美術館
Ort-d.d(オルト・ディー・ディー。以下オルト。)は倉迫康史さんがプロデュース・演出をされる演劇プロジェクトです。
『乱歩プレイ』については先日の東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズ・フリンジ企画『so bad year』やク・ナウカ・プロデュース『ウチハソバヤジャナイ』に折込まれていたチラシがとてもかっこ良くて気になっていました。
知る人ぞ知る、隠れ家テーマパークの和風オバケ屋敷・官能アトラクション20歳未満お断り♪という感じでした。
はぁぁ・・・・堪能、です。
★fringeの荻野達也さんがこのように書かれています。(2006/02/28追記)
古い建物の中でなまめかしく繰り広げられる秘められた催し。その名も『乱歩プレイ』。いわゆるSMプレイとか制服プレイとかですねぇ(笑)、そういう意味の“プレイ”です。
入り口がすごかったです。ものすごく暗い廊下を通ると待合室に通されて、そこで“本日のメニュー”を渡されます。デカダン着物美人がひそひそ声で「外界との通信はご遠慮ください(携帯の電源を切る)」「これはあくまでもプレイございます」などと案内し、禁断の秘め事イメージは導入部分でしっかりとスイッチ・オン。
会場に入るとワインやお茶などをメイドさんにおもてなしいただいて、20畳弱の正方形の部屋の壁側にずらりと、中央を囲むようにして観客が座ると、厳かに開会の乾杯。観客は『乱歩プレイ』に参加しに集まった常連客だという設定なのです。
DMや予約完了時のメールに来場の際の注意事項があったのですが↓
“会費/2500円(お飲物お菓子付。お持ち込みも歓迎いたします。)”
“黒っぽいお召し物で御来場いただけると嬉しゅうございます。”
これらの呼びかけにきちんと応えるお客様ばかりでした。大半が黒い服装でお見えになっているし、差し入れも沢山。メイド達からの呼びかけにも進んで参加して、自分からどんどんと楽しむ、非常に酔狂なお客様が集結していました。
短編を4本上演してくださいました。その合間にクッキーやオードブルを配ってくださったり、おもてなしが本当にお上手でした。食べ物ってほんのひとかけらのクッキーでも一滴のお水でも、すごく大切なんですよね。こういうイベントの呼吸がわかっているんだろうな~。
さて、肝心のお芝居の内容ですが、とにかく俳優さんの演技が巧いんです。そこが重大なポイントであり、オルトが他の演劇団体ときっちり差別化されるところだと思います。
形式としては、一人か二人の役者さんで言葉のやりとりをし、脇に控えた楽器を演奏するメイドが色っぽい吐息とかチャチャを入れます。ちょっとポかリン記憶舎っぽい。だいたいは一人の役者さんの独白状態でしたね。なのに一人芝居に見えないのがすごい。
女優さんが皆さん本当にお美しくていやがおうにも悩殺されますね。エッチというよりは官能的、です。和服美女の大人のエロスです。贅沢ですよ。
倉迫さんは『so bad year』のツアーであまり稽古場にいられなくて、作品のほぼ半分は役者やスタッフが作ったものだとおっしゃっていましたので、構成メンバーのそれぞれの技というか、質の高さに舌を巻きます。そしてスタッフさんも役者さんも、このプロジェクトに参加しているクリエイターさん全員が成功のヴィジョンをしっかり共有されているのがわかりました。集団創作であること、演劇であること、ライブであること、観客参加型であること、エンターテイメントであること等、この作品(アミューズメント)の要素は挙げるときりがないのですが、それを造る側の人間全員によるパワーの結実がすごいのだと思います。
自分が演劇を作る側と観る側を経験して感じるのは、人間の他人同士がどちらからも歩み寄って、他の何にも代えがたい瞬間を共有することが出来れば、これほど幸せなことはないということです。演劇というのは損得なしに他人同士が触れ合う絶好のチャンスですよね。地球上の人間の大半がこれを実感して実行するようになれば、きっと戦争はなくなると思うんだけど。ちょっと安直?
終演後、気分が悪くなって倒れこむお客さんがいらっしゃいました。本当なら心配するべきところなのですが、あぁ、臨場感ある~!と思っちゃいました(笑)。あ、不謹慎ですね、すみません。それぐらい濃密な空間でした。観劇慣れしている私でも3番目のプレイぐらいから疲れてきたぐらいでした。そういう意味では4本じゃなくて3本で終わっても良かったんじゃないかとも思いますね。
私はお昼の回を拝見したのですが、これは夜観に行く方がより色っぽく楽しめたかも。シリーズ化に期待♪
原作:江戸川乱歩 構成・演出:倉迫康史(Ort-d.d)
出演:田丸こよみ・山田宏平(山の手事情社)・ 三橋麻子・岡田宗介・ 鈴木陽代(ク・ナウカ)・ 市川梢/寺内亜矢子(ク・ナウカ)・大内米治(ク・ナウカ)・安本美華(ユニークポイント)
ライティング:木藤歩 土井都希和
オルト・ディー・ディー : http://ort.m78.com/
※ただいま公式サイトリニューアル準備中。仮設サイトはこちら(2006/02/28追記)。
2004年04月24日
文学座アトリエの会『中二階な人々』04/16-29文学座アトリエ
浅野雅博さん(文学座)目当てで観に行きました。脚本を書かれている阿藤智恵さんが有名なのかな?
29歳から31歳の、宙ぶらりんな人たちのお話。
文学座アトリエに初めて伺いました。いい所にありますね~(信濃町)。
男4人女2人の計6人が共同生活をする一軒家。20歳の頃から同居しはじめて早10年。一階が女、二階が男の寝室で、その間の中二階がリビングになっている。バイトや仕事が終わったらそこに集まってビールを飲んだり楽しく雑談したり。それぞれが自分自身の将来についての漠然とした夢や不安を持っているのだが、どうやら皆すんなり前には進めていない様子だ。ある日、すごく若い女の子が突然たずねてきた・・・。
うーん・・・少女漫画にあるような設定だと思いました。例えば、本気でお兄さんのことを恋してしまった妹がいるとする。そのお兄さんが不運にも交通事故に遭い、その手術の際に血液型から本当は血がつながっていないことが判明!!・・・みたいな(笑)。仲良し男女6人組が一緒に10年も暮らしてきて、今もみんな仲良し♪なんて。私は“ありえない”と思いますね。でも、まさに少女漫画を読んでいる時の夢見心地な気分で楽しめました。
ストーリーとしては軽~いハッピーエンドだったと思うのですが、私はあんまり馴染めなかったです。ああいうのが今どきの30代前半の人たちの温度なんでしょうかね。私自身「ああ、こういう人、すっごくいっぱいいるよな~」って思いました。でも、なんだか居心地が悪かったんですよね。肯定しちゃいけないんだと私が思っているからでしょう。
私は若い人(決して若くはないのですが)のああいう有り様は好きではないです。今の仕事は自分のやりたいことではない、だからといって明確にやりたいことがあるわけでもない。プロポーズされたけど結婚はしたくない、今のままでいたい・・・等。作家さんもわかっていて書いてらっしゃるのだと思いますが、登場人物たちは本当に甘いですよね。とっても能天気です。だから“中二階”なのでしょう。
ただ、そうならざるを得ないという気持ちもよくわかるんです。高度成長期の後、物質的には何も困らない世の中で育ち、真面目で厳しい両親に育てられて教育もしっかり受けてきたが、いざ20歳を過ぎてみるとバブルが崩壊して、すっかり世の中の尺度や展望が変わってしまっていた・・・という時代を生きてきた世代なのです。真面目に生きてもバカを見そうだし、だからといって全てを捨ててはじけられる程、不真面目でもない。将来に向けて明快なビジョンを持つのはなかなか難しいと思います。
でも、それでもやっぱり最後は、その夢のような世界(男女6人の共同生活)が何らかの支障をきたして壊れ始めるところぐらいは描いて欲しかったなと私は思います。もしかすると完全にハッピーにすることによって、かえってその暗い面を際立たせたのかもしれませんが、それはちょっと深読みしすぎな気がします。
脚本の主張やストーリーは全体的にソフト過ぎて私はあまり好きではなかったのですが、等身大の人たちの等身大の喜びと哀しみが非常にピュアに描かれていたのはとても良かったと思います。私が一番好きだったのは、夜遅くに帰ってきて酔っ払ったキノシタ(山像かおり)が、ハシモト(浅野雅博)にキスしそうになるところ。うーん、こういうのってよくあるよねーっ!!って思いながら、照れつつ笑いました。
音楽はすっかり70~80年代ポップスでしたね。ユーリズミックスとか流れてびっくり。な~んか懐かしいというか恥ずかしいというか。それはそれで演出意図なのでしょうね。
役者さんは、若い女の子役(勝由美子)以外は皆さん達者な方々だなーと思います。若い女の子役は本当に“若い女の子”だったので、どんなにセリフを言い間違おうがピチピチしてて良かったな~。ほほえましかったです。
浅野雅博さん(文学座)。おばけのQ太郎ネタを話す柔らかい男ハシモト役。笑いを取る絶妙の間(ま)と嘘っぽくないボケとつっこみがすっごく面白いと思います。線が細いんだけど、セクシー。今日の夜の回の「もう、オバケさんね」はアドリブのようです(笑)。
作:阿藤智恵 演出:高瀬久男
出演:佐藤 淳・浅野雅博・石橋徹郎・粟野史浩・山像かおり・太刀川亞希・勝由美子
美術:石井強司 舞台監督:神田 真 照明:中山奈美 制作:伊藤正道 音響効果:斉藤美佐男 票券:松田みず穂 衣裳:出川淳子 宣伝デザイン:森さゆ里 イラスト:オザワミカ 大道具協力:夢工房 小道具:高津映画装飾 照明協力:ステージ・ライティング・スタッフ 音響効果協力:東京演劇音響研究所 かつら:スタジオAD ケーキ製作:八重樫伊知子
文学座 : http://www.bungakuza.com
2004年04月22日
Bunkamura『カメレオンズ・リップ』02/6-29シアターコクーン
堤真一さんと深津絵里さんを迎えてのケラリーノ・サンドロヴィッチさん(以下、ケラさん)初Bunkamura進出作品。
立見席も満員状態で沸き立つシアターコクーンでした。笑いがいっぱい、仕掛けもいっぱい。3時間は体力的につらかったですが、心から満足でした。
森の中に豪邸に住む若い男ルーファス(堤真一)は、嘘ばかりついて生きていた姉(深津絵里)に心を寄せていた。しかしその姉が失踪してしまい、数年が経った頃には彼は立派な詐欺師になっていた。ある日、姉の前夫(生瀬勝久)とその新しい妻(犬山イヌ子)が訪ねると、そこにはルーファスだけでなく使用人セルマ(深津絵里)も住んでいた。
途中休憩まで観たところで9,000円は安い!と思いました。ケラさんの演劇への妥協のないこだわりとエンターティナー精神、何よりも観客へのサービスに大感激です。
まず最初に舞台を見ると下手に家の壁がそびえ立ち、中央はその家の中庭らしき空間になっていて、庭のまわりは緑で覆われいていました。あぁ、これだけで最後まで何の変化も無くシチュエーション・コメディーになるのかな、ちょっと残念・・・などと思っていたら嬉しい誤解でした。実は下手の家は回り舞台になっていて、巨大な装置がグルっと動き、部屋が舞台中央まで開いて出て来たんです。わおっ!大胆!!
プロローグが終わると、コクーンの大きなプロセニアム・アーチ全てを覆うスクリーンに映し出されるオープニング映像が始まりました。いつものナイロン100℃クオリティーでウキウキわくわく。期待を裏切らないし、ナイロン・ファンとしては嬉しい限り。
家の中も仕掛けが多用されていて、大きな熱帯魚が泳ぐ水槽はそれだけで豪華でしたし、ポルターガイストで皿が割れるのや、犬山イヌ子さんが打たれた時に肉片が飛び散ったのもスゴかったな~。
そしてコクーンといえば水。そう、水、水、水!藤原達也さん主演『瀧の白糸』や松尾スズキさん作・演出『ニンゲン御破産』なども記憶に鮮やかですが、ほんっとーに遠慮なく、存分に水を楽しませていただきました。生瀬さんのエンドレスおしっこは強烈でしたし(笑)、最後の雨はすごく長時間で舞台全体に降っているようでしたよね。大雨の中、白いシャツを着た二人(堤&深津)がびしょぬれになりながら濃厚なキスをします。大スターが、白いシャツを着て、びしょ濡れになって、濃厚なキスを、長時間。これがファンサービスでなくて何でしょう!?どんなお客様も満足するはずです。ケラさん、すごい!したたか!!
役者さんの演技等ついて。2大キャストの堤真一さんと深津絵里さんがちょっと心もとない感じでした。私は特にファンというわけではないのであまり気にならなかったのですが、一緒に観に行った友人たち(堤&深津ファン)は「あれじゃあ堤さんじゃなくてもいいし、深津さんじゃなくてもいい役だ」という感想でした。なるほど、確かにそうかもしれません。犬山イヌコさんと山崎一さんというケラさん作品の常連さんがいたから、作品全体がケラさん色(ナイロン的)になっていたのかもしれないです。堤さんが深津さんの弟役、というのにちょっとムリがあったんじゃないかな~。なにしろ堤さんが深津さんの細い腰をグッと広い腕で抱き寄せるのがドキっとするほどカッコ良くってですねぇ・・・とても弟だなんて思えません!!はぁ~思い出しても恍惚のため息です。イイ男ってこういことなのねーっ。
余貴美子さんが、ポルターガイストにおびえつつ、庭の蛇口から火花が飛び散るのを見て「・・・きれーっ!!」と叫んだのは最高!大拍手してしまいました。
途中休憩の後、後半が始まる時の照明と映像がものすごくきれいでした。キラキラ光る映像が家の壁に映し出されて、その上から照明で色をつけていたのだろうと思うのですが、本当に本っ当に美しくて、まるで星空を眺めているような気持ちになりました。隣の友人に「ほら!きれい!!」と指差して話しかけちゃったほど(笑)。
ケラさんの作品を観る度に、ケラさんのことを好きになっている気がします。
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:堤真一、深津絵里、生瀬勝久、余 貴美子、山崎一、犬山イヌコ、木村悟 林田麻里
音楽:伊藤ヨタロウ 美術:中越司 照明:原田保 衣裳:前田文子 ビューティー・ディレクター:柘植伊佐夫 映像:上田大樹 新見文 殺陣指導:田尻茂一 川原正嗣 前田悟 演出補:福澤諭志 演出助手:山田美紀 舞台監督:青木義博 企画・製作:Bunkamura 主催:TBS Bunkamura
文化村 : http://www.bunkamura.co.jp/
2004年04月19日
三鷹市芸術文化センター+bird's-eye view『-Second Line Ver.3-girl girl boy girl boy』04/17-25三鷹市芸術文化センター 星のホール
bird's-eye view(バーズ・アイ・ビュウ)は内藤達也さんが構成・演出をするプロデュース形式のパフォーマンス集団です。
本公演とSecond Line(セカンドライン)という2種類の公演を打っていて、Second Lineは簡単に言ってしまうと短編コント集形式なのですが、今回は壮大なスケールのパフォーマンスであり、強いメッセージも伝わってきました。
ヌード写真のチラシにはびっくりしましたが、内容には関係なかったように思います。
私がバーズ・アイ・ビュウを初めて観たのは第10回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルの『シンク/SYNCHRO』@スフィアメックスでした。何もない空間の中央にかなり高さのある四角い箱状の舞台を設営し、その箱の中から役者が登場するようになっていました。そういえば彼らが普通の額縁舞台(プロセニアム・アーチ形式)で公演するのは企画公演やイベント以外では見たことがありません。今回もまた然り。(これ以降はネタバレします。)
狭い通路を通って通されたのはいつもの星のホールの面影ゼロの劇場でした。中央に正方形の舞台があり、舞台両袖からの通路(花道)と、舞台面に開いた2つの四角い穴から役者さんが登場します。
劇場全体の壁や幕は真っ黒で、舞台面は白。役者さんの衣裳もモノトーンでした。ポップでリズミカルな音楽に乗せて幕が開くと、いきなりベタなコント。きれいに着飾った若者がコンセプチュアルな設定で笑わせてくれます。(私が好きだったのは“外国語から日本語になる男女のケンカ”と“話し方がスローな、妻の浮気現場発見”)
中盤を越えた頃にとうとう本領発揮でした。舞台奥の壁は、実は黒と半透明の千鳥格子の緞帳(どんちょう)だったのです。黒い布がゆっくり上に上がると、だだっ広い真っ白の空間が現れます(普段は客席になっているところですね)。その空間の壁面は巨大なスクリーンになっていて、昨年の『campus;full』@青山円形劇場のように動画映像が映し出されました。交差点、駅のホーム、電車の中、道端の草など、私たちの日常の風景がめまぐるしく映し出される中、役者さんが歩いたり走ったり踊ったり立ち止まったり、日常的もしくは幾何学的な動きで空間を埋めていきます。
遠くで人が動いている、言葉を発している、誰かと何かをしている、それぐらいしかわからないほど役者さんが遠くにいます。広い運動場で練習する野球小僧(外野手)、サバンナの果てをゆっくり歩くキリンの影、遠い海の水平線の向こうにかすかに映る船など、そんなイメージが私の頭の中に溢れてきました(実際はそんな演技はされていません)。中でも非常に象徴的な演出だったのは、白い裸のマネキンが数体、ぽつりぽつりと置かれていったことです。外国人が片言の日本語をしゃべるアナウンスが流れる中、そこにはマネキン以外、誰もいなくなりました。私は身を乗り出してじっくり耳を傾け、目を凝らしました。と言ってもアナウンスを聞いたのではありません。そこから溢れてくるメッセージを感じたのです。
自分と他人。こことどこか。それらは存在する。それらは遠いようで近い。実は確かな関係があるのだ。
私とあなたは、今ここに居て、互いを感じている。そしてそれは真実である。
断片的ですが、そんなことを実感しました。
杉浦理史(ピエール)さんの私的なネタ(実家が名古屋の味噌・醤油工場で、自分は東京に出てきて役者をしているが、26歳になってそろそろ実家を継げと言われ始めた、等)から幕開けし、家族、友人、恋人などの身近なトピックで笑いを取っていく前半。そして緞帳が上がると、突然遠くまで広がった空間に役者が飛び出していき、何者でもない誰か(マネキン)とともに観客から遠ざかります。そして遠くと近くとが連携するコントで全体をつなげてから、終盤になると広い空間から客席の目の前の四角い舞台へと役者が駆け込んできて、他人(舞台・役者)と自分(観客)が再び接近します。非常に巧妙な構成・演出だと思います。
なんだか難しいことを書き連ねましたが、とにかくきれいだし、かっこいいし、楽しいし、笑ったし、じーんとしました。同じく三鷹芸術文化センターで上演された『パッケージ』ではラストシーンで涙がツーっと流れたんです。今回はそれとは違った意味で一つの感動を覚えました。この劇場とbird's-eye view、とっても相性が良いのではないでしょうか。
墨の黒を思わせる和風のコスチュームには、ところどころに丸くかたどる刺繍が施してあり、ちぎった和紙を貼り付けてあったりしました。生地はちりめんだそうです。道理でなめらかな動きが出ていました。緞帳とも和のテイストで合っていますよね。
もう何度も拝見しているのでbird's-eye viewの皆さんのことは一人ずつが独立したパフォーマーさんとして認識し始めています。彼らがコツコツと稽古場で創ってきたものがbird's-eye viewならではの空間で結実する、そのリアルを体験するのは嬉しいことだと思います。
青山千洋さん(演劇集団キャラメルボックス)。うっとり見とれてしまうほどの和風美人。艶やかに色っぽい。静止するのが面白いしきれい。実は天然ボケですよね(笑)。
構成+演出:内藤達也
出演:杉浦理史 小野ゆたか 諌山幸治 宮本拓也 日栄洋祐 松下好 近藤美月 山中郁 中村早千水 石橋志保 小林至(双数姉妹) 櫻井智也(MCR) 桑原裕子(KAKUTA) 青山千洋(演劇集団キャラメルボックス)
舞台美術/秋山光洋 照明/榊美香(I's) 音響/島貫聡 映像/ナツキ(DEMODEX) 舞台監督/藤林美樹 コスチューム/佐野智恵子 ヘア・メイク/大内真智 モデル/小春 宣伝美術/草野リカ(alon) 写真/おさないようじ 演出助手/明石修平 制作協力/ゼクシード 制作/保田佳緒 熱海静恵 眞覚香那子 主催/(財)三鷹市芸術文化振興財団
バーズ・アイ・ビュウ:http://www.b-ev.net/
2004年04月18日
サッカリンサーカス『南国熱帯蝶々挽歌 ナツノユメチャンチキツキヨ』04/16-25新宿サンモールスタジオ
サッカリンサーカスは伊地知ナナコさんが作・演出をする早稲田大学系の劇団です。
笑いと毒が盛り込まれたストーリーに、歌や踊りがいっぱい。若さみなぎる作品、というイメージです。
舞台はアジアのどこか、南国熱帯雨林に囲まれた村。男は30歳になると「男の夢を食べて走る」女夢魔の住む島へと消えてゆく。夢を失った一人の男がその島に訪れたことをきっかけに、秘められた“祭り”の謎が解き明かされていく・・・。
サンモールスタジオの客席のひな壇を取り払って空間全体を使った大掛かりな舞台装置でした。観客は舞台上の暗い通路を通って席に着くので、最初から熱帯雨林のムード満点です。深い森の緑を思わせる巨大なカーテン(幕)を上下させて場面転換するのは圧巻でした。ただ、美術を使う凝りに凝った演出があまりうまく運んでいない様子でした。初日だったからでしょうね、残念です。
これで終わるのか?と驚くほど、暗い話でしたね~。島の祭りの秘密があんなに物騒なものだとわかってからは、どんどんと悲壮な空気が流れ始め、女夢魔“蝶々”の正体が明かされる頃にはどろどろしたアングラっぽい香りが立ち込めていました。そういえば前作『オクスリオペラ』でもラストに向かうに従って暗い感じになり、隠されていた目を覆うような真実が明かされるという顛末だった気がします。それなのに、最後にパーっと踊るのが爽快です。若さってすごい。
“蝶々/カリョウ”(今里真)が話す言葉がとてもきれいでした。ああいうセリフは非常に女性作家っぽいと思います。
夢を失った男(酒井和哉)の“血塗られた”過去をほのめかす程度にしてあったのが良かったです。
船頭のリン(内藤綾子)が弱かったです。設定上はおそらくヒロインになるようですが、何が原因なのかはよくわからないけど、ずっと脇のままでした。
小谷心平さん。最後に夢占いで島に連れて行かれることになった男の弟、ロウ役。純粋無垢でおバカなキャラクターを最初から最後まできっちりと演じきっていらっしゃいました。目がきれい。
作・演出:伊地知ナナコ
出演:今里真 宇田川千珠子 小谷心平 内藤綾子 酒井和哉 森野温子 堀口茉純 魚住和伸(激弾スペースノイド) 甲斐大介(激弾スペースノイド) 永野麻由美(Rel-ay) 船串奈津子(絶対安全ピン) 小島綾乃(早稲田大学演劇倶楽部)
舞台監督:杣谷昌洋 照明:工藤雅弘 音響:宮坂佳奈 衣装:鈴木美和子 美術:加藤真由子 宣伝美術:クワタナオえ 小道具:吉村紀美子 企画制作:香西章子(サッカリンサービス) 水落智彦(サッカリンサービス) 吉田直美(サンモールスタジオ)
制作協力:早川あゆ プロデューサー:佐山泰三(サンモールスタジオ)
サッカリンサーカス:http://www.h3.dion.ne.jp/~saccarin/
2004年04月17日
青山円形劇場プロデュース『LYNKS-リンクス-』4/1-17青山円形劇場
鈴木勝秀さんが構成・演出するお芝居です。鈴勝(スズカツ・suzukatz.)というのがニックネームのようですね。
佐藤アツヒロさんはすっかり舞台の人になられましたね。元・光GENJIというイメージもそろそろ不要なほど。
ある若い男オガワ(佐藤アツヒロ)の部屋。彼は覚せい剤中毒で、売人(伊藤ヨタロウ)から薬を買う毎日。ある日、自分の家に見知らぬ長身の男エンドウ(橋本さとし)がやってきて、同居生活が始まる。薬からの更生を勧める職業安定所職員(鈴木浩介)と薬物更生クリニックの所長(佐藤誓)がオガワの部屋を訪れるが、彼は全く言うことを聞かない。
ストーリーは一応ありますが、あまり重要じゃなかったです。鈴木さんが「脚本ではなく構成」とおっしゃるのがよくわかります。全てモノトーンで統一された円形の空間に、静かに点るように現れる一人の男の暗くて孤独な内面世界。笑いも楽しいアイデアも沢山ちりばめられています。
鈴木勝秀さんの演出作品は同じく青山円形劇場での『欲望という名の電車』を拝見しましたが、確かに鈴木さんのおっしゃるように“鈴勝(スズカツ)”色が全面に表れた感じでした。最近だと大竹しのぶ一人舞台『POP?』もそうですよね。全く違う作品なのに共通する何かが感じられます。
聞きなれたロック・ミュージック(など)が惜しみなく流れるのは、『欲望・・・』では私はあまり好きではなかったんですけれど、慣れるとすごく心地よく感じますね。素直にかっこいいと思いますし、知っている曲が流れると親近感を覚えます。それが狙いなのかもしれません。
衣裳(尾崎由佳子)が良かったな~・・・。生地やデザイン、小物がすっごくおしゃれで見とれてしまいました。作られたのか買ってここられたのかわかりませんが、とにかく上質でスタイリッシュで遊び心もあってカッコいいんです。こういう服をさらりと着てくれる男性にホレるね。
橋本さとしさん(背の高い男)が面白すぎて、笑いすぎて、涙が出てきて、むせてしまいました。物語の行く末がさっぱり見当もつかなくなるほど爆発力のある、とっぴなギャグが凄いです。何を考えて生きてるの!?と聞きたくなっちゃう(笑)。帝国劇場の『ミス・サイゴン』も、橋本さんの回を取ればよかったかも!?ってちょっと後悔するぐらい。
パンフレットに鈴勝さんと役者さんとの対談がたっぷり載っていて面白いです。作品の意図や世界観が、これを読んでやっとわかる感じです。
「基本的にデュシャンやウォーホール好きの僕は<作りかえること>に興味があるのだと理解している。オリジナリティの追求よりもコピーしたり言葉をコレクションし続けることが楽しいのだ。」(パンフレットより抜粋)
LYNKSは絶滅寸前の動物「オオヤマネコ」の学術名です。
構成・演出:鈴木勝秀
出演:佐藤アツヒロ 橋本さとし 伊藤ヨタロウ 佐藤誓 鈴木浩介
照明:倉本泰史(エアー・パワー・サプライ) 音響:井上正弘(オフィス新音) 美術:石井みほ 衣裳:尾崎由佳子 舞台監督:安田美和子 演出助手:阿部洋平 宣伝美術:鳥井和昌 制作助手:坂本恵美 制作:大島尚子(こどもの城劇場事業本部)
青山円形劇場内:http://www.aoyama.org/japanese/schedule/s2004/enkei/4lynx/lynx.html
2004年04月15日
明治大学演劇学専攻二年主催・新入生歓迎公演『岸田國士オムニバス集「日本の女」』4/14-16キッドアイラックホール
お友達が関わっているのでお邪魔しました。
大学のクラスの発表会を外小屋でやるなんてすごいですね。
岸田國士(きしだ・くにお)さんというと、演劇界では戯曲賞もあるぐらい有名な劇作家です。私は宮田慶子さん演出の『紙風船』を拝見したことがあるだけで、今回が2度目でした。
普通の人々の日常の会話劇が3篇。セリフは本当に一言一言味わい深くて、岸田さんの戯曲をぜひ自分でも読みたいと思いました。
大学2年生というと19歳とか20歳ですよね。きっと学科で勉強されたのでしょうが、よくこんな難しい作品に挑戦する気になったよなーと思いました。演劇学科の生徒が有志でやるなんて、真面目だし立派だなーと思います。
また、発表会とは思えない規模でした。美術、照明、音響、衣裳、映像、宣伝・・・普通の演劇公演でしたね。アフタートークで先生(教授?)が出てきて、作品を褒め殺ししちゃったのは残念でしたが、すごいことだと思います。こんな生徒に出会えて、幸せな先生だなー。
作品については私は楽しめなかったのですが、このようなイベントが実現していることに意義があると思います。私自身、岸田國士さんに興味も持たせていただきました。明治大学演劇専攻の学生さんたちの将来に期待したいです。
作:岸田國士 演出・舞台監督・照明プラン・宣伝美術:谷賢一 出演:演劇学専攻二年生有志
上演作品:『驟雨』『葉桜』『空の赤きを見て』(いずれも岸田國士作)
公演サイト:http://www.playnote.net/archives/000095.html
tpt『アントン・チェーホフ四幕喜劇 かもめ』03/25-4/11ベニサン・ピット
木内宏昌さん(劇団青空美人 主宰)が新たに脚色した(違いはわかりませんでしたが)脚本を使って、熊林弘高さんが演出するtptの『かもめ』です。なにしろチェーホフの『かもめ』ですから期待も高まるわけで。
残念ながら私は面白みを感じられませんでした。
私は『かもめ』という世紀の大傑作をちょっぴり趣向を変えてやるなんて、必要ないと思います。誰が何度やっても新しい『かもめ』になるのですから、奇をてらうことはないのです。どうせ実験的にやるならク・ナウカ・プロデュース『かもめ第2章』ぐらい大胆にやらないと。アイデア勝負に持ち込むなんて危険だと思います。勇気があるとも言えますが、tptでこの座組みでやるネタではないと思います。
まず、舞台が真っ黒でした。つやのあるピカピカの床に客席が組まれて、そのまま舞台とつながるイメージで同じく真っ黒な舞台面、壁、ドア、幕。そこに赤い豪華なカーテンと上から吊られる同じく赤い布が鮮やかです。美術を担当されたグレタ・クネオさんが「漆黒の舞台」とパンフレットで書かれていましたが、シンプルというよりは安直ではないかと思います。さまざまな黒(ぴかぴかの黒、シックな黒、木の黒など)を多用していると言えど、黒であることには変わりないです。それほどバリエーションがあるようには感じられませんでした。
舞台奥の中央に透明の壁とドアで中が丸見えのトレープレフ(藤沢大悟)の部屋があり、そこにはピアノが置いてあって、ピアノを弾いたりもの書きをするトレープレフの姿がずーっと見えています。トレープレフが頑張っている姿が観客にアピールされ続けるわけですけれど、逆効果だと思います。トレープレフの苦悩が実際に目には見えていないからこそ、観客は最後に深く思い知らされるのです。それに椅子を机代わりに膝立ちでものを書いてるなんて、かっこ悪いです。そんなので長時間執筆なんて出来そうにないし。
ピアノの音が不快でした。同じ曲を何度も流すのは良くないです。トレープレフが全く弾いていないのが顕著にわかりますし。これもピアノの部屋を丸見えにしていることの弊害ですよね。
衣装(原まさみ)も完全に美術とシンクロする形ですね。1,2幕は全員白に統一。そして3,4幕では黒装束。トレープレフは白いシャツとズボンで全幕通します。マーシャ(中川安奈)も自動的に全幕通して黒装束になるのは、ある意味ではストーリーに沿っているとも取れますが、アイデア止まりだと思います。初歩的な不整合として、トレープレフの衣装が同じままで長い金髪にも変化がないので、時間の経過が感じられませんでした。彼を時間を超越した存在として描くのが目的だったのならば、役者さんが役不足だったと言わざるを得ないと思います。
前述の通り、美術も衣装も演出も完全にトレープレフ(藤沢大悟)中心で描かれたのですが、そのトレープレフが弱すぎます。語尾がいつも同じニュアンスになるのが耳障りです。いかにも舞台役者の新人さん、という感じ。大変残念です。新人を育てるということも大切なことですが、それならば演出を変えるという方向があっても良かったのではないでしょうか。
また、二人のヒロイン(アルカージナとニーナ)をとりこにする若手小説家トリゴーリン(木村健三)も甘かったと思います。まず声が小さくて篭っていてセリフが伝わってこないのですから、問題外とも言えます。
喜劇であることにこだわりを持って演出(熊林弘高)されたようですが、私が心でひそかにクスっとできたのは、冴えない教師のメドベジェンコ(深貝大輔)だけだったように思います。彼が何か口を開くたびに期待しましたし、期待以上の言葉と表情をくださいました。
アルカージナ(佐藤オリエ)の演技で結構笑いが起こっていたようでしたが、私は一度も笑えませんでした。アルカージナについてはセリフをしゃべっていない時の演技の方が細かいし、心もこもっていて良かったと思います。
執事のシャムラーエフ(花王おさむ)は一生懸命なのが痛々しくって面白かったです。私が今まで見た中で一番リアルな“執事”だった気がしました。
演出で良かったのは、トリゴーリン(木村健三)とニーナ(郡山冬果)がモスクワでの再会を約束した後、第3幕から第4幕への転換で赤い布が下手から上手へとゆっくり移動し、時間の経過を表現したところです。あれは斬新だしシンプルで美しかったと思います。
郡山冬果さん。ニーナ役。がさつで全く魅力の感じられない少女として登場してきて驚いたのですが(トレープレフとの恋愛を全く感じなかった)、最後にトレープレフと話すシーンで、その力を見せつけてくださいました。「私はかもめ、いいえ、そうじゃない」というセリフの繰り返しがあるのですが、わざとらしく感じなかったのは郡山さんが初めてかもしれません。
staff 作/アントン・チェーホフ new version/木内宏昌 演出/熊林弘高
美術/グレタ・クネオ 照明/笠原俊幸 音響/長野朋美 衣裳/原まさみ ヘア&メイクアップ/鎌田直樹 舞台監督/萬寳浩男
cast アルカージナ/佐藤オリエ ニーナ/郡山冬果 トレープレフ/藤沢大悟 トリゴーリン/木村健三 ソーリン/安原義人 ドールン/中嶋しゅう メドベジェンコ/深貝大輔 シャムラーエフ/花王おさむ ヤーコフ/桑原勝行 ポリーナ/花山佳子 マーシャ/中川安奈
tpt : http://www.tpt.co.jp/
チャリT企画『ドウニモタマラナイ』4/14-18早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ』
チャリT企画は早稲田大学演劇研究会のアンサンブル(内部劇団)で、chari-T(楢原拓)さんが作・演出をする劇団です。私は初見で、劇研アトリエに初めて行きました。
今年のパルテノン多摩演劇フェスティバルにも出場します(4/23 19:00開演)。
とある駅前の道端が舞台。自衛隊のイラク撤退を求める署名集めをしているヤマンバ女子高生、待ち合わせをしているのに一向に会えないOLらしき女2人、ギター1本で尾崎豊を歌っている音痴の若者、サークルの新歓コンパの集合を一人待ち続けている大学生、カラオケ屋の勧誘、自転車を大量に運んでくる謎のサラリーマンなど、さまざまな人々が行き交います。そこに少しずつ異変が起きて・・・。
1時間弱で終わるコンセプチュアルな作品でした。役者さんが何度も何度も着替えて多くの人々の往来を表現していますが、全員が携帯電話を持っているのが象徴的です。何もなかった道にどんどんと放置自転車が増えていくことや、女子高生をDVDデッキだと思って操作する家族が出てきたのはすごかったです。リモコン操作をしたりDVDソフトを入れようとしたりして、最後に電源を切ると彼女がフリーズしたのも面白かったなぁ。
他人を思いやる心のない人、自分自身のことを自覚しない人、他人との係わり合いを拒否する人、自分の目先の楽しみにしか興味のない人、ゴミを放置する人、ロボット化する人・・・現代の人間のありのままの姿を、人格のない通行人を通して描いているのにとても好感が持てました。宇宙人(?)が出てくるのには未来と夢が感じられました。幕切れはあくまでもブラックに、ということだと思います。
時事ネタを扱うのが常のようで、イラク情勢もからんで初日と千秋楽では内容が変わっている可能性もあるそうです。そういう姿勢の劇団が大学構内で活動しているのはステキだなーと思います。
ただ、アイデア勝負というか、批判的な考えを提示するにとどまっているので、もう一歩欲しいなと思いました。また、会場ではたくさん笑いが起きていましたが私はほぼ笑えなかったです。笑えなくてもいいと思いますしね。気持ちよく観させて頂きました。
構成・演出/chari-T
出演/吉本菜穂子・松本大卒・山本和香子・内山奈々・伊藤伸太朗・高見靖二・楢原拓・千葉淳・熊野善啓・鴫山知広・恩田和典
音楽/ヨダケンイチ 照明/伊藤孝 音響効果/佐藤春平 (Sound Cube) 小道具/清水克晋(SEEMS) 音響スタッフ/高橋秀雄・上野雅(SoundCube) 宣伝美術/BLOCKBUSTER スチール/金丸圭 ビデオ撮影/柴山一人(Y.P.K) 音響操作/赤津光生 照明操作/三浦英幸 スライドCG・WEB/楢原 拓 舞台装置/S二 舞台監督/甲賀 亮 制作/田中有希子
チャリT企画:http://www.chari-t.com/
2004年04月14日
こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』04/02-29紀伊国屋サザンシアター
こまつ座は井上ひさしさんの作品を上演するプロデュース形式の演劇団体です。
2002年の初演は、読売演劇大賞最優秀作品賞、紀伊国屋演劇賞個人賞・読売演劇大賞最優秀女優賞・朝日舞台芸術賞(大竹しのぶ)、読売演劇大賞最優秀男優賞(木場勝己)、毎日芸術賞・鶴屋南北戯曲賞(井上ひさし)、という数々の賞に輝いています。
先日、森光子さんが菊田一夫演劇賞劇賞特別賞を受賞されたされた『放浪記』(1700回を超える上演)は林芙美子さんの若かりし頃から描いた作品ですが、この『太鼓たたいて笛ふいて』は林さんが売れっ子小説家になった後から始まります。
「戦さは儲かるという物語」に乗っかって従軍作家となり、戦争を宣伝する作品を発表していた芙美子だったが、さまざまな戦場での従軍経験から徐々に考えが変わっていく。敗戦直前の昭和20年になると「太鼓たたいて笛ふいてお広目屋よろしくふれてまわっていた物語が、はっきりウソッパチだとわかった」芙美子は「こうなったらキレイに敗けるしかない」と言うようになる。
オープニングがいつもより硬かったのですが、それは東京公演初日だったからかしら。どんどんとこまつ座ワールドにどっぷり。そして涙たっぷり。戦中・戦後を命がけで走りぬいた一人の日本人女性の生き様が、童話のように綴られる音楽劇です。ストーリー、セリフ、歌、音楽、そして演出など全てが極上。今ここでこの作品に触れられている自分の幸運を感謝したいです。小・中学校で伝統芸能鑑賞会などがありますが、こまつ座観劇もそれに入れればいいのではないでしょうか。
こまつ座おなじみの劇中歌は楽しいし、優しいし、美しいし、歌というものがこの世界に存在する理由を教えてくれるかのようです。
『椰子の実』の朗読(大竹しのぶさんによる)だけでなぜ涙が溢れるのでしょうか。後で歌になって再び流れた時は、木田勝己さんが明るく歌うのを聞いて自分も思わず口ずさみそうになりました。途中から替え歌になったのでそんなはた迷惑は掛けずに済みましたが(笑)、そんな気持ちにさせてくれるライブ感覚なのです。
『ひとりじゃない』は名曲ですね。宇野誠一郎さんの作曲で井上さんの詩がすばらしい。そりゃー子供も元気になります。私が客席でおいおい泣けるぐらいだから。
『滅びるにはこの日本、あまりにすばらしすぎる』ではひたむきな憂国の想いを込めて日本の美しさを歌いあげられます。私はその情景を思い浮かべつつ、大竹さんと神野さんの美しい二重唱のハーモニーに体をゆだね、これまた涙が止まりません。
大竹しのぶさんが「伝われ!」と体中で祈るように演じてらっしゃるのが伝わってきました。はい。伝わってます。私はあなたを感じています。な~んて、涙をこらえることも忘れて彼女に魅入っていました。松本きょうじさん、阿南健治さんが出てきておどける姿にも涙。他の出演者やスタッフさんについても同じです。全身全霊でこの作品を伝えようとしている底なしの優しさに、思い出すだけでまた、涙。
※セリフや曲名は、『太鼓たたいて笛ふいて』井上ひさし著 新潮社 1300円(税別)ISBN4-10-302327-9 C0093 より引用しています。
作:井上ひさし 演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ、木場勝己、梅沢昌代、松本きょうじ、阿南健治、神野三鈴、朴勝哲(ピアノ演奏)声の出演:辻萬長
音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:斉藤美佐男 衣裳:宮本宣子 振付:西 祐子 歌唱指導:宮本貞子 宣伝美術:和田誠 演出助手:大江祥彦 舞台監督:増田裕幸 制作:井上都、高林真一、谷口泰寛 ヘアー:林裕子 スタジオAD
紀伊国屋ブルテンボード:http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/hall.html
こまつ座内:http://www.komatsuza.co.jp/kouen_kako/chirashi/taiko_s.html
ペンギンプルペイルパイルズ『スマイル・ザ・スマッシャー』4/7-14ザ・スズナリ
ペンギンプルペイルパイルズは、今最も注目されている若手劇作・演出家と言っても過言ではない、昨年度の岸田國士戯曲賞を受賞した倉持祐さんが作・演出をする劇団です。
視覚的ナンセンスな空間でちょっと大げさめで生々しい動きをするヘンな登場人物が倉持さんの不可解なテキストとからみあい、不気味とも言える独特の世界を形作ります。しかし作品全体からは一貫した強いメッセージが感じられるという、非常に高度なテクニックが実現しているお芝居だと思います。
架空の街。何かの勲章をもらった男とその妻は、特別に区民集会所に住まわせてもらっている。というのも、町全体の建物をどんどんと壊して新しいものに建て替えるという街の方針のため、住む家がないからだ。その夫婦の息子は高台にある病院に入院していて、毎日男は見舞いに行っている。二人の前にに奇妙な男が現れて・・・。
「時間は未来には進むけれど、過去には行かない。時間は一方通行である。決して後戻りできない。」この考え方には私は賛成、というか、納得です。それが人間や他の動物、植物など生命に与えられた神様の恵みであるように思えてなりません。
「時間は決して戻らない。だから、後悔しても仕方がない。やりたいと思うなら、まずやってみろ。」そう、倉持さんがおっしゃっている気がしました。
階段は、登ってみろ。決闘も、やってみろ。やりたいなら自分からやらなきゃ。
舞台には、幻想なのか現実なのかわからない曖昧な空間が、エッシャーのだまし絵的リアルさと遊び心で表現されます。
ほぼ明転のまま区民集会所のロビーと病院の待合室が入れ替わるのは、とても楽しいし上手い場面転換だと思います。こういうのを見せてもらうと、舞台は無限の可能性がある創造空間だと感じられてすごく面白いです。
照明で集会所と病院の区別をつけているのですが、それが非常に繊細でよかった。黄色い壁に緑の照明がうっすらと照らしつけるのは不気味でいいですね。
音楽はいつものSAKEROCKさんのオリジナル曲のようですが、民族音楽チックでちょっとヘンなリズムとメロディーが、不思議な世界に入りやすくしています。また、音(音響)が全くない時にも何かざわざわした感覚が舞台を支配しているのは、倉持さんの演出の特徴だと思います。
窓の上からもくもくと煙が噴出して床におち、その煙の中から男(小林高鹿)が登場するのは最高です。
壁から手が出てきたりベンチの隙間にゴロンと人が消える、へっぽこイリュージョンに心踊りました。
小林高鹿さん。不気味なセールスマン役。めちゃくちゃセクシーでした。初めてこんなに見とれてしまった。怪奇な人物を男の色香ばつぐんに見せ切ってくださいました。
ぼくもとさきこさん。黒い服の少女役。演技派なんだってことを改めて実感しました。いるだけで存在の面白さが香り立つ方だと思っていましたが、演技も素晴らしかった。長髪で良かったです。
作・演出:倉持祐
出演:小林高鹿 ぼくもとさきこ 玉置孝匡 松竹生 笹木泉 水谷菜穂子 山本大介
舞台監督:山本修司 橋本加奈子 照明:岡村潔 舞台美術:中根聡子 演出助手:水野愛 宣伝美術:岡屋出海 人形製作:イトウソノコ 宣伝写真:引地信彦 音楽:SAKEROCK 衣裳協力:田中美和子 ヘアメイク高橋素子 制作:渡部音子 土井さや佳
ペンギンプルペイルパイルズ:http://www.penguinppp.com
2004年04月11日
新作オペラ世界初演『Jr.バタフライ』4/6, 8, 10東京文化会館
島田雅彦さんの台本でプッチーニ『蝶々夫人』の続編であること、出演者に佐藤成宏さんと佐藤しのぶさん、そしてなんといってもあのチラシのタイトル・ロゴに惹かれてチケットを取りました。
20分の休憩を2度挟んでおよそ3時間半。予想外の演出に疲労困憊しました・・・。
プッチーニが今から100年前に作曲した、日本を舞台にした日本人主役のオペラ『蝶々夫人』は、芸者の蝶々さんとアメリカ軍人ピンカートンの、涙なくしては観られない極上の悲恋の物語です。そしてこの『Jr.バタフライ』は、二人の間に生まれたピンカートンJr.とその恋人ナオミの、これまた日本を舞台にした日本人主役の悲恋の物語であり、世界大戦時の日本の歴史をあざやかに描きだしていました。
音楽について。台本:島田雅彦、作曲:三枝成彰コンビで1997年初演の『忠臣蔵』と同じく、やっぱり私は三枝さんの音楽が苦手です。三枝さんはワーグナーを目指しているとのことですので、そりゃ私にはムリでした。全く予想のつかない展開(ワーグナーのそれ)かと思いきや、NHKのドラマでよく流れてそうなめちゃくちゃわかりやすい演歌のようなフレーズも多数表れます。遊び心とはいえアメリカ国歌のメロディーが流れるのは好きではないし、とにかく私の好みじゃない!・・・ということに尽きますね。
脚本はさすがは島田雅彦さん、美しいうっとりするような言葉がたくさんありましたし、“詩人”(歌わずに日本語そのままで話す役)のセリフは胸に突き刺さります。パンフレットにも書かれていますが、あまり世界に知られていないあの戦争の真実を伝えるという意図も込められていたようです。アメリカが経済制裁をしたために日本が戦争を始めざるを得なくなったこと、真珠湾攻撃をアメリカは既に知っていたのに日本にそのままやらせたこと、そして原子力爆弾の驚異的な破壊力・・・。
さて、肝心の歌について。私の大好きなテノールの佐藤成宏さんとソプラノの佐藤しのぶさんについての感想を存分に書きたいと思っていたのですが、全てはあの原爆の演出で吹っ飛んでしまいました。私はあれほど露骨な原爆投下およびその後の焼け野原の舞台演出を見たことがありません。日本人に、あれは出来ないんじゃないかな・・・照明、音響、美術、演出が全てイタリア人だから、あんな表現が実現してしまったのではないでしょうか。
演出のダニレレ・アバドさんのインタビューに「ここではあくまで長崎の歴史、原爆のイメージというものが舞台のイメージになっています」というお言葉がありましたように、まさに、原爆でした。実際に原爆の爆発を捕らえている記録映像がスクリーンと舞台面に映し出され、赤い照明などと組み合わさって、リアルで衝撃的な爆発シーンが長々と繰り広げられます。爆発後の一面の焼け野原の演出も露骨でした。東京文化会館の舞台奥の壁をむき出しにしたのです。軍服やもんぺ姿だった人々は全員上半身はだかになり焼け野原に立ち尽くします。斜め低くから舞台を照らす白い照明も美しく、残酷でした。死んでしまった人々の人形が天井からぶら下がってきた時は目を覆いました。そこに荘厳なオーケストラの音楽・・・完璧です。生っぽくなく、グロテスクにならずにきちんと形式美で表現できていて、さすがだなーと思いました。演出家さんや照明家、美術家さんたちに「ぜひ見たほうがいいですよ」とお薦めしたくなるぐらいリアルな演劇的爆発シーンだったと思います。でも・・・これが伝えたいことなのですか?
あの爆発シーンおよびその後の展開で『蝶々夫人』の長崎のイメージが完全に消えてしまいました。実際に原爆で全て焼けてしまっているはずだとは言え、『蝶々夫人』の続編だというのにその母体を消してしまうなんて、不条理というかポップというか、冒険ですよね。やんちゃすぎないかな?三枝さんが「日本以外でこの作品が上演され、より日本についての理解が深まると良い」というような意味のことをとおっしゃっていますが、上演されるでしょうか?こんなにつらい作品が。歌よりも音楽よりも、心に残ったのは戦争です。それが目的だったなら大成功ですね。
『Jr.バタフライ』というタイトルのロゴのデザインがすばらしいと思います。モノトーンでごくシンプルな印象ですが、和と洋、昔と今の対比が鮮やかにコラージュされています。よかったら公演専用サイトでご覧になってみてください。デザインは浅葉克己デザイン室(間宮息吹・柏木美江)。
パンフレットや雑誌で三枝さんが、このオペラにどれだけのお金と時間がかかっているのかを赤裸々に語られているのがとても興味深いです。例:東京文化会館を15日間借りて3回しか上演しない。チケット収入額の6倍以上の予算で成り立っている(協賛企業のおかげで)。のべ360人もの人間が関わっている。徹夜は300日にもなった、等。
台本:島田雅彦 作曲:三枝成彰 演出:ダニレレ・アバド
出演:佐藤成宏 佐藤しのぶ 他
主催:毎日新聞社・東京放送・メイ・コーポレーション
三枝成彰オフィシャルサイト(音楽付き):http://www.saegusa-s.co.jp/
2004年04月10日
扉座『曲がり角の悲劇』4/10-18シアターサンモール
扉座の第32回公演です。横内謙介さんの脚本が好きなので、気づくと必ず観ています。
私はそもそも所属女優の判 美奈子さんのファンで扉座に通っていたのですが、幸か不幸か、判さんは今度始まるTVドラマ(昼ドラ)にレギュラー出演されるようなのです。扉座にはしばらく出られないのかしら・・・(泣)。
海のない国と海の有る国の戦争。運命のせいなのか、自分のせいなのか、どんどんと人生を狂わせて行く一人の兵士の正統派悲劇でした。シェイクスピアの『ハムレット』に似ているところもあると思います。
パンフレットで横内さんもおっしゃっているように悲しい青春ドラマというか、“青い”話だと言えます。でも私は素直に感動しました。以下、ネタバレします。
やることなすこと裏目に出て、その魔のスパイラルから脱け出せない主人公ナギ。傍から見てると「そこで気づけよ!」って言いたくなるのですが、人間は一度思い込んだらなかなか止まれないんですよね。そしてますますドツボにはまります。そんなマルキ・ド・サドの短編を思わせるような皮肉に皮肉を重ねる展開の後、全ては一番最初の思い違いのせいだった、というところに行き着きます(ナギの優しい“目”を見て恐ろしくなった敵国の戦士カゼは、ナギを殺せなかった。けれどもナギは、カゼが自分を見逃してくれたのだと勘違いする。)主人公ナギの行動をことごとく歯がゆく思いながら、最後には泣かされてしまいました。
この作品から私が感じ取ったのは、ルールを破ってはいけないということです。戦争の時には戦争のルールがあるし、人道が通る平和の中には人道的なルールがあります。ナギはそれを間違い続けたんじゃないでしょうか。今、イラクで起こっていること(日本の民間人拉致)も否応なしに頭に浮かんできます。自分が置かれている世界のルールを知り、正しい判断をしなければなりませんね。
果たして人間の人生は既に全て運命で決まっているのか、それとも自分の意志の力で望むような人生に変えることができるのか。誰もが一度は迷う命題ですよね。私は、全ては自分の意志の力で起こるのだけれど、起こった後に、全て運命と呼ばれるようになるのだと思います。つまり“時間”が握っているというか、時間こそ運命、というのかな。この年になって感じていることです。
ナギが、人を殺せない優しい男から人を殺せる男に変身するシーンの演出(茅野イサム)が、わかりやすくて良かったです。あそこでじっくり見せて下さったから、後半のナギの狂った行動も受け入れられました。
剣で切り合う時代の戦争ものですので、戦闘シーンが見せ場として何度もあるのですが、どうも殺陣がにぶい気がします。舞台上を所狭しと大勢で激しく動きまわっているのですが、魅せられないんです。単に下手なのかなー。最近は殺陣やアクションが上手い劇団が多いですから、私も目が肥えちゃったのかも。
乞食の人数がすごく多くて、衣装もメイクも動きも「これでもか!」と荒い鼻息が聞こえてくるぐらい、汚いし下品なんです。「乞食」というのはその名前だけで十分観客には伝わりますから、あんなに大げさに生々しく作る必要はないと思います。でもこれは扉座の作品の特徴でもあるんですよね。ちょっとHでちょっと下品で、大衆向けというか。あと、早口で怒鳴るように叫ぶセリフは聞きづらいです。実際、何を言っているのかわからないことが多かったです。
音楽にヴォーカルのある曲がかかるのも扉座ではよくありますよね。今回も一番メインの大事件が起こるシーンで歌い上げるようなヴォーカル曲でした。う~ん・・・ちょっと気が散りました。全く合っていないわけじゃないんですが、物語に関係のないことが頭に入ってきてしまう気がします。
役者さんについては、舞台に上がる人数が多すぎる気がしました。劇団として活動しているから、そうなることは理解できるのですが、やっぱりちょっと絵になりづらいところもあるのではないでしょうか。
山中たかシさん。主役の戦士ナギ役。この役の“目”に、この物語が成立できるかどうかの全てがかかっていますが、しっかり演じきってくださいました。よ~く考えてみると整合性の取れていない箇所が多い脚本なのですが、山中さんの存在がきちんと意味を成り立たせてくれたのだと思います。判さんが出ない今となっては、山中さん目当てで扉座に通うのかもしれないなー。
犬飼淳治さん。片目をえぐり取られた敵国の勇者カゼ役。本物の戦士ってこういう人物だよなって納得できました。ナギを殺すシーンの厳かさはこの人の演技のおかげなのでしょう。
高木智之さん。両目をえぐり取られた戦士イツヤ役。美形だったな~。ぎらぎらと尖がった目が魅力的だったので、その目を白い包帯で隠して長いセリフを言うのが、かえって余韻があって心打たれるものがありました。
作/横内謙介 演出/茅野イサム
キャスト:山中たかシ 犬飼淳治 佐藤累央 岩本達郎 上原健太 高木智之 小川英敏 高橋麻理 仲尾あづさ 鈴木里沙 田島幸 山口景子 杉山良一 中原三千代 石坂史朗 ほか
美術/中川香純 技術監督/大竹義雄 照明/林順之 音楽/笠松泰洋 音響/青木タクヘイ 衣裳/木鋪ミヤコ 演出助手/伴眞里子 舞台監督/大山慎一 票券/津田はつ恵 制作/太田さやか 製作/(有)扉座 宣伝美術/吉野修平 イラスト/溝口イタル 宣伝写真/栗山 良 舞台写真/宮内勝
扉座:http://www.tobiraza.co.jp/
2004年04月09日
ちからわざ『ポウズ~さきわうためにできること<改訂版>~』03/30-04/04THEATER/TOPS
俳優の佐藤二朗さんが主宰される劇団です。
私はTSUTSUMI'S LINK『ISHIKARI』で佐藤さんのことを拝見したことがありますが、堤監督の映画やドラマに出てらっしゃる方なのでしょう。かなりクセのある(笑)、眺めているだけで笑えるような怪優さんのようです。
全体的にあまりつながりのない短編コント集のように見せかけて、最後には全部つながっているというタイプでした。最初と最後は同じ登場人物が出てきて、実は全て一人の男の夢(頭)の中の話だった、といういわゆる“夢おち”になります。
おそらく笑いを狙っていたと思うのですが、笑えなかったな~。最後のオチがナンセンスに逃げ込むというか、暗くなっちゃって終わるんです。脈絡のないものにありがちですが、一つ一つがちょっと長いし、数も多いし、観ていて疲れちゃいました。また、心を病んだ人たちが入っている更生所というのが設定に出て来るのはつらいです。
佐藤二朗さんご自身が主演で脚本も書かれていますので、完全に「佐藤二朗ワールド」なのでしょうね。佐藤さんの早口はすっごく面白かったです。しゃべる内容も凝って凝って凝り固まってまして(笑)、ただただ圧倒されることもしばしば。でも言葉の繰り返しは多すぎるんじゃないかしら。
終演後、他のお客様の声が聞こえてきたのでご紹介します↓
「すっげー面白かった。俺、めちゃくちゃわかるんだよね。これって鬱の話だよね?書いた人、絶対に鬱だよ。俺が昔そうだったからわかるもん。」
・・・鬱だと完全に言い切ってらっしゃるのにちょっぴり驚きですが、それに近い世界観なのかもしれません。
装置が面白かったです。銀の針金で出来た不思議なヘルメットを役者さんみんなで被るシーンがあるのですが、美術自体もそのヘルメットの形をしているんです。銀の棒の間から出入りする感じで。つまり起こる事はすべて頭の中で、という表現ですよね。
大道具や小道具をわざわざゴミ袋に包んでから出し入れするのは、とても退廃的というか、全てゴミ溜め!という雰囲気をかもし出して、さらに暗さを盛り上げていたというか(笑)。面白いと思いました。
桑原裕子さん(KAKUTA)。可愛いし面白いし、清潔で賢いし、最高でした。どんなヘンな格好もセリフもやりすぎることがありません。
作・佐藤二朗/演出・堤泰之(プラチナペーパーズ)
舞台監督/赤坂有紀子 照明/森規幸 音響/樋口亜弓 衣裳/矢部真希子 宣伝美術・写真/鈴木雅巳 撮影協力/晩酌くらぶ 制作/中村文重(中村ステージプロダクション)
出演:佐藤二朗・藤本喜久子(無名塾)・石井英明(演劇集団円)・本間 剛・瓜生和成(東京タンバリン)・桑原裕子(kAKUTA)・梁島美保・佐藤 愛(散歩道楽)・阪田美和・内田慈・佐藤至亮(桜丘社中)・鎌倉康太郎・関口喜一郎
ちからわざ:http://www.h5.dion.ne.jp/~j-zone/
2004年04月08日
30-delux『マホロバ』03/19-28シアターVアカサカ
30-delux(サーティー・デラックス)はタイソン大屋さん(劇団☆新感線)と清水順二さん(元MOTHER)らが所属するギリギリ・ボーイズという演劇ユニットの企画名です。
今回は作・演出に西森英行さん(InnocentSphere)を迎えての第2回公演。私は初見です。
とある時代のとある大地。アカツチの村、キバツ国、樹海の三つの世界で戦闘が繰り広げられます。
私はアクションばかりが売りの作品は好みではないので、チラシのビジュアルや30-deluxのイメージからもしかすると自分の苦手な部類かもしれないと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。ストーリーや人物像がしっかりと書かれていて、アクションや仕掛けも存分にあり、大満足でした。
作品全体のイメージとしては劇団☆新感線に似ていると思います。新感線みたいに作れと言われて出来る人なんて、そう簡単にはいないですよね。今の小劇場界では西森さんがその人なのではないでしょうか。
ちょっとひっかかったのは、上演時間が少し長いということと、役者さんの技術のばらつきですね。きちんと書き込まれたストーリーだから、情熱と腕力だけでは魅せきれないのだと思います。
オープニングがかっこいいですよね~。大音量の音楽にCG映像と殺陣がリズムよく組み合わされて圧巻です。動ける男優さんってかっこいいなぁと改めて思います。
InnocentSphereの作品でも感じましたが音楽が多いです。でも飽きたりすることなく、結構ノって楽しませていただきました。
衣装も相当がんばって作られています。小道具も凝ってますね。見知らぬ異国の大活劇を成立させるには、こういう具体的な装飾がとても大切ですよね。力を注がれているのがわかりますし、観客としては嬉しいです。
鳥肌モンのシーンがいくつかありました。息子に刺されてまさに死なんとする父王が倒れながら「跡継ぎはお前だ」とその息子を次の王に指名するシーンにはしびれました。
私が一番好きだったのは、アカツチの村を再び攻めてきたキバツ国の新しい王ミズハの姿が、舞台の2階部分からシルエットで表現されるシーン。照明の使い方がかっこいいです。
若松力さん。新しい王になったミズハ役。プロデューサーの清水さんが『今回、「秘密兵器」だ』とおっしゃっていたそうですが(30-deluxのHPのBBSより)、まさにそう!まさかあんなに化けるとは思いませんでした。気弱な坊ちゃん王子だったのに、あんな凶暴な王になるとは。悲しみを湛えてギラギラと光る瞳が美しかった。爆発力もすごいしこれからも注目したいです。
作・演出:西森英行 演出助手:奥村亜紀 永安大海 照明:浜崎亮 音楽:有馬一快 高橋史泰 音響:ヨシモトシンヤ 谷口大輔 音響助手:伊藤裕貴 舞台監督:寅川英司 舞台監督助手:杣谷昌洋 映像:冨田中理 衣裳:村瀬夏夜 メイク:泉淑 ヘアメイク:岡本彩 小道具製作:湯田商店 殺陣指導:清水順二 アクション:山口幹 ダンス振付:田中可奈 宣伝写真:岡崎健志 宣伝・パンフレットデザイン:高松淳子 宣伝スタイリスト:高松浩子 宣伝ヘアメイク:浜口恵美 宣伝小道具:湯田商店 舞台写真:伊東和則 パンフレット写真:小島マサヒロ まかない:湯田商店 WEBデザイン:オオカドカズサ 制作:中島良恵 斎藤努 制作助手:小野貴子 小川永子 アシスタントプロデューサー:角田典子 田中浩補 プロデューサー:清水順二
30-delux : http://www.30-delux.net/
2004年04月07日
ポかリン記憶舎『小作品集2 夢の終わり』4/5-7麻布ディプラッツ
ポかリン記憶舎は明神慈さんが作・演出をする劇団です。着物美人が受付をしてくれるのも嬉しい。
神楽坂・麻布ディプラッツ主催の“ディプラッツ メンタリ― ショッキングアーツ コレクション2004”という演劇フェスティバルの中の1公演です。
残念ながら劇場がポかリン記憶舎の作風に合っていないように思いました。まず騒音。エレベーターが上下する音、上の階の足音、車のエンジン音、救急車のサイレンまで聞こえてしまい、究極の静けさの中にはんなり、ほんのりと産み出される着物女たちの官能世界が崩されてしまいました。
また、舞台空間全体が暗すぎました。和紙と針金で作られたのであろう丸い蓮の花のような光のオブジェはそれ自体とてもきれいでしたが、真っ黒な壁が高くそびえる麻布ディプラッツをほぼそのまま使っている空間で、そのライトが床の近くに4つだけ(時々5つ)というのは役者さんの顔も姿も見えづらく、なんだか窮屈な印象でした。
女3人の朗読があったのですが、あんまり臨場感がなかったです。横浜STスポット『ラ・ロンド』での朗読はすごく良かったので残念。
後半は長細い幕に映像が映し出される中、数人で歩き回るパフォーマンスだったのですが、その映像のぼかし具合が絶妙でした。CG映像はあまりにぎらぎらしていると見苦しいことがあるのですが、この作品では気持ちよかったです。
体が触れ合いそうで触れない距離を保ちながらゆらりゆらりと動く役者さんたちの夢見心地な表情は色っぽく、いつもの官能世界を味わえた瞬間もありました。上演時間50分というのも嬉しいですね。
明神さんの脚本の大ファンなので、作品全体のうちのほぼ半分がセリフのないパフォーマンスだったのは、私にとっては期待はずれでした。また次回を楽しみに待っていようと思います。
作・演出 明神慈
出演:田上智那 中島美紀 日下部そう 下園琢磨 役者松尾マリオ(ロリータ男爵) 大和田有(時々自動) 和田江理子(青年団) 松浦和香子(ベターポーヅ)他
音楽 木並和彦 / 照明 木藤歩(balance, inc.) /映像 袴田祐介 / 光のオブジェ 吉岡紳行 / Gデザイン 松本賭至 / 受付 サクラ 中島理恵
ポかリン記憶舎:http://www.interq.or.jp/tokyo/pocarine/
THE SHAMPOO HAT・エスラボ『みかん THE CONDISHONER VERSION』02/07-15下北沢ザ・スズナリ
THE SHAMPOO HATがプロデュースするエスラボ第1回公演の客演メンバー・バージョンです。シャンプー・バージョンを観た後で拝見しました。
シャンプーとコンディショナーっていうネーミングは可愛いですね。
警察官の独身寮(おそらく女子禁制)の古びたビルの屋上。元旦だというのに里帰りをしない独り者たちがつどう。それぞれに問題(個性)をかかえた登場人物たちの可笑しくて悲しい休日。
チケットがお得だったので昼夜連続で2バージョン拝見したのですが、別の日に観れば良かったなぁとちょっぴり後悔しました。全く同じ脚本・舞台美術で違うキャストですから、どうしても比べてしまいます。筋書きを知らないまま観るのと知ってから観るのとでは、先に観る方が断然が楽しめますので、そういう意味でもこの作品はちょっと残念でした。
いわゆるプロデュース公演の弊害が顕著に現れてしまった例の一つだと思います。役者一人ひとりがバラバラに点在していて、たまたま接点が現れた(接してしまった)ために互いに影響しあうけれど、対話をするのはその瞬間だけで、すぐにまた自分の場所に自動的に戻ってしまうのです。ナンセンス芝居といいますか、瞬間的な爆発や意外性を楽しむことに留まってしまいます。
痴漢をしてクビになった警官(児玉信夫)がビルの屋上から飛び降り自殺をしようとして同僚を脅すのですが、体が全然ビビっていないので、ビルの高さを感じませんでした。高さがあったとしても2階か3階建てみたい。それだと、歌を歌いながら突然にビルから飛び降りた一般人(ぼくもとさきこ)が、後から何事もなかったかのように屋上に戻ってきても驚きがないんですよね。されに、ぼくもとさんご自身が元々がひょうひょうとした佇まいで、無表情で無機質な感じの人物になっているので、何をやってもあまり意外性がないんです。普通に通り過ぎてしまう。
洗濯物を干す警官(菅原永二)が実はゲイで、クビになった警官(児玉信夫)にひそかに思いを寄せていたとわかった後に、二人が体を抱き合うようにぶつかり合うのが、シャンプー・バージョンよりずっと激しかったので笑えました。
音楽はシャンプー・バージョンではトム・ウェイツでしたが、ここではオペラ『カルメン』のアリアが流れました。これまた不条理劇っぽい。
作・演出 赤掘雅秋
THE CONDISHONER VERSION出演者:なすび(なす我儘) 小池竹見(双数姉妹) 児玉信夫(KOtoDAMA企画) 玉置孝匡 菅原永二(猫のホテル) ぼくもとさきこ(ペンギンプルペイルパイルズ)
舞台監督:高橋大輔(至福団) 照明:杉本公亮 音響:井上直裕(atSound) 舞台美術:福田暢秀 舞台製作:F.A.T STUDIO 宣伝美術:斉藤いづみ 宣伝PD:野中孝光 舞台写真:引地信彦 演出助手:佐藤俊文 黒田大輔 制作助手:市川絵美 相田英子 滝沢恵 岩堀美紀 制作:HOT LIPS 企画:エスラボ 製作:THE SHAMPOO HAT
ザ・シャンプーハット : http://plaza24.mbn.or.jp/~shampoohat/
2004年04月06日
劇団かしこい僕達『Fの感覚6 AREA83(はちみつ)』3/31-4/4ウエストエンドスタジオ
“誰もが三十歳で魚になる魚楠町”という架空の町を舞台にしたシリーズ第6作目。私は初見です。
初めて観ても全く問題なかった(内輪ウケがない)のがまず素晴らしいと思います。
魚楠町に住む人々は誰もが30歳になると突然に魚に変化する。さばの子はさば、フナの子はフナに。しかし、違う種類の魚との混血人間は分類不可能で不安定な種の魚になってしまうため、それを防ぐ「血統管理」が施行されることになった。そこで起こる前代未聞の魚食事件。町から排除されようとしている83番目の魚(分類不可能な例外種)の仕業だとみて捜索が始まった・・・。
ファンタジックなチラシのビジュアルに惹かれていたので、舞台美術が普通の現代劇の様だったのは意外でした。これでプレステのロールプレイングゲームに出て来そうな町が表現できるのかしら?と思ったのですが、そんな心配は無用でした。
登場人物一人ひとりの気持ちがしっかりと脚本に込められていて、架空の町の風景が嘘っぽくなく、本当にそういう町があるかのようにどんどん入り込んで行けました。
新劇っぽい演技というか、個人的な思い入れに偏った演技をされる役者さんが多かったため途中で眠くなったりもしましたが、ラストは一体どうなるんだろう!?とわくわくハラハラして最後まで楽しませていただきました。
“fish is a food”というキャッチフレーズが何度も出てくるのはちょっとクドイと思いました。登場人物のバックグラウンドがとてもよく書けている脚本だから、セリフや演技による心情表現だけでかなり面白いと思います。
ブラックライトが当たると壁に大きな魚の骨がたくさん現れるんは象徴的で、とてもきれいでした。
新谷摩乃さん(Dotoo!) 。妹のために命をかけて魚狩り(?)をする姉役。ダントツで演技が巧かったと思います。本当にそこに存在する、悲しい人物でした。
内海詩野さん(壺会)。「血統管理」を進める役人役。クールでワルい役人をきりりと演じてくださり、彼女が出てくると舞台が引き締まりました。足がきれい。
作・演出:さわまさし
出演:ふしみあきこ/泉 光典/井上カオリ/内海詩野(壺会)/斎藤剛/新谷摩乃(Dotoo!)/高屋七海/寺谷盾一 (スシドラゴン)/冨岡奈央子 / 福嶌 徹/村山たか緒/さわまさし
舞台監督:吉田慎一(MDC) 音響:田上篤志(atSound) 照明:吉川貴昌 舞台美術:有賀千鶴 衣装:フジタマサエ。 宣伝美術:サワダミユキ 受付:明度屋 制作:劇団かしこい僕達
劇団かしこい僕達:http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/8789/
Ele-c@『Q.E.D.2004』4/1-6王子小劇場
Ele-c@(エレカ)はモリタユウイチさんが脚本・演出・作曲など全体をプロデュースしている劇団です。
特徴は舞台上で生演奏があること。モリタさんご自身がキーボードやギターを演奏しつつ演技もされるのは本当に独特だと思います。
今公演は『Q.E.D.(キュー・イー・ディー)』の再々演だそうで、どうやらエレカの代表作なのでしょうね。パルテノン多摩演劇フェスティバルでも続いてこの作品を上演されます。
山奥の別荘で音楽家が死んだ。第一発見者の妻から私立探偵に依頼が来る。「絶対に自殺じゃないんです。犯人を捜してください。」2組の私立探偵と警察官らが現場に向かうが、なぜかその別荘に閉じ込められてしまい・・・。
演技のうまい役者さんとおぼつかない役者さんの差が激しくてちょっと感情移入しづらかったです。でも物語の謎があばかれていくセリフの掛け合いのシーンはどんどん引き込まれました。
いつもの通り小型テレビがたくさん仕込まれていて、そこにCG映像が流れます。紗幕と舞台奥の幕にも映像が映るのですが、色が薄いし客席に近すぎて見えづらかったので、ずっとテレビの方を見ていました。オープニングの殺人現場シーンと重なってタイトルの上に血しぶきがつく映像が良かった。
クライマックスでモリタさん(殺された音楽家役)のキーボードの演奏が激しく繰り返されました。電子音なんですがやっぱり生演奏はいいですね。
急勾配の八百屋舞台でしたが、全てはラスト近くのあの床から差し込む照明のためでしょう。きれいだしかっこ良かったです。
客席参加型クイズのような催しがありましたが、1度目は何のことだか全くわからず。2度目でやっとわかりました。ステージによってネタが変わるわけですね。私が見たのは金崎敬江さんの今どきの女子高生キャラと、本郷小次郎さんの“複数じゃないと萌えないの”キャラでした。もうちょっと余裕があると観客も参加しやすいんですけどね。
本郷小次郎さん(ヰタ・マキ)。ベストを着た私立探偵役。濃いキャラをさらりと本気でやっちゃってくださるところがいつも楽しみです。今回もしっかりスター立ちで面白かった。演技も安心です。
金崎敬江さん(bird's-eye view)。頭のキレるメガネの探偵助手役。抑えた演技で美しい立ち居振る舞い。きれいです。衣装も一番様になっていました。
作・演出・テーマMUSIC:モリタユウイチ
出演:本郷小次郎(ヰタ・マキ) 森律子(Ele-C@) 代田正彦(北区つかこうへい劇団) 土屋美穂子(Attic theater) laila.g.g*王子公演 ハセガワアユム(caprico)*入間・多摩公演 金崎敬江(bird's-eye view) 森田祐一(Ele-C@)
舞台監督:谷澤拓己 舞台美術:松本謙一郎×突貫屋 音響:一之瀬卓 照明:NORI(Media Youth)×佐藤威文 衣装:キタサコ製作所 映像ディレクション:かとうよういち(O-frame) CG:チェキラ(FITVIDEO) 宣伝デザイン:鈴木基文(Trouble and Tea DESIGN) 特設WEBサイト:田中秀吾 制作協力:TWIN-BEAT 制作助手:華王子
エレカ:http://www.eleca.mu/
2004年04月03日
阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』4/1-11本多劇場
長塚圭史さんが作・演出をする阿佐ヶ谷スパイダースの本公演です。全国9箇所も回るんですね。
いや~・・・濃密でハードな2時間半でした。満腹で帰宅です。でも、つ、つかれた・・・。
雪国のつぶれたりんご農園の事務所。なぜか必死で“しぶい”リンゴを作ろうとしている男たち。借金が返済できなければこの事務所も取られてしまう。そんな時にトラックの荷台の荷物を捨てるだけで大金が入る、という話が舞い込んできた。(これ以降、ネタバレします。)
長塚さんのお芝居は男がかっこいいです。日陰者と言っても言いすぎでないダメな男たちの、とある非日常の極限状態。ユーモアをぞんぶんに散りばめながら、命がけの馬鹿さわぎがどんどんと人間の哀しみや苦しみの核心に迫っていきます。
ある意味“夢オチ”ですが、私は完全なファンタジーにならなくて本当に良かったな~と思います。山崎一さんプロデュースの長塚さん作・演出作品『メオト奇想曲』では目黒区VS世田谷区の戦争という架空の設定がそのまま劇中の事実としてエンディングでしたが、今回は現実に戻りました。だからこそ最後の「許す」という言葉が胸に響くのだと思います。
長塚さんの脚本はだんだんと「荒削り」ではなくなって来ましたよね。貫禄を感じます。才能と努力が両立されると、すごいことになるんですね。
聖子ちゃんの『ガラスの林檎』大熱唱はかっこ良かったな~。
必殺の産業廃棄物を食べるシーンは涙モンですよね。ダメ男たちが英雄に見えました。こういうのを武士道っていうのかなと思います。武士は食わねど高楊枝、です。食うけど(笑)。
音響(加藤温)が良かったと思います。音楽はエレキギターとかドラムの激しい音ですよね。ああいうリズムを何と呼ぶのかは知らないのですが、あのノイズがなぜか切なく響いてくるんです。そして音楽を含めて全体の音のバランスが良いと思います。シリアスシーンとか緊張が高まるシーンとかの音があざとくないし、鳴る場所も音量も非常に繊細です。バシっと大音量で決めるときは決めるし。狙いもはっきりしていて好きです。
美術(加藤ちか)が凝りに凝ってましたね~。大きな仕掛けも小さな工夫も色々楽しませていただきました。なんと言ってもあの車はすごい!細かいところだと、ストーブの明かりの色がオレンジ(現実)から緑(夢)に変わってるのがステキでした。
伊達暁さん。トラックに乗って来た金髪の弟役。やっぱり何をやっても面白い!泣くのが可愛い!リアルです。
富岡晃一郎さん。デブのイヤな男役。ほんっとにヤな感じだけど、憎めない。彼のおかげでスプラッターもギャグになります。本当に演技がお上手ですよね。
長塚圭史さん。ちょいと出てきてくださって本当に嬉しいです。長塚さんの軽快さがすごく好きです。
作・演出:長塚圭史 出演:池田成志 中村まこと 松村武 中山祐一郎 池田鉄洋 長塚圭史 伊達暁 富岡晃一郎 志甫真弓子
【舞台美術】加藤ちか 【照明】佐藤啓 【音響】加藤温 【衣裳】木村猛志(A.C.T.) 【演出助手】山田美紀(至福団)【舞台監督】福澤諭志+至福団 【宣伝美術】Coa Graphics(藤枝憲 高橋有紀子 河野舞)【宣伝写真】三橋純 【特殊効果】武藤晃司 【編集】森山裕之 【web】山川裕康 【制作助手】山岡まゆみ 西川悦代 辻未央 【制作】伊藤達哉 岡麻生子 【製作】阿佐ヶ谷スパイダース
阿佐ヶ谷スパイダース:http://www.spiders.jp/
日本テレビ・キューブ『JOKER』03/29-04/03ル テアトル銀座
4年前のさんま&生瀬コンビの初作品『七人ぐらいの兵士』を見逃していたので、今回はがんばってチケットをGETしました。
なんと上演時間が3時間で休憩なし。休憩、なし!?
客席案内係の人に2度ぐらい聞き返してしまいました。でもやっぱり「3時間休憩なし」でした。
今回もなぜか戦争ものでしたね。なんでなんでしょ。でも最後まで観なかったのでわからずじまいです。客席は笑いがいっぱいでしたが私は楽しめなかったので、さっさと出て来ちゃったんですよね。客席に座っていたのはのべ1時間ぐらいかな。3時間なんて耐えられません。
あの美術(堀尾幸男)はちょっと手抜きじゃないのかな?と思いました。といっても1時間ぐらいしか見てないんですけどね。ル テアトル銀座ってすごく大きい劇場だから空間を埋めるのが難しいですよね。しかもやってるのはコントだし。まあそんなことは別にポイントじゃないのでしょう。
明石家さんまさんはテレビで見るのと同じ感じでした。おしゃべりが上手だし、早口でも良く聞こえるし、どうしてもきらいになれない、さすがのスターさんでした。でも私はテレビで見るので十分だな~。
生瀬勝久さん、山西惇さん、八十田勇一さんら元・劇団そとばこまちメンバーと温水洋一さんはさすがに演技がお上手で、細かいところですっごく楽しませていただきました。
新谷真弓さん(ナイロン100℃)。あんなにキュートな人がブサイクなキャラをやっていたとは・・・。でもやっぱりめちゃくちゃ面白かった。
ぴあの特集ページの写真の手抜き加減が笑えます。だってチラシなんて刷らなくても前売り完売ですものね。(ちゃんと仮チラシも本チラシも存在はします。)
演出/水田伸生 脚本/生瀬勝久
出演:明石家さんま 小栗旬 市川実日子 温水洋一 山西惇 八十田勇一 六角慎司 新谷真弓 森下じんせい 生瀬勝久 他
美術:堀尾幸男 照明:小川幾雄 音楽:佐野史朗 音響:長戸哲夫 衣装:堀口健一 ヘアメイク:西本恵子 演出助手高野玲 舞台監督:やまだてるお 宣伝美術:トリプル・オー 制作:茅野亜季(日本テレビ) 長谷川ゆみ子(キューブ) 大西規世子(ジーツープロデュース) 広報:米田律子(キューブ) プロデューサー:関川悦代(日本テレビ) 高橋典子(キューブ) ゼネラルプロデューサー:福島真平(日本テレビ) 北牧裕幸(キューブ)
ル テアトル銀座 : http://www.theatres.co.jp/letheatre/