ペンギンプルペイルパイルズは、今最も注目されている若手劇作・演出家と言っても過言ではない、昨年度の岸田國士戯曲賞を受賞した倉持祐さんが作・演出をする劇団です。
視覚的ナンセンスな空間でちょっと大げさめで生々しい動きをするヘンな登場人物が倉持さんの不可解なテキストとからみあい、不気味とも言える独特の世界を形作ります。しかし作品全体からは一貫した強いメッセージが感じられるという、非常に高度なテクニックが実現しているお芝居だと思います。
架空の街。何かの勲章をもらった男とその妻は、特別に区民集会所に住まわせてもらっている。というのも、町全体の建物をどんどんと壊して新しいものに建て替えるという街の方針のため、住む家がないからだ。その夫婦の息子は高台にある病院に入院していて、毎日男は見舞いに行っている。二人の前にに奇妙な男が現れて・・・。
「時間は未来には進むけれど、過去には行かない。時間は一方通行である。決して後戻りできない。」この考え方には私は賛成、というか、納得です。それが人間や他の動物、植物など生命に与えられた神様の恵みであるように思えてなりません。
「時間は決して戻らない。だから、後悔しても仕方がない。やりたいと思うなら、まずやってみろ。」そう、倉持さんがおっしゃっている気がしました。
階段は、登ってみろ。決闘も、やってみろ。やりたいなら自分からやらなきゃ。
舞台には、幻想なのか現実なのかわからない曖昧な空間が、エッシャーのだまし絵的リアルさと遊び心で表現されます。
ほぼ明転のまま区民集会所のロビーと病院の待合室が入れ替わるのは、とても楽しいし上手い場面転換だと思います。こういうのを見せてもらうと、舞台は無限の可能性がある創造空間だと感じられてすごく面白いです。
照明で集会所と病院の区別をつけているのですが、それが非常に繊細でよかった。黄色い壁に緑の照明がうっすらと照らしつけるのは不気味でいいですね。
音楽はいつものSAKEROCKさんのオリジナル曲のようですが、民族音楽チックでちょっとヘンなリズムとメロディーが、不思議な世界に入りやすくしています。また、音(音響)が全くない時にも何かざわざわした感覚が舞台を支配しているのは、倉持さんの演出の特徴だと思います。
窓の上からもくもくと煙が噴出して床におち、その煙の中から男(小林高鹿)が登場するのは最高です。
壁から手が出てきたりベンチの隙間にゴロンと人が消える、へっぽこイリュージョンに心踊りました。
小林高鹿さん。不気味なセールスマン役。めちゃくちゃセクシーでした。初めてこんなに見とれてしまった。怪奇な人物を男の色香ばつぐんに見せ切ってくださいました。
ぼくもとさきこさん。黒い服の少女役。演技派なんだってことを改めて実感しました。いるだけで存在の面白さが香り立つ方だと思っていましたが、演技も素晴らしかった。長髪で良かったです。
作・演出:倉持祐
出演:小林高鹿 ぼくもとさきこ 玉置孝匡 松竹生 笹木泉 水谷菜穂子 山本大介
舞台監督:山本修司 橋本加奈子 照明:岡村潔 舞台美術:中根聡子 演出助手:水野愛 宣伝美術:岡屋出海 人形製作:イトウソノコ 宣伝写真:引地信彦 音楽:SAKEROCK 衣裳協力:田中美和子 ヘアメイク高橋素子 制作:渡部音子 土井さや佳
ペンギンプルペイルパイルズ:http://www.penguinppp.com