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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年05月29日

少年社中 AOYAMA FIRST ACT 4th『ハイレゾ-high resolution』05/26-30青山円形劇場

 少年社中は早稲田大学演劇研究会から生まれた劇団です。毛利亘宏さんが作・演出をされています。
 青山円形劇場が、初めて同劇場に進出する若手有望劇団を後援するAOYAMA FIRST ACTの第4弾です。

 タオグラード国の宇宙飛行士イワン・スプートニクはいつも同じ夢を見る。どこか異国の少女がロケットを打ち上げようと仲間と毎日奮闘しているのだ。実はその少女もイワンの夢を見ていた。二人の世界は徐々に交錯していき・・・。以下ネタバレします。

 青山円形劇場の完全な円形の空間を、壁も高さも存分に使ってダイナミックなライブを見せてくださいました。
 照明が豪華絢爛でした。ムービングライトがあんなに多用されてスポットライト(サス)も効果的だし、役者さんがどんどん舞台に走りこんできて、大音量の音楽とともに躍動感あふれる空間でした。「すごーい」「かっこいー」と口に出してしまうほど。(すみません。口に出してました。)
 激しい動きについては、殺陣というよりはダンスのような振付でしたね。円形劇場はどこの席からも観客が舞台に近いので、役者さんの激しい動きは見所ですね。
 衣装(村瀬夏夜)が素晴らしかったです。宇宙飛行士は皮のパッチワークのパンツを履いています。タオグラードの道士たちの民族服チックな加工も凝ってました。
 少年社中の公演では必ず1曲ぐらいは歌謡曲が流れる(と思う)のですが、今回も然り。楽しいです。

 宇宙のどこか、違う星にいる青年と少女が夢の世界で通じあっている。徐々にシンクロしてい二人はラストで出会い、「はじめまして」と挨拶しあってジ・エンド。なんて夢の有るハッピー・エンディング。これが表現したかったことなのかと思うと微笑ましいし嬉しくなります。

 ユナイテッドステイツとタオグラード(レニングラード似)の戦争とか、登場人物の名前がガガーリン、スプートニクだったりしたので現実世界に近いものを想像してしまいます。完全に架空の名前にされてもよかったのではないでしょうか。相当ブっとんだ設定ですし、それで十分楽しめたと思います。また、ラストを考えると中盤は長すぎたかなと思います。

 役者さんの演技で気になるのは、自分のセリフの前や直後で自分だけの時間を持ってしまう人が多いことです。小劇場っぽい、と言えばいのかな。早稲田っぽいのかもしれません。役になりきるという根本的なところだけで見せることにチャレンジしていかれると、より良いのではないかと思います。
 お客様で内輪受けをしちゃっている人が多くて哀しかったです。そういうところも払拭していってくれれば、と思います。内輪ネタもほどほどに。

 松下好さん。ロケットを飛ばそうとするボーイッシュな少女役。可愛らしさは期待通り。一人の俳優としての存在が感じられ、松下さんだということを忘れました。これからますます期待される女優さんだと思います。
 佐藤春平さん。タオグラード国の道士タオツィー・チャオサイ役。表情も立ち姿もピタっと静止されるのが絵になる方でした。今公演をもって少年社中を退団されフリーになられるそうです。音響さんとしてもご活躍ですし、多才な方だと思います。

 当日パンフレットに、劇団の紹介、主宰からのメッセージ、物語の設定説明および用語集、登場人物相関図が載っていて素晴らしかったです。演劇のパンフレットはこうあるべきだと強く感じました。ありがとうございます。(Pamphlet Editorial credit→Producer/Superevisor:毛利亘宏 Director/Editor/Designer:武田和香 Writer:毛利亘宏・佐藤春平・武田和香)

作・演出:毛利亘宏  
CAST:井俣太良 加藤妙子 佐藤春平 大竹えり 田辺幸太郎 堀池直毅 廿浦裕介 森大 加藤良子 長谷川太郎 佐野素直 杉山未央 + 松下好(エルカンパニー) 辰巳智秋(ブラジル) 山岸拓未(拙者ムニエル) 清水順二(30-DELUX)
照明:斎藤真一郎(A.P.S.) 音楽/音響:依田謙一 音響:佐藤春平(Sound Cube) 上野雅(Sound Cube) 衣裳:村瀬夏夜 舞台監督:常喜晃(遊カンパニー) 演出助手:岸京子 ヘアメイク:沖島美雪 振付:右近貴子 アクション:清水順二(Team AZURA) 小道具:湯田商店 舞台装置:毛利亘宏 松本翠 廿浦裕介 スチール:金丸圭 ビデオ撮影:Y.P.K 宣伝美術:真野明日人 武田和香 チラシオブジェ制作(JUNK THEATER 5000) web:田中祐子 制作:吉野礼 加藤良子 少年社中the entertainment prison 提携:こどもの城 青山円形劇場(担当:劇場事業本部 志茂聰明)
少年社中:http://www.shachu.com/

Posted by shinobu at 12:23

2004年05月27日

山の手事情社『道成寺』05/26-30 ASAHIスクエアA

 創立20周年を迎える山の手事情社
 250人ぐらい入るスペースがほぼ満員の初日でした。私はとても感動して、大きな拍手を何度も送りました。

 『道成寺』にまつわるお話が3つあるそうで(「黒髪縁起」「鐘巻縁起」「鐘供養」。その他、謡曲「道成寺」、歌舞伎「京鹿子娘道成寺」もあるそうです)、その3つが重なり合って最期に見事に融合しました。女の深い情念の悲しい物語を満喫しました。
 利賀の演劇フェスティバルで1ヶ月前に上演されたのがこの公演の初日ですので、今日までには余裕があったことがこの完成度の高さを実現したかもしれませんね。

 アサヒスクエアAの壁をそのまま使った舞台美術は灰色と透明を基調としていて、縦に設置された蛍光灯の光も手伝って、いわゆるクール&シンプルな空間を作り出していました。最初に出てくる役者さんもみんな黒装束ですので、全体的にモノトーンのイメージです。しかし徐々に鮮やかな色彩のドレスやデコラティブなスーツをまとった人物が登場し、眺めているだけで満足できるポップアートのような空間となりました。

 道成寺の鐘や上下の出はけ口に建てられたパネルは、波板(透明のトタン板)で作られています。舞台中央に役者さんが出てくるまでは、上半身は波板でやわらかく隠されて、下半身だけは見える状態です。誰かが出てくるのはわかるんだけど、顔が見えないから誰なのかはわからないんですよね。それがすごくわくわくして面白かったし、きれいでした。

 照明が美しかったです。近未来的とかスタイリッシュとか色々表現方法はあるのですが、私は異次元の感覚を味わっている気分でした。タイムマシーンに乗って時空を移動しているような、宇宙船に乗ってワープしているような心地というか。繊細な色使いというよりはある原色から他の原色にパッキリ変化するので、メカっぽい印象を与えているかもしれません。

 衣装がきらびやかで美しかったです。虹色に輝くバイヤスのスカートは思い出すだけで夢のような気分。西洋のカッティングは女性の体を美しく見せますね。なんと劇団員が縫っているそうなんです。

 僧に逃げられた恨みで死んで蛇に変身した女(倉品淳子)を男優数人で持ち上げるのがすごい!エアウォークというそうですが、人間の手の上に足を乗せて宙を歩きます。ものすごい迫力でした。
 魚のうろこのような模様の美しいドレスを着た清姫(太田真理子)が、男の体を乗り越えながら移動するのも味わい深かったです。アクロバティックな身体のポーズで人物の感情が表されるんですね。

 メインのストーリーの合間に一人芝居などが挿入されるのですが、顔にシールを張る女たちとカラフルなタイツで遊び戯れる男たちの対比がとても面白かったです。そうやって女は一緒に盛り上がりながら実は誰かを疎外しておとしめたりするよな~、とか、男って自分だけ楽しければいい!という輩が一緒に集まってパワフルに遊ぶよな~、とか。共感しました。また、最初の卵がラストに蛇とつながったのも感動。

 今回は女にまつわるの話だったからか、女優さんの活躍に目を見張るものがありましたが、男優さんについては残念ながら声が聞こえないとか早口すぎて意味が解らないシーンが多かったです。山田宏平さんと三村聡さんが出ていらっしゃらないのは寂しいですよね。

 水寄真弓さん。ピンクのウィッグのキャスリーヌ役。外人美女キャラクターをご自分で作られたのでしょう。キャラを作るということはこういうことなんだと見せてくださいます。セリフも面白いし演技も巧い!爆笑です。また観たい!
 倉品淳子さん。赤いドレスの女主人役。大きな目をギョロっと見開いてエアウォークしつつ男を追いかける大蛇です。逃げた僧を焼き殺した後の静止した後ろ姿は悲しみを湛えていました。女は優しいから恨むんですよね。切なくて美しくて涙が出ました。
 内藤千恵子さん。ラストの蛇役。美しくて恐ろしい。情念たっぷりの声とセリフ回しに震えました。かっこいいです。幕切れにふさわしい火花のような演技でした。

 カーテンコールで役者さんがそれぞれのストーリー毎に分かれて出て来てくださったので、目の前で繰り広げられた3つの『道成寺』がもう一度私の心に戻ってきました。なんて素晴らしい作品なんだ!って、また大きな拍手をしたくなりました。

演出・構成:安田雅弘
キャスト:山本芳郎・倉品淳子・内藤千恵子・浦弘毅・大久保美知子・水寄真弓・太田真理子・川村岳・斉木和洋・岩淵吉能・野々下孝・山口笑美・森谷悦子・鴫島隆文・名久井守・久保村牧子・本名貴子・中村智子・野口卓磨・横田七生・後藤かつら・植田麻里絵、根本美希
照明・舞台美術:関口裕二(balance,inc.) 音響:斎見浩平 衣装:渡邉昌子 宣伝美術:福島治 演出助手:小笠原くみこ 照明オペ:木藤歩 音響オペ:大西香織 衣裳助手:栗崎和子 ヘアメイクアシスタント:飯田ヨウコ 舞台写真:大石創介 制作:福冨はつみ 製作:UPTOWN Production Ltd. 
山の手事情社:http://www.yamanote-j.org/

Posted by shinobu at 01:39

2004年05月26日

シベリア少女鉄道『天までとどけ』05/06-16THEATER/TOPS

 私はつい数年前に中野テルプシコールで観た劇団なのですが、「こんなの観た事ない!!」という評判がどんどん広まって、THEATER/TOPS初登場で異例の10日間公演です。
 今回もアイデアに驚かせていただきました。

 オリンピック出場者選考のための体操の大会が開かれている。登場するのは、4年に一度のビッグチャンスを前に緊張する選手たち。オリンピック出場確実と言われた体操選手だったが、事故に見舞われて二度もそのチャンスを失った女性カメラマン、そしてそのライバルだったが今はコーチをしている女、TVアナウンサーなど。

 開場している間は体操の大会を、特に選手が回転技をしているところをずーっとTVで流し、オープニングはNHKの朝の連続テレビ小説のようなさわやか映像でした。前半では登場人物それぞれの立場や思いいれなどを細かく描いていきます。クドイぐらい。これも全部ネタ振りなんです。

 甘酸っぱいようなしょっぱいような青春ドラマが存分に繰り広げられ、クライマックスの床運動のシーンから、とうとう例の“ルール違反”がやってきました。突然、ダンボールで作った四角い箱に人物のカラーの写真を貼ってものを役者さんが舞台に持って来ました。しかも黒子姿で。役者さんはそれを放り投げてぐるぐる回転させます。まるで跳馬の上で回転しているような、床運動でジャンプしているような・・・。ありえない!てゆーか、黒子だよ、黒子。箱を持った黒子が今までどおり選手としてしゃべるんです。変わりに箱が体操をしてる・・・。

 それだけだったら大したことないんですけどね、そこで終わらないのがシベ少のオリジナリティというか、見所というか・・・。まさかテトリスになるとはねー・・・・人の写真が貼られたダンボールの箱が、THEATER/TOPSの舞台前面にどんどんと溜まっていきます。みんなあの、4角形が4つ組み合わさったテトリスのピースになっているんです。

 天井まで届いたら負けですからね。それが『天までとどけ』のタイトルに掛かっています。チラシにもずいぶんネタが降られているんですよ。高層ビルの上にやっこ凧が一つ飛んでいるビジュアルでしたし、キャッチコピーは「ハメられる快感。」。なるほどハマりますからね、テトリスのピースは。

 今さらながら思うのですが、ものすごいセリフの量ですよね。最後の方は体の動きがほぼ皆無の中、役者さんはとにかくしゃべり続けます。そのセリフがとにかく凝っていて、土屋さんって本当にすごいと思います。物語と舞台で起こっていることを巧く重ねていくんですからね。それでいて最後は素敵な結末にしてくれるんです。どこか演劇以外でもぜひその才能を生かして欲しいな~って思います。大きなお世話ですが(笑)。

 選曲が良かった。具体的に何なのかは全然知らないのですが、ジャパニーズ・アイドル・ギャルのきゃぴきゃぴソングでしたよね。バカっぽくて楽しかったです。

 こんなことをやる劇団はシベリア少女鉄道しかない!と言い切れることが偉大なのですが、今までの公演と比べると今回は、前半からネタに入るまでのお話が暗すぎた気がします。1時間30分という上演時間にしては気持ちがどんよりと疲れてしまっていました。でも、絶対次も観に行くんだよね・・・(笑)。

作・演出/土屋亮一
出演/藤原幹雄 秋澤弥里 吉田友則 水澤瑞恵 前畑陽平 小野美樹 篠塚茜 土屋亮一 ほか
舞台監督/谷澤拓巳 音響/中村嘉宏(atSound) 音響操作/井上直裕(atSound) 照明/伊藤孝(ART CORE design) 映像/冨田中理 舞台美術/齋田創(突貫屋) 宣伝美術/土屋亮一 音源製作/霜月若菜 制作/渡辺大・高田雅士 制作助手/保坂綾子
シベリア少女鉄道:http://www.siberia.jp/

Posted by shinobu at 01:04

2004年05月25日

演劇企画「怪童堂」プロデュース『ドレッサー』03/24-31中野ザ・ポケット

 演劇企画「怪童堂」は俳優の堂下勝気さんが主宰する劇団です。
 シェイクスピアを上演しながら世界(地方)を巡る劇団の舞台裏。年老いた俳優とその付き人(=ドレッサー)のお話でした。芝居もののお芝居はすごく苦手なはずの私ですが、そういう意味でつらくなるところはなかったです。

 年寄りのワンマンな座長(二瓶鮫一)が病に倒れた。座長を16年間支え続けているドレッサー(堂下勝気)が、なだめたり叱ったり激励したり、さまざまな手練手管で座長を舞台に上げることが出来たのだが・・・。

 まず幕が開くまでまでのしっちゃかめっちゃかが存分に描かれます。やっと幕が開きますが『リア王』のお話が続く中、座長のわがままとそれに振り回される人々の、またもやしっちゃかめっちゃか。
 旅をして興業を続ける劇団の大変さがストレートに伝わってきて、なんだか身につまされるんですよね(苦笑)。そういうのが苦手だから芝居モノは観ないようにしているのですが、この脚本は登場人物一人ひとりの心情について深く書かれていたので、そのドラマが楽しめました。
 気に入ったセリフ→「人生で一番幸せなことは、思い出してもらうことだ。」

 座長役の二瓶さんがドーランでメイクをしたり、それをメイク落としで拭き取ったり何度も繰り返されるのですが、あまり美しくなかったですね。仕方がないとはいえ汗と油でギトギトして・・・目に優しくなかったです。リアリティーの意味では必要だったのかもしれませんが。

 美術(V・銀太)がとても良かったです。劇中劇が面白かったのは装置の力に因っているところが大きいと思います。全体的に柱だけで壁がない型式で、空白が多い美術でした。正面に座長の楽屋、上手と下手の奥が女子&男子の楽屋で、舞台は座長楽屋の奥で、女子&男子楽屋の間、つまりど真ん中の一段上にあります。そこがステージになったり廊下や道路になったりします。

 劇中劇で使用される音響装置が良かった!!『リア王』の嵐のシーンの雷や風などの自然現象の音を、その時代の楽器(?)で鳴らすんです。鉄板をぼよんぼよんとしならせて雷の音、布と木をこすらせて風の音、たくさんの石を筒に入れて上から下へと転がして雨の音、など。

 衣裳(蟹江 杏)は、劇中劇の舞台衣装と日常着の2パターンでたくさん作られていました。レトロな感覚のお洋服がとってもかわいかったです。特に町田カナさんがお召しになっていたグリーンのファー付きコートが好き。

 町田カナさん(reset-N)。新人女優の役。体の線が空気に沿うようになめらかで美しいです。声もキャラクターも完璧に作られているから目が離せません。座長(二瓶鮫一)とのラブ・シーンは緊迫感があって色気があって、シーンとして、ものすごくかっこ良かったです。

 客席が豪華でした。ベニサン・ピットの方(お名前はわからないのですがおそらく支配人クラスの方)や演劇評論家の扇田昭彦さん、流山児祥さん等がいらっしゃいました。

キャスト:二瓶鮫一 伊東由美子(劇団離風霊船) 大草理乙子(ラッパ屋) 三井善忠 松木良方 町田カナ(reset-N) 堂下勝気 柳東史 神田剛 金子森 池谷なぎさ(グローシャ) 笹崎志保
作:ロナルド・ハーウッド 訳:松岡和子  演出・美術:V・銀太 照明:吉本昇 音響:井出比呂之 衣裳:蟹江杏 ヘアメイク:内田桃子 演出助手:本間美奈子 舞台監督:村岡晋 舞台監督助手:岸京子 宣伝美術:高橋雅之(タカハシデザイン室) 宣伝写真:山下裕之 制作:美田健次 正木弘美 主催:演劇企画「怪童堂」
演劇企画「怪童堂」 : http://www5f.biglobe.ne.jp/~kaidodo

Posted by shinobu at 17:59

スクエア『嗚呼、てんやわんやの月見うどん。』05/13-16下北沢駅前劇場

 大阪の劇団スクエア。東京公演はリージョナル・シアター・シリーズを含めて4度目です。前回の『打つ手なし』がとても面白かったのと、後藤飛鳥さんが出演されるため観に行きました。

 高架下の老舗っぽいお手軽系のうどん屋さんが舞台。がめつそうな大阪弁を流暢に話すおじさんがぎゃんぎゃん電話で話している場面から幕開けです。今回はチラシやタイトルからもわかるように人情系喜劇だそうで、下町人情溢れるおトボケ満載の上質な関西風コメディーでした。

 恥ずかしい、むずがゆい笑いがいっぱいでした。ナチュラルで静かなつっこみも心地よいです。関西風とはいえベタになりすぎないのも素敵です。
 スクエアの男優さんは皆さん演技がすごくお上手だと思います。特に私は北村守さん(アルバイトで100万円ためたお坊ちゃま役)が好みなのですが、今回も面白い動きとリアルな表情で確実に気持ちいい笑いを提供してくださいました。

 そして本場の大阪弁が爽快です。私自身が大阪生まれの大阪育ちなので懐かしさもひとしお。大阪の人は「がーって行って、わーって走って、どぉーって戻ってきた」というような独特の擬態語をよく使いますよね(笑)。

 紅一点の家出少女(後藤飛鳥)が笑顔一つ見せなかったのが非常に残念でした。特に私は後藤飛鳥さん目当てでもあったので彼女の味わい深い笑顔を見られなかったのは予想外でした。たった一人の女優さんですし、女性ならではの魅力をどんどん前に出す演出をされても良かったんじゃないかなと思います。

 舞台装置はとてもリアルで、音楽は毎回オリジナルで作られるようです。誰と一緒に観に行っても問題がない、小劇場の中では珍しい劇団ではないでしょうか。

作:森澤匡晴 演出:上田一軒
出演:森澤匡晴 奈須崇 北村守 上田一軒 後藤飛鳥(客演)
音楽:はじめにきよし

スクエア:http://square.serio.jp/

Posted by shinobu at 15:58

チェルフィッチュ『三月の5日間』02/13-15スフィアメックス

 チェルフィッチュは脚本・演出をされる岡田利規さんのソロ・ユニットです。
 第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル第2次審査ではダントツNo.1入選でした。
 6/4(金)~5(土)に神戸公演があります。関西地方の方、ぜひともご覧下さい。すごいですよ。

 チェルフィッチュHPによると、“超リアル日本語”と“現代の日常的所作を誇張しているような/してないような独特の身体的方法”による舞台表現です。
 のべつ幕なしに流れ出る今ドキの若者言葉の洪水の中から、予想外の素直な感情と意志が伝わってきました。
 日常をバラバラに切り取って描く群像劇であり、作者のしっかりとした主張であり、切ないラブ・ストーリーでもありました。以下ネタバレします。

 何もない舞台。赤いパイプの一人掛け用ベンチがひとつと、壁に掛け時計があるだけ。
 とぼとぼと歩いて舞台に出てきた役者さんが「今から『三月の5日間』っていうのをやるんですけどぉ・・・」と言ってお芝居が始まります。始まったのかどうかもよくわからないような、自然というよりも、ふにゃ~っとした幕開け。

 その後、役者さんが代わる代わる出てきて、今ドキの若者の発声、言葉づかい、身振りで、時にはぽつぽつと、時には休む暇も無く、ただただ言葉を撒き散らします。他人に伝えようとしていない言葉と意味なくフラフラと漂う体はとてもそっけなく、しかし笑いを誘います。「あぁ、こういう人っているよね~」とか「その論理の飛躍は何!?」とか。

 作・演出の岡田さんはギミック(からくり・仕掛け)とおっしゃっていましたが、シンプルな空間でたくさんの演出的手法が使われていました。例えば、セリフやシーンのくりかえしが現れたり、出来事が時系列バラバラに紹介されたり。1人の男の役を2人の男優で演じて、その2人が同時に舞台上に存在したり。役者が会話の途中で突然舞台から袖に消えたり、観客に話しかけたりしました。「この後、休憩があるんですが」「この話はあと10分ぐらい続くんですが」など役者さんに言われるのはすごく不思議な感触で、とても面白くて引き込まれます。

 舞台は2003年3月20日の東京。アメリカがイラクに宣戦布告するかしないかの緊迫していた時です。六本木のライブハウス、ある女の子の部屋、文化村の近くのラブホテル、反戦デモが闊歩する渋谷の大通り、コンビニ等、色々なところに飛びます。

 ライブハウスでの出会いからそれぞれのエピソードが始まります。イケてない女の子が不自然に自らナンパをしてしまうのは非常~に痛い。でも可笑しい(笑)。ひどく挫折して自分の部屋に帰って、自分だけの夢想の世界で怒涛の独り言タイム。想像力の無限のパワーで宇宙へと飛翔!
 「私は火星人になる。だって火星人なら彼に嘘の住所を教えられていても気づかないでいられるもの。」切なくてステキです。

 そして同じくライブハウスで出会った男女のエピソード。そのままラブホテルに行ってしまってヤリまくりの4泊5日。渋谷の町では反戦デモ。
 「あと3日ここにいよう。そうしたら、戦争終わってるかも」
 「これって奇跡だと思うんだよね」「思うよ」
 「こんな風に考えてる人ばっかりだったら戦争は起こらない」
 フリーターの男女の軽はずみでふしだらだと言われてもしょうがない行為から、作者の反戦の気持ちがストレートに伝わってきました。予想外でした。
 男も女も全然きれいな格好をしていないし、デザインめがねをかけていて顔もよくわからなかったのですが、その彼女がとても美しく見えてきました。

 ラブホテルで4泊した二人は、お互いに連絡先の交換などせず別れることを決めます。渋谷じゃないみたいな渋谷でまるで旅行をしているような夢心地の日々を過ごしたけれど、二人が駅で別れた後、女はある事件に遭遇して完全に現実世界に引き戻されてしまいます。渋谷もいつもの渋谷に戻ってしまいました。その、夢が消えてなくなってしまったという告白の後に、駅での別れのシーンを持って来ているのです。終わりを見せてからその前を描くことでより切なさが増すんですよね。さようならだと知って愛し合う2人。戦争は終わらなかったことを知っている観客。巧みな構成だと思います。

 ラストシーン前に始めての暗転がありました。切符売り場での二人の最後の言葉。反対方向に歩いていく二人。そして長い暗転の間、電車のホームの騒音が流れます。いつもと違う渋谷、だけどそれはもうすぐ消えてしまう夢。暗転中、涙が溢れて溢れて止まりませんでした。私の2004年に観たお芝居の中のベスト・ラストシーンになるかもしれません。(ちょっと気が早い?)

 去年の三月、確かに私たちは生きていて、地球上で起こっていることを知っていて、何かを思い、何かをし、何かをしなかった。このお芝居とともに、アメリカのイラク進軍、震え迷っていた日本、あの時の私が、消えない記憶となりました。

 男の「ヤリすぎて痛いポーズ」が笑えました。リアルなのかどうかはわかりませんが(笑)。
 コンビニで自分の武勇伝(ゆきずりの恋)を話す時、男が2人で地べたに座っている様子がリアル。
 デモに参加している男の子たちの動きもいちいち爆笑です。実際にああいう人いますよね。

 壁に掛けられた平凡な掛け時計は、『三月の5日間』の時間の経過とは全く関係なく、上演時間を刻んでしました。
 照明は線を引くように当てられていました。シンプルに区間を表すように。結構好きでした。
 音楽は意味がよくわかりませんでした。意外、というよりは突然に鳴り出すし止むし。

 で、“鈴木君”は結局どこに出てきたの?わからなかったのは私だけ?

第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル
脚本・演出/岡田利規
出演/下西啓正 山崎ルキノ 山縣太一 瀧川英次 松村翔子 江口正登 東宮南北
舞台監督/山越正樹 照明/大平智己 音響/橋口修 写真/相川博昭 宣伝美術/北見大輔
チェルフィッチュ : http://homepage2.nifty.com/chelfitsch/

Posted by shinobu at 00:26

2004年05月24日

燐光群アトリエの会『犀(さい)』05/10-23梅が丘BOX

 『犀』は動物のサイです。不条理演劇の作家として歴史上に名高いイヨネスコー(1912-1994)の作品。
 大河内なおこさんの初演出作品だそうです。蜷川幸雄さんや坂手洋二さんの演出助手をされていた方で、当日パンフレットに両演出家からの寄稿がありました。
 思いっきりSFでしたね。ハリウッド映画のようにエキサイティング&スリリングでした。

 今回の梅が丘BOXは客席およそ70席で、真ん中に舞台を挟む形でした。そんなものすごく小さな空間で熱く繰り広げられる「まわりの人間がどんどんサイに変身していって、残っているのは自分だけ?!」という恐怖におののき狂っていくお話なんです。ものすごい緊張と躍動でした。

 前半はちょっと形式ばっていて眠くなってしまったのですが、後半はいわゆる絶体絶命状態が続いて、一体何が正しいのか何が真実なのか、全くわからなくなってきて目が離せませんでした。

 ただ、この作品を語るには疲れすぎたかも・・・。同じ言語を話していても絶望的なほど通じ合えないこと、多数派に抱き込まれていく弱い人間、死を目前にして初めて実感する生、極限状態の人間の愛、“私”とは一体何なのか、果たして人間とはこの世に存在しても良いものなのか・・・等など、さまざまなことが表されていたと思うのですが、お芝居が終わる頃にはほとほと疲れてしまっていました。今もちょっと書きづらいほど。ふ~。

 緑色の照明が床から差してきてロスコーの煙を照らすのが、すごくおどろおどろしいんです。役者さんの演技も激しく生々しくて映画のようでした。しかも肌ががさがさになって角が生えてサイに変身するんですから本当のホラーです。『エイリアン』とか『遊星から来た物体X』とかを思い出します(古いですが)。坂手さんもジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画三部作のことをパンフレットで触れられていました。

 向井孝成さん。最後に残る男ジェー役。トボけたり狂ったり、大変な役ですね。声が枯れていてかわいそうでした。
 宮島千栄さん。最後に残る女デジ役。セクシー。ビューティフル。抱き合って確かめ合う二人のシーンがすごく良かったです。そう、ハリウッド映画のゴージャスなラブシーンでした。

燐光群+グッドフェローズ プロデュース 燐光群アトリエの会
作=ウージェーヌ・イヨネスコ 訳=加藤新吉 上演台本:坂手洋二 演出=大河内なおこ
出演:内海常葉 宮島千栄 下総源太朗 猪熊恒和 鴨川てんし 向井孝成 樋尾麻衣子 江口敦子
美術=斉藤紀子 大島広子 松井るみ 小道具美術=福田秋雄(ゼペット) 照明=武藤聡 音響=友部秋一(オフィス新音) 衣裳=大野典子 舞台監督=吉田智久 文芸助手=久保志乃ぶ 圓岡めぐみ イラスト=加藤也子 宣伝意匠=高崎勝也 Company staff=中山マリ・川中健次郎・大西孝洋・瀧口修央・裴優宇 著作権代理=(株)フランス著作権事務所 協力=(株)センターラインアソシエイツ 制作=古元道広・川崎百世・国光千世 芸術監督=坂手洋二
燐光群:http://www.alles.or.jp/~rinkogun/

Posted by shinobu at 23:17

2004年05月23日

ひょうご舞台芸術『曲がり角の向こうには』05/22-30紀伊国屋ホール

 見逃さないようにしているひょうご舞台芸術の第29回公演です。
 40代半ばを過ぎた立派な大人の夫婦たちの、ある一晩のパーティーのお話。作家のジョアンナ・マレー=スミスさんはオーストラリアの女流作家。お話の舞台はアメリカの高級住宅街、かな。
 ものすごい大人向けのお芝居でした。

 原題“RAPTURE”の日本語直訳は「陶然(とうぜん。うっとり酔いしれる意。)」です。日本語で全く新しいタイトルがつけられています。英語をカタカナ読みしてそのままタイトルにしちゃう映画界の状態をとても寂しく思っている私にとって、すごく嬉しかったです。しかも作品にぴったりでした。

 「曲がり角を曲がったら、家が燃えていた。」
 火事で家をなくしてしまった大金持ちの夫婦ハリー(石田圭祐)&ヘニー(高田聖子)が、失踪してから7ヶ月後に初めて親友の家に現れた。すっかり変わってしまった二人に幼馴染みたちは驚くばかりか、自分達の人生についても大きな変化をせまられることになり・・・。

 最初はスノッブな金持ちビジネスマン(というかセレブ?)たちの虚飾の世界に辟易させられるばかりで、このままこれが続いたらどうしよう・・・と不安になっていたのですが、突然にそんなのは吹っ飛びました。まどろっこしい状態から一転、めちゃくちゃ率直でハプニングいっぱいのお話になり、問題の夫婦が出てきてからは耳ダンボでセリフに聞き入りました。

 「立ち止まって、考えてみることだ」というセリフがありました。最近、この意味の言葉をよく耳にします。私も今の自分の仕事、生活すなわち人生について、何もかも静止させて一度考えなければと思うのですが、なかなか難しいんです。何か心にひっかかることがあってもそれに蓋をして、忙しさにかまけて楽観的に通り過ぎることがよくあります。そうでないと確かに現状は困難になりますからね。でも、我が家が全焼するというハプニングが起きたせいでハリーとヘニーにはいやおうなく転機が訪れ、二人は何らかの愛の境地に足を踏み入れたのです。そしてむき出しの真実に触れた二人は、親友だった人々にお別れを言いにやってきます。

 私は、嘘ってすごく大切だと思うのです。「嘘も100回言えば真実になる」というのは間違っていると思いますが、「嘘はバレなければ嘘ではない」ということには共感します。つまり「秘密」ですね。小説家トム(山路和弘)の美しい妻イヴ(剣幸)と、売れないドキュメンタリー映像作家ジェーン(富沢亜古)の夫ダン(磯部勉)が、実は不倫の仲だということは決してバラす必要のなかったことだと思うのです。だけれど人間の生命の真実に触れた(と思った)二人が現れたその場では、何も隠すことが出来なくなってしまった。私はその“愛(のようなもの)”に気づいた二人にとても共鳴したのですが、親友だと信じて疑わなかった6人の人間関係が明らかに壊れるのを、簡単には受け入れられない気持ちでした。
 そう感じられるように演出される鵜山さんって、素敵だなーと思います。決して2人を正義の味方のようにはしないで、何かしらの違和感を残しつつ、虚飾にも気づかせていきます。ある環境・状況を多様に見せていく手腕に安心します。

 親友6人組の“真実”が暴かれていくに従って、おしゃれで高級そうなペントハウスの大黒柱が消えてなくなり、スタイリッシュで完璧だった空間に大きな風穴が空いていきます。最後にはきれいな窓もはずれて背景さえも落ち去って、真っ白な壁が現れます。
 音楽もかなりキバツな使い方でした。誰かが現れたり、何かが起こったりするところで効果音のように短い音楽が流れたり、雷が鳴り響いたり。“マカレナ”がエンディングで流れるのも狙いがすごいと思います。

 山路和弘さん。もっとも虚飾の世界に依存している有名小説家のトム役。傲慢で強情な男が、情けなくて可哀想になっていくのを、愛らしくコミカルに見せてくださいました。山路さんが一人で悪役を買って出てくれていて良かったと思います。本当にイヤな男なので(笑)他の人だったらイライラしちゃってたかもしれません。
 石田圭祐さん。アメリカで最も多く家を売った不動産屋なのに、自分の豪邸を火事で失ったハリー役。気づきを得た中年男性の本当の気持ちがあまりにスムーズに私の心に入ってくるので、ちょっとびっくりしました。石田さんってすごい俳優さんだと改めて感じました。
 高田聖子さん。ハリーの妻で、自分のテレビ番組を持つほど有名な、食の「スタイル」を売りにする料理家役。ひょうご舞台芸術が上演するウェルメイドな翻訳劇に劇団☆新感線の看板女優さんが出演すること自体が面白いのですが、高田さんの個性を生かした笑いを誘う演技で、簡単に一方向に進ませずに多面的な見方ができるシーンを作ってくださいました。

作:ジョアンナ・マレー=スミス 翻訳:平川大作 演出:鵜山仁
出演:剣 幸 磯部 勉 富沢亜古 山路和弘 高田聖子 石田圭祐
美術:倉本政典 照明:勝柴次朗 衣裳:黒須はな子 音響:長野朋美 ヘアメイク:林裕子 写真:落合高仁 宣伝美術:坂本拓也 宣伝写真:サト・ノリユキ 演出助手:山田ゆか 舞台監督:北条孝 コーディネーター:マーチン・ネイラー 制作:相場未江 プロデューサー:三崎力(芸術文化センター推進室) 芸術顧問:山崎正和
RUP:http://www.rup.co.jp/
紀伊国屋書店内:http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/hall/hall02.html

Posted by shinobu at 19:43

2004年05月22日

新国立劇場演劇『てのひらのこびと』05/11-27新国立劇場 小劇場

 京都の劇団八時半の脚本・演出家の鈴江俊郎さんの脚本を、文学座の松本祐子さんが演出される、男2人と女1人の3人芝居。高校の女教師と男子生徒のかけおちのお話です。
 ほとんど裕木奈江さんと茂山逸平さんの2人芝居でしたね。心のままの言葉とまっすぐで大胆な演出に圧倒されました。私には初めての味わいだった気がします。この小さな、独特の世界を体験しに劇場へ足を運ばれると嬉しいです。

 舞台は田舎の川沿いの旅館の一室。畳の和室が丸くふちどられて、上から見ると涙のしずくのような形をしている部屋です。ちょっと緑がかった明るい水色で、壁や畳に“汚し”が入っています。まるで水滴の中にいるように感じられます。

 この作品には、脚本と演出の強い存在を感じました。鈴江さんと松本さんは、「妥協しない」という意味で共通しているのではないでしょうか。つまり一本とおった意図や思いが、がっしりとこの“小さな”作品を支えているのです。
 最初は役者さんの演技のカラーに慣れるまで時間がかかりました。ちょっと大げさでクサイので。でも、交わされる言葉の正直さがあまりに度が過ぎていて刺激的だったので、次第に気にならなくなりました。ここから先ネタバレします。

 残酷な脚本でした。無駄な飾りがない、というよりはあからさますぎて恐ろしいような。あんなに一刀両断に切り裂かなくてもいいのに、といたたまれない気持ちになりました。物語の顛末としては、「なんてひどい女!」と感じるのが大半でしょう。27歳の女教師が16歳の高校生を誘惑して、たぶらかして、自分の好きなように教育して、そして飽きて、捨てます。彼の人生は台無しになりました。でも、女ってそうなんです。突然、夢から覚めて素に戻って、自分の巣に帰るんです。二人で一緒に作りあげて共有してきたファンタジーをぶちこわして、ご飯を食べるし、生理が来るんです。
 少年も一方的に被害者だというわけではありません。家族に迷惑をかけ、自分の未来に自分から打撃を与えておきながら、自分は子供なのだから全てはあの女のせいなのだ、という所に帰ってきます。二人の恋は最悪の結末を迎えました。きっと二人の間の子供もおろされた(殺された)でしょう。そうやって彼ら(私達人間)は間違いを繰り返します。

 人間の清らかで無垢な想い、純粋な願いは、もとからあったのか新たに生まれたのか、それらは確かに自分でも気づかないほど心の奥底に存在します。それを鈴木さんは“手のひらの小人”“金魚鉢の中の象”“胸の中に住む小さなモノ”という言葉で表現されていました。私達の手のひらにも、こびとが乗っているんです。しかし、その小さなモノは甘やかすと巨大に成長し、自分も他人も全て犠牲にしてその願いをまっとうしようとします。私達はこの現代社会において、か弱く灯るそれらの宝物を守り育てられないまま、あきらめて、我慢して生きています。

 土砂降りの雨に打たれながら、裕木さんと茂山さんが、まっすぐに同じセリフを連呼し続けるラストシーンは圧巻です。役者さんだけでなく布団もカバンも、何もかもが水浸しで、舞台は大きな水溜りになりました。目が開けていられなくなるほど強く降り落ちる水は、自然および世界そのものを象徴しているようでした。人間はその大いなる力の前に無力で、ただ立ち尽くすのみです。

 そして二人が伝えていたセリフはおよそこういう意味だったと私には感じられました。優しい人間に、暖かい人間になれるまで、恋に落ちたことを純粋な喜びとして受け入れられるような、生まれてくるであろう命を何のためらいもなく喜べるような、そんな世界になるまで、100年も1000年も1万年もかかるかもしれない。永遠に遠い未来になってしまうかもしれないけれど、けれどもきっと雨は、その時まで振り続けてくれる。私達を見守っていてくれる。絶望的な悲劇の後に、赦しと戒めが表現されていました。

 二人が愛を育もうとした旅館の小さな和室は、しずくの中のようでもあり、鳥かごのようでした。独白しながら七転八倒する二人をふんわりと閉じ込めます。
 女が去った後、少年が怒りをぶちまけて襖や戸を破ると、廊下や棚が消えて黒い空洞になっていました。二人の愛が空っぽになった、もしくはそもそも何もなかったことが痛いほど伝わってきました。
 照明は舞台面を線がいくつも重なり合うように照らします。小さな床の間が舞台中央にあり、そこにおかれた金魚鉢をスポットライトで斜めから照らすのは、あからさまだしストレートです。

 セリフが難しいです。会話をしているかと思ったら突然に詩の朗読のようになったします。細かいところなのですが、「~~~なのさぁ」というように、語尾が「さ」になるセリフがとても多かったのですが、同じニュアンスになりがちでしたね。何かしら変化をつけてもらいたかったです。檀臣幸さんの「さぁ」は口癖ではなく方言のように聞こえて良かったと思います。

 男教師が去り際に「俺達は考えよう。しっかり考えよう。」という意味のセリフを言ったのが印象に強く残っています。まずは立ち止まって考えるということが必要なんじゃないかと思いました。

 裕木奈江さんさん。女教師役。困った時だけ目が笑う。禁じられた恋に燃える。逆境にときめく。ずーっと優等生だった。イヤな女ですよね(笑)。ぴったりだった気がします。特に悪党ぶりを存分に発揮した後、もう一度戻ってきて(本当は戻っていませんが)雨に打たれている姿を見ている時に、あぁこの人がこの役ですごく良かったなーと思いました。追いかけちゃいそうです。
 茂山逸平さん。登場してきた時、私には彼がおバカさんに見えなかったです。学校の成績が悪くて家庭環境もあまり良くない高校生役ですよね?やっぱり茂山さんご自身の育ちの良さがどうしても出てしまうのかしら(笑)。それはそれですごく素敵なのですが、この役自体には少し遠かった気もします。でも、子供ならではの純粋さと頼りなさが全身から感じられるのは、茂山さんの持ち物だなーと思いました。
 檀臣幸さん。とにかく服や布団をたたみ続けるエリート教師役。面白い・・・何を言っても大爆笑。出てきただけですぐ例の男教師だとわかりました。その姿にしっかりと現実を背負って出てきて、か弱い夢の中でもぞもぞと、何かと戦っているつもりになっている甘い二人の前に立ちふさがってくれました。


作 :鈴江俊郎 演出 :松本祐子
美術 :礒沼陽子 照明 :沢田祐二 音響 :高橋巖 衣裳 :前田文子 アクション :渥美博 演出助手 :城田美樹 舞台監督 :加藤高
出演:裕木奈江 茂山逸平 檀臣幸
新国立劇場:http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 13:22

2004年05月20日

パルコ/ニッポン放送『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』05/14-06/06パルコ劇場

 1994年アメリカのクラブで初演。そしてオフ・ブロードウェイで大ヒットし、映画も作られて日本でも2002年に公開されました。タイトルの直訳は『ヘドウィグと怒りの1インチ』。
 三上博史さんがしゃべって歌って雄たけびを上げる2時間。かっこ良すぎてシビれます!必見!!

 舞台はライブハウス。観客はそこに来た客という設定です。金髪の大きなウィッグと、女性の裸を思わせる強烈な衣装を身に着けたヘドウィグ(三上博史)が、歌を歌いつつ彼のこれまでの人生について観客に語りかけます。彼は性転換して東ドイツからアメリカに亡命した“オカマ”なのです。(あらすじはコチラをご覧下さい)

 三上さん、めちゃくちゃ下品!てゆーかお下劣!ほぼ変態!
 それが超かっこいい!(笑)
 歌、こんなにお上手だったなんて!
 カーテンコールであの腰の低さは罪!素顔が美形すぎ!
 もうこんな役、絶対三上さんにしかできないよぉ・・・最高!!

 お母さんがハンセル(ヘドウィグの本名)に寝物語に話した“THE ORIGIN OF LOVE(愛の起源)”は名曲ですね。ぼろぼろ泣いちゃいました。プロジェクターで壁にイラストが映されるのですが、そのイラストがすっごく良かったです。
 MAKE UPの歌“WIG IN A BOX”もうっとり~。サントラ買おうかと思いました。でも日本語盤じゃないから断念。映画を観てからまた考えます。

 ヘドウィグが昔の彼氏トミー・ノーシスとの悲しい別れと裏切りについて話すシーンの後半はどんより重たかったです。もうちょっと短くしてもらってもいいのに。オネエ言葉でしゃべりながらシャウトするド派手エロ衣装&ウィッグ姿の三上さんをもっともっと見ていたかった!

 ヘドウィグの現在の夫イツァーク役のエミ・エレオノーラさんは本当に歌がお上手でかっこ良かったです。なのに最後の演出はとっても残念でしたね。男から女に変身して客席から登場して来てくださったのに、私には何が起こっているのか全くわかりませんでした。そういえばプロジェクターで男と女が合体して・・・という映像を流してくれていたのに。私以外の観客もほぼ皆さん頭にハテナマークだったと思うんですよ。だから最後にノレなかった。手を振り上げてスタンディングできなかった。

 そもそもトミー・ノーシスとして三上さんが歌っている時だって、三上さんなのかどうかわからなかったんです(この作品について何の知識も持たずに観ましたので)。カーテンコールでメイクを落として出てきてやっとわかりました。あれはアイライナーで眼の上全体が真っ黒になっていたんじゃないかしら。私には巨大な眉毛に見えてたんですよ(笑)。ウィッグや衣装のトラブルもかなり発生していたのでこれから改善されるといいですよね。三上さんがアドリブで面白く切り抜けてくださっていましたが。
 さらに欲を言うとラストに“ANGRY INCH”をもう一度歌って欲しかったな~。

 そういえば『ROCKEY HORROR SHOW』でのROLLYさんの衝撃に似ています。東京厚生年金会館で追加公演があるのも同じだし。あぁ~・・・時間があれば私ももう一度行きたかった!とにかく三上さんを観てください!!

作 ジョン.キャメロン・ミッチェル 作詞・作曲 スティーヴン・トラスク
《出演》ヘドウィグ:三上博史 ROCK BAND“THE ANGRY INCH”→ イツァーク , Piano , Chorus :エミ・エレオノーラ Bass :横山英規 Drums:中幸一郎 Guitar:テラシィイ Guitar:近田潔人
翻訳・演出:青井陽治 音楽監督・編曲:横山英規 美術:二村周作 照明:吉川ひろ子 音響:山本浩一 衣裳:伏見京子 ヘアー:赤間賢次郎 メイク:久保田直美 演出助手:槙圭一郎 舞台監督:北条孝/上田光成 制作:田中希世子/村田篤史 企画協力:ポスターハリス・カンパニー 企画.製作:パルコ/ニッポン放送
パルコ劇場内公式サイト:http://www.parco-city.co.jp/play/hedwig/

Posted by shinobu at 11:32

2004年05月19日

TBS『浪人街』05/16-06/23青山劇場

 超豪華キャスト&スタッフの今年の話題作です。チラシのMAYAMAXXさんの絵が素敵ですよね。
 あんな大スターがあんなに体張ってがんばってる、というのを目の前で見られるのが大変面白かったです。怪我人続出との噂アリ。
 青山劇場のロビーに大きな花がめいっぱい詰め込まれて、何だかわからない花空間(部屋の隅に身長大の花がすし詰め)も出来ていました。

 幕末の世。舞台は人斬りが横行する江戸。居酒屋“いろは”で働く女スリお新(松たか子)はどうしようもない飲んだ暮れ&女好きの浪人 荒牧源内(唐沢寿明)と恋仲。お新に恋心を抱く真面目な浪人 母衣権兵衛(伊原剛志)と喧嘩っぱやい赤牛弥五右衛門(中村獅童)は“いろは”の常連。ある日、店の主人(田山涼成)が悪徳武士ら(升毅&鈴木一真)に殺され、お新は敵討ちをするために単身で敵地に乗り込むが捕まってしまう。「お新は俺の金づるだ」と言ってはばからない源内は果たして命を懸けてお新を助けに行くのか?

 美形の大スターばかり出演されているので衣装も当然似合うし、観てるだけで豪華だし、かっこいい決めゼリフも役ごとに必ず割り当てられているのですが、残念ながら俳優さんそれぞれの良さを生かすことができていないと感じる瞬間が多かったですね。企画・制作:TBSということで、演劇関係のプロデュースじゃないからこういうミスマッチが起こってしまったのではないか、と勝手ながら私は思います。

 まず、音楽が合っていないのが作品の統一感の無さの致命的なポイントだったと思います。坂本龍一さんのメランコリックで荘厳な音楽は、もっとゴシックなイメージのお芝居にぴったり来ると思うんですよね。この作品はPOP風チャンバラ活劇ですから、どうしても合わないというか、素敵な映画音楽などがかかってもシミジミなんて来ないし、それどころか笑いを誘うのです。もったいない。ほんとにもったいない。もったいないオバケが出ますよ絶対。

 終盤の見せ場の殺陣シーンはなんと舞台面が水びたし。斬って倒れてなぐって転んで、血しぶきも水しぶきも飛びまくり。これでもか!これでもか!と続き、もう終わるかなと思ってもまた盛り上がるような怒涛のサービスでした。すごすぎて笑うしかなかったほど。でも殺陣が決してうまくいってないんですよね・・・。それもこれもきっと水のせいなのではないでしょうか。メインキャストの方々は特に怪我をしないように体をかばいながら舞台に立ってらっしゃるのではないかと思うのです。これから1ヶ月以上ある公演、どうか皆様ご無事でおられますようお祈り申し上げます。
 
 唐沢寿明さんと松たか子さんカップルはものすごくさっぱりしていたというか、二人の間には恋や愛が感じられませんでした。別にそれでも気にならなかったのが観客として寂しいところです。必要だと感じなかったんですよね。お祭り騒ぎでもう満杯ですから。
 中村獅童さんは最近キワモノっぽい演技をされることが多いですが、今回もそうでした。バカ受けでしたね。私は歌舞伎に出られている時の獅童さんの方が好みです。

 舞台役者さんとして演技がとても素敵だと思ったのは伊原剛志さんと升毅さんと花王おさむさん。
 伊原剛志さんは劇団☆新感線『阿修羅城の瞳』でも堪能させていただきましたが、本当に殺陣が上手くて体が大きいから迫力があります。コミカルな演技も観客サービスも素敵。
 升毅さん。悪徳武士(父)。う~ん、やっぱり悪者役がぴったり(笑)。ヤな奴でカッコ良かったです。斬られる直前で色々遊んでらっしゃって生き生きしてましたね。そこが舞台役者さんならではのゴージャスさだと思います。
 花王おさむさん。最初に松たか子さんに財布をスられる老人役。渋いストレート・プレイによく出てらっしゃるのに、こういうエンターテイメント作品のおとぼけキャラへの転身も鮮やか。

 カーテンコールでは唐沢寿明さん仕切りでおふざけがいっぱいありました。そういう公演なんですよね。大スターを生で観て、楽しかったらOK!ってことで。私は楽しかった!ありがとうございました!
 蛇足ですが、パンフレットのアーティスト写真にピンボケが多くて驚きました。なぜなんだろう。松たか子さんだけはきっちりした美しい写真でした。さすが大女優さん。
  
脚本:マキノノゾミ 演出:山田和也 主題曲:坂本龍一 衣装デザイン:ワダエミ
出演:唐沢寿明/松たか子/中村獅童/田中美里/成宮寛貴/田山涼成/升毅/花王おさむ/木下政治/奥田達士/荻野恵理/鈴木一真/伊原剛志 アンサンブル:石田晃一 牛田裕也 UME 江部珠代 大野哲生 勝平ともこ 加藤照男 金井良子 川守田政宣 木下智恵 黒川恭佑 駒崎香織 五味良介 篠原正志 白井雅士 進藤浩志 鈴木真 染谷有紀 高橋光宏  匠耕作 田地正憲 津村雅之 藤榮史哉 徳永繁春 富永研司 中村獅一 中村蝶紫 名取弘二 林力 平塚真介 堀本能礼 前川貴紀 松上順也 水谷悟 安田美香 山村賢  勇太  吉田晃太郎
美術:堀尾幸男 照明:小川幾雄 音響:山本浩一 音楽:沢田 完 殺陣:渥美 博 技術監督:眞野 純 舞台監督:大垣敏朗 演出助手:佐藤万理 宣伝美術:祖父江慎 ドローイング:MAYAMAXX 宣伝写真:高橋淳一 アシスタントプロデューサー:町田直子(TBS) プロデューサー:河出洋一(TBS) 制作協力:シーソー 協力:ぴあ 主催・製作:TBS、朝日新聞社 企画・制作:TBS
浪人街公式サイト:http://www.ints.co.jp/roningai.htm

Posted by shinobu at 14:21

2004年05月18日

花組芝居『いろは四谷怪談』05/14-23世田谷パブリックシアター

 花組芝居の代表作だそうです。「10年封印していて、そろそろいいかなと思ってやったらこんなになっちゃいました」脚本・演出の加納さん談。
 チラシに『花組ビギナーにも最適です』と書いてありましたが、ちょっと濃すぎ(笑)。

 四谷怪談はそもそも忠臣蔵とも関係があるお話だそうで、伊右衛門はお家とりつぶしになって困っていた浪士だったために、金に目がくらんでお岩を捨て、金持ちのお梅(かな?)に走ったというくだりがあるそうです。そこを組み合わせてアレンジ(綯い交ぜ)したのがこの作品だとのこと。

 ものすごくセリフが難しい上に、役者さんが皆さんめちゃくちゃ早口だったので、お話が全然わかりませんでした。とにかくそれが残念。一言だけ感想を言うとすると、それに尽きます。

 踊るし走るし歌うし、衣裳もすごいし、役者さんはものすごい体力が必要だと思います。男だからこその大胆さと躍動感は花組芝居ならではですよね。気持ちいいです。
 花組芝居らしい豪華絢爛の衣裳でした。でも、ちょっと黒くて中華風?なのは不思議でした。
 チラシのシンボルにもなっている紅い彼岸花の巨大版が舞台中央にずっとぶら下がっていて、美しいのだけれどちょっとおどろおどろしい、異様な空気をかもし出していました。先っぽが光るのはおちゃめです。
 中盤は物語の意味がわからなかったのでダレてしまったのですが、伊右衛門とお梅の婚礼のシーンから本領発揮でした。めくるめくお岩ワールド。約20人全員お岩!圧巻!

 でも一番すごかったのは最後のレビューでしょう。ドス黒い宝塚でした(笑)。白い羽ではなく巨大な彼岸花しょって出てきたら笑うって、誰でも!

 加納幸和さんのお岩がやっぱり一番素敵でした。絵になるんですよねー。声がいいし。もっと一人で出て来てほしかった。
 大井靖彦さん。伊右衛門と新たに結婚するお梅役。劇団☆新感線の右近健一さんと劇団ひょっとこ乱舞のチョウソンハさんを足して2で割ったような感じでした(笑)。目が殺気立っててキュート。

 山形県から中学生が修学旅行で観に来ていました。カーテンコールで「とんでもないものを観せてしまいました(笑)」と加納さんがおっしゃっていましたが、ほんと、とんでもないかも(笑)。でも中学生向けのサービスがいっぱいあって楽しかったです。濡れ場の前に「今さらR指定っていうわけにもいかないので、担任の先生ごめんなさぁ~い!」とか言ってくれたり。プロって素敵だなーと思いました。

脚本・演出・出演/加納幸和
出演/水下きよし 原川浩明 溝口健二 山下禎啓 桂憲一  大井靖彦 八代進一 北沢洋 横道毅 嶋倉雷象 各務立基 秋葉陽司 松原綾央 橘義
美術:川口夏江 音楽:ノビタヒトヨシ 照明:橋本和幸 音響:清水吉郎 小道具:石井みほ 衣裳:尾崎由佳子 床山:太陽かつら店 衣裳スーパーバイザー:阿部朱美 大道具:C-COM 演出助手:則岡正昭 大野裕明 演出部:木崎宏司 舞台監督:安田美和子 宣伝イラストレーション:岡田嘉夫 宣伝写真:松谷椿土 宣伝美術:矢吹かおり 印刷:フジ・アート 協力:松竹衣裳 藤浪小道具 高津映画装飾 制作:多田知子 共催:世田谷パブリックシアター 企画・製作:花組芝居
花組芝居:http://www.hanagumi.ne.jp/

Posted by shinobu at 00:16

2004年05月15日

シス・カンパニー『ダム・ウェイター Aヴァージョン』05/10-06/06シアタートラム

 ハロルド・ピンターの不条理短編劇を2種類の演出家・キャストで上演するシス・カンパニーの企画公演。男2人芝居です。
 Aヴァージョンは演出:鈴木裕美 出演:堤真一・村上淳 です。私好みはこちらですので1つだけ観るならこちらをお薦めしますが、できれば2つとも観る方が演劇の醍醐味を味わえると思います。

 2人の殺し屋が狭い部屋で“仕事”の合図を待っている。お互いにとりとめもない話をしたりしながら時間をつぶしていると、突然に部屋に取り付けられていたダム・ウェイター(料理を上下の階に運ぶエレベーター式の装置)が動き出して・・・。

 客入れ音楽はエディー・リーダーの歌声。Fairground Attractionのアルバムですね。大好き。↓ここからネタバレします。

 ロマンティックなムードから一転、大きな地響きのような音が突然に鳴り、舞台の中央を隠すようにそびえ立っていた真っ黒い二つの壁が天井に上って行くと、リアルに組み立てられた箱庭のような部屋が現れました。壁は薄汚れたしっくいで、ところどころ剥げて煉瓦がむき出しになっています。部屋全体の色調はクリーム色や暖かい茶色ですが、全体的に古くさびたような、じめじめしたイメージ。パイプの足でできた安物っぽいベッドが二つ。さっき天井の方に上がった壁が重々しく釣り下がったままなので、部屋はまるで地下にあるように感じます。A、Bヴァージョンとも松井るみさんの美術なんですよね。“松井るみ”堪能です。

 男が二人。兄貴分の男ベン(堤真一)は比較的きちんとした身なりでベッドに横になりながら英字新聞を読んでいる。後輩らしき男ガス(村上淳)は落ち着かない様子でたわいもないことをしゃべりながら部屋をとぼとぼ、うろうろしている。
 “仕事(人殺し)”をする合図を待っているが、一向にその合図がない上に、わけのわからない料理の注文がダムウェイターで運ばれてくる。だんだんと不安に駆られてくる二人。

 パンフレットで演出家の鈴木裕美さんがおっしゃっていますが、タイトルの“Dumb Waiter”には2種類の意味があって、1つは「しゃべらない給仕」。つまりレストラン等によくある料理を上下の階に運ぶエレベーター式の装置のこと。2つ目は「まぬけな、待ち人」です。

 鈴木裕美さんの演出には毎度心を打たれます。これが演出というのだな!と感心します。非常にたくみに、そしてさりげなく、行間(セリフとセリフの間)をさまざまな角度・視点から埋めて行きます。具体的には、全くセリフのないシーンに長い間を作り、ある時は先輩が後輩を殺そうと企んでいるかように、ある時は後輩が先輩を後ろから狙っているかように見せていました。一口かじっただけでは「意味がわからない」と観客にそっぽむかれそうな難しい題材を、殺し屋の悲しい運命を描いた深みの有る物語に作り上げられました。

 結末を不条理にしなかったところが私はすごく好きでしたし、これが醍醐味だ!って思いました。
 ある人物を殺すために呼び出され部屋で待機していた殺し屋の二人だったが、ガスがお茶を沸かしにキッチンに行っている時に合図が来た。ターゲットはもうすぐに部屋にやってくるのだ。早く来い!とガスを呼ぶベン。しかしドアが開いて出てきたのは、殴られてぼろぼろになったガスだった・・・。驚愕しつつも銃をガスに向けるベンと、何が起こっているのかわからずに立ちすくむガス。身動きできずに見つめ合う二人。そして、少しずつ状況を把握したガスは、自分を打つようにと、ゆっくりとベンの前にひざまづく。The End。

 AヴァージョンとBヴァージョンを同じ日に拝見しましたがそれがとても良かった気がしています。今年2月に連続公演されたtpt『Angels in America』の第1部、第2部は昼夜で観るのはつらかったそうですが、こちらは短編ですし登場人物も2人だけですからね。作品として楽しむのに加え、演劇という一つの表現形態の無限の可能性を実体験できる貴重な機会にもなると思いました。

Aヴァージョン 演出:鈴木裕美 出演:堤真一・村上淳
Bヴァージョン 演出:鈴木勝秀 出演:高橋克実・浅野和之
作:ハロルド・ピンター
翻訳:常田景子/美術:松井るみ/照明:笠原俊幸/衣装:伊賀大介/音響:井上正弘/舞台監督:二瓶剛雄/プロデューサー:北村明子
シス・カンパニー:http://www.siscompany.com/

Posted by shinobu at 13:07

劇団ダンダンブエノ『バナナが好きな人』05/12-23青山円形劇場

 元・東京サンシャインボーイズの俳優 近藤芳正さん率いる劇団です。中井貴一さんと井手茂太(振付)目当てでチケットを取りました。

 コント55号が流行っていてバナナがまだ少々高級品だった時代。風景を描いた舞台奥の幕にはアドバルーンが飛んでたり。なつかしい昭和の日本の、ある家族のお話でした。
 お父さん(中井貴一)は包丁の店頭販売、お母さん(いしのようこ)は内職をして家計を助けている。さえない息子(温水洋一)は小学5年生。イヌ(酒井敏也)を飼っているが、そこに野良犬(山西惇)も出入りする。友達の女子高生(粟田麗)は詩人を目指すちょっと変わった女の子。虚言壁のあるお父さんと、実直なお母さんとの関係にひびが入っていく。

 1961年生まれの近藤芳正さんや中井貴一さんの子供時代が舞台なのでしょう。だからその世代にぴったりの観客にとってはものすごく親しみやすいし共感できる設定だったと思います。初日だったのも大きいですが、観客がすごく舞台に近かった気がします。何でも笑ってくるというか、内輪受けに近いというか。

 息子が言います。「お父さんが言ってることは全部本当なんでしょう?そして、お母さんはお父さんの嘘が信じられないんだね?」この言葉がすごく良かった。お父さんにとってははファンタジー、お母さんにとってはただの嘘。これは男と女の根本的な違いであり、そこでずっと戦い続けてきたのが男女の歴史のような気がしています。
 お父さんがついた“嘘”をどんどん“本当”していく劇中劇シーンで、結局またお母さんを置いてきぼりにしていくという見せ方はすごく胸に届きました。

 ただ、中井貴一さんの“橋幸夫”ものまねカラオケって・・・会場はバカ受け手拍子状態でしたが私はあまり楽しめなかったですね。井手茂太の振付のダンスが、あんな風にしか使われてないのが残念です。別に井手さんじゃなくてもいいじゃないか!って思います。そりゃぁすごく楽しいダンスだったんですけどね。女子高生役の粟田麗さんが特にお上手でした。ビヨークみたいだった。

 また、円形劇場なのにプロセニアム(額縁)形式なのはあまり嬉しくないんです。円形劇場でやらなくてもって思います。クドイですが、井手さんの振付を青山円形で♪って思ったからチケット取ったのもあるで。

 中井貴一さん。自分がついた真っ赤な嘘を本当だと思い込んでしまうトボけたお父さん役。巧い・・・演技うますぎ。いちいち感動します。中井さんを堪能できたという意味で満足できます。
 いしのようこさん。何でも笑って許してきたお母さん役。普通ならもっとムっとしたり、嫌みでも言いたくなるでしょう!?と思うところを、優しく柔らかく見せてくださいました。線が細くて弱くてきれい。

作:大森寿美男&ダンダンブエノ 演出:近藤芳正 振付:井手茂太
出演:中井貴一 いしのようこ 酒井敏也 山西惇 粟田麗 温水洋一 近藤芳正
美術:伊藤保恵 照明:吉澤耕一 音響:鹿野英之 スタイリスト:花谷律子 演出助手:山田美紀 舞台監督:村岡晋 宣伝美術:高橋雅之 宣伝写真:小木曽威夫 Web:川村公一 酒井元舟 制作:大西規世子 千葉博実 尾崎裕子 中村真由美
制作/ジーツープロデュース 制作協力/ユニマテ 企画・製作/劇団♪ダンダンブエノ
劇団♪ダンダンブエノ:http://www.dandanbueno.com/
G2プロデュース:http://www.g2produce.com/

Posted by shinobu at 12:27

2004年05月13日

新国立劇場オペラ『マクベス』05/13-28新国立劇場 オペラ劇場

 野田秀樹さん初のオペラ演出です。美術、照明、衣裳、振付の抜群のスタッフワークから新たな解釈の『マクベス』が生み出されました。歌と音楽も文句なしに素晴らしく、目も耳も心もすっかり魅せられるオペラでした。初日写真はこちら。稽古場風景はこちら

 ネタバレします。これから観に行くと決めていらっしゃる方はお読みいただかない方が良いと思います。ただ、読んでから観に行ってもきっと楽しめますよ。

 客席に座ると、一面の黄色いお花畑になった舞台が見えています。しかし舞台奥の壁を飾る幕は、いかにも幽霊が出てきそうな灰色とモスグリーンの深い森のイメージでした。そこに突然しゃれこうべがヒョイと出てきたのです。「な、なんだコレ?・・・もしかしてめちゃくちゃ奇抜な作品にしたのかな?わ、私は苦手なのに・・・!」と一瞬引いちゃったのですが、そんな私の気持ちなんて全く解さずに(当然ですが)、次々にとめどなくガイコツ、ガイコツ、ガイコツのオンパレード。舞台に数十人(匹?)のガイコツが舞いまくり。えええええっっ!?!? こ、これ・・・・ヘンっす、ヘンっすよ野田さん!オペラにはあるまじき、というか、気持ち悪いし、正直言ってかっこ悪い!!
 ・・・オープニングはそんな感じですごく居心地の悪いオペラ劇場でした。「困った・・・これからどうしたらいいんだろう・・・」というのがしょっぱなの率直な感触でした。

 でも、しばらくするとお花畑が地下に沈んで行き、ガイコツも消え、その上から被さっていくように、舞台奥から巨大な王冠の形をした舞台がせり出してきたのです。これぞ新国立の装置の醍醐味ですよね♪ 暗くなっていた気持ちがすっかり期待に変わりました(調子いいっ)。王冠は回り舞台(お盆)の上に乗っていて、回転しながら場面転換をします。お花畑以外はすべてこの王冠を使って表現されました。美術は野田作品に欠かせない堀尾幸男さん。鈴木裕美さん演出『奇跡の人』でも回り舞台で全てを表現していましたよね。王冠を丸くかたどっている階段が外側に開いていくと、舞台の上袖から下袖まで広がった壁にもなります。
 「装置としては、荒野に巨大な王冠が一個あり、その下に眠っている骸骨たちが、その王冠をめぐるお話を語っている。それが、『マクベス』だという解釈です。」(当日パンフレットの野田秀樹さんへのインタビューより)

 『マクベス』で重要な役割を果たす3人の魔女を、“魔女”ではなく“戦争で殺された多くの死者たち”としたことが、今回の演出の最大のポイントです。死者たちとはすなわち黒装束のガイコツたちのこと。常に舞台上に数人おり、登場人物たちを誘導していきます。最初はめちゃくちゃ気持ち悪かったガイコツたちですが、場面転換の時にガイコツたちだけが出るコミカルなシーンを作り、すっかり親近感が持てるようになりました。野田さんはさすがだな~。ガイコツは実はわれわれ(観客)の味方なのだと思って観ていけば、このお芝居の大意がつかみやすくなるのです。

 クライマックスで、マクベスとマグダフが中央で戦っている間に、いつの間にか舞台上に平民の数が増え、どんどんと床に横たわっていきます。死体を背負っていた人がまた死体となって重なり合い、まるで原爆投下直後の広場のよう。実は彼らはガイコツを演じていた人たちで、被っていたガイコツと黒装束を次々に脱いで、平民に変身していたのです。王冠を被ったマグダフが、無数の死体の上で勝利宣言をするラストシーンでは、興奮と疑問が足の裏からじわじわと体全体に沁みて来て、静かな思考に至りました。この作品をつくる人たちのパワー全部が、最後のシーンで結実していたように思います。

 作品全体の色使いが、美術(堀尾幸男)、照明(服部基)、衣裳(ワダエミ)によって、深く計算された配色になっていました。
 黄色い一面の花畑の中に黒装束のガイコツが何十人と踊り舞うオープニングは、ほんとに頭がおかしくなりそうなビジュアルでした。黄色い花畑のシーンの直後に出てきたマクベス夫人が、花畑と同じ黄色のドレスを着ていたのもかっこよかったです。黄色ってどこか狂ったイメージがありますよね。
 マクベスの家来たちの衣裳は、なぜあんなどぎついスライム色(黒光りするような青緑色)なんだ?って思っていたのですが、あるシーンでその意味がわかりました。マクベスが王になった祝賀会の席で、マクベスだけにバンクォーの亡霊が見えるところです。スライム色の客人、家来たちには青い照明があたり、全身がヌルっとした青緑色になるのですが、マクベスだけには普通の白い照明があたるので、彼の狼狽する姿が一気に目立ちます。
 兵隊の衣裳はどこか宇宙的というか、生きた普通の人間らしくない質感および色使いで、平民の衣裳は日常的な生活感が感じられる布を使っており、色は虐げられているイメージのある灰色でした。
 終盤の“バーナムの森が襲ってくる”シーンで、森の色が緑ではなく、赤っぽい茶色だったのが新鮮でした。マクベスを倒そうとやってきたイングランド兵が緑色だと、平和の使者のようですものね。あくまでも戦争をしかけていく兵隊は、燃える血のような赤色なのでしょう。

 マクベス夫人はゲオルギーナ・ルカーチさん。歌はもちろん素晴らしかったですが、これまで観た中で私が初めて腑に落ちたマクベス夫人の演技でした。激しく残酷で、しかし可憐さも忘れない。マクベスが王に即位した祝宴会シーンで夫人がマクベスをひっぱたいたのですが、オペラで女が男を平手打ちするのなんて初めて観ました(笑)。

 カーテンコールで野田秀樹さん(演出)、堀尾幸男さん(美術)、ワダエミさん(衣裳)、服部基さん(照明)、木佐貫邦子さん(振付)が出ていらっしゃって感無量でした。拍手がなりやまず、何度も何度もカーテンコール。

 fringe blog 野田舞台の小道具にさわれます

作曲 :ジュゼッペ・ヴェルディ 原作 :ウィリアム・シェイクスピア 台本 :フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ / アンドレア・マッフェィ
指揮 :ミゲル・ゴメス=マルティネス 演出 :野田秀樹 美術 :堀尾幸男 衣装 :ワダエミ 照明 :服部基 振付 :木佐貫邦子 舞台監督 :大仁田雅彦 合唱指揮 :三澤洋史 合唱 :新国立劇場合唱団 / 藤原歌劇団合唱部 管弦楽 :東京フィルハーモニー交響楽団 主催 :新国立劇場
出演→マクベス :ヴォルフガング・ブレンデル マクベス夫人 :ゲオルギーナ・ルカーチ バンクォー :妻屋秀和 マクダフ :ミロスラフ・ドヴォルスキー 他
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s226/s226.html

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2004年05月11日

シス・カンパニー『ダム・ウェイター Bヴァージョン』05/10-06/06シアタートラム

 ハロルド・ピンターの不条理短編劇を2種類の演出家・キャストで上演するシス・カンパニーの企画公演。男2人芝居です。
 Bヴァージョンは演出:鈴木勝秀 出演:高橋克実・浅野和之 です。やっぱりクールなsuzukatz.(スズカツ:鈴木勝秀さんの愛称)ワールドでした。

 2人の殺し屋が狭い部屋で“仕事”の合図を待っている。お互いにとりとめもない話をしたりしながら時間をつぶしていると、突然に部屋に取り付けられていたダム・ウェイター(料理を上下の階に運ぶエレベーター式の装置)が動き出して・・・。

 客入れ音楽はたしか先日も『LYNKS』@青山円形劇場でも流れていたロック・ミュージックでした。残念ながら誰のどの曲かは私にはわかりませんが、軽快だけど骨太な感じでカッコいいです。↓ネタバレします。

 突然ガガーン!と爆発音か雷か、と思うようなすごい音が響いたかと思ったら、舞台中央の四角くて大きな穴から鉄の柱のようなものがゴゴゴゴーっとそそり出てきました。なるほどあれがダム・ウェイターですね。そのまま待っていると、男2人が横になったベッドを載せた床が登ってきて、ガッシャーン!と舞台と同レベルで止まりました。ロボットアニメで胴体と下半身が合体するかのようでした。

 シアタートラムの石の壁をそのまま使っていて舞台全体のイメージは重金属の黒。メタリック&クールな抽象です。ど真ん中に大胆に生えているダム・ウェイターと同じく、ドアを表す2本の柱やベッドは鉄で出来ています。ベッドの上に敷かれた毛布とシーツが透明や薄水色のビニールなのが、すごく面白い。タバコも透明のアクリルの箱で、ピストルは蛍光色のプラスティック水鉄砲。浅野和之さんが読んでいる新聞も透明のプラスティックで、めくるとカシャカシャ音が鳴ります。

 衣裳は2人とも上質の真っ白のシャツに黒いパンツ。ウールの生地質がすごく良いんです。そしてまっさらの黒い革靴が渋い!カッコいいです。

 特筆すべき特徴がもう一つ。音がすごかったんです。体中にビンビン響く重低音が、いやおうなしに恐怖を誘いました。よく見ると巨大なスピーカーがダム・ウェイターの真後ろ、舞台中央の奥に設置されていたんです。

 作品としては、いわゆる不条理劇のスタイルに仕上がっていました。舞台上に居る役者さんが何かを意図して演じている様子ではなく、登場人物というよりは高橋克実さんと浅野和之さんご自身がそのまま居るような印象です。観客はもちろん訳がわからないまま彼らを眺めるだけの状態で、そして突然、何の説明もなく、全てを投げたまま終わります。

 あえてストーリーがあるとして考えると、高橋克実さんだけが何も知らされていなくて、そのまま罠にはめられたというような筋書きになるでしょうか。でも、この演出は筋書き(ストーリー)なんてどうでもいいんだろうと思います。「息苦しいほどの閉塞感」「得体の知れないモノ・コトに追い詰められている」「最期(死)に向かって突き進んでいる」「決して逃れることができない運命」などの感覚さえあればいいんじゃないかな。

 ダム・ウェイターの仕組み、一体どうなっていたんだろう・・・。私は中央辺りで2段階に分かれていて、後ろに人が一人居たと思うのですが、皆様はいかがですか?(笑)

Aヴァージョン 演出:鈴木裕美 出演:堤 真一・村上 淳
Bヴァージョン 演出:鈴木勝秀 出演:高橋克実・浅野和之
作:ハロルド・ピンター
翻訳:常田景子/美術:松井るみ/照明:笠原俊幸/衣装:伊賀大介 音響:井上正弘/舞台監督:二瓶剛雄/プロデューサー:北村明子
シス・カンパニー:http://www.siscompany.com/

Posted by shinobu at 23:39

2004年05月08日

新国立劇場演劇『THE OTHER SIDE/線のむこう側』04/12-28新国立劇場 小劇場

 アリエル・ドーフマンさんが新国立劇場のために書き下ろした新作の世界初演です。
 チリ人が書いた脚本を、韓国人が演出し、日本人が演じます。こんなことが実現していること自体、奇跡と呼べるのではないでしょうか。
 珠玉の3人芝居。涙が止まらなくなるシーンがありました。
 ⇒舞台写真

 舞台は、戦争中の2つの国の間の国境近くにある、ぼろぼろの小屋。家を出ていった息子を想いながら戦争が終わるのを待っている老夫婦は、爆弾で死んだ人々の死体を管理して生計を立てている。ある時、とうとう二国間で和平条約が結ばれた。大喜びする二人の前に若い国境警備員の男が現れ、新しい国境が老夫婦の家のど真ん中を通ることを伝えた・・・。

 オープニングの岸田今日子さん(レヴァーナ)と品川徹さん(アトム)とのベッドシーンで、もう泣けて来てしまいました。子供がいない(失踪している)老夫婦が戦場で生きていることを確かめる方法は、食べることと肌を合わせること。そのベッドの真ん中を国境線が通ることになるのはとても滑稽で象徴的です。

 嬉しいハプニングのように始まった3人そろっての食事のシーンで、涙が搾り出され止まらなくなりました。
 国境警備員の食事の前のお祈りは「全ての食事は奇跡です!」という一言。
 食べるということは、国が違おうが人種が違おうが、戦時だろうが平時だろうが、人間が生まれた時から変わらないことです。

 老夫婦の過去には実は表ざたに出来ない犯罪があったこと、息子は自分のルーツを調べるために家を飛び出したことなど、3人のしっちゃかめっちゃかの可笑しなやり取りの中から複雑な事実が見えてきます。そして、国境警備員は果たして本当にレヴァーナとアトムの息子だったのかどうかも謎のままでした。この世界で起こっている問題への回答や解決策は決して一つだけではなく、でもその複雑さの上に人は生きていて、笑っているんだなと感じました。

 重いテーマをたくさん背負っているのに、とても笑いの多い作品でした。国境警備員役の千葉哲也さんのおかげですね。私にはその笑い自体が感動でした。このお芝居を作った人と観ている人とが一緒に笑っているこの劇場こそが、平和そのものだと感じられたからです。

 終演後、舞台つらに沢山のお客様が集まってきました。壁が崩れて最後に現れた広大な墓地のセットや、屋台崩しの仕掛けを見るためでしょう。それにしても人数がとても多かった。戦争をテーマにしたものすごい悲劇作品を観たというのに、そういう好奇心が素直に行動に出るのは、この作品と観客の距離がすごく近かったからだと思います。不思議な爽快感がありました。

 今公演のパンフレットのドーフマンさんの文章を、ここに少し引用させていただきます。このパンフレットにはあの3人の食事シーンの稽古場写真も掲載されていて、私の宝物になりました。

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 作品の舞台は、半永久的に戦争を続けてきた二つの国の間の国境です。共鳴するテーマは、愛と破滅、移住と定住、行方不明の子供たちと忘れ去られた親、犠牲者と征服者、記憶と和解。これらは、みなさんの国の歴史、私の歴史、そして私たちの輝かしくも哀しい地球上にあるほとんどの国の歴史に刻まれてきたテーマです。コントロールできない力によって行き場を失った人々、厳しく、悲劇的でさえある状況の中で自分たちのアイデンティティと救いを捜し求める人々が増え続けている現代、この特別な時だからこそ、アトムとレヴァーナ、そして彼らを訪れた客を描いたこの物語が生まれたのです。

 日本は、現在ではごくわずかな国がそうであるように、戦争の意味と、自分たちの息子や娘を失うことが母や父にとってどれほど辛いものかを知っています。

 日本は、現在においても過去においてもごくわずかな国がそうであるように、侵略することの意味と侵略されることの意味、襲撃することの意味と襲撃されることの意味を知っています。

 日本は、どんな戦争においても、誰よりも被害を受け苦しむのは誰よりも平和的な人々であることを知っています。

 これらのジレンマに対する日本の人々の黙想から生まれた芸術は、日本の人々が国境を越えてすべての人間に与えてくれたもっとも素晴らしい贈りものの一つです。

 THE OTHER SIDEを、共通した人間性の探求という贈りものとして皆さんとともに人類に向けて捧げること、それが私の今の願いです。

 2004年4月 アリエル・ドーフマン 
 (パンフレットp.2より抜粋)
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 新国立劇場 芸術監督の栗山民也さんは、9・11の2ヵ月後の朝日新聞に載ったドーフマンさんのエッセイとインタビューを読んで、執筆依頼の手紙を書かれたそうです。下記にその記事の抜粋をパンフレットより引用させていただきます。

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 「ニューヨークの現場で『米国は世界に尽くしているのに、なぜこんな仕打ちを受けるの』と泣き叫んだ女性の声が耳に残っている」という質問者にドーフマンは答えている。「米国が嫌われる理由は、まさにその疑問の中にある。米国が何をしてきたかを、彼女は知らないのだ。チリの人々に聞いてほしい。米国はチリに干渉し、ピノチェトのクーデターを助け、選挙で民主的に選ばれたアジェンデ大統領を倒させた。ピノチェトは、合法的にはできないことを暴力でやったテロリストだった。米国はテロと戦うというが、ニカラグアでテロリストを武装させ、エルサルバドルのテロリスト政府を助けたのも米国だ。強者は忘れるが、敗者は忘れない。」
 (パンフレットp.25より抜粋)
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作:アリエル・ドーフマン 翻訳:水谷八也 演出:ソン・ジンチェク
出演:岸田今日子 品川徹 千葉哲也
美術:堀尾幸男 照明:服部基 音響:高橋巖 衣裳:前田文子 ヘアメイク:林祐子 演出助手:川畑秀樹 舞台監督:田中伸幸
新国立劇場 : http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 23:44

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『オセロー』04/15-29ル テアトル銀座

 『オセロー』は1604年に執筆されたと言われるシェイクスピアの四大悲劇の一つ。『オセロー』といえばテーマは「嫉妬」です。
 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)はイギリスの劇団です。1961年から今の名前になったのですが、その前身となったシェイクスピア記念劇場は1879年から開場しています。イギリスの演劇の歴史はすごいですね。

 ムーア人の将軍オセローは異国人ながらもヴェニス政府の将軍となり、美しい妻も娶って幸せの絶頂にいた。自分を副官に昇格させなかったオセローに恨みを抱いた旗持のイアーゴーは、たくみな話術と残酷な所業をかさね、オセローに妻の不貞を信じ込ませる。オセローは嫉妬心から自分の妻を殺してしまうが、それがイアーゴーの策略だったと知ると、イアーゴーを殺して自らも命を絶つ。

 原作は16世紀のお話ですが、この作品では1950年代となっています。リアルな軍服を着た男達とステレオタイプの可憐な妻たち。舞台には鉄格子(金網?)の柵と扉があり、牢屋や戦場をイメージさせます。カーキ色の軍服姿の男優さんが背筋をピシっと伸ばしてロボットのように現れて、去っていく。花柄のワンピースを着た、いかにもおしとやかそうな白人女性がしなしな歩く。ことごとく私の好みではないし、退屈だし、どうも慣れない空気のまま前半は終わってしまいました。

 後半は、妻デズデモーナの衣裳部屋(着替えるところ)やクライマックスの寝室のシーンなどへの転換が面白かったです。家具や布を使ってシンプルかつスタイリッシュに、そして華麗に場面が変わるのが良い。登場人物もやっと本性を表してきますし。

 役者さんが誰と話をしていても“一人”なんですよね。舞台にいるのは自分だけ!というような存在の仕方で、とっとことっとこ話すんです。シェイクスピアのセリフは長い独白であることが多いのですが、それをしゃべっている役者さんにだけ丸くスポットライトが当たって、自分で自分だけに話しかけているような感じ。お客様にも相手役にも、誰にもベクトルが向いていないんです。あれでどうやってコミュニケーションとるんだろう・・・。

 イアーゴー役のアントニー・シャーさん。2000年に同じくグレゴリー・ドーラン演出の『マクベス』@東京グローブ座を拝見したのですが、その時のマクベス役もシャーさんだったんですね。う~ん・・・あまり好きではないな~。彼がまさに「舞台には俺一人だけ!」な人なんですよ。

 オセロー役のセロー・マークさんご自身が南アフリカ人であることが、この『オセロー』の魅力であり見所のようです。何しろ怒ったときの動作が面白い。あの踊りは何なんだ!?おったまげました。民族舞踊というか、まさにネイティブ・アフリカンの躍動を感じます。でも・・・合ってるのかしら?私は違和感をぬぐえませんでした。

 感情移入できたのはオセローの妻デズモデーナ(リサ・ディロン)だけだったかな。イアーゴーの妻エミリア(アマンダ・ハリス)はかっこ良かったけど、役者さんご自身が魅力的なだけな気がします。

 それなのに、なんと、最後はじ~んと来てしまいました・・・。たしか1994年に観たエイドリアン・ノーブル演出の『冬物語』@セゾン劇場(今のル テアトル銀座)でもそうでした。なんとな~くシンプルにサラっと進むのですが、最後は涙が出てくるんです。なんてすごいんだ・・・さすがRSC、なのでしょう。

演出:グレゴリー・ドーラン
出演:サー・アントニー・シャー(イアーゴー役)、セロー・マーク(オセロー役)、ほかロイヤル・シェイクスピア・カンパニー座員
主催:日英シェイクスピア上演委員会
ホリプロ内『オセロー』サイト : http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=39#

Posted by shinobu at 20:39

松竹・テレビ朝日『アマデウス』ル テアトル銀座05/05-27

 1981年トニー賞受賞作品。映画もアカデミー賞をたくさん受賞してますよね。日本では1992年初演で今回は6年振り、9度目の再演。この公演の千秋楽で上演回数400回を記録するそうです。アマデウスは「神の寵児」の意味。
 同じ分野の芸術家が片方の才能を嫉妬するお話で、親子(父子)共演するなんて・・・マゾなんじゃないの!?って思います(笑)。

 出演者は豪華だし、衣裳も美術もル テアトル銀座では久々のヒットだったし、脚本もさすがに面白くって、予想をしていたよりもずっと楽しく拝見させていただきました。

 映画を観た頃は私はまだ子供だったので、オペラのシーンを観ても「衣裳や舞台が豪華でキレイ!」ぐらいにしか思っていなかったのですが、オペラを経験した今では「あのオペラにはこんな背景があったのか!」と夢中になりました。
 『フィガロの結婚』:サリエーリ「彼は日常から芸術を作り、私は伝説から凡作を作った。」
           (理髪師が主人公のラブ・コメディーだから。)
 『ドン・ジョヴァンニ』:モーツァルトは亡くなった厳格な父親の影を登場させた。
 『魔笛』:それはモーツァルト自身のこと。サリエーリ「彼は神の吹く“笛”だったのだ。」

 作者ピーター・シェファーさんの文章に「日本の『アマデウス』はオリジナルのジョン・ベリーによる装置、衣裳、照明デザイン、またハリスン・バートウィッスルの音楽アレンジメントを使っている唯一のカンパニーです」とありました(パンフレットより)。
 なるほど、衣裳も装置も本当にうっとりするほどのクオリティーだったのはこのせいだったのね~。ものすごく私好みでした。

 そして音楽!そうですよ、モーツァルトだもの!モーツァルトを前にサリエーリが報われない想いを独白するシーンが何度もあるのですが、涙が溢れて溢れて、顔がくしゃっとなって、なんでこんなに!?と自分でも驚くほど心が震えました。後半になって気づいたのですが、それらのシーンでは必ずモーツァルトの音楽がかかっていたのです。
 幸四郎さんのサリエーリも染五郎さんのモーツァルトも、モーツァルトの調べの前には同じ人間でした。神の前にひざまずき、ありのままの姿をさらけ出した彼らは、まるで私自身、というよりは“人間”そのもののように感じられました。

 下品なところが多々あったのですが・・・私は苦手ですぅ。染五郎さんを正視できませんでした(笑)。モーツァルトが、卑猥な言葉ばかり連発する、行儀の悪い、軽率な、子供っぽい青年である(パンフレットより)というのが本もとの設定ですから仕方ないんですけどね。あれでも外国バージョンよりはずっとマシなのだそうです。

 松本幸四郎さん。サリエーリの気づきと苦悩を、情熱的にしたたかに演じてくださいました。私はあまり幸四郎さんってタイプじゃないんですよ、声とか演技とか。だけどこのサリエーリ役には本当に感動させられました。ものすごい適役なんですね。演出をされているのも良かったんじゃないかなー。

 市川染五郎さん。登場シーンで緊張が伝わってきました。気が張っていて笑えない。声が割れてたのも残念。やっぱり2日目って役者さんは不調ぎみなのかも(笑)。でも中盤を越える頃からそんなのどうでもよくなりました。だってキレイなんだもの!彼は染五郎じゃなくなっていました。モーツァルトでした。不幸な少年でした。
 染五郎さんは「前回までは天才だけれど最後に死ぬところでは、人間として見せようと演じました。でも今回は、人間的な部分をまったく感じさせないモーツァルトで行こうと思います。」と記者会見でおっしゃっていたそうですが、私はこの解釈がとても良かったと思います。

 馬渕英里何さん。残念ながら気品が感じられなかったです。だから、スタイルがとっても良い方なのにドレスがあまり似合わないんですよね~。劇団☆新感線での味をそのまま乗っけてしまっているのが問題なのではないかしら。コンスタンツェは褒められると必ず「最高!」という言葉を返すキャラクターなのですが、ちゃんと言えてなかったと思います。

 ※引用したセリフは完全に正確ではありません。

作:ピーター・シェファー 演出:松本幸四郎
出演:松本幸四郎(サリエーリ) 市川染五郎(モーツァルト) 馬渕英里何(コンスタンツェ) 堀越大史 新井康弘 長克己 外山誠二 奥野匡 日野道夫 田中耕二 河野正明 植本潤 松本幸太郎 春海四方  五十嵐りさ 杉浦悦子 那智ゆかり 松本錦一 松本染二郎 桑原一人 加瀬竜彦 池田真一 辰巳蒼 松川真也
翻訳:倉橋健 甲斐萬里江 美術:畑野一恵 照明:沢田祐二
音響:辻亨二 内藤博司 メーク:青木満寿子 演出助手:赤羽宏郎 松本紀保 舞台監督:松坂哲生 制作:吉川博宗 寺川 知男 制作協力:(株)松竹パフォーマンス 協力:シアター・ナインス 主催:松竹株式会社 テレビ朝日
松竹内公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/play/others/le_theatre/amadeus/

Posted by shinobu at 19:24

2004年05月05日

加藤健一事務所『世はすべて事も無し』05/01-05紀伊国屋サザンシアター

 平成13年度文化庁芸術祭賞 優秀賞、第9回読売演劇大賞最優秀作品賞・最優秀演出家賞(加藤健一) 受賞作品です。見逃したのでリベンジ。
 クスっと笑ってポロポロ泣いて、暖かい気持ちで劇場を後にできました。

 客席にはご年配の方が多かったです。その「ご年配」のお客様よりも舞台の登場人物の方がかなり年上(60代後半から70代)で、なんだかすごく優しい空気が流れいていました。人生の黄昏を迎えた普通の素朴な人々が、今いちど自分の本当の気持ちについて考えて行動を起こしていくのは、まるで未来の私達を観ているようで、すごく親近感が沸くし臨場感もあるのです。

 「年を取れば“すべて世は事も無し”というような心の平安にたどり着くのだろうと思っていたが、全くそんなことはなく、欲望も悩みも大きくなるばかり」と、イカズゴケの四女アリーがつぶやきます。(セリフは正確ではありません)
 三女アイダの夫カールは「自分はどこにいる?」「私は何者なんだ?」と悩んでいつも発作を起こします。
 長女エスティの夫デイビッドは、妻の姉妹やその家族のことをバカだと思っていますが、いざ夫婦喧嘩をしてエスティが帰って来なくなると、いつもは絶対に足を踏み入れなかった4姉妹の集まる庭によく訪れるようになります。

 ルール(常識)はとても大切だけれど、恋愛や革命、突然変異とかって、ルールを破った時に生まれるんじゃないかなって近頃強く思うのです。ルール違反、常識ハズレ、我を忘れたり狂ったり。そんな時に人間は思いもよらぬパワーを発揮して、人間にしか造ることの出来ない世界や、人間にしか味わうことの出来ない感情を生み出すことが出来るのではないでしょうか。叶わぬ夢、許されぬ恋心、がむしゃらの努力。その時、人間はすごく輝いているのです。体中から光を放っているのです。

 もちろんむやみにルールを破ることを奨励する気持ちはないですよ(笑)。全く結婚する気のなかった甥のホーマーが、自分が結婚した後に住むはずだった家を叔母(二女コーラ)に乗っ取られて、初めて「自分は40歳になるというのに、なぜ結婚もしていないんだ?自立していないんだ!?」と気づくところが私は好きです。
 そして、ホーマーが思いっきり本気で、無我夢中でマートルにプロポーズするシーンは嬉しくってしょうがなかった。あんなにイケてないホーマーがめちゃくちゃイイ男に見えました。 

作:ポール・オズボーン 訳:小田島恒志 演出:加藤健一
出演:清水明彦、有福正志、井之上隆、志岡まゆみ、一柳みる、加藤健一、倉野章子、山口果林、竹下明子
美術:石井強司 照明:五十嵐正夫 音響:松本昭 衣裳:加納豊美 ヘアメイク:馮啓孝 舞台監督:飯塚幸之介 井波毅 演出協力:久世龍之介 制作:阿部悦子 中島久仁子 北村浩子 熊谷公美子 長谷清香
加藤健一事務所:http://homepage2.nifty.com/katoken/

Posted by shinobu at 01:39

2004年05月04日

青年団プロジェクト公演『忠臣蔵・OL編』『ヤルタ会談』05/01-16アトリエ春風舎

 非常に評判の高い青年団の『忠臣蔵』シリーズ、初見です。(『ヤルタ会談』は以前に観てとっても面白かったですが、今回は行きませんでした)
 上演時間が短いとは言えチケット代が非常にお手ごろです。『忠臣蔵・OL編』は前売り1,500円でした。すごい。

 ある会社のお昼休み。思い思いの昼食を取っているOL達のところに「殿が吉良を切りつけて、切腹させられた。お家は断絶、領地は没収。そして吉良はお咎め無し。」というニュースが入ってくる。これから一体どうするべきかを家老以下数名で話し合い、「討ち入りをする」という結論にいたるまでを描く。

 舞台美術と登場人物の衣裳や話し方、立ち居振る舞いは現代のOLなのですが、ストーリーは『忠臣蔵』そのままでした。話題に上るのは“殿(との)”、“吉良”、“幕府”ですし、登場人物の呼び名も“ご家老”等です。私は『忠臣蔵』をモチーフに現代のビジネスシーンでの派閥争いや義理人情、友情などを描く、新しいストーリーものなのかなと勝手に想像していたので、すごく意外でした。

 う~ん・・・評判を聞いて観に行ったので、残念ながら私には肩透かしでした。噂も何も聞かずに観ていたらもっと素直な感想だったかもしれないんですが。でもあまり楽しめなかったというのには変わりないかも。

 これは観た回にもよるのでしょうけれど、役者さんの演技がわざとらしかった。変わった台詞回しや動きをするタイミングがバレてしまっていて、手法としてしか伝わりませんでした。

 そして、これは青年団の作品の特徴でもあると思うのですが、皮肉っぽい、さめた視線が作品全体をまんべんなく包んでいます。時には人を小バカにしたような目線やセリフのニュアンスが、コミュニケーションの前提になります。私はどうしてもこの空気が苦手なんです。

 高橋縁さん。討ち入りを主張するぽっちゃりしたOL役。ストレートな存在にホっとしました。安心して心を開いて笑えました。

 アトリエ春風舎には初めて伺ったのですが、駅前や劇場前に案内の人が立っていたし、曲がるところにはちゃんと看板を置いてくださっていたので、全く迷わずに劇場にたどり着けました。そういう行き届いた親切に感謝したいです。

作・演出:平田オリザ 
忠臣蔵【出演】安部聡子 兵藤公美 高橋縁 安田まり子 鈴木智香子 田原礼子 井上三奈子
ヤルタ【出演】松田弘子 高橋縁 島田曜蔵
舞台美術:杉山至×突貫屋 照明:岩城保 宣美:太田裕子 制作:松尾洋一郎 澤藤歩 田嶋結菜 総合プロデューサー:平田オリザ
青年団:http://www.seinendan.org/

Posted by shinobu at 01:34