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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年05月13日

新国立劇場オペラ『マクベス』05/13-28新国立劇場 オペラ劇場

 野田秀樹さん初のオペラ演出です。美術、照明、衣裳、振付の抜群のスタッフワークから新たな解釈の『マクベス』が生み出されました。歌と音楽も文句なしに素晴らしく、目も耳も心もすっかり魅せられるオペラでした。初日写真はこちら。稽古場風景はこちら

 ネタバレします。これから観に行くと決めていらっしゃる方はお読みいただかない方が良いと思います。ただ、読んでから観に行ってもきっと楽しめますよ。

 客席に座ると、一面の黄色いお花畑になった舞台が見えています。しかし舞台奥の壁を飾る幕は、いかにも幽霊が出てきそうな灰色とモスグリーンの深い森のイメージでした。そこに突然しゃれこうべがヒョイと出てきたのです。「な、なんだコレ?・・・もしかしてめちゃくちゃ奇抜な作品にしたのかな?わ、私は苦手なのに・・・!」と一瞬引いちゃったのですが、そんな私の気持ちなんて全く解さずに(当然ですが)、次々にとめどなくガイコツ、ガイコツ、ガイコツのオンパレード。舞台に数十人(匹?)のガイコツが舞いまくり。えええええっっ!?!? こ、これ・・・・ヘンっす、ヘンっすよ野田さん!オペラにはあるまじき、というか、気持ち悪いし、正直言ってかっこ悪い!!
 ・・・オープニングはそんな感じですごく居心地の悪いオペラ劇場でした。「困った・・・これからどうしたらいいんだろう・・・」というのがしょっぱなの率直な感触でした。

 でも、しばらくするとお花畑が地下に沈んで行き、ガイコツも消え、その上から被さっていくように、舞台奥から巨大な王冠の形をした舞台がせり出してきたのです。これぞ新国立の装置の醍醐味ですよね♪ 暗くなっていた気持ちがすっかり期待に変わりました(調子いいっ)。王冠は回り舞台(お盆)の上に乗っていて、回転しながら場面転換をします。お花畑以外はすべてこの王冠を使って表現されました。美術は野田作品に欠かせない堀尾幸男さん。鈴木裕美さん演出『奇跡の人』でも回り舞台で全てを表現していましたよね。王冠を丸くかたどっている階段が外側に開いていくと、舞台の上袖から下袖まで広がった壁にもなります。
 「装置としては、荒野に巨大な王冠が一個あり、その下に眠っている骸骨たちが、その王冠をめぐるお話を語っている。それが、『マクベス』だという解釈です。」(当日パンフレットの野田秀樹さんへのインタビューより)

 『マクベス』で重要な役割を果たす3人の魔女を、“魔女”ではなく“戦争で殺された多くの死者たち”としたことが、今回の演出の最大のポイントです。死者たちとはすなわち黒装束のガイコツたちのこと。常に舞台上に数人おり、登場人物たちを誘導していきます。最初はめちゃくちゃ気持ち悪かったガイコツたちですが、場面転換の時にガイコツたちだけが出るコミカルなシーンを作り、すっかり親近感が持てるようになりました。野田さんはさすがだな~。ガイコツは実はわれわれ(観客)の味方なのだと思って観ていけば、このお芝居の大意がつかみやすくなるのです。

 クライマックスで、マクベスとマグダフが中央で戦っている間に、いつの間にか舞台上に平民の数が増え、どんどんと床に横たわっていきます。死体を背負っていた人がまた死体となって重なり合い、まるで原爆投下直後の広場のよう。実は彼らはガイコツを演じていた人たちで、被っていたガイコツと黒装束を次々に脱いで、平民に変身していたのです。王冠を被ったマグダフが、無数の死体の上で勝利宣言をするラストシーンでは、興奮と疑問が足の裏からじわじわと体全体に沁みて来て、静かな思考に至りました。この作品をつくる人たちのパワー全部が、最後のシーンで結実していたように思います。

 作品全体の色使いが、美術(堀尾幸男)、照明(服部基)、衣裳(ワダエミ)によって、深く計算された配色になっていました。
 黄色い一面の花畑の中に黒装束のガイコツが何十人と踊り舞うオープニングは、ほんとに頭がおかしくなりそうなビジュアルでした。黄色い花畑のシーンの直後に出てきたマクベス夫人が、花畑と同じ黄色のドレスを着ていたのもかっこよかったです。黄色ってどこか狂ったイメージがありますよね。
 マクベスの家来たちの衣裳は、なぜあんなどぎついスライム色(黒光りするような青緑色)なんだ?って思っていたのですが、あるシーンでその意味がわかりました。マクベスが王になった祝賀会の席で、マクベスだけにバンクォーの亡霊が見えるところです。スライム色の客人、家来たちには青い照明があたり、全身がヌルっとした青緑色になるのですが、マクベスだけには普通の白い照明があたるので、彼の狼狽する姿が一気に目立ちます。
 兵隊の衣裳はどこか宇宙的というか、生きた普通の人間らしくない質感および色使いで、平民の衣裳は日常的な生活感が感じられる布を使っており、色は虐げられているイメージのある灰色でした。
 終盤の“バーナムの森が襲ってくる”シーンで、森の色が緑ではなく、赤っぽい茶色だったのが新鮮でした。マクベスを倒そうとやってきたイングランド兵が緑色だと、平和の使者のようですものね。あくまでも戦争をしかけていく兵隊は、燃える血のような赤色なのでしょう。

 マクベス夫人はゲオルギーナ・ルカーチさん。歌はもちろん素晴らしかったですが、これまで観た中で私が初めて腑に落ちたマクベス夫人の演技でした。激しく残酷で、しかし可憐さも忘れない。マクベスが王に即位した祝宴会シーンで夫人がマクベスをひっぱたいたのですが、オペラで女が男を平手打ちするのなんて初めて観ました(笑)。

 カーテンコールで野田秀樹さん(演出)、堀尾幸男さん(美術)、ワダエミさん(衣裳)、服部基さん(照明)、木佐貫邦子さん(振付)が出ていらっしゃって感無量でした。拍手がなりやまず、何度も何度もカーテンコール。

 fringe blog 野田舞台の小道具にさわれます

作曲 :ジュゼッペ・ヴェルディ 原作 :ウィリアム・シェイクスピア 台本 :フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ / アンドレア・マッフェィ
指揮 :ミゲル・ゴメス=マルティネス 演出 :野田秀樹 美術 :堀尾幸男 衣装 :ワダエミ 照明 :服部基 振付 :木佐貫邦子 舞台監督 :大仁田雅彦 合唱指揮 :三澤洋史 合唱 :新国立劇場合唱団 / 藤原歌劇団合唱部 管弦楽 :東京フィルハーモニー交響楽団 主催 :新国立劇場
出演→マクベス :ヴォルフガング・ブレンデル マクベス夫人 :ゲオルギーナ・ルカーチ バンクォー :妻屋秀和 マクダフ :ミロスラフ・ドヴォルスキー 他
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s226/s226.html

Posted by shinobu at 2004年05月13日 23:50 | TrackBack (0)