2004年07月29日
劇団山の手事情社EXTRA企画『作、アレクサンドル・プーシキン』07/28-08/01こまばアゴラ劇場
ロシアの作家プーシキンの小説『スペードの女王』を元にした作品でした。山の手事情社の役者さんが4人出演されていて、演出は小鳥クロックワークの西悟志さんです。こまばアゴラ劇場の夏のサミット2004参加作品。
最初は実験的で少々難解な感触だったのですが、中盤のラブシーンで感動!
こまばアゴラ劇場の壁がそのまま露出した素舞台でした。普段は真っ黒な壁3面(右、左、正面)のうち2面(左と正面)全体を白く塗っていて、そこに赤と黒の衣装の役者が登場します。白、黒、赤でトランプのイメージですね。受付で渡される整理券もトランプを使ったものでした。粋ですね。
オープニングの音楽はなんとBeatlesの“Back in the USSR”。すかさず役者が舞台に駆け込んで来て、すぐに暗転したのがものすごくカッコいい!長い暗転のままセリフをぽつりぽつりと発していきます。前半は「プーシキン、大好きだ!!」という演出の西さんの叫びが聞こえてきそうでした(笑)。登場人物はみんな文庫本片手に話しますし、時々「プーシキン!」とささやいたりします。その後も長い暗転やシーンの繰り返しなど、奇抜な展開が続きましたので着いて行くのが大変でした。でも役者さんが達者なのでぐいぐいと引っ張られ、自然とその世界に入り込んで行けました。
『スペードの女王』はちゃんと盛り上がりもあり顛末もあるお話なのですが、あんまり覚えてないんですよね。どうやら私はお話よりも雰囲気や演出を楽しんでそれで満足しちゃったみたい。観終わった後の作品全体の印象は「閃光」かな。欲望と愛のかけがえのない刹那を味わえました。
選曲のセンスが最高に私の好みでした。演出の西さんの当日パンフレットの文章から抜粋しますが「19世紀ロシアと現代日本人。違うけど一緒。同じだけど違ってる。」という意味がまさに表されていました。特に椎名林檎の音楽でぐるぐると走り回る恋人“未満”の男女には、胸きゅんを通り過ぎて鳥肌でした。ゲルマン(山本芳郎)とリーザ(倉品淳子)は、プラトニックな恋だからこその究極のときめきを、規則的な動きと内に秘めた情熱的な演技とで伝えてくださいました。素敵すぎる!
蛍光灯をメインに使った照明(木藤歩)もテクニックが光りました。暗闇でゲルマンのその後を語る“女”(内藤千恵子)にじわじわと光が当てられて、徐々に年老いた伯爵夫人へと変化していくシーンは圧巻です。
ただ、ものすごく残念なのは役者さんが早口すぎて何を言っているのかわからない所が非常に多かったことです。特にクライマックスの勝負のシーンでは4人全員で同時に話しますので、どうしても息が合わない瞬間が出てきます。あれは別々に(普通に)やってもらいたかった。だってゲルマンが勝負に勝ったのか負けたのかもわからなかったんですよ。悲しすぎます。
倉品淳子さん。若い女役。可愛い!美しい!うらわかき清純な乙女でした。倉品さんも泣いてたけど、私も泣いてました。
内藤千恵子さん。老婆役。山の手事情社『DOUJOUJI』のラストシーンも素晴らしかったですが、舞台に一人立っての独白は神々しいほど見事です。
原作=アレクサンドル・プーシキン 演出=西悟志(小鳥クロックワーク) 翻訳=上田洋子
キャスト=山本芳郎・倉品淳子・内藤千恵子・村上哲也
照明=木藤歩 音響=江村桂吾 衣装=渡邉昌子 美術協力=横田七生 宣伝写真=大石創介 宣伝美術=上野明則 制作=福冨はつみ 企画監修=安田雅弘
主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 企画制作=UPTOWN Production Ltd.・(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
山の手事情社:http://www.yamanote-j.org/
小鳥クロックワーク:http://kotori_clockwork.at.infoseek.co.jp/
こまばアゴラ劇場:http://www.letre.co.jp/agora/
2004年07月27日
燐光群『私たちの戦争 Lost in the war/Blindness』07/15-08/04下北沢ザ・スズナリ
社会派演劇といえば燐光群(りんこうぐん)。日本を代表する作・演出家の坂手洋二さんの作品を発表しています。年間5公演以上のペースですよね。
今回は2~3月に上演されて好評だった『だるまさんがころんだ』と2本立て公演になっていて『私たちの戦争・・・』は3作品のオムニバス形式でした。
セットは『だるまさんが・・・』と全く同じで極シンプルな八百屋舞台。完全にセミドキュメンタリーというか、一つの政治的な主張であるように感じました。胸が痛みました。苦しかったです。でも、私は観に行くことで気持ちを表したいので、つらくても出来る限り燐光群(および坂手さん)の作品は観るようにしています。
『LOST IN THE WAR』はドキュメンタリータッチに3つの話を観客に語りかける形式でした。杉並区の公衆トイレに『戦争反対』『反戦』『スペクタクル社会』と落書きをした男性が告訴されたこと(その人が落書きする以前から既に大きな落書きがあったのに、etc.)、アメリカ大使館前で反戦運動をした女性が夫婦ともども日本の警察から様々な迫害を受けたこと、そしてアブグレイブ刑務所でのアメリカ兵によるイラク人の『虐待』の事実を生々しく再現されるのは正視できませんでした。
「戦争で命よりも大切なものを失う」という言葉がどしりと心に覆いかぶさってきました。
『戦場イラクからのメール』は、イラクで拉致された記者の渡辺修孝さんの手記(メール)をできる限り忠実に劇化したものでした。私はあの事件の実態を知ることにもとても興味があったのですが、観終わってみるとイラクの人々の貴い信仰心や誇り高い心を感じられたことが一番嬉しかったです。私と渡辺さんとイラクの人々、そしてアメリカの人々とは同じなのだ、世界はつながっているのだと実感できました。だから、今イラクが傷ついていることがものすごく哀しいです。
『Blindness〔盲目〕』は、イラクに出兵して視力を失って帰ってきた米兵が、イラクで殉死した親友の家族を尋ねるお話でした。アメリカ兵側から見たイラク戦争の視点があったのは素晴らしいと思います。この作品は完全なフィクションでしたので、最後に全体をオブラートにくるんでくれた気がして、ほっとして観ていられました。(こちらで、「完全なフィクション」ではなく「実際の新聞記事に基づいているそうです」と書かれています。)
ものすごいセリフ量で、しかも2本立てだったからか、役者さんのセリフの言い間違い等がすごく多かったです。燐光群なのに・・・ちょっとがっかりでした。今日がたまたまダメだったのならいいのですが。
『だるまさんが・・・』の方がエンタテインメント性があり、一つの演劇作品としてのまとまりがあると思います(私は初演を観ました)。第12回読売演劇大賞の中間選考報告会でも作品賞に選ばれています。
『LOST IN THE WAR』
「落書き反戦裁判」公判・インターネット資料より
「アブグレイブ刑務所での『虐待』」インターネット資料等
ブルキッチ加奈子「個人に対する警察による弾圧について」より
台本・演出:坂手洋二
『戦場イラクからのメール』
渡辺修孝『戦場イラクからのメール』より(安田純平著『囚われのイラク』からも引用)
台本・演出:坂手洋二
『Blindness〔盲目〕』
作=マリオ・フラッティ 訳=立木アキ子 演出:坂手洋二
作=マリオ・フラッティ+渡辺修孝+坂手洋二
訳=立木アキ子+キャメロン・スティール
構成・演出=坂手洋二
出演:中山マリ 川中健次郎 猪熊恒和 下総源太朗 大西孝洋 鴨川てんし Kameron Steele Ivana Catanese 江口敦子 宮島千栄 樋尾麻衣子 宇賀神範子 内海常葉 向井孝成 瀧口修央 工藤清美 裴優宇 桐畑理佳 久保島隆 杉山英之 小金井篤 亀ヶ谷美也子 塚田菜津子
照明=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)音響=島猛(ステージオフィス) 舞台監督=海老澤栄 美術=じょん万次郎 衣裳=大野典子 演出助手=鈴木章友・吉田智久 文芸助手=久保志乃ぶ・圓岡めぐみ・清水弥生 宣伝意匠=高崎勝也 制作=古元道広・國光千世
燐光群:http://www.alles.or.jp/~rinkogun/
2004年07月26日
InnocentSphere『Kristan Manas(クリシュタン・マナス)』07/14-19中野ザ・ポケット
イノセントスフィアは西森英行さんが作・演出する劇団です。私は2003年のパルテノン多摩演劇フェスティバルで初めて拝見して以来、通っています。
チラシやキャッチコピーから予想していた内容とは全然違いました。すごく社会派色が強かったです。
※クリシュタン・マナス:サンスクリット語で「穢れた自我」の意。
失踪した大学教授を追って、山間の隠れた町“ヒラサカ”にたどり着いた平良慶次(日高勝郎)は、そこで一般社会との接触を断ち、自給自足の生活をしている人たちと出会う。どうやら彼らは8年前に爆弾テロを起こして多数の死傷者を出した、新興宗教団体の信者らしい・・・。
最初の1時間はずっと村の様子を描くことに終始したので、ちょっと退屈しちゃいました。皆さんなぜか田舎言葉ですし(最後の方でその理由は明かされます)、全体的にドロくさい感じで、いつものInnocentSphereのスピード感や躍動感を感じられなかったのが残念。
得ダネをGETしようとする記者たちが村に到着してから、物語は急に社会派色を強めていきます。記者たちによって完全に歪められた事実が大スクープとしてTV放映されるシーンで、ミステリアスな架空の村落がいきなり現代社会と直結しました。その後、高層ビルを破壊した自爆テロや、“大量破壊兵器”を所持しているために空爆された国、田舎に信者を集めて集団生活をしていた新興宗教団体など、私達の現実の世界のトピックがどんどん絡んできます。(TV放映のシーンはサードステージ『プロパガンダ・デイドリーム』に似てます)
『渾沌鶏』、『地霊』、『マホロバ』を拝見した私としてはちょっと驚きましたね。ファンタジーからものすごく離れちゃったので。リンクする事件等があまりに身近すぎるのも疑問でした。でもこの劇団の真面目さ、清らかさ、懸命さは、いつもと同様に感じることができました。舞台上の役者さんが「作品の心を伝えたい」と強く思っているのが伝わってくるのです。(例えば、執拗に村人を追い詰める唐沢記者にひそかに想いを寄せている北島役の足立由夏さんの等身大の素直な演技や、父親が自爆テロを行った人物であったことを知って、言葉を失った初音役の黒川深雪さんのか細くけなげな姿など。)
巫女(にされていた女)と平良が空爆されている村へと戻ることを決意し、客席に背を向けて静かに二人で歩いていくラストシーンでは、爆音の中から電車のホームや大きな交差点の喧騒の音が徐々に流れてきます。今、私達が生きているこの日本がまさしく戦場であり、平良が村に戻ることを決心したように、私達も今ここで自分が世界に対して何をするのかを決断しなければいけない、いや、既に決断して行動をしているのだ、ということを表しているように感じました。
失踪した大学教授が、実は巫女の研究をしていたということが最後に明かされます。ちょっと作りこみ過ぎなんじゃないかな~と思いましたが、そういうところでも現代社会への素直な疑問を投げかけているというか、西森さんのひとつの主張を感じます。真面目だな~とつくづく思うのです。
InnocentSphereはアクション多い目のエンタテインメント作品と、今回のような人間の内面を描くタッチの作品を交互に上演しているそうです。来年の青山円形劇場での本公演はエンタメ色が濃くなるのでしょうね。
作・演出:西森英行
出演:狩野和馬 倉方規安 坂根泰士 日高勝郎 足立由夏 四十八願智子 黒川深雪 林尚徳 三浦知之 間野健介 八敷勝 田中美央(俳優座) 佐藤春平 小笠原義幸 田中精(カプセル兵団) 木戸雅美 山下潤(T.P.O.)
照明:伊藤孝(ART CORE design) 選曲:高橋秀雄(SoundCube) 音響:ヨシモトシンヤ 美術:松本わかこ 衣装:村瀬夏夜 小道具:蕪木久枝 メイク:泉淑 ヘアメイク:岡本彩(Decca-Deux) 映像製作:冨田中理(selfimage Produkts) 宣伝美術:冨田中理(selfimage Produkts) アクショントレーナー:奥住英明(T.P.O.) 当日パンフレット:風見尚子 スチール:鈴木丈博 ビデオ撮影:YPK web制作:a,it is. 制作:佐竹香子 萬代純子(penguin jam) 制作補助:筧尚子/柳悠美/佐渡島明浩/風見尚子/井上菜々/小林昌永/錦織崇/竹内啓史 演出補佐:永安大海 演出助手:岸京子 舞台監督:筒井昭善 企画・製作:InnocentSphere 協力:株式会社アティス・コミュニケーションズ
イノセントスフィア:http://www.innocentsphere.com/
2004年07月25日
みかん・夏『mellow・・・涙いろ』07/23-25中野スタジオあくとれ
bird's-eye viewの女優、近藤美月さんが作・演出する“みかん”。公演は4度目だそうです。
個性派女優として色んな劇団でご活躍の美月さんの独特の世界が、溢れて、こぼれて、溺れそうになるほどに満ち満ちて、光を撒き散らしていました。
開演の一番初めの音楽(Mゼロ)は男闘呼組の“TIME ZONE”。心が病んでいると思われる女の子とその彼氏との少し困っちゃう今ドキの若者の怖いやりとりの後、照明が一瞬だけ華やかPOPに舞台を輝かせます。オレンジ、ピンク、黄色などのほんのりメローな暖色系の丸いスポットがパラパラと壁を照らし、イメージとしてはミラーボールが回っている様。うわ、可愛い!と思ったらすかさず暗転して、ユーミンの“中央フリーウェイ”が絶妙のタイミングで入りました。
・・・私の“女心”はわしづかみにされました。涙がしぼり出されてきて、次のシーンが始まっても体の振るえが止まらなかったんです。一瞬のその光の中に、恥ずかしくて普段は口に出せない女の子の本当の望みが、瞬(またた)いたように感じられたからです。
同棲しているカップルの破綻、煮え切らない彼氏に不満気味の女の子が他の男との間で揺れ動くこっけいな様、モテていないであろうポッチャリ体系の女の子の哀しい本音トークなど、独立した場面が少しずつつながっていく構成でした。
男女平等と謳われて、キャリアウーマンが当たり前になって、離婚率が上がって、しかしながら結婚・出産していない30代後半以上の女性を「負け犬」と呼ぶような流行語が生まれたりしている現代の日本。「本当の私」「私らしい私」を表に出したら笑いものにされ、「女だから」と慎んでいてもバカにされて利用される。現代の女の子たちは“自由な世の中”という名の中途半端な地獄に放り出されたといっても過言ではないと思います。その世界の中での女の子の心、美月さんのプライベートな感情、デリカシーをダイレクトに受け取って、私は共感して泣きました。
地球儀柄のボールがちょこんと舞台中央に置かれて、舞台奥の壁にさまざまな国名が文字映像で映し出されます。アメリカ合衆国、ロシア連邦、カナダ、日本国、アラブ首長国連邦・・・最後に大日本帝国。そして「自由」「平等」「博愛」と大きな文字が写されて、暗転。ちっぽけな地球の中の全ての国の“女”、そしてその中の“私(=女)”という視点(スケール)が表されていたと思います。
この文字映像のシーンでエンディングだったら良かったんじゃないかな~と思いました。最後のあたりは長かったし、意味もシチュエーションも重複していたように感じましたので。セリフも痛いのが多かったし。
音楽が最高に良かったです。選曲という意味でも、シーンに意味をつけるという点でも。サントラが欲しい!!
脚本とその意図がすごく個性的で、狙っている的が小さいので、役者さんは演じるのが大変だと思います。男優さんは少しおぼつかない感じでした。力のある役者さんが揃えられれば、すごい世界が出来上がったことと思います。最近、こういうこと多いな~・・・。
佐藤亜紀さん。同棲カップルの南実役。めちゃくちゃ可愛らしかったです。こういう女の子が演劇界にいて嬉しい。
吉田久代さん(ククルカン)。2人の男の間で揺れるじゅん子役。覚悟があって女っぷりがいいんですよね~。だいぶんファンになりました。ナーバスめの演技がちょっと多すぎたかも。
作・演出:近藤美月
出演:佐藤亜紀 吉田久代(ククルカン) 碓井将仁(レトロモラパッド) 足利彩(Orange PunPKing) 宇原智茂(Orange PunPKing) 真阪愉志 安田早苗
音響:佐藤春平(SoundCube) 照明:池田沙織 舞台監督:坂野早織 演出助手:奥村亜紀 衣裳:川上麻里恵 宣伝美術:中村公平 舞台美術:樅ノ木団栗 制作助手:蓮華薔薇子 風きらら 制作:保田佳織(G-up) 映像:大塩哲史
お問い合わせ:080-5085-6810(みかん) 090-4242-8776(制作) rummy_1192@hotmail.com
2004年07月24日
文学座『モンテ・クリスト伯』07/22-28アートスフィア
今やミュージカル界の大スターにもなられた内野聖陽(うちの・まさあき)さんがタイトル・ロールです。アレキサンドル・ドュマの小説の舞台化。2001年が初演で今回が初めての再演です。
3時間余りある長い作品で、しかも私は初演も観たことがあったのですが、すごく面白かったです!
若い船乗りのエドモン・ダンテス(内野聖陽)は、罠にはめられて地下牢に14年ものあいだ投獄される。自らの力で奇跡的ともいえる脱獄を成功させたエドモンは、モンテ・クリスト伯爵と名を変えて次々と復讐を果たしていくが・・・。
まずオープニングで既にじ~んとしびれちゃいましたね~。いかにもなクラシック音楽がかかって回り舞台がゴゴゴーっと回ったかと思うと、2階レベルの舞台上で内野さんが「バババーン!俺が“モンテ・クリスト伯”だぜっっ!!」って感じで凄んでらっしゃるんです。あぁなんてカッコいいんだ、このお兄様は・・・!さすが内野さんです。もうここで私は完敗でした。内野さんがこれから何をしようと、おそらく最後まで魅せられっぱなしでしょうから(笑)。
脚色・演出の高瀬久男さんが「エピソードを全部入れていったら上演するのに最低でも3日はかかろうでしょう」(パンフレットより)とおっしゃるように、演劇上演用にすごくスリムに仕上げられています。とにかくわかりやすくって楽しいです。約25年に渡る壮大な大河ドラマを観せていただきました。
演技も、悪役は悪役らしく、良い人は良い人っぽく、しっかりと作りこまれています。初演の時よりはるかに役者さんが生き生きしていた気がしました。きっとそれぞれの役柄について初演の時よりもずっと深く掘り下げて体得することが出来たんでしょうね。
作品自体が示す人間のあり方(“人間の法の前にまず自然の法がある”等)にも深く納得でした。勧善懲悪の爽快なストーリーに乗せて悪事は必ずあばかれ、罪には罰が科せられるのだということを丁寧に伝えてくれます。エドモン・ダンテスは最後に「待て、そして希望せよ」という境地に至るわけですが、すごく説得力がありました。
さて、下記はちょっとひとりごとです。私はたいてい王道で感動して、細か~いところで笑っています。
私が感情移入して泣いちゃったポイントは↓
・地下牢で一緒だったファリア司祭(関輝雄)が、死ぬ間際に自分の隠し財産をエドモン(内野聖陽)に譲るところ。エドモンがすかさず「私にはその(財産を受け取る)資格がありません」と言ったのに感動。なんてつつましいんだ!!そしてファリア司祭が「お前は私の息子だ!」と返したのに再び感動。
・エドモンの宿敵フェルナン(その時はモルセール伯爵になっています。演じるのは瀬戸口郁)の息子アルベール(浅野雅博)が、モルセール家の名誉に掛けてエドモンに決闘を申し込んだところ。死を決意したのであろうアルベールのさわやかな笑顔に感動。
・モンテ・クリスト伯(内野聖陽)の正体を見破っていたメルセデス(塩田朋子)が「息子のアルベールを殺さないで欲しい」と嘆願しに来たところ。これは圧巻の演技合戦でした。お二人とも涙を流されていました。
私が人知れず(声を殺して)爆笑したところは↓
・幸せの絶頂の21歳のエドモン(内野聖陽)の動きは、ほぼ全てが爆笑ポイントでした(笑)。いちいち大きく手を広げるし、むやみに回転するし、去り際に少し振り返ってウィンクしながら照れくさそうに笑ったりとか!!内野さ~ん・・・面白い!!そこから投獄、復活、復讐の鬼となっていくんですからね。ギャップが必要なんですよね。
・年を取ってなぜか坊主頭になったダングラール(高橋耕次郎)が、自分の財産を奪われたり、名誉を汚されたりして錯乱している様子。はじけ過ぎなんですよーっっ(笑)。クライマックスが盛り上がりましたし、とても効果的だったと思います。私は面白かった♪
ところで、折込チラシに『巖窟王』というアニメ映画のチラシが入っていました。かなり素敵なビジュアルで、目を奪われました。今年の秋ロードショーです。
作:アレクサンドル・デュマ (訳:山内義雄「岩波文庫版」より) 脚色・演出:高瀬久男
出演:三木敏彦・関輝雄・石川武・高橋耕次郎・大原康裕・吉野正弘・瀬戸口郁・若松泰弘・鈴木弘秋・内野聖陽・浅野雅博・松井工・石橋徹郎・椎原克知・城全能成・亀田佳明・長谷川博己・南一恵・塩田朋子・金沢映子・奥山美代子・岡寛恵・佐古真弓・山田里奈
装置:倉本政典 ファイティングコリオグラファー :渥美博 照明:金英秀 振付:新海絵理子 衣裳:宮本宣子 舞台監督:寺田修 ヘアメイク:林裕子 演出補:北則昭 音楽:車川知寿子 制作:白田聡 矢部修治 音響効果:斉藤美佐男 票券:松田みず穂
文学座:http://www.bungakuza.com/
2004年07月23日
ホリプロ・テレビ東京・朝日新聞社『PLAY WITHOUT WORDS』06/25-07/25シアターコクーン
タイトルの意味は『台詞(セリフ)のない芝居』です。そうなんです、言葉を話さないで表現する演劇なんです。
公式サイトにあるように“過去に来日したマシュー・ボーンの作品の中でも、最もセクシーでスタイリッシュな作品”でした。
ダンスやバレエだと信じて観たら物足りない内容かもしれませんので、そういう先入観をゼロにして観るのが一番ですよね。でも、もちろんダンスとしても非常に高度で楽しめる作品だと私は思います。
サイレント映画のようなレトロな味わいを持ちつつ、現代的な刺激のある演出で、舞台全体が常に大きく脈打っている生き物のようでした。食い入るように見つめつづけた2時間でした。
ありそうで、なかったんだな~・・・というのが第一の感想です。セリフなしで、美術、装置、音楽、衣装、そして俳優の身体でストーリーを表現することって、劇中劇や道化の寸劇、コント等ではよく見かけましたが、それ自体を表現方法(売り)とした作品はきっとなかったんですね。1人の登場人物を2~3人で演じることも決して今までになかったわけではないのですが、それを主軸に持ってきて完成させているのが素晴らしいと思います。また、俳優ではなくダンサーである出演者の演技の素晴らしさも特筆すべきことだと思います。「演技」というものについてもう一度考える機会になりますよね。果たして「振付」と何が違うのか。この作品では、こういった新しい手法による効果、ビジュアル、雰囲気を味わうことが楽しいのだと思います。
ちょっぴり告白します。つねづね感じていたんですよね、バレエやダンスの衣装って体のラインを露骨に強調していて、まるで裸みたいだよ!って(笑)。バレエのチュチュなんて女の子のお尻が丸見えですし、男性はパッツンパッツンのタイツなんですから。でも、それを「エッチだな~」って思っちゃいけないと思っていました。「バレエは歴史と伝統のある芸術なんだから、そんな想像は不謹慎なんだ」って。でも、それをマシュー・ボーンさんが取っ払ってくれました。やっぱりエッチなもんはエッチなんですよっ(笑)!そして、美しいものは美しいのです。ダンサーの鍛えられた体は観ているだけで目頭が熱くなるほど。女性の細い足首からふくらはぎ、もも、お尻へのラインは女の私が観ていてもどっきりするほどセクシーです。
見所はやっぱりチラシのメインビジュアルにもなっている、アンソニーと女中(メイドのシーラ)の情事のシーンですよね~。あれは特に凝視しちゃいました(笑)。まず、女中が主人を誘惑するっていうのが王道ですよね。目下の女が目上の男をモノにするっていうのがそそるんです。黒の下着の上にV襟のざっくりとしたニットだけを着ている女中に、パジャマ姿のアンソニーがメロメロになっていくんですが、それって裸の上に男物のパジャマの上着だけを着ているグラビアアイドルと同じ?!いやはや、チラリズムの誘惑や悪女の魅力って世界共通なんですね~。私もそれにすっかりハマっりました(笑)。
マシュー・ボーンさんの作品だと『Nutcracker!』や『SWAN LAKE』の時もそうでしたが、衣装がすごくきれいです。1960年代のイギリスのスタイルだそうですが、アンソニーのフィアンセ・グレンダの着ているスーツが素晴らしかった。生地の質も良いし・・・うっとりです。
2つのドアと2つの階段が組み合わさっていて、結果的にに廊下やバスルーム等も一体化している回転式の装置は、ものすごくシンプルで機能的でドラマティックでした。こういうのを見せられると参っちゃいます。マシューさんのセンスに圧倒されて何も言えません。すごい。
『SWAN LAKE』はオーチャードホールでしたが、この作品はシアターコクーンで上演されてるのがすごく親切だと思います。バレエじゃなくてPLAY(演劇)なので、小さな劇場じゃないとね♪
2002年の『SWAN LAKE』で主役(トリプル・キャスト)の白鳥を演じられた首藤康之さんが、公式サイトにコメントを寄せていらっしゃいます。実は私の感想はこの首藤さんのコメントとびっくりするほど似ています。
演出・振付:マシュー・ボーン
PLAY WITHOUT WORDS :http://www.pww.jp/
2004年07月21日
パルコ/リコモーション『MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人』07/04-25パルコ劇場
後藤ひろひと作、G2演出の豪華キャスト芝居です。テレビのスターの伊藤英明さんと長谷川京子さんの初舞台なんですね。
病院を舞台にした、いわゆる泣けるお話でした。ちょっとびっくり。(ネタバレします)
病院モノでしかも子供モノっていうのは私はすごく苦手なんですが、ちょうど気持ちいいところで笑いを入れてくださって、全体的に重たくなりすぎなかったので、最後まで楽しく過ごせました。途中休憩15分を挟んで2時間半近くありましたが、退屈しませんでした。
豪華キャスト、見所のある美術、オリジナル音楽、わかりやすい物語、愛すべき登場人物たち、そして確実な笑い。娯楽演劇のお手本ですよね。G2さんはすごいなって思います。
大王(後藤ひろひとさんの通称)も改めてすごい!・・・って思いました。こんな話を書いちゃうんだな~っていうのと、心から笑えるギャグと。私が笑ったのはほとんど大王のセリフおよび出オチだった気がします。
初舞台の伊藤さんと長谷川さんはやっぱり演技がおぼつかない様子でしたが、周りを固める役者陣はみなさん素晴らしかった。
特に主役の木場勝己さん(オオヌキ役)には感動です。最高に性格の悪い頑固オヤジが、初めて自分を見つめて、じーっと考えているシーンが圧巻でした。渋い。古代の彫刻のようだったな~。劇中劇のときは思いっきりはじけちゃって、劇場のお客様全員が木場さんの大ファンになりましたね。
パンフレットが1800円でした。高いですよねー・・・でもすごくキレイなんです。イラストレーションは洗智樹さん。チラシもかわいかったですよね。
<作> 後藤ひろひと <演出> G2
<出演> 伊藤英明 長谷川京子 山崎一 犬山イヌコ 山内圭哉 小松和重 片桐仁(ラーメンズ) 瀬戸カトリーヌ 加藤みづき(新人) 後藤ひろひと 木場勝己
美術:古川雅之 照明:小川幾雄 音響:井上正弘 音楽:佐野史朗 衣裳:遠藤百合子 ヘアメイク:小島裕司 演出助手:山田美紀 舞台監督:二瓶剛雄 宣伝美術:河野真一 イラストレーション:洗智樹 宣伝写真:岡田貴之 宣伝ヘアメイク:小島裕司 稲葉功次郎 佐々木貞江 広報:米田律子 制作:大西規世子 長谷川ゆみ子 プロデューサー:尾形真由美 高橋典子 G2 製作:伊東勇(パルコ) 企画:G2プロデュース 制作協力:キューブ 企画・制作:(株)パルコ/リコモーション
《地方公演→大阪 新潟 名古屋 福井 仙台 広島 福岡》
パルコ劇場:http://www.parco-city.co.jp/play/
2004年07月20日
ポかリン記憶舎『煙の行方』『煙ノ行方』07/14-25こまばアゴラ劇場
明神慈さんが作・演出をする劇団です。“地上3cmに浮かぶ楽園”をキャッチコピーに、日本の美男・美女によるたおやかな空間を作り出されています。
男バージョンと女バージョンの2本立てでした。女バージョンはさらにダブルキャストになっています。
駒場アゴラ劇場に和服美女がわんさかです。まずそれが嬉しい。光のオブジェで飾られた受付では、はんなり浴衣の若い女性が迎えてくれます。
「煙ノ行方」(男バージョン)上演時間50分 ★ネタバレあり
なんと、近未来の病院を舞台にしたSFサスペンス・ホラーでした。まずストーリーがめちゃくちゃ面白かったです。人工授精が一般的になった世の中。精子バンクに来た男達には実は共通点があり・・・。
男優さんがものすごくセクシーなんですよね~。気分は18禁です(笑)。4人の登場人物それぞれに独特の魅力があって、全員に見とれました。きっと女から見た「いい男」が投影されているせいじゃないでしょうか。美男子好きの女性(あ、全員か)、必見ですよ♪
休憩15分の間に大々的に舞台が転換します。壁が床になるんですよ!しかもその作業をしている男性たちも白いTシャツにバンダナ、ジーンズ(および綿パンツ)という風にさわやかな衣装で揃えてくれていて、女の私としては目に嬉しくて嬉しくて♪
「煙の行方」(女バージョン)上演時間40分
ポかリセット(ポかリン記憶舎とreset-Nの合同企画)で拝見したものの再演でした。あの時は演出がreset-Nの夏井さんだったんですね。今回は明神慈さんによる作・演出です。
少女の頃にいやおうなしに訪れる、逃れられない女の性(さが)。日本舞踊の教室に通っている女たちの会話から、「女」というものが静かに炙り出されます。ラストシーンの、水に飛び込もうとする女(後藤飛鳥)の意味がわかったような気がしました。どんな運命を背負っていようが、自分がしたいかどうか、するかしないか、なんですよね。そしてそうやって一人で立っている女は美しいです。
劇場の都合でクーラーがあまり効かないため、上演中、めちゃくちゃ暑いです。私は暑いのは平気な方なので大丈夫でしたが、これから観に行かれる方はどうぞそのおつもりで。「休憩時間にアイスなど召し上がってください」と明神さんご自身からアドバイスも。
作・演出:明神慈 音楽:木並和彦 舞台美術:杉山至×突貫屋 照明:木藤歩(blance,inc.) 舞台監督:桜井秀峰 舞台補:浅香美津夫 音響:尾林真理 音響オペ:渡邊誠壱 写真:松本典子 AD:松本賭至 衣裳:フラボン
出演:「煙の行方」中島美紀 和田江理子(青年団) 後藤飛鳥 田上智那(A) 志甫真弓子(B)※ダブルキャスト
「煙ノ行方」日下部そう 下薗琢磨 瓜生和成(東京タンバリン) 今井尋也(Megalo Theatre)
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
企画・制作:ポかリン記憶舎・フラボン・(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
ポかリン記憶舎:http://www.interq.or.jp/tokyo/pocarine/
2004年07月19日
ヴィレッジ・プロデュース『阿佐ヶ谷スパイダース・プレミアム「真昼のビッチ」』07/12-25シアターアプル
長塚圭史さん(阿佐ヶ谷スパイダース)の作・演出で、劇団☆新感線でお馴染みの役者さんが出演。
やっぱり大人気ですよね~。シアターアプルが満員でした。
長塚さんが描く世界はいつも暗くて殺伐としてて、ちょっと怖い感じですよね。今回も舞台はどんどんと人がいなくなっていく寂れた町ですし、主人公がすごく不幸な娼婦ですし、キツイ暴力もあります。
お話自体はあまり私の好みではないのですが、役者さんがすごく魅力的だったので退屈せずに2時間30分(休憩なし)を過ごしました。
何かを他人のせいにして生きていることって、私も含めて人間にはよくあることだと思います。自分の人生を左右するような重要なポイントでさえも、自分ではない誰かの責任にしていることがあるんですよね。そして重要なのは、それについて本人が完全に無自覚だってことです。果たしてそれに自覚する(気づく)のかどうか、自覚したとして、そこからどうやって生きていくのか。この作品の登場人物たちは変化しない方を選んだようですが、それって、たぶん不幸だと思うんです。どうしようもなく、致し方なくそうなることもあるかもしれませんが、私としては、そこからの克己心を観られる方が嬉しいな。楽天的ですが、私はそうあって欲しいと願う性質(タチ)です。
私はお芝居というと「まず脚本!」という人間だったのですが、最近その考えを改めようとしています。というのも、いくら脚本が良くても役者さんや演出次第でいとも簡単に駄作になるからです。その逆もまた然りですよね。「そんなことに今まで気づかなかったの!?」と思われるかもしれませんが、ハイ、そうでした。それほど私は言葉に執着していました。でも、今は違います。この作品でもすごく感じたのですが、やっぱり目の前に居る人間の力って想像以上に偉大なのだと思います。
高田聖子さんと小林高鹿さんの血のつながっていない姉弟コンビが最高にかっこ良かったです。お二人ともすごくセクシー。
小林さん、二枚目キャラクターが完全に板について来られましたね。黄色い声援が来るのも時間の問題かな~。
高田さんは新感線作品でもいつもうっとりと眺めさせてもらってますが、今回も水色のスーツ姿がめちゃくちゃ美しかった!千葉雅子さんと高橋由美子さんとの喪服バトルにはしびれました。
作/演出:長塚圭史
出演:高橋由美子 馬渕英里何 千葉雅子 橋本じゅん 小林高鹿 玉置孝匡 富岡晃一郎 吉本菜穂子 前田 悟 中山祐一朗 伊達 暁 高田聖子 渡辺いっけい
【照明】佐藤啓【音響】加藤温 山本能久【音楽】岡崎司 【舞台美術】島次郎 【衣装】藤井享子【ヘアメイク】河村陽子(DaB) 西川直子【演出助手】坂本聖子
【舞台監督】芳谷研【宣伝美術】Coa graphics(藤枝憲 河野舞 高橋有紀子)【宣伝写真】森豊【宣伝衣裳】藤井享子 【宣伝ヘアメイク】河村陽子 西川直子【Web】山川裕康 【制作助手】那須みちの 岡麻生子 寺本真美【制作】脇本好美 伊藤達哉【プロデューサー】細川展裕【制作協力】阿佐ヶ谷スパイダース キョードー大阪【企画・制作】ヴィレッヂ
《地方公演→大阪》
阿佐ヶ谷スパイダース:http://www.spiders.jp
2004年07月18日
新国立劇場演劇『請願-静かな叫び-』06/22-07/8新国立劇場 小劇場
イギリスの劇作家ブライアン・クラークさんの代表作です。日本で有名な作品だと劇団四季で上演されている『この生命は誰のもの?』があります。
草笛光子さんと鈴木瑞穂さんの二人芝居というだけで必見ですよね。
舞台は1980年代イギリスの最高級住宅街の中にある邸宅の、上品で家庭的なリビング。作品の内容は、簡単に言ってしまえば80代の夫と70代の妻との“本音トーク”です。
オープニングは、老夫婦が“いつものように”新聞を読んでいるシーンなのですが、それがあまりに自然で暖かくて、それだけで胸がいっぱいになりました。演技ってこういうことなんじゃないかなって思うんです。そこにただ居るだけで全てが伝わってくるというか、「そこに居る」ということがスタートでありゴールなのではないでしょうか。
退役軍人である夫エドムンドは、妻エリザベスが核兵器反対の署名をしたことに驚き、彼女を責めます。しかしながらエリザベスには堅い決意があり、エドムンドに自分の思いを伝え互いに語り合おうとします。実は彼女はガンに侵されており、余命3ヶ月だということも告白するのですが・・・。
酸いも甘いも知り尽くし、人生の辛酸も舐め尽くし、喜びも悲しみも共に味わってきたと信じてきた老夫婦でしたが、実は違う惑星に住んでいたのかと思うほど別々の考えを持って暮らしていたことが、白日の下にさらされていきます。二人の哀しみと慈しみ、そして何度も訪れる驚きと気づきに、私は振り回され、突き動かされ、涙が止まりませんでした。
作者のブライアン・クラークさんは、ご自身の絶対的な核反対の気持ちが地盤になっているとは言えど、一方的に軍人を馬鹿にしたり、軍国主義の時代を軽蔑したりすることはなく、それもまた、私達人間の歴史だと受け入れた上で、今の切実な思いを伝えようとしてらっしゃいます。私達の子供の将来、そのまた子供の未来について考えながら、毎日を生きていかなければと思いました。
草笛光子さん。がん患者の闘病生活の中から人間の尊厳を描いた『W;t(ウィット)』@パルコ劇場でも感服でしたが、今回もまた日本を代表する女優さんであることを見せ付けられました。草笛さん主演のお芝居は今後も絶対に見逃せませんね。
鈴木瑞穂さん。いかにも頭の堅そうな軍人気質のおじいさん役なのですが、すごくキュートなんです。『ニュルンベルク裁判』(@紀伊国屋サザンシアター)での威風堂々たる悪役の印象もそのままに、母性本能をくすぐる男の子の魅力もあわせ持っていらっしゃる、すごい男優さんだと思いました。
作:ブライアン・クラーク
翻訳:吉原豊司 演出:木村光一 美術:石井強司 照明:沢田祐二 音響:斉藤美佐男 衣裳:植田いつ子 ヘアメイク:林裕子 演出助手:山下悟 舞台監督:三上司
出演:草笛光子 鈴木瑞穂
新国立劇場:http://www.nntt.jac.go.jp/
2004年07月17日
シアター21『ヴァローニュの夜-ドン・ジュアンと7人の女たち-』07/10-18紀伊国屋サザンシアター
シアター21は見逃さないようにしています。
『恋の変奏曲』ですっかり心酔してしまったエリック=エマニュエル・シュミットさんの戯曲ということで、ちょっぴり期待しながら座席に着いたのですが・・・。
なんと・・・・ほとんど睡眠時間になってしまいました。幾度も必死で起きようとしたのですが、気づくと眠っていて、知らない間にエンディング・・・。私の両隣のお客様に申し訳ない。いや、もちろん作品を作っている方にもお詫びの仕様がない。途中休憩もあるしっかりした会話劇で、前半も後半もこれだけ寝てしまったら観た意味もないほどです。こんなの初めて・・・な、なんでなの、私!? 自分が驚きます。客席はおそらく“通”の方が多く、ほんのり暖かい大人ならではの笑いも起こってましたし、決してつまらない作品じゃなかったのだろうと思うのですが・・・それもわからない(泣)。
伝説の好色男、ドン・ジュアン(スペイン語でドン・ファン)の物語。モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』もこの男のお話です。
美術(堀尾幸男)は、両袖および舞台奥の幕全体と床に敷いた布全部に、風景画や裸婦像のプリントがしてあって、全体が絵画の中のおとぎ話のように感じられました。幕が透けて、幕の裏を歩いている役者の影が見えたり、ドアが透明だったりして、全体的にアイデアのあるシンプルかつエレガントなものでした。
衣装はさすが前田文子さん。同じドレスとはいえ役柄によって使い分けている色使いや型の違いにほれぼれ。結婚する(?)女の人のドレスが赤と黒の艶やかものだったのがツボでした。
ドン・ジュアンの家来(?)役の大鷹明良さんが出てらっしゃる時は目が覚めました。ほんとに面白い方だなーと拝見する度に思います。
あぁ何を書いても言い訳みたい・・・ほんとにすみません。再演があったら必ず行きます。それも今回のように休日マチネじゃなく、公演が始まったあたりのソワレに。心を引き締めて・・・。
劇作・脚本:エリック=エマニュエル・シュミット 演出・翻訳:鵜山仁
出演:立川三貴/寺田路恵/大鷹明良/津田真澄/名越志保/山本深紅/目黒未奈/粟野史浩/野口径/淡路恵子
美術:堀尾幸男 照明:山口暁 音響:秦大介 衣裳:前田文子 ヘアメイク:林裕子 演出助手:城田美樹 舞台監督:加藤高 宣伝美術:坂本拓也 宣伝写真:サト・ノリユキ プロデューサー:三崎力 芸術監督:山崎正和
《地方公演→兵庫》
紀伊国屋書店内:http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/hall.html
2004年07月15日
俳優座劇場プロデュース『ハロー・アンド・グッドバイ』07/08-07/18俳優座劇場
北村有起哉さんと久世星佳さんの二人芝居で、栗山民也さんの演出だなんて、必見ですよね。
俳優座は演劇を観る場所として、個人的にかなり好きな劇場です。
舞台は南アフリカのポート・エリザベス。寝たきりの父親の看病をしている弟(ジョニー)のところに、何年も前に家を出て行ったきりだった姉(ヘスター)が突然帰ってきた。ヘスターは遺産(保証金)を探し出すために、家中の箱という箱をジョニーに運んで来させて、どんどんと開けていく。しかし出てくるのはお金とはほど遠い、思い出の品(がらくた)ばかり。
暗くて、つらくて、哀しくて、どこにも出口がない袋小路に行きついて、息も出来ないような、不幸な若い男女の数時間のお話。途中休憩を挟んで2時間20分でした。前半はちょっと長く感じました。北村さんは等身大でリラックスされていたのですごく引き込まれたのですが、久世さんがちょっと空回りしているような感じで集中できなかったんです。しかしながら後半は、姉弟それぞれの人格がじわじわと迫ってくるように明らかになってきて、私はその哀しみに共感して涙がこぼれました。ネタバレします。
必死で“何か”を探している二人をじっと見ていて、いたたまれない思いが胸にこみ上げました。まるで私自身を見ているような気持ちになったのです。私も誰かを失って、その人の残り香を感じながら生活している中でしみじみと感じているのですが、物(もの)には心がある、魂が宿っていると思うのです。母親が昔着ていたワンピースを泣きながら抱きしめるヘスターや、父親が使っていた松葉杖を離そうとしないジョニーを見て、やはり誰もがそうなのだと確かめました。
ジョニーは、父親の看病をして生きることを選び、機関士学校に行くのを自分から断念して家に残りました。彼の人生は常に「万が一の時のため」の人生であり、箱の奥にしまわれたままでした。優しさの仕業とはいえ、自分で自分を殺してしまっている人は今のこの世でも本当に多いと思います。
お金を探しているうちにヘスターは、自分が「たった一つでいいから、私の人生が楽しかった時のものを見つけたい」と思っていることに気づきます。私もすごく共感しました。私の周りに有る沢山のモノたちの中で、本当に私が幸せだったことを思い起こさせてくれるようなものは、あるのでしょうか。ヘスターが決して履くことの無かった可愛らしいピンク色の子供靴が出てきた時はつらかったです。そうやって舞台に居るヘスターがどんどんと私に迫ってきて、私に、私自身の心の奥を見るように仕向けました。
『ハロー・アンド・グッバイ』は「出会って別れる」という意味ですよね。弟と姉は出会ったけれど、すぐに別れます。きっともう二度と会うことはないのでしょう。けれども二人は出会ったことで、前とは違う人間に変化しました。ヘスターは父親が死んだことを知ることによって、本当の意味で孤独になり、自立します。ジョニーはヘスターに父親の死を話したことでやっとそれを受け入れることができ、松葉杖をつきながらも一人で立つことが出来るようになります。「復活」という言葉でこの作品の幕が下りるのは、まさにそれを象徴していると思います。
「沈黙とは、待つことである」というセリフ(完全に正確ではありません)には心底納得しました。私達はこの先に未来があるとわかっていて、それを大切にして期待している時は、黙ります。先のことを考えないで、その場しのぎの存在になっている時は、人間は多弁なものです。
北村有起哉さん。ジョニーが汽車で働くための学校へ行くのを断念したいきさつや、ものすごく過酷な肉体労働をしていた父親が、最後に母親となる女性に出会ったこと等、長く語る演技が素晴らしかった。常に情景が目に浮かぶように伝えてくださいます。そして自然でした。不遇のジョニーがいとおしかった。
久世星佳さん。全体的にちょっとセリフが走りがちで上滑りしていたように感じました。でも後半では熱い心が伝わってきました。スリップ姿がセクシーでかっこいいです。
作=アソル・フガード/訳=小田島恒志 演出:栗山民也
出演:北村有起哉 久世星佳
美術:妹尾河童 照明:勝柴次朗 音響:斉藤美佐男 衣裳:宇野善子 舞台監督:上村利幸 演出助手:宮越洋子 舞台統括:荒木眞人 宣伝写真:玉川豊 宣伝美術:倉井陽子 企画制作:俳優座劇場
俳優座劇場:http://www.haiyuzagekijou.co.jp/menu.html
パルコ/Me&Herコーポレーション『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで!~』07/08-25ル テアトル銀座
イギリスを代表する喜劇作家レイ・クーニーのドタバタ・シチュエーション・コメディーを山田和也さんが演出。それで主役が上川隆也さんですから、こりゃー観に行くでしょ!って張り切って劇場に行ったのですが・・・途中休憩で帰りました。
“ダメかも”って予感がなかったわけじゃないんですけどね、まさか上川さんが原因になるとは思わなかったんです。まあ、脚本の内容自体にも打ち解けられなかったんですけどね。上川さんが・・・・どうしちゃったのかなぁ。
まず、主役でセリフが膨大なんですが、セリフをよく間違ってらっしゃいました。主人公のデーヴィッドは隠し子のことを隠すために、周りにどんどん嘘をついていくのですが、シチュエーションコメディーのお約束ということで、その嘘が部分的にバレたり嘘が嘘を呼んだり、何をやってもうまく切り抜けられずに、だんだんと逃げ場が無くなっていきます。
こういうお芝居で大切なのは、やってることは悪いこと(嘘をついている等)なんだけど、どうしても主人公を憎めない、それどころか可哀想、可愛らしいと思えることなのです。でも、上川さんが可哀想じゃないんです。イヤな奴のままだったんです。うーん・・・高貴なイメージが良い働きをしないこともあるのかもしれません。
あと、舞台が病院ってのも私にはきつかった。病棟がいくつもあるような大病院の医者と患者の世界でドタバタコメディーってのは、信憑性が無さ過ぎるんですよね。あんなに明るいはずないんです。これを言っちゃぁおしまいなんですけど(苦笑)。脚本が書かれた80年代とは状況が違う気がします。
"It runs in the family(蛙の子は蛙。血は争えないもんだね。)"の意味がわからないうちに劇場を出てしまいました。いつか誰かに聞こうっと。
舞台装置がとても豪華でした。医師だけが使うことができる談話室なのですが、ル テアトル銀座の高くて広い舞台全体がリッチ&ゴージャスな客間になっていました。イギリスの大病院のイケメン医師はこういうところで葉巻吸ってそう!って思えました。粉雪が降り続けるのも素敵。あのカーテンもシックな柄で良かった。
近江谷太朗さん。同僚の医師ヒューバート役。憎めないおとぼけキャラ。お約束をきっちり果たしつつ、楽しんでらっしゃるようでした。
峯村リエさん。婦長役。りりしいコメディエンヌ。ナイロン風のビシッ!!と決まる笑いに胸がすく思いです。
綾田俊樹さん。老衰しかけている患者役。出てきてくださっただけで感動。その優しさは底なし沼。綾田さん見たさに後半も残ろうかと迷ったのですが、力及ばず・・・。
たしか上川隆也さんと羽田美智子さんって、金田一耕助と悪女という役柄でテレビドラマに出てらっしゃいました。その時の方がお二人とも素晴らしかった。
作・脚本:レイ・クーニー 翻訳:小田島雄志/小田島恒志 演出:山田和也
美術:太田創 照明:高見和義 衣裳:黒須はな子 音楽:川崎晴美 音響:高橋巌 演出助手:則岡正昭 舞台監督:小林清隆 アートディレクション:田部良子 宣伝写真:加藤孝 製作:伊東勇 制作:祖父江友秀/山家かおり 主催:TBS 企画制作:パルコ/Me&Herコーポレーション 製作:パルコ
出演:上川隆也/羽田美智子/濱田マリ/石田圭祐/海津義孝/峯村リエ/近江谷太朗/湯澤幸一郎/一太郎/江口のりこ/山本与志恵/綾田俊樹
《地方公演→福岡、大阪、名古屋》
パルコ劇場:http://www.parco-city.co.jp/play/
2004年07月14日
HUG306-54 『彼らについて私が知っている二、三の事柄』07/13-18テアトル・デ・ソンス・ギャラリー
お友達が出演されているので観に行こうと思っていましたが、“HUG306-54 とは?”に書いてある文章を読んでさらに観に行きたくなりました。
男女1人ずつのパフォーマンス作品でした。上演時間は約1時間。
シュレッダーされた紙(ゴミ袋30袋分だそうです)が敷き詰められた白い舞台。衣装も含む全体のヴィジュアルはSAZABY'S AFTERNOON TEAからさらに毒気を抜いた感じのパステル・アース・カラー。若い男女が横たわっている。心地よいボサノバ調(決してボサノバではないけれどカフェでよく流れてそうなギター)音楽がかかっている。
私の心が、いかにささくれだっているかがよ~くわかりました・・・。目の前の幸せな空気を受け入れられなかった。そんなにふんわりと何もかもを全肯定されても・・・って、ひねくれてしました。昨日見た男女二人芝居(北村有起哉&久世星佳 出演『ハロー・アンド・グッバイ』)と、どうしても比べてしまうし・・・。私は心が狭いんですよ。他人の幸せを自分のことのようには喜べない・・・(泣)。
パーカッションの生演奏が心地よかったです。パフォーマーが舞台上で箱型の打楽器(正式な名称があるそうです)を演奏するのも楽しい。
松本力さんのアニメーションはイメージとしてはクレイアニメのようで、すごく私好みだったのですが、何度も繰り返されたのはちょっとつらかったかな。
加藤幸夫さん (ク・ナウカ)。めがねを掛けたお顔が優しくて、素敵でした。
山中郁さん (bird's-eye view)。一生懸命でけなげな立ち姿が「女」を表していました。もうちょっと表情がリラックスしていて欲しいな~と思いました。
“HUG306-54 とは?”内で私が心引かれた文章(棚川寛子さんの文章だと思います)は下記です。
「作品を見ていただいた後に、何か、『あとから届く優しい手紙』のような、持ち帰った後に醸造されるような、そんな作品になればと考えます。」
「明日も続く日常に帰っていく。自分達の身近な人達が幸せでいて欲しい。少しでも多く笑っていてほしい。それは、今できることから。我々の共通の思いです。そして、社会に無関心ではないというポジティブで小さくささやかな発信なのだという思いに繋がっているのです。」
Peformance:加藤幸夫 (Ku Na'uka)/山中郁 (bird's-eye view)
Plan: 棚川寛子 Guitar: Arichi (Ambient Groove) Animation:松本力 Costume: 岡崎イクコ・Ruu(ROCCA WORKS <ロッカワークス>) lighting plan: 福田玲子 Manager: 眞覚香那子/させいくみ
HUG306-54 : http://www.geocities.jp/hug3hug3/
2004年07月08日
★PR★ Rel-ay『ギャラクシー ラヴ メドレー』07/08-11麻布ディプラッツ
しのぶが制作をしておりますRel-ay(リレイ)の公演です。
とうとう初日を迎えます。
ゲネも無事終了し、後はお客様にご覧頂くばかり・・・♪
ものすごく面白い脚本です。
「だから私はRel-ayが好きで、作・演出のかあきじいんずを支えたいと思うんだ」と、改めて心に強く確かめました。
笑い多い目の、切ないラヴの短編集。
宇宙サイズのバカでかい愛を、どうぞ感じてください!!
Rel-ay, the 7th Comedy
『ギャラクシー ラヴ メドレー』
@麻布die pratze
(大江戸線 赤羽橋駅 赤羽橋出口から徒歩1~2分)
●タイムテーブル
7月 8日(木)19:30
7月 9日(金)19:30
7月10日(土)14:00/19:30
7月11日(日)13:00/18:00
※受付開始、当日券販売は開演の1時間前、開場は30分前
※開演5分前までにご来場いただけない場合、
御予約がキャンセルになることがございます。
※当日券のご予約は出来ません。
●チケット
前売り¥2,500 当日¥3,000 全席指定
●ご予約はコチラへ!
劇場TEL 03-5545-1385 (公演期間中)
Rel-ay制作TEL 090-2657-5289 (AM10:00~PM10:00)
※ご希望ステージの前日PM10:00までにご連絡ください。
お名前、日時、枚数、お電話番号をお伺いします。
Rel-ay:http://www.rel-ay.com/