reset-N(リセット・エヌ)は夏井孝裕さんが作・演出される劇団で、私は賛助会員(Support-N)になっています。
今回はレイ・ブラッドベリ原作のSF小説『火星年代記』をreset-N風に脚色・演出されるとのことで、前回のバロウズ原作『裸のランチ』も面白かったので、期待して横浜に出向きました。
1999年から2026年までの火星の歴史を年ごとに辿って行くスタイルでした。客席から舞台に向かって正面の壁に貼ってある、小さな黒板に白いチョークで年月を書いて(例:Aug. 1999)、シーンが進むごとにそれを消して書き直します。全体は時系列に進む計14個のエピソード集のようになっていました。初めて地球人が火星に到着したのが1999年、2005年に地球で核戦争が起こり、壊滅的なダメージを受けた地球からある家族が火星に移住してくる2026年でラストです。
シーンを細かく作って積み上げていくというよりは、登場人物や場面設定を朗読で説明し、淡々とエピソードの紹介をしていくスタイルでした。
舞台は劇場のレンガの壁がそのまま露出している状態で、ステージ上にはおしゃれなスツールや、ビーチによくあるビニール製の長イスなどが気楽な感じで置かれています。照明も『裸のランチ』同様に明かり自体が美しいものが揃っていて、reset-Nらしいクールで洗練された空間が出来上がっていました。
原作は読んだ事がなかったのですが、レイ・ブラッドベリ短編集は目を通す程度に知っていました。物語が進むについれて、ブラッドベリらしさがだんだんと肌で感じられるようになり、やっぱり夏井さんは原作をすごく大切にされてるんだなぁと思いました。バロウズの『裸のランチ』についてもそうだったと思うんですよね。reset-Nならではの舞台空間でありながら、伝わってくるのは原作のイメージだというのは、既存の本(映画でも音楽でも何でもいいのですが、ここでは本にしました)を上演する場合の一つの理想の形だと思います。
上演時間はきっちり2時間ぐらいだったかと思います。朗読劇のように緊張が持続するタイプのお芝居だったからか、ちょっと長く感じました。でもストーリー自体がすごく面白いし、目に入ってくるもの、耳に届いてくるものがとても繊細で美しいので、最後まで退屈しませんでした。
声があれほど反響しちゃったのは計算違いだったんじゃないかなぁ。役者さんの力量が作品の質を露骨に左右してしまいます。演技が上手い役者さんでも、実は発声ができていなかったりするんですね。新人さんの朗読はやっぱりきつかったです。所属役者さんがこれを踏まえてどんどんと技術を身につけて行ってくれれば、reset-Nの世界はもっともっと完成度が高くなると思います。
異常な猛暑だったこの夏を過ごした私たちには、残念ながらブラッドベリのSF世界が非常に身近に感じられるようになってしまいました。私たちが地球を破壊するスピードは確実に速まっています。それを予言するかのような作品を今上演するという所に、reset-Nの理念を感じます。私はそこに共感しています。
※賛助会員について
半年に一度発行される賛助会員のための会報をいただきました。内容は夏井さんのインタビューやグランドデザインを手がけるデザインチームmassigla lab.についての解説など非常に充実していて、なんと前回公演の脚本も同封されていました。終演後に夏井さんとお話させていただけましたし、劇団員の皆様をご紹介いただくなど、心のこもったおもてなしを受けました。賛助会員になって良かった♪
※横浜への旅路について
まず赤レンガ倉庫にたどり着くまでの道のりで感動しました。みなとみらい線が東急東横線と直通なので渋谷から一本で馬車道駅まで着きましたし、駅も新しいだけでなくデザインが凝っていて面白いんです。横浜市ってすごい!こんなに町が美しいなんて!!また観光にも来ようと心に誓いました。
そして会場の赤レンガ倉庫ですが、これがまた信じられないほどカッコいい!こんなにきれいでおしゃれで、しかも昔のものを観光資源として再利用しながら、現代のものと融合させている奇跡的な建物があるなんて!!今まで知らなかった(知ろうとしなかった)私を悲しく思いました。どうか皆さんも、ちょうどスパーキング21という演劇フェスティバルもあることですし、横浜に訪れてください。
スパーキング21 vol.15 特別企画公演
脚本・演出:夏井孝裕 原作:レイ・ブラッドベリ 翻訳:小笠原豊樹
出演:町田カナ 久保田芳之 篠原麻美 原田紀行 平原哲 綾田將一 生田和余 長谷川有希子
舞台監督/小野八着(JetStream) グランドデザイン/massigla lab.(舞台美術・照明・音響のトータルデザイン) 音響協力/荒木まや(ステージオフィス) 照明協力/木藤歩(balance,inc.DESIGN) 衣装/福井希(massigla lab.) 小道具/M'z garden 宣伝写真/山本尚明 制作/秋本独人・河合千佳・森下富美子
共催:横浜市/(財)横浜市芸術文化振興財団 助成:独立行政法人日本芸術文化振興会/(財)セゾン文化財団/神奈川県
公演公式サイト:http://www.reset-n.org/jp/kasei/index.html