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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年10月03日

新国立劇場『こどものためのオペラ劇場 ジークフリートの冒険~指環を取りもどせ!GET BACK THE RING!~ 』08/06-08新国立劇場 中劇場

ジークフリートの冒険.jpg
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 ワーグナー作曲の、壮大なスケールのオペラ『ニーベルングの指環』を子供向けにわかりやすく脚色・編曲・演出した作品で、通称「キッズオペラ」。あぁ、これを観られた子供はなんて幸せなんだ!!私も小学生の頃に観たかった・・・(泣)。
 初日写真が公開されています!子供も大人も一律で2,100円なんて、恐ろしいほどお値打ち価格です。メルマガ号外(2004/08/07 14:20)を出しました。

 会場に入るなり、文字が目に入りました。舞台中央前面に飾ってある剣の上に、大きな垂れ幕のような布がぶら下がっています。そこに書かれているのは筆で書かれた巨大な「さわるな!」の文字。もちろん平仮名です。劇場空間に入った瞬間に、子供を物語の世界へと飛び込ませる仕掛けですよね。作った大人たち!あんたたちサイコーにかっこいいよっ!!

 そしてオープニングにさっそうと登場したのはTOYOTAの“パートナーロボット”。余裕の二足歩行で登場し、きれいな女の人の声(録音)にあわせてめちゃくちゃ滑らかな動きで、観客に話しかけます。そして、なんとラッパを吹くんです。あれには驚いた。SONYアイボとかキュリオとかHONDAのアシモとか、全然およばないよねぇ。だいたい名前が好き。ちゃんと「ロボット」って言ってるところが。人格があるように感じさせちゃダメだと思うんですよ、ただの塊なんだから。おっと話がそれました。

 歌は全て日本語で、セリフも多いのでオペラ歌手は歌唱力以外に演技力も相当要求されます。でも皆さん、ものすごくお上手でした。コメディーセンスもあるし、立派なエンターティナーでらっしゃいました。途中、指揮者にも話しかけるんですよ。いや~・・・全身全霊で子供のために作られている!

 森の小鳥(久嶋香奈枝)がかわいかった!演技力がすごいですね。鳥の鳴き声が出る、口の中に入れて演奏する楽器は一体何というのかしら?本当に鳥の声だし、しかも豊かな感情表現ができていました。
 ジークフリート(経種廉彦)も明るくおおらかな演技でヒーローの役割をしっかり果たしてくださいました。オペラ歌手のふところの深さに感涙ものです。歌も大満足。
 歌が弱かったのはラインの魚の妖精たちですね。ワルキューレの3人の妹たちと同じキャストが演じていました。

 衣装はひびのこづえさん。さすがでした~・・・もー最高に楽しいファンタジックなコスチュームでした。悪者のドラゴンの衣装は風船のように膨らんでいて、空気を抜くときれいにぺっしゃんこになる仕組みになっています。体中に付けられたあの赤くて丸いイボイボは、たぶんプラスチックのゼリーの入れ物を接着剤で貼り付けているんじゃないかしら。

 美術は堀尾幸雄さん。ピカピカ光る布を下からの風でなびかせて赤いライトを当てて炎に見せたり(野田さんのオペラ『マクベス』では魔女が使う巨大な釜を表現するのに使われていました)、舞台面よりも大きいサイズの布をなびかせてライン川を表現したり(『透明人間の蒸気』でもありましたよね)、舞台上でわくわくドキドキのマジックが繰り広げられました。子供も大人も夢中です。

 ラストシーンはちょっと遊びすぎかな~と思いました。悪者もみな集まって仲良く記念写真っていうのは、ね(苦笑)。でも子供向けですので「ハッピーエンドであることは良きこと哉」です。
 最後に歌手の皆さんが客席通路に出てきて歌を歌って、子供たちと握手したりだっこしたりしてくれたのが最高に嬉しい演出でした。

 配布された当日パンフレットが素晴らしかったです。A3サイズを折って手のひらサイズにしているのですが、各ページに指輪の絵が描いてあって、その輪の中がくりぬかれているんです。大きな指輪、小さな指輪と穴の大きさは様々なのですが、ページが重なるごとにその穴が同じ場所に何重にも重なっていき、表紙から見ると、指輪がいくつもあるように立体的に見えました。中身はオールカラーで、ひびのこずえさんの衣裳デザイン画が見開きにそのまま載っており、登場人物のキャラクター紹介になっています。子供達は大喜びで、開演前も上演中も(苦笑)、そして終演後もその絵を見ながらしきりに感想を話し合っていました。(ポスター・プログラムデザイン:山本寛)

 劇場内およびお周辺でで夏休みイベント「アーツシャワー2004」が同時開催中でした。→fringe blog「野田舞台の小道具にさわれます」


 ※一緒に観劇したお子様たちの感想を聞いてみました。皆さんひとこと目には口をそろえて「面白かった」と言っていましたが、ストーリーについては驚くべき返事が返ってきました。
 「みんな自己中!」「卑怯者だよねっ。」・・・えええ??そ、そういえば・・・・誰一人として他人のためにがんばっている奴がいなかった。鳥ぐらい?でも鳥だって、眠らされているワルキューレ長女を助けたかったとはいえ、ラインの娘たちの指輪を盗ませようとしたしねぇ。ジークフリートもあのままほっといたら指輪盗んでましたよね。父王なんて自己中そのもの!(笑)なるほどな~。
 卑怯者というのは、王の剣を守っていたワルキューレ妹たちのことでした。姉が助けてくれたというのに、ちゃっかり逃げちゃって。姉がつかまって眠らされる時も、誰も父王に反抗しないどころか、逃げっぱなしでした。あぁ・・・日本人の子はやはり日本人。義理人情に厚いのです。なんだかお子様に一本取られました。

リヒャルト・ワーグナー:「ニーベルングの指環」による
編曲・指揮 :三澤洋史 台本・演出 :マティアス・フォン・シュテークマン
キャスト:平井香織 経種廉彦 泉良平 久嶋香奈枝 島村武男 諸井サチヨ 前田祐佳 清水華澄
美術 :堀尾幸男 衣裳 :ひびのこづえ 照明 :磯野睦 音響:土肥昌史 舞台監督 :村田健輔 演出助手:田尾下 哲 副指揮:城谷正博
管弦楽 :新国立劇場こどもオペラ・アンサンブル(東京フィルハーモニー交響楽団メンバーによる)
主催 :新国立劇場 共催 :朝日新聞社
新国立劇場:http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 2004年10月03日 11:14 | TrackBack (0)