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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年11月06日

チェルフィッチュ『労苦の終わり」』11/03-07横浜STスポット

 今どきの若者の言葉づかいと身体表現をもちいた演劇およびパフォーマンスを作るチェルフィッチュは、岡田利規さんの一人ユニットです。私はもうクセになっているというか、絶対に見逃せないです。

 作品の作り(種類)としては『三月の5日間』と同じ感じでした。何もない舞台に役者がトボトボと現れ、「今から『労苦の終わり』っていうのをやりまぁす」と言って、演技じゃないような演技が始まり、若者言葉で話し続けます。「てゆーかぁ」「なんか~~~でぇ」「私~~なんですけどっていう感じで」「~~とか思ったりしちゃうんですけどって感じで」・・・というような言葉回しで、次々としゃべりたくります。本当に膨大なセリフ量です。

 今回の主題は「結婚というか、夫婦というか。」でした。20代後半から30代前半の男女のお話ですね。これまた『三月の5日間』と同様に、泣いちゃったな~・・・・上滑りしていくような非常に他人行儀な言葉の洪水の中に、本当の感情がふんわりと点っているのが見えてくるんです。悲しい気持ちと嬉しい気持ちが、すっごく遠慮がちに私の方にその手を伸ばしてくるんです。今の日本人の若者って、自分が傷つきたくないという恐れを持っていながら、すごく他人のことを気遣っているんじゃないかな。そういう奥ゆかしさを持ってコミュニケーションしてるのかも、と思いました。休憩時間にすごく優しい気持ちになっている自分に気づきました。
 
 ここからネタバレします。

 A君はBさんと結婚しようと決心した。実はA君には二股をかけているCさんがいたが、ちょっとした言い争いの末、ちゃんと別れた。A君はBさんにプロポーズした。Bさんは喜んだ。A君も嬉しかった。Bさんは家に帰り、ルームシェアしている先輩のDさんに事の次第を打ち明ける。実はDさんは過去に結婚したことがあり(今も結婚はしていて別居中)、旦那のE君とのケンカの顛末を一晩中Bさんに話し込む。次の日、徹夜明けでBさんはA君との待ち合わせ場所に向かう。二人の新居を探すために不動産屋めぐりをすることになっていたのだ。A君と会ったBさんは「結婚について不安になってしまった」と打ち明ける・・・。(登場人物の名前を忘れたのでアルファベットで表記しました)

 私が泣いちゃったのはプロポーズのところと、結婚式のスピーチを数人が繰り返し話すところです。
 A君(江口正登)のプロポーズって本当にダサイんですよ、あんな風に言われたらマジで引くよね!?って思います(笑)。でも、A君がのろのろとそれなりに頑張って気持ちを説明し、同じような動作と言葉を何度も繰り返すのを眺めていると、あぁこのコは本気なんだなってわかってきて、そしてその気持ちだけがリアルに浮き出てくるんです。
 一人の人物をかわるがわる別の役者が演じるのも、単に演出として面白いと感じる他に、先に述べたような「気持ち(感情)」が表層に現れる効果があると思います。また、一人の役者が最初はBさんを演じていたのに、いつの間にいかDさんになっていたりするのも同じ意味で見所です。それにしてもチェルフィッチュに出演する役者さんって大変だよなと思います。

 結婚式のスピーチってあれですよ、どんな結婚式でも同じスピーチをするサラリーマンのオヤジの話。そのスピーチでオヤジは小話をするんですが、内容が「夫婦喧嘩は寝れば直る」っていうどうしようもなくオヤジネタ爆裂なオチなんです(苦笑)。それを登場人物たちが笑える(あきれる)話として話題に出すのですが、違う人物がそれぞれ全然関係ない場面で話し出します。「結婚」という男女の儀式を人類は少なく見積もっても1500年以上続けているわけで、その間に起こった「結婚」の数の分、人間はこのお話に出てくる若者のように悩み苦しみ、おずおずと自分達のささやかな幸せを生み出しているんだなぁと、しかもそれが同時多発的に今も起こっていると思うと、なんだかやるせなくて馬鹿馬鹿しくて、それでいてどうしようもなく可愛くて、今私が生きている世界を愛らしいなと思ったんです。人類の歴史というか、時間の悠久を感じたちゃったんです。
 それにしてもそのオチは間違ってますよね。里中満知子さんも漫画で「男って、こうだから(セックスすれば仲直りできると思ってるから)イヤ!!」って描かれてます(笑)。何もせず無視するよりはせめて「寝る」方がいいかとは思いますけどね。そうね、やっぱり無視が一番いけないよね。このお話では「ひょうひょうとする」という風に表現されていたと思いますが。
 
 Bさんが待ち合わせ場所まで行く途中の電車の中で爆睡して夢を見ているシーンを、同じ演技・演出方法で見せたのは面白かったですね。黄色い照明もバカっぽくてよかった(笑)。そう、今回は照明がすごく効果的できれいでした。

 上演時間が休憩(10分?)を挟んで2時間強っていうのは長く感じました。会場内でビールを売ったりして「気軽に眺めててください」っていう姿勢なんだと思ったので、退屈したりしんどくなった時は私は目をつぶって声だけ聞いたりしていました。やっぱり繰り返しが多いと感じると、それが私の頭の中でノイズになってしまうんです。だから受け入れ手段を耳だけに絞りました。耳をふさいでも良かったのにそれをしなかったということは、私は言葉を聴きたいと思っていたのでしょうね。

 ガーディアン・ガーデン公開2次審査会も合わせるとチェルフィッチュを観るのは4度目になりますので、お馴染みの役者さんも出てきました。なんかすごく好きになっちゃったなぁ・・・。特に『三月の5日間』でラブホテルに4泊5日したカップルを演じられていた山崎ルキノさんと山縣太一さんは、『WE LOVE DANCE FESTIVAL』でも空調バトルする男女役で出演されていて、私はすっかりファンになっています。今回もすごくいとおしい気持ちで見つめてしまいました。

 最後に出てきた別居している男(E君)役のトチアキタイヨウさんだけ、完全に毛並みが違いましたね。なんか年相応の人が出てきちゃったというか、生っぽかった。岡田さんは意図的にそう作られたそうですが、私はちょっと怖かったな。役者さんの個人的な主張を感じて、お説教をされているような気にもなりました。
 観客が生きている現実は演劇の中で示される現実と同じように厳しいでしょうし、もしかするとそれよりもつらいものであることが多いんじゃないかと思うんです。だから、嘘やファンタジーの中から知らない内に観客の心の中の現実に触れることの方が、実は現実というものを感じさせるのに近い方法なのではないかと思います。世界にはさまざまな表現方法がありますが、私はわざわざオブラートに包んだくれたり、包装紙に包んでリボンをかけて、メッセージも添えてある丁重なプレゼントとして受け取るのが好きなのでしょう。その方が伝わる速度が早いですしね。

 演劇の観客だけでなく、ダンス・パフォーマンスの観客もチェルフィッチュを観に来ています。演劇であると同時にダンス・パフォーマンスでもあるのは、チェルフィッチュのオリジナリティだと思います。

STスポット演劇フェスティバル スパーキング21参加作品
作+演出=岡田利規
出演=江口正登/東宮南北/三木佳世子/山崎ルキノ/山縣太一/松村翔子/トチアキタイヨウ
チェルフィッチュ:http://homepage2.nifty.com/chelfitsch/
スパーキング21:http://www.jade.dti.ne.jp/~stspot/stage/index.html#spa

Posted by shinobu at 2004年11月06日 12:17 | TrackBack (1)