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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年11月07日

新国立劇場演劇『ヒトノカケラ』10/22-11/03新国立劇場小劇場

 新国立劇場の小劇場をさらに小さく使うTHE LOFTという企画の第1弾(3弾まであります)。
 クローン人間をモチーフにした現代劇です。

 舞台は2005年の日本。KKSという遺伝性の死に至る病にかかっている母子と彼らをとりまく人々のお話。(KKSとは架空の病で、50%の確率で母子感染して40代で発症、症状は自律神経失調と重度の記憶障害で、発症から4~5年で廃人同然となり死亡する、という設定)
 聡子(キムラ緑子)は母親から遺伝したKKS患者で、既に自律神経失調が始まっている。彼女には息子・融(若林誠)がおり、彼こそが聡子が20年前にクローニング出産(母親の遺伝子を受け継がない子供を生むこと)で産んだクローン人間だった。聡子とその妹・真梨子(佐藤あかり)はその事実をひた隠しにして生きてきたが、KKS患者による日本“初”のクローニング出産が発覚したことで、彼らの平穏な生活に破綻が訪れる。

 自分の病気が子供に移ってほしくない一心でクローニング出産をした、というのがこのお芝居の中の事件の発端であり、これからクローン人間の是非を問う時代にはこういうことが一番の懸案事項になっていくと思われます。このお芝居では遺伝子病患者がいかにつらい思いをするか(しているか)という点に、必要以上に重点が置かれていたように感じました。遺伝性の難病は現実にも存在するので、そのリアリティを描くことは大変だし重要だと思うのですが、今作品のテーマであるクローン人間自体にもっと焦点を当てて、掘下げていってもらいたかったです。私は最先端のクローン技術についての知識を得たかったので、それを教えていただけたことは充分嬉しいのですが、ドラマとしては納得いかないことが多く、感情移入できなかったです。感傷的なメロドラマである面ばかりが印象に残りました。
 
 ストーリー展開で腑に落ちなかったことを書きます。
 聡子は息子のクローニング出産のデータが書かれたノートを焼こうとするが、体が思うとおりに動かない。中庭で倒れているところを家政婦に発見され、“ノートをその場に置き去りにしたまま”家に運び込まれる。そしてそのノートを、ES遺伝子バンクの芹沢(KONTA)から「ノートを探してほしい」と“言われたばかり”の“息子”が見つけて、読んでしまう。自分の出生の秘密を知ってしまった息子は、台所で自殺を図ろうとする。のどもとに包丁を突き刺そうとしているところに、“ちょうど”聡子が現れ、聡子と息子の命がけの大喧嘩が始まった。言い合いの末に聡子の夫の死について新たな謎が発覚し、その真相を解き明かすべく息子が聡子に詰め寄った“途端”、聡子に記憶障害が起こり、普通の人間ではなくなってしまう・・・。タイミングが良すぎます。そんな都合が良すぎる展開に、役者さんの迫真の演技も空しく私はちょっぴりシラけちゃったんです。また、細かいことですが、体が思うとおりに動かない聡子がなぜ必死でワープロ打ちをしたのでしょう。あれは妹がやれば良かったのでは?

 女性の体から卵子を取り出して、その卵子とES細胞と合わせて臓器を作るんですね。だから色んな卵子を“買って”集めてるっていうのは怖い。「卵子や細胞は言わばヒトノカケラだ。ヒトになるかもしれなかったものが、肝臓とかホネとかになっちゃうのはどうなの?」という疑問は最もだなぁ。科学を突き詰めると必ず倫理や哲学に行き着くという意味がよくわかります。「あなたはクローン人間を、そしてクローン社会を認めますか?! 」という風に公式ページに書かれていますが(あまりにストレートでちょっと苦笑しちゃう文章ですが)、きっと私達自身がこの選択をしなければいけない日が遠からずやってくるのでしょう。

 THE LOFT企画ということで、いつもの小劇場をさらに半分ぐらいの大きさにして、舞台と客席の距離を近く作られているのですが、臨場感が増したようには感じられませんでした。私は最前列でしたが、通常の新国立劇場小劇場の公演の最前列の時と変わらないんです。たぶん装置が原因なんじゃないかなぁ・・・およそ3階レベルまで作られている大きなものだったので、見上げることが多かったのです。見上げるよりも視線のすぐ前に舞台があって欲しいです。あと、ただのわがままなんですけど、ベンチシートっていうのがつらかった。どうせならもっと「小劇場」の雰囲気を味わいたいと思っちゃいますね。

 美術は金属を使ったシャープで近未来SF的なイメージが強いものだったのですが、戯曲の内容からしてあまり合ってない気がしました。クローン人間よりも家族のドラマがメインだったようですから。映像を使う公演は今すごく沢山あって、どんどんレベルが上がっています。だから大きなスクリーンを使えばいいってわけじゃないんですよね。

 キムラ緑子さんの演技は圧巻。だけど作り物っぽさが垣間見えてしまう演出のせいで、“自分の思うとおりに体が動かない演技”が踊りの振付のように見えることがあり、余計だなぁと感じることがありました。

作:篠原久美子 演出:宮崎真子(崎は違う字です) 美術:二村周作 照明:磯野 睦音響:小山田昭 衣裳:加納豊美 ヘアメイク:林裕子 演出助手:松川美子 舞台監督:茂木令子
出演:キムラ緑子 KONTA 若林誠 上田桃子 佐藤あかり 橘ユキコ
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s242/s242.html

Posted by shinobu at 2004年11月07日 16:50 | TrackBack (0)