REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年11月11日

劇団、本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』11/10-14青山円形劇場

 チラシヴィジュアルやタイトルが私の好みとかけ離れていたため観ていなかった劇団、本谷有希子ですが、第2回ヴィレッヂプロデュースに出演された時の本谷さんのあまりの可愛らしさに「いつか行こう!」と思っていたのがやっと叶いました。今回のチラシは漫画家の山本直樹さんのイラストが豪華ですよね。そしてキャストも豪華です。

 田舎の一軒家。両親の訃報を受けて長女の澄伽(すみか:森尾舞)が東京から帰ってきた。次女の清深(きよみ:鳥海愛子)は震え上がった。6年前に自分がやってしまったことを姉は許していないに違いない。清深の予想どおり、澄伽の陰湿で冷酷ないじめが始まる。長男の宍道(しんじ:伊達暁)は「俺がどうにかする」とは言うものの、実は彼と澄伽の間にも隠された過去があった。何も知らないのは宍道の嫁の待子(まちこ:吉本菜穂子)だけ。

 すっごいエログロなのかも・・・と思っていたので(昔のチラシの先入観)、ホっとしたようなガッカリしたような気分でした。お話の内容としてはドロドロしてるはずなんですけど、全体的にすごく軽いんですよね。サラっときれいにまとまっていました。決して下品ではないし、可愛らしいラブシーンもあるし、清潔で若々しい印象でした。
 最近の若手の演劇の特徴として「浮遊感」というのがあると思うんですけど、浮遊というよりは芝居の上空をスルーしてるような感じです。悲しみも嬉しさもおかしみも全部が同じ温度・湿度で、冷たくも熱くもない肌触り。ストーリーと根幹とが乖離したまま共存しているように感じられました。漠然としたイメージで言うと、透明のオブラートみたい。軽くて透き通ってて、溶けてなくなってしまうほど薄くて、儚くて、でも粘着力がある(笑)。これが本谷さんの作る空気感なのかなぁと思って味わいました。

 全体的にお話の展開が予想でき過ぎましたね。ストーリーだけではなく次に言うセリフはどんな言葉なのか、どういうニュアンスなのかも予想の範疇から出ませんでした。ジグソーパズルをしていてピースが予想通りにサクサクはまってしまう感じに近いです。気分は決して悪くないんだけどそれほど楽しみがない。始まってから終わるまで、すごく冷静に眺めていました。次にどうなるのかが予想できる簡単なストーリーであることは決して悪いことではないのですが、「わかっていても面白い」「わかっているからこそ面白い」のが理想ですよね。

 ここからネタバレします。

 腑に落ちないセリフが少々気になりました。例えば、ラスト近くで漫画の編集者(本谷有希子)が澄伽に対して言う決めゼリフ「私が迎えに来たのは清深ちゃんで、あなた(澄伽)じゃない」は、現実だったらあの状況では言わないと思うんです。何か言ったとしても「何のことだかわかりません。あなたは誰ですか」ぐらいじゃないでしょうか。澄伽のプライドをずたずたにするダメ押しの言葉を言わせたかったのかなぁ。
 また、赤い封筒をやぶって扇風機の風に撒き散らせていると、上から赤い花吹雪が降ってくるというのも合わせすぎだと思います。赤い封筒がこのために準備されたものだったのだとわかるのが興ざめなんですよね。花吹雪はいらなかったんじゃないかなぁ。勝手に動き出す扇風機とビリビリにやぶられた赤い紙(封筒)、エジプトの呪い人形、そして能天気な待子がいるだけですごく絵になる空間だったと思います。

 笑いのシーンについてはキャラクター勝負が多すぎる気がしました。清深のボーイフレンド(?)役の菅原永二さんがそれですよね。菅原さんはすっごく素敵だと思いましたが面白くはなかったです。

 音楽は似たものが何度もかかっていましたが、もっとジャンルを飛び越えたり、はじけて欲しかったです。そう、なんだか大人しくまとまっちゃってる気がしたんですよ、全てが。

 役者さんでは、長男の妻・待子役の吉本菜穂子さんが最高!すっとぼけていて、けなげなキャラクターが愛くるしかった。伊達暁さんとの初夜バトルはわくわくしました♪
 森尾舞さん。東京から帰ってきたの長女役。スタイルばつぐ~ん♪ブラ姿とか超美しい。でも、きれいにまとまったままだったのは残念。もっと壊れたりして欲しかったですね。美人だからなおさら。
 伊達暁さん。長男役。相変わらず素敵なのですが、ちょっと冷静すぎた気がします。熱く激しく生々しい瞬間がもっとあっても良かったんじゃないでしょうか。

作・演出:本谷 有希子
出演:伊達暁 (阿佐ヶ谷スパイダース) 森尾舞(俳優座)吉本菜穂子 菅原永二(猫のホテル) 鳥海愛子(元劇団員) 本谷有希子  
舞台監督:宇野圭一+至福団 舞台美術:中根聡子 照明:中山仁(ライトスタッフ) 音響:あきやま多恵子 演出助手:福本朝子 演出部:大塚辰哉 小道具:清水克晋(SEEMS)+山本愛 衣裳:金子千尋 イラスト:山本直樹 宣伝美術:風間のう 宣伝写真:引地信彦 WEB担当:矢部健太 五十嵐文彦 制作助手:嶋口春香 菅原早人 制作協力:細川展裕 有限会社ゴーチ・ブラザーズ 制作:寺本真美 中島光司 協力:青山円形劇場 株式会社ヤマジ
劇団、本谷有希子:http://www.motoyayukiko.com/index.shtml

Posted by shinobu at 2004年11月11日 00:28 | TrackBack (2)