ザ・ブルーハーツの楽曲を使った音楽劇です。作・演出は鴻上尚史さん。
NHK大河ドラマ『新撰組!』の土方役で大人気の山本耕史さん、ロックバンドSOPHIAのヴォーカルの松岡充さん等、大スターが出演しています。
ロックバンドのお話で、バンド名が“ハラハラ時計”だという時点で脚本には期待していませんでしたが(あらすじはこちら)やはり予想通りというか、残念なことに予想よりも面白くなかったですね。上演時間は15分の休憩を挟んで3時間10分ぐらい(アンコール含まず)でしたが、とにかくストーリーにもブルーハーツの音楽の使い方(入り方)にも疑問満載。さすがに2時間も経つと慣れたのか、後半の45分間ぐらいは楽しめました。クライマックスはしらけちゃいましたけど。
子供向けにしてはストーリーが難しいし、下ネタが多すぎるし。決して大人向けにはなりえないし。これでチケット代が8400円なんですよねー・・・豪華キャストでブルーハーツの曲を使っているからなのかな。割に合わないと感じました。大スターがやるから笑える(普通の人がやっても引く)ネタが多いのもすごく悲しかった。
ここからネタバレします。
基本的には主人公達のバンドのお話なのですが、環境破壊の原因となっている堤防を爆破しようとするのがストーリーの軸であり、学生運動時代からの革命家(大高洋夫)が登場するなど、内容が意外に社会派です。「ロックといえば時代への反発」というのはわかります。「堤防を爆破すれば仲間(ヴォーカルとドラム)が戻ってきてくれる」と考えるまでは可愛らしいとしても、本当に爆弾を作りだして、バンドメンバーもそれにすんなり同意して付いて来るのには納得できません。喫茶店で“偶然に”爆弾作りの名人に出会うのも出来すぎです。
ブルーハーツの曲についてもそう感じました。ファンならこれはマストだろうと思う曲(大ヒット曲含む)、隠れた名曲、そして特殊なことを歌っている曲を選んで、それを物語に当てはめて使うということでしたが(「せりふの時代」でのインタビューより)、曲に合わせて無理やりにストーリーを作り込んだように感じる場面が多々ありました。
演出は子供向け、なのかなぁ・・・。わかりやすすぎる説明ゼリフが言い訳がましく聞こえました。歌を歌っている時のバックダンサーの振付はNHKのこども向け番組みたい。傘をくるくる回して使うダンスは『幽霊はここにいる』でもありましたね。『幽霊は・・・』ではまだ衣裳ともリンクしていたので気になりませんでしたが、今回はすごく時代遅れに感じました。
舞台装置の色使いについて、雰囲気は『ピルグリム』に似てました。緑、赤、ピンク、オレンジ、青など、絵の具の原色をそのまま使ったようなカラフルな配色、というと聞こえがいいのですが、壁やドアは枠だけが原色で、内側は黒幕が透けて見えるようになっていました。さらに装置にところどころ黒い汚しが入ってますから、全体的にはドス汚い印象なのです。また、若いバンドをイメージさせるチラシがベタベタと壁に貼ってあるのも薄汚い。結果、たくさんの色が舞台全体にあふれすぎて、俳優が美術の中に埋もれてしまっていました。2幕に入って目が慣れてからは普通のお芝居のように観られるようになりましたけど。
毒々しい下ネタが多いのも疑問です。下ネタ自体が悪いわけじゃないと思いますよ、でもね、なんであんなに下品なのかなぁ。「バー(パブ?)・ソーセージ」とかひどいですよね。
脇に不必要なものが多すぎると思います。児童向け劇団の中にレズ関係を入れるのは余計でしょう。警官同士のアドリブ(であろう対話)は面白かったですけどね。全体的に遊びが過ぎて、すごく散漫でちゃちい印象を受けました。
女の子の方から男の子に言い寄るスタイルの恋愛は、男の願望の表れなのかな?2つも重なるとみっともないんですよね。しかも男の方から断るしね。「ああいうこと(男の部屋に乗り込んでいく、2件目に誘う等)をするとモテない」という良い例です。
ここに挙げた全てのマイナス方面の印象は、どうしても押さえられない衝動や爆発力があれば、そっくり裏返すことができます。それがあれば、何もかもうまく成立したかもしれません。でもこの作品にはなかったです。昔の鴻上さんにはあったのかもしれません。
ここまで酷評していてもやはり私はブルーハーツのファンですし、ところどころ聞きほれたところはありました。山本耕史さんの「TOO MUCH PAIN」、SILVAさんの「ラブレター」、松岡さんの「チェインギャング」は良かったな~。大高さんの「英雄にあこがれ」の静かな弾き語りは素晴らしかった。演出についても2箇所じ~んときたところがあったのですが、どこだったか忘れちゃいました。
山本耕史さん。バンドのリーダー役。歌も上手いし、ギターも弾けるし、体もよく動くし、ルックスはきれいだし、非の打ち所のないエンタメ系舞台スターだと思います。でもちょっとあっさりしすぎかな。
松岡充さん。リモコン作りが得意なバンドメンバー役。熱くって可愛らしかったです。やっぱり音楽界のスターって基本的にロマンチックで華がありますね。歌い方が演歌みたいだったのは意外でしたけど(笑)。馬渕英里何さんに告白するシーンは素敵でした。
SILVAさん。バンドのリーダーの長年の恋人役。すっごく優しくていい人だな~って思いました。彼女がソロで歌う時は、上手いし心もこもっているので聞き入りました。
北村有起哉さん。バンドに参加する警官役。観てる方が恥ずかしくなるほどの三枚目役で超キュートでした(笑)。この方も眺めているだけで「本当にいい人だな~」って嬉しくなるんです。
パンフレットにありました。
linda (スペイン語・形容詞)かわいい、愛らしい、すばらしい、すてきな、
※12/01朝日新聞夕刊に掲載された、新聞記者・藤谷浩二氏の『リンダ リンダ』の劇評に対して、鴻上尚史さんが抗議されています(週刊StagePower「2004.12.07 鴻上尚史が朝日新聞劇評に抗議!」より)。【2005年1月3日追加】
このことについて書かれたブログです。
・RClub Annex 鴻上氏の抗議について外野から
・stage note archives [雑談]劇評と観客
stage note archivesのぴーとさんの気持ちに共感します。下記、引用します。
「あなたの芝居の評価を決めるのは劇評家ではない。そういったアンケートも書かない、ネットに感想も書かないただの「観客」ひとりひとりだし、なにより鴻上さん自身なのだということが、あの抗議文からは感じられなかった。」
私が観に行った日はまだ、階段の壁に抗議文章が貼り付けられたりはしていませんでした。新聞の劇評は確かに影響力が大きいかもしれません。でも、一人一人の観客が劇場の中で見たこと、感じたことが全てだと思います。それでいいと思います。
あと、観る側は、どうやったって作る側には敵わないんですよ。鴻上さんはもっとドッシリと構えていてくださっていいんじゃないかなって、えらそうですが、そんな風に思いました。
(東京→大阪、福岡)
作・演出: 鴻上尚史
出演: 山本耕史 松岡充 馬渕英里何 北村有起哉 田鍋謙一郎 生方和代 林和義 根田淳弘 浅川稚広 赤座浩彦 大高洋夫 SILVA
MUSICIANS:中村Jimmy康彦(Guitar) 古池孝浩、関根安里(Guitar,Keyboard) 泰輝(Piano,Keyboard) えがわとぶを(Bass) 土屋敏寛(Drums)
音楽監督:後藤浩明 振付:上島雪夫 照明:坂本明浩 音響:堀江潤 美術:小松信雄 衣裳:加藤昌孝 ヘアメイク:西川直子 舞台監督:森聡 演出助手:佐藤万里 歌唱指導:山口正義 稽古ピアノ:佐藤拓馬 映像制作:佐藤敦紀 ファイト:廣哲也 制作:中嶋隆裕 高田雅士 森田友規子
主催:ニッポン放送/サードステージ 後援:シティリビング
サードステージ内公演ページ:http://www.thirdstage.com/knet/lindalinda/pre.html