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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年12月08日

ナイロン100℃『消失』12/03-26(12/2プレビュー)紀伊国屋ホール

 ケラリーノ・サンドロヴィッチさん作・演出のナイロン100℃本公演、出演者はベテランメンバーに八嶋智人さんを加えて少数精鋭6人です。
 休憩なしで2時間45分!おなかは空くし、のどは渇くし、観る方もがんばった(笑)!でもそれだけの価値がありました。エンディングの映像と音楽が流れだすと、顔がくしゃっとなって涙がボロボロ流れ出しました。
 前売りは完売していますが当日券は毎日出ていますので、どうぞ観に行ってください。

 近未来の地球のどこか。ある兄弟が2人でひっそりと暮らしている。兄のチャズ・フォルティー(大倉孝二)は39歳。弟はスタンリー・フォルティー(みのすけ)、35歳。スタンリーは気が弱くてすごく不器用なので、好きな女の子スワンレイク(犬山イヌコ)に、うまく心を打ち明けられない。クリスマス・パーティーでは運悪く彼女が食当たりを起こし、翌日に彼女が家を訪ねてきてくれたのに、うろたえてしまって機嫌を悪くさせてしまうばかり。しまいには彼女をほおって、ベッドにもぐりこんで寝てしまった。というのも、彼女が尋ねてくる前に、兄と兄の友人ドーネン(三宅弘城)が、スタンリーに睡眠薬を飲ませていたからなのだ。スタンリーは毎月“定期健診”が必要な体だった。

 クリスマスから大晦日までのお話で、登場人物は6人だけ。ナンセンス・ギャグが散りばめられた、とりとめのないおしゃべりの中に仕掛けられたキーワードから、世界が形作られていきます。第2の月“ムーンステーション”の失敗、焼却場から出る緑の煙、奇形になったカラス、爆発の熱で曲がりくねって、ヘンな形になった銅像、空爆、テロ・・・。『Don't Trust Over 30』も東京が空爆されているところから始まりましたよね。

 戦争中、家族で防空壕に逃げ込んだ思い出を語りながら、スタンリーは「あの時が一番幸せだった。だって、家族があんなに一つになった時はなかったもの」と言いますが、それに対するチャズの言葉がすごく心にひっかかりました。「俺はあの時が一番いやだった。だって、物がないし、ヘンな奴がいばってるし」。そう、戦争の時って「ヘンな奴がいばってる」んですよね。

 中盤を過ぎてそろそろ終盤の頃、スワンレイクが兄のチャズにスタンリーの記憶について詰め寄るあたりから、目頭が熱くなってきて涙がツーと流れ出しました。スタンリーの秘密がスタンリー自身の口から暴露されていくあたりからはもうエンドレス。どーどー泣いてました。

 ここからネタバレします。

 「消失(disappearance)」がいっぱいでした。フォルティー兄弟の父と母は、互いに浮気して出て行ってしまい、子供達を捨てました。部屋を借りたいと兄弟の所にやってきたネハムキン(松永玲子)は、月に移住した夫を政府に見殺しにされました。ドーネン(三宅弘城)は、家が爆破されて最愛の息子(彼もまた人造人間)を失いました。スワンレイク(犬山イヌコ)は、スタンリーの記憶が消されたために、恋人を失いました。ジャック・リント(八嶋智人)は、命がけでやり遂げた使命の意味を失い、途方にくれました。

 ジャック・リントは任務(人造人間を作っている人間をつかまえる、または殺すこと)を果たし、その報告の電話をするのですが、その時ちょうど無差別空爆が始まっており、上層部からは「それはもういい」とひとことで済まされ、完全に無視されてしまいます。戦争が始まったら、何もかもチャラにされます。今まで積み重ねてきたキャリアも、貯めた貯金も、そして命も。
 「鳥が鳴いた」が最後のセリフだったと思います。人が死んでも、戦争で爆弾が落ちても、鳥は鳴くんですよね。

 ラストシーンで、死んでしまった3人が黒いシルエットになって残り、兄のチャズの影だけがスーッと前に倒れて消えていくという演出がありました。私は、これの前のエンディング・ロールの映像が流れている時に涙がじゃんじゃん溢れていましたので、このシーンは別になくても満足だったんですよね。イリュージョンとして楽しみました。

 今回もいつもの映像が素晴らしかったです。黒いバックに白い線で絵がどんどんと描かれているのですが、花や虫などの自然のモチーフや、神経線維や脳などの生物学的なもの、爆弾や歩兵などの戦争をイメージさせるものが、出演者の名前のアルファベットと一緒にクレイアニメのようにぐるぐるとつながっていきます。これもまた「消失」を表していましたね。

 えと、今更ですが、2時間45分は長すぎます(笑)。途中で退屈した時も結構ありました。短くしようと思えば削れたと思います。例えば、スワンレイクが小さい頃に虐待していた男の子が、実はネハムキンの夫だったというエピソードは別に必要ではなかったですよね。月で夫を失った女だというだけで充分ストーリーになっていました。でも、別に文句はないんです。長ければ長いでナイロン100℃だなって思えるので(笑)。ただ、友達に手放しでお薦めできないのが残念なんですよね。

 今回は個人的にちょっと稀有な体験をしました。幕が開いたばかりの、兄弟がクリスマスのオーナメントを飾っているシーンで、なぜか映画『ブエノスアイレス』のテーマ曲が頭の中に流れていたんです。そしたらオープニング映像でまさにその曲、“Happy Together”が流れ出してビックリ!どうしたんだろ、私!?強烈なデジャビュでした。本当に名曲ですよね。毛皮族で流れた時も嬉しかったし。

《東京公演後→大阪、北九州、滋賀、松本、盛岡、新潟》
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ みのすけ 三宅弘城 大倉孝二 松永玲子/八嶋智人
舞台監督:福澤諭志+至福団 舞台美術:島次郎 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響:水越佳一(モックサウンド) 衣裳=山本華漸(Future eyes) 映像:上田大樹(INSTANT wife) 大道具:C-COM舞台装置 小道具:高津映画装飾 演出助手:山田美紀(至福団) 宣伝美術:雨堤千砂子(ワゴン) 宣伝写真:引地信彦 宣伝ヘアメイク:山下まきえ 舞台写真:引地信彦 制作助手:市川美紀/土井さや佳/寺地友子 制作:花澤理恵 協力:シス・カンパニー/キューブ/マッシュ/大人計画/オフィスPSC 助成:日本芸術文化振興会 企画・製作:(株)シリーウォーク
ナイロン100℃:http://www.sillywalk.com/nylon/

Posted by shinobu at 2004年12月08日 00:51 | TrackBack (1)