『BENT』『エンジェルス・イン・アメリカ』で演出家・ロバート・アラン・アッカーマンさんと一緒に創作をしてきた、tpt若手カンパニーによる『三人姉妹』です。
登場人物の実年齢に近いキャストで、という試みは成功していたと思います。
ネタバレします。名作ですのでストーリー等を知ってから観に行っても問題ないと思います。
まず衣裳が現代の普段着っぽいんです。軍服はきちんとした軍服なのですが、イリーナに恋する2人の若者(トゥーゼンバッハとソリョーニ)は、軍のジャケット以外はヘアメイクもパンク・ファッションでキメてました。ソリョーニ役のパク・ソヒさんは不良っぽく赤い髪がプラスされていたのが面白かったです。
第1幕はなぜか皆さん堂々と立っていなくて、セリフもたどたどしくて、「ありゃりゃ、こりゃ失敗かな」という状態だったのですが、2幕から徐々に世界が創られていき、第3幕以降はフレッシュでちょっと尖った人物たちに親近感を持てるようになりました。そして第4幕のラストにはすがすがしい気持ちでほんのり涙することが出来ました。
ベニサン・ピットをほぼそのまま剥き出しで使った舞台空間は非常に風通しが良く、ガランとした中にぽつりと立つ俳優一人一人への注目を促しました。脚本は現代風の言葉遣いにかなり書き換えられていたようです。チェーホフ作品ならではの重厚さを敢えて狙わずに、現代人と同じ望みや迷いを持っている若者達を描くという意図には効果的だったと思います。
第3幕で、イリーナ(粟田麗)が泣き叫ぶ中、マーシャ(中川安奈)が自分の不倫の恋を告白するシーンでは、心の迷いのままに感情をぶつける演技がとても若々しく、そして意味がわかりやすかったです。このシーンの後からどんどんとこの作品が好きになりました。
第4幕の最後、トゥーゼンバッハとソリョーニが決闘しますが、かすかに銃声が鳴ったことだけで表現していたのがスマートでした。しかもその銃声に誰も気づかないのがかっこいい。
セリフをちゃんと言えてない人が多かったですね。あきらかに言い間違えたり、忘れて止まったりもしていました(笑)。それが気になってしまう人にはお薦めできませんが、私は目をつぶることが出来ました。だって、目の前のチェーホフ劇の登場人物たちが、こんなに身近に感じたことってなかったんですもの。そして、『三人姉妹』というお話がこれほどわかりやすかったのも初めてでした。
深貝大輔さん。マーシャの夫・クルイギン役。深貝さんはユーモアのある演技で着実に大人の笑いを生み出してくださいます。『かもめ』でもすっごく面白かったし、私の中でtptの定番です。
二瓶鮫一さん。ドクトル役。パンフレットに「チェーホフ作品はこれが初めて」とありましたが、すっごく意外ですよね。締めるところは締めてくれる存在感がさすがでした。
パク・ソヒさん。イリーナ(粟田麗)に恋しているのに、恋敵のトゥーゼンバッハ(斉藤直樹)に言い寄る時の方がエッチな感じがするのはなぜ?(笑)。3幕で黒い外套を羽織って出てきた時、ドラキュラ伯爵のようでめちゃくちゃかっこ良かったです。
No hay bandaに、英フィナンシャル・タイムズ(アジア版)に掲載された短評(引用)があります。
作:アントン・チェーホフ 台本:広田敦郎 演出:ロバート・アラン・アッカーマン
出演:奥貫薫 中川安奈 粟田麗 吉本多香美 山本亨 二瓶鮫一 深貝大輔 池下重大 斉藤直樹 パク・ソヒ 矢内文章 岡本竜汰 神林茂典 吉田昌美 福嶋園子 松本晶 野口武士 田村元 桑原勝行
美術:朝倉摂 照明:沢田祐二 衣裳 原まさみ 音響:藤田赤目 ヘア&メイクアップ:鎌田直樹
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