2004年01月04日
青年団プロデュース『夏の砂の上』12/20-1/4こまばアゴラ劇場
脚本は松田正隆さん。読売文学賞 戯曲・シナリオ賞受賞作品です。1999年初演で今回が初の再演です。作:松田正隆・演出:平田オリザのコンビには定評があるそうで、楽しみにしていました。
長崎県のある田舎町。ある夫婦の住む家。関係がすっかり冷え切ってしまって別居を始めていたのだが、ある日突然、夫(金替康博)の妹がやってきて彼女の娘を置いて行ってしまう。叔父と姪の奇妙な同居生活が始まる。
松田さんの脚本なので予想はしていましたが、暗い話でした。造船所が倒産して社員がみんなクビになった状態のところに、別居、不倫、交通事故・・・と重なって行きますしね。ところどころ人間の滑稽さが身にしみて、あきらめにも似た笑いが生まれました。
中学校を卒業したけれど高校に行かせてもらっていない姪と、アルバイトで一緒になった大学生との恋が楽しかったです。若者の恋ってこんなのだよなって共感できる部分が多かった。でも姪の発言が大人び過ぎていた気がします。もっともっと無邪気な状態だと思うんですよね。素行が悪くてもまだ子供のはず。セリフは1つ1つ魅力的だったのですが信憑性が薄かったです。
渇水の真夏の長崎という舞台設定でしたが、その暑さや渇きを感じられなかったのは致命的だったんじゃないかな。雨が降ってきても全然嬉しくなかったし。ただ、「雨だ!」と言って鍋やバケツを抱えて玄関へと必死で駆けて行く演技は良かったです。あれは行動と感情が一致していました。そう、会話の時の自然な演技は皆さん素晴らしいと思うのですが、舞台からはける(退出する)時の歩き方が、全編とおして妙に遅いんです。観客の目を意識した動きになっていて、わざとらしさを感じていました。終始、自然な演技をしているのだから、立ち去る時もそうしないと変だと思います。もしかしたらそれが演出意図なのかもしれませんが、そうだとしたら私の嗜好には合わないということです。
ラスト近く、夫婦の間に子供がいたことを確かめような会話をするのですが、昔のことなど覚えていられないという夫の哀しい気持ちにいたく共感し、涙が流れました。気にかけていなければ無意識の内に闇に葬られていく重たい事実があるのです。長崎に落とされた原爆で一瞬のうちに数万人が殺されたことも、なかったことのように忘れてしまうのか。人間は忘れます。忘れないと生きていられないから。でも決して考え違いをしてはいけないのは、そこに、確かに、在ったということ。無かったのではないのです。
舞台美術(奥村泰彦さん)が良かったな〜。少し南国テイストの入った日本家屋で、壁がさびた鉄格子で出来ているんです。そんなことは現実にはありえないのですが、古びた造船所のイメージが染み付いていて哀愁を感じました。
金替康博さん(MONO)。夫役。優しい佇まいで、指がなくなっても平気でした。金替さんだったから安心して観ていられたように思います。
占部房子さん。 姪役。どうもフィットしませんでした。最初の、何もしゃべっていなかった時が一番良かった。
松井周さん(青年団)。姪の恋人役。今時の若者の軽薄さがよく表れていた、あのとってつけたような笑顔が最高でした。
内田淳子さん。娘を置いていく妹役。面白かった。彼女が出てきたら空気が生き生きとしました。
太田宏さん(青年団)。妻の不倫相手役。reset-N「キリエ」にも出演されていましたよね?めちゃくちゃクールなサド男役で。あいかわらずハンサムで素敵でした。
山村崇子さん(青年団)。妻の不倫相手の、妻役。『隣りにいても一人』の姉役も素敵でしたが、今回も良かったです。でも怒るシーンはちょっとズレてたかも。
青年団 : http://www.seinendan.org/