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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年01月25日

少年王者舘KUDAN Project『真夜中の弥次さん喜多さん』01/6-13シアターグリーン

 しりあがり寿さんの漫画が原作の傑作二人芝居の再演です。初演は2001年。漫画『真夜中の弥次さん喜多さん』『弥次喜多 in DEEP』は手塚治虫文化賞を受賞してます。原作のあのイラストが入ったチラシのインパクトはものすごいですよね。

 2003年中国3都市ツアーの凱旋公演でした。私が拝見したのは超満員の千秋楽。立ち見も30人ぐらい出ていました。

 漫画の原作は一話ぐらい読んだことがあるのですが、この作品はそれをなぞっているわけではないようです。天野天街さん(少年王者館)の脚本・演出で全く新しい作品になっています。原作をそのまま舞台化するよりも、よりリアルに原作のイメージやパワーが伝わってくるんですね。ある表現方法が全く別の表現方法にきれいに翻訳・変換されたような、そんな感触です。偉大だと思います。

 ウニタモミイチさんによる当日パンフレットの文章にも書かれていましたが、天野天街さんの作風は、原作の要素全てをバラバラのパーツにしてから、それを組み合わせて貼り直したような感じ。単語で書くとコラージュ、パッチワーク、モザイク、パズル、等。
 また、この作品の大きな見所の1つはイリュージョンですね。トリックというかマジックというか。手品をいっぱい見せていただいた感じ。頭の切れる遊び好きの演劇マジシャン達に頭の中身をかき混ぜられて、再び新しく練り合わせられた心地、と言えばいいでしょうか。
 私は感動するとよく涙が出るのですが、この作品では涙ではなく鳥肌でした。前のめりになって口がポカーンと開いたまま、背筋がゾゾゾっ。

 弥次さん:寺十吾さん(tsumazuki no ishi)。ドロくさいんだけどキュート。目が離せませんでした。恋に落ちる感覚に似た感じで。あ、すっかり見とれたってことですね。
 喜多さん:小熊ヒデジさん(てんぷくプロ)。“顔箱”をかぶってうどんを1本ちゅーちゅーと吸い込まれた時は心がよじれました。

 以下、少々ネタバレします。たとえば再々演があったとして、読まれてから観に行かれても衝撃が薄れるわけじゃないと思います。言葉ではこの作品の味わいを決して表せないですから大丈夫(笑)。

 ある宿に泊まっている二人。二人でひとつの布団に寝ている。弥次さんは喜多さんにホレていて、ヤクチュウ(薬中毒)の喜多さんの更正のために伊勢参りに行こうと決心する二人。

 さすが天野さんの演出ということで、映像がパワフルでした。マトリックスみたいに“ザーザー”と降る雨。意味もなく夏がくる→セミの声が“mean mean”。
 ラストはキャスト・スタッフ紹介の字幕スーパー映像が舞台全面を覆い、なめるように上へ上へ轟々と繰り出されました。浴びるような映像の洪水。腰から背中に向かって震えが来ました。

 だじゃれの言葉遊びに鬼気迫るものがありました。野田秀樹さんもよく使われますが、このお芝居ではそれが命につながっていました。「旅」をカタカナで「タビ」と書いて、それが「死」になるとか。人が亡くなって火葬されることを仏教用語で「蛇尾(だび)にふす」といいますよね。その「ダビ」さえ「死」関係あるのじゃないかなと連想しました。おぉ、すっかり洗脳されているっ。

 うどんを食べるシーン。舞台上で松屋(おそらく定食屋のチェーン店)に出前を電話注文し、うどんが到着します。本物かと思ったら実はマイム。後ほど本物が届き、今度は本当にうどんを食べながら、全く同じ演技を繰り返します。「実験的」と言うのかどういうのかわかりませんが、まるで自分が実験台にされている心持ちでした。あぁ、人間ってとても曖昧な、個人的感覚で幸せや不幸せを決めているんだなと感じました。

 その他、ちょっと箇条書きさせていただきます↓
 踏むと時間がリセットされるボタン。
 突然カラオケ。
 手がうどんのように長くなり、しかも二人の腕がつながってしまう。
 ふりだし&あがり等のさまざまな二項対立。
 「これは夢だ。」
 「生きているのか死んでいるのかわからねぇ。」
 「でも俺は喜多さんが好き!」

 私は「世界は“組み合わせ”と“繰り返し”で出来ているんだなー・・・」等と勝手に直感しました。これも洗脳かもしれませんね。あ、催眠かも?

原作:しりあがり寿 脚本・演出:天野天街
出演:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)/寺十吾(tsumazuki no ishi)
舞台美術:田岡一遠 大道具:子森祐美加/中村公彦(イリスパンシブルティ) 小道具:丹羽純子(少年王者館)/田村愛(少年王者館) 作曲:珠水(少年王者館) 音響:戸崎数子(マナコ・プロジェクト) 照明:小木曽千倉 照明オペ 富玲子 映像:浜嶋英子(マナコ・プロジェクト) 振り付:夕沈(少年王者館) 舞台監督:井村昴(少年王者館) 宣伝美術:しりあがり寿(イラスト)/アマノテンガイ(デザイン) 制作:山崎のりあき/小熊秀司 企画・製作:KUDAN Project

シアターガイドWEBチラシ : http://www.theaterguide.co.jp/C_Web/200312/20031209001.html
少年王者舘ノ函 : http://www.officek.jp/oujakan/

Posted by shinobu at 23:56

松竹『おはつ』01/2-27新橋演舞場

 マキノノゾミ(脚本)&鈴木裕美(演出)コンビで松たか子さん主演の新橋演舞場公演。
 脇を固める俳優も超豪華。チラシもまた豪華で美しいのでちょっぴり期待して伺ったのですが、全般的に地味でしたね。

 時は幕末。胸の病を持つ女郎のおはつ(松たか子)の夢は、命が尽きる前に「曽根崎心中」のお初、徳兵衛のような激しい恋をすること。おはつには結婚を誓い合った正太郎(小市慢太郎)がいるが、2人の間に近藤勇(渡辺いっけい)が割り込んでくる。しかし、その仲裁に入った正太郎の幼なじみの直助(佐々木蔵之介)の方に、おはつは惹かれてしまい・・・。

 おはつと直助の狂おしく熱い恋をメインに描く演出だったようですが、新春の興行としては狙いが細やかすぎたんじゃないかと思います。細やかなのは本当は大好きなんですけど、お正月の新橋演舞場ということで、もっと華やかなものを期待していた私にとってはちょっと残念でした。

 おはつと直助は、お互いのせっぱつまった環境から、恋をするために恋をしているという印象を受けました。だから本当に恋に落ちているように見えにくかったです。でも、一目ぼれをしたその夜に褥(しとね)をともにするシーンのあの野獣っぽさはかっこ良かったな~。

 美術(松井るみ)はわざと作りこみ過ぎない、地味な感じにされたようですね。紐が垂れているのはさすが女性ならではの繊細な狙いだと思います。色もきれい。でも空間が抜けすぎていた気がします。

 きらびやかな遊郭から一転して貧しい2人暮らしになり、最後は本当に悲しい幕切れになります。全編通してメランコリックな音楽が何度も流れ続けるのがつらかった。

 直助(佐々木蔵之介)が最後に、本当にあっけなく沖田総司(北村有起哉)に殺されたのが素晴らしかったです。決闘をする人って、自分が死ぬとは思ってないんですよね。

 松たか子さん(おはつ)。一本調子過ぎたような気がします。私には残念ながら恋しているように見えなかったんですよね。直助が切られた後に沖田総司に向かっていく演技は熱くてとても良かったです。
 佐々木蔵之介さん(直助)。私は優しい蔵之介さんが好きですね。大きな目をさらにギョロリとされるのは、アクション系芝居の時に存分に発揮していただけたらいいなと思います。今回はちょっと怖すぎたな~。

 小市慢太郎さん(正太郎)。優しさゆえ弱い男っぷりが愛らしかったです。でもちょっと間が長すぎたかなぁ。
 北村有起哉さん(沖田総司)。とにかく輝いていました。瑞々しい若さと体全体からあふれる優しさに、胸が晴れやかになりました。コミカルな演技も暖かかったです。朝日新聞でも「新しい沖田総司像」と評されていましたが、本当にその通り。北村さんのこの演技を観られただけで幸せです。
 渡辺いっけいさん(近藤勇)。花道で拍手したくなったのはいっけいさんだけでした。渋かったな~。

 当日パンフレット(筋書き)のカバーがものすごく素敵でした。紙質もいいしデザインも上品で、新橋演舞場のパンフは大好きです。

作:マキノノゾミ 演出:鈴木裕美
出演:松たか子/佐々木蔵之介/小市慢太郎/北村有起哉/佐藤江梨子/渡辺いっけい/江波杏子/田鍋謙一郎/八十田勇一/武田浩二/松島正芳/平田敦子/歌川椎子/福井貴一
美術:松井るみ 照明:中川隆一 効果:井上正弘 衣裳:宮本宣子 ヘアメイク:河村陽子 殺陣指導:川原正嗣、前田悟 方言指導:大原穣子 演出助手:坂本聖子 演出部:赤羽宏郎、宇野奈津子 舞台監督:菅野将機、浅香哲也 制作:岡崎哲也(松竹)、吉川博宗(松竹)、佐藤玄(パルコ)

松竹(歌舞伎・演劇) : http://www.shochiku.co.jp/play/

Posted by shinobu at 23:36

木山事務所『仮名手本ハムレット』01/21-25東京芸術劇場 中ホール

 1991年初演で第44回読売文学賞(戯曲部門)受賞。
 ニューヨーク(1997年)、ロンドン(2001年)でも上演され、今回が5度目の上演です。来月にはモスクワ公演が控えています。
 私は2001年に初めて拝見し、笑いと涙が溢れて止まりませんでした。今回もまた然り。

 1897年、明治30年の東京。舞台は本邦初演の『ハムレット』を上演しようとする劇場・新富座。演出家が必死で西洋の芝居らしく作ろうとするが、『忠臣蔵』をやるものだと思っていた役者たちはブーイング。しかも新富座には膨大な借金があり・・・。

 『ハムレット』と『忠臣蔵』の類似点を見出しつつ、そこに主人公の新富座の座主・守田勘弥の人生をも映し出されていきます。不恰好だった歌舞伎風『ハムレット』がだんだん美しく、神々しくその姿を見せ始め、このお芝居自体も『ハムレット』と同じ展開になっていく巧妙な脚本の力にまず唸ります。

 “To be, or not to be. That is a question.”の日本語(坪内逍遥訳)「ながらふるか、ながらへぬか、それが疑問じゃ。」がハムレットの本当の心に近づいていく様に、目を耳を奪われました。

 『ハムレット』の劇中劇「ゴンザーゴ殺し」のシーンを「庶民のための芝居を殺し、貴族のための芝居に摩り替えてしまった」守田勘弥に当てはめたのもすごかった。胸に刺さりました。

 私が2001年に拝見したものとの大きな違いは、まず東京芸術劇場 中ホール(841人)が俳優座劇場(300人)より2倍以上大きいということです。演出もそれ用に変わっていた気がします。照明や音響がちょっと大掛かりな感じ。また、六本木と池袋では客層も全然違うんですよね。それから前回の主役は内田稔さんでした。これも相当違います。木場勝己さんはすごく気が強くて頑固なイメージでした。内田さんは吹けば飛びそうだった(笑)。

 開演5分前に開演前のアナウンスが流れると、その直後になぜか拍子木がチョーンと一度打たれました。「あら、もう始まるのかな」と思って構えていたのですが全然始まらず、結局5分ほど経ってやっと始まりました。この5分間せいで客席は怖いほどの静寂に陥ってしまい、去年はドっと笑いがおこった“裃(かみしも)を羽織った父王の亡霊登場”のオープニングで、お客様はおそるおそる笑う程度。結果、劇場がこの作品ならではの温かさになるのに30分ぐらいかかってしまったように思います。もったいない!

 ・・・とは言ってもそれも小っちゃなことです。ゆっくりと自分の人生を振り返ることが出来、日本(祖国)の文化に対して誇りを持つことが出来、達者な役者さんの演技に心奪われ、しかも大声で笑わせてくれるお芝居になんて、めったにめぐり合えないですから♪

脚本:堤春恵 演出:末木利文 美術:石井みつる 照明:森脇清治 音響:小山田 昭 振付:根布谷翔山 衣裳:新井喜一 かつら:斎藤三郎 舞台監督:木島 恭 制作担当:松本美文 制作:木山潔 
出演者:木場勝己/村上博/坂本長利/内山森彦/小田豊/本田次布/平田広明/林次樹/磯貝誠/内田龍磨/根布谷翔山/一川靖司/勅使瓦武志/森源次郎/菊池章友/齊藤翔平/田谷淳/宮内宏道/長谷川敦央


東京芸術劇場 : http://www.geigeki.jp/selection.html

Posted by shinobu at 23:15