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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年03月08日

フジテレビジョン・ホリプロ・朝日新聞社『くるみ割り人形』03/03-21東京国際フォーラム ホールC

 初見です。マシュー・ボーンさんの振付・演出には『白鳥の湖』でもかなりハマりましたので期待して挑みましたが、期待以上でした。

 音楽は誰もが知っているチャイコフスキーのあの名作ですが、振付とストーリーが新しいものになっています。ねずみの出てこない『くるみ割り人形』。
 子供の心に戻って空を飛び、恋人と氷の上をすべり、お菓子の国で笑い踊る。マシューボーンさんの夢の中にどっぷり浸かった2時間の幸福でした。

 孤児院で院長夫婦やその子供たちにいじめられながら寂しいクリスマスを迎えている孤児の少年少女たち。申し訳程度のクリスマス・プレゼントの中からナットクラッカー(くるみ割り人形)が巨大化。想いを寄せる彼にそっくりのその人形にいざなわれ、クララは孤児院を飛び出した。氷の池で楽しく踊る二人だったが、あっと驚くアクシデントで砂糖菓子の女王様に心を奪われたナットクラッカー。彼を追いかけてクララはお菓子の国へと忍び込む・・・。

 バレエって苦手なんですよ、私。必ず寝ちゃいます。だけどマシュー・ボーンさんのでは寝ないです。全然退屈しないし、それどころかうきうきわくわくしっぱなし。バレエならではの技術も美しいハーモニーもあり、型にはまらない自由な振付もあり、次々とたくみに新しい感覚の魔法を繰り出してくれるんです。

 衣装が素晴らしいんですよねー・・・ホゥ(ため息)。第1幕は孤児院で全員が灰色を基調とした地味なスタイルなのですが生地が良い!薄いウール地かなぁ。織りや厚みを感じられるなびき方でした。氷の池では若い恋人同士が純白のペアルックでスケートですよっ。現実ではありえない!(笑)円形スカートのすそを丸くて小さいマフで縁取っています。そのすそをわざと手で揺らして風を切っているように見せるんです。ロマンティックでキュートな刹那をありがとう。

 『白鳥の湖』でも感じましたが全体の色彩感覚が独特です。全体的に明るいのですが、黒を多用していることで水色やピンク、レモンイエロー等のパステルカラーを引き締めるとともに、華麗でエスプリの効いた空気を作り出していると思います。だから大人も魅了するんですね。私としてはあの空の水色が大好き。あれをスカイブルーと呼ぶのでしょうか。晴れやかで鮮やかでナチュラルで・・・幸せを運ぶ万能の色です。

 装置も凝りすぎず派手で良かったな~。わかっているとはいえ孤児院が割れた時はエキサイティングでした。孤児院の壁を両袖に残したまま、空間が開いて空が現れ、床には巨大な枕。そして氷の池で幸せのスケーティング。ピンク色の大きな口の中に入り込んだら巨大なケーキがあり、その上で小さく踊るお菓子の国の貴族たち。全編通してまるでテーマパークのアトラクションみたい!

 ラストは・・・ネタバレになるので書きませんが、私はあの暗転・緞帳の降りる早さがツボでした。ああじゃないとこんなに愛すべき余韻にはならないんですよね。

 終演後、早速ロビーでDVDを購入し、次回作『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』のチケットも買っちゃいました。ははは、思う壺の客です。

音楽:チャイコフスキー 演出・振付:マシュー・ボーン
翻案 マシュー.ボーン/マーティン・ダンカン 編曲 ローランド・リー 装置 アンソニー・ウォード
「くるみ割り人形」公式サイト : http://www.nut-cracker.jp/

Posted by shinobu at 22:58

(劇)べっちんプレゼンツ「こども連」公演『鬼ロック'04』03/03-07中野MOMO

 (劇)べっちんという劇団は公演ごとに脚本・演出が変わったりするそうです。今回は女優の八日市美保さん脚本・演出ということで、八日市美保企画ユニットの“こども連”の公演だとか。私はべっちん初見です。

 飼育小屋のウサギの首を切り取り続ける少年。リストカッターの少女。教師の不倫現場を撮影して脅す少年など。いわゆる非行が横行する中学校が舞台。

 ・・・暗い話でした。小ドラムを叩く鬼役で少し出演していた小柄な女優さんが今回の脚本・演出の八日市屋さんだったようなのですが、「あんなに可愛いのにこんなに怖いことを考えているの!?」って思っちゃいました。まさに今どきのティーンネイジャーのことを全くわかっていない大人の反応ですよね、我ながらお恥ずかしい。

 美術が見た目は非常に気持ち悪いのですが、とても良く出来ているな~と関心させられました。だってあれは内臓ですよね?教室の壁が腸の壁面のようになっているんです。てかてかしたサーモンピンク色でぶよぶよ感がリアル。窓が飼育小屋によく使われる金網になっていたり、壁がぶよよんと縦に開いて出入り口になっていたり、工夫がとても効果的。演出的狙いなのでしょうが一貫して気持ち悪かった。
 鬼たちの出てくるシーンの照明が赤と緑でわかりやすく殺気立っていて、それとは対照的に殺人シーンでは青と白の冷たさが美しかった。
 音楽がものすごく個性的で面白かったです。選曲も八日市屋さんがなさっているようです。
 決して私の好みではないのですが、舞台全体としてしっかりした作品だったように思います。

 そして、これは特筆すべきことかなーと思うのですが、こんなに暗くて残酷で陰湿でイヤな話なのに私は最後までちゃんと観られたんです。終わってから考えると、おそらく役者さんのバランスの取れた演技のせいではないか、と。決まりきった演技でもなく、かといって生々しい押し付けがましさもなく。女生徒サイコ(龍田知美)の叫び声もあまりイヤな気がしませんでした。

脚本・演出:八日市屋美保
出演:東島淳一郎(べっちん) 柴田男女(べっちん) 稲垣おかず(べっちん) 矢吹ジャンプ(べっちん)八日市屋美保(べっちん) 龍田知美(東京ネジ) 佐々木香与子(東京ネジ)佐々木富貴子(東京ネジ)佐々木なふみ(東京ネジ)平野圭(ONEOR8)中島真一 明石修平(オードブル)大谷きみお 島崎諒(劇団一都六県)
staff: 舞台美術:田中敏恵 照明:榊美香((有)アイズ) 音響:井上佳代 衣装:依田由紀子(Bloom) プロジェクター操作:華房修 舞台監督:杣谷昌洋 宣伝美術:寺部智英 WEB:大里雄二 制作補助:柴田奈津子 制作:(劇)べっちん
(劇)べっちん : http://homepage3.nifty.com/becchin/index.html

Posted by shinobu at 14:04