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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年03月18日

AGAPE store『しかたがない穴』03/02-10紀伊國屋サザンシアター

 AGAPE store(アガペーストア)は松尾貴史さんとG2さんの演劇ユニットです。今回は岸田國士戯曲賞を受賞して間もない倉持裕さん(ペンギンプルペイルパイルズ)の脚本で。

 謎の巨大な穴の中を探索に行く人たち。穴の中に建てられた六角形の住居の中にほぼ閉じ込められてしまった彼らは、自己の不確かさに包まれて少しずつおかしくなっていく。

 あまりに笑いが多いのでホラーだということを後半になるまで忘れていました。少しずつ常軌を逸していく登場人物たちのうっすらとした恐怖を感じたのはクライマックスになってから。でも楽しかったのでOKです。

 ラストがいったいどういう意味なのかは正直なところ見終わった時にはわからなかったですが、別に気にならなかったな~。あの不可思議でクールなサスペンス調ナンセンスが味わえるだけで、倉持裕さん脚本は楽しめます。 

 ぐるぐる動く照明で部屋の間取りが表されている(ネタバレに近い)のは親切だなーと思います。小さな劇場で濃い演劇ファンだけのために上演する作品ならちょっと説明し過ぎかもしれませんが、芸能人も出演している紀伊国屋サザンシアターでの公演ですし、そういう気遣いって必要ですよね。

 壁が動く装置が大胆で良かったです。上手のあの壁は一体どうなっていたんだろう・・・。

 秋本奈緒美さん。スタイル良くて美しい女性が生で舞台にいらっしゃるって嬉しいです。だって観てるだけで楽しいんだもの。『Happy Birthday!』@アートスフィアの初演ではエロエロ愛人の役で悲しかったのですが、今回はスマートで良かった。

作:倉持裕 演出:G2
出演:松尾貴史/山内圭哉/松永玲子/小林高鹿/秋本奈緒美
スタッフ 美術:加藤ちか 照明:黒尾芳昭 音楽:G2、山内圭哉 音響:内藤勝博 スタイリスト:内村淳子 演出助手:高野玲 舞台監督:村岡晋 演出部:村西恵、唐崎修 照明操作:山崎哲也 衣裳:桑原理恵 小道具:高津映画装飾 大道具製作:C-COM 宣伝美術・パフレット花写真:東学 宣伝写真:福永幸治 ヘアメイク:小島裕司 仮チラシデザイン:植田聡史 Web:川村公一、酒井元舟 制作:尾崎裕子、中村真由美、安積智子 制作協力:若菜千依子 プロデューサー:大西規世子 製作総指揮:G2

G2プロデュース : http://www.g2produce.com/

Posted by shinobu at 22:42

新国立劇場演劇『透明人間の蒸気(ゆげ)』03/17-4/13新国立劇場 中劇場

 1991年に夢の遊眠社で初演。原作者の野田秀樹さんの手による再演です。私は小西真奈美さんと筧利夫さん主演の青山劇場での公演(演出は誰だったか忘れました)を拝見したことがあり、その時はややこしくてよくわからなかっただけ、という残念な感想でした。今回もそれに近いものがないわけではないです。
 でも、宮沢りえさんという清々しいそよ風のような、深く透き通る水のような、遠くにまたたく星のような女優さんにお会いできたことに感激です。

 鳥取砂丘でお土産屋を営むサリバン先生(野田秀樹)のもとで暮らすヘレン・ケラ(宮沢りえ)は盲目の少女。彼女は足の裏で音を感じて会話する。ある日、詐欺師の女たらし男(阿部サダヲ)がやってきてケラの心を奪った。「あなたは神様なのね!」 一方、20世紀の遺物を探して21世紀に送れとの勅命を受けた者たち(手塚とおる等)は詐欺師の男の度重なる悪行を見て、彼を21世紀に送り届ける人間に選んだ。しかし彼はうまく未来へは行けず、皮だけがはがれて透明人間となってこの世に残ってしまう。

 この後さらに黄泉の国とこの世、現在、過去、未来とひっきりなしに場面転換します。もともと難しい話である上に役者さんが早口で怒鳴るのでセリフが聞き取れなくて、よく意味がわからないまま終わってしまいました。とってもとっても残念でした。
 わからないながらも、物語の後半での手塚とおるさんの長ゼリフに野田さんの言いたいことが託されていたような気がしました。1945年に日本は敗戦国となったわけですが、敗戦する前まで日本が全く無くなったわけではないですよね。臭いものに蓋をするように全てを置き去りにして忘れて来てしまっている日本人に、全身全霊で伝えようとする13年前の野田さんの心を感じました。

 詐欺師(阿部サダヲ)が透明人間になった時、衣装が水色になり、髪の毛もあざやかな水色になります。その姿が見えるのは盲目のケラにだけだ、という設定は非常にわかりやすかった。照明で世界が変わるのもしっかり表現されていましたので中盤ぐらいまでは付いて行けてたと思うのですが、後半はもうムリだったなぁ。

 舞台(堀尾幸雄)は中劇場の奥行きを活かした大きな大きな空間をそのまま使っていました。3年前の『桜の森の満開の下』と似ていますが、今回の方がシンプル。荒涼とした砂丘のイメージですよ。美術はセットも小道具もほぼ全てダンボールでした。ダンボールの電話ボックス、ダンボールの湯たんぽ、ダンボールのみそかつ・・・。次から次へとオブジェが出てきてダンボールなのに豪華でした。でもやっぱり、「ダンボール」なんだよなー・・・。

 衣装(日比野克彦)が新聞紙だったので美術とは「紙」つながりですよね。新聞紙を使うというのは、過ぎ去ったけど確かに存在した歴史を表現している気がして良い視点だなーとは思いましたが、見た目は単にヘンだったな~。日本っぽさを表したかったからあのかつら?全身白タイツにトイレットペーパーふんどし、全身黒タイツのダンサーの手足に白いオブジェ、なんか物体自体がヘンなんですよね。決してカッコ良くないです。宮沢りえさんの衣装だけ見た目もバランスも良かったと思います。

 選曲はいつもどおりでした。同じような音を何度も使うのにももう慣れてきましたね。野田作品ではこの音ってことで。今回は音が小さかったし非常に遠くからかすかに聞こえてくるのは良かったです。
 振付(川崎悦子)は群舞というよりはバレエっぽかったです。謝珠栄さんの振付の方が私好み。

 役者さんに関しては始まってから終わるまで、宮沢さんと阿部さんばかりに目が奪われていました。「宮沢りえ、長いキスシーン!」というような見出しで新聞に載っていたそうですが、あれはキスシーン?本当にキスしてたなら笑えます(笑)。そのキスで盲目の少女は「私は神様から蒸気(ゆげ)をもらったんだ」と思い、気づかないうちに恋に落ちているんですよね。とってもロマンティックで重要なシーンをお二人が完璧に表現してくださったように思います。

 宮沢りえさん。中劇場の奥から走って登場しました。彼女のまわりの空気が白い光を放っていました。なんて美しいのでしょう。初めて現れたその瞬間に涙が溢れてきたのは3度目です。最初は阿部聡子さん(青年団)、次は最近ですが広末涼子さん、そして今回の宮沢りえさんです。セリフにしっかり心が載っていて、決して早口ではないから確実に観客に伝わります。清らかな心が声に表れるんですよね。遠くを見つめる大きな瞳に慈しみさえ感じました。
 阿部サダヲさん。素通りしそうなやりとりを爆笑シーンに作り変えてくださっていたように思います。全く、何をやってもかっこいいです。
 野田秀樹さん。登場した時めちゃくちゃ面白かったな~。あの髪型はぶっ飛んだギャグでした。でも後から後から同じような髪型の人が出てきちゃったから残念。舞台を走り回って楽しんでいらっしゃる様子を見るにつけ、ずっと作品を作り続けてほしい、ずっとずっとこの人を追いかけたいと思いました。

作・演出 :野田秀樹
出演:宮沢りえ 阿部サダヲ 野田秀樹 高橋由美子 手塚とおる 有薗芳記 大沢健 秋山奈津子 篠崎はるく(降板) 六平直政 池谷のぶえ 小林功 小手伸也 山中崇 福寿奈央 櫻井章喜 須永祥之 阿部仁美 木下菜津子 中川聖子 浜手綾子 小椋太郎
演奏:福原寛菜 松坂典子 山田貴之
美術:堀尾幸男 照明:小川幾雄 衣装:日比野克彦 美粧:柘殖伊佐夫 選曲・効果・演出補:高都幸男 振付:川崎悦子 演出助手:坂本聖子 舞台監督:矢野森一
新国立劇場 : http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 15:01