2004年05月15日
シス・カンパニー『ダム・ウェイター Aヴァージョン』05/10-06/06シアタートラム
ハロルド・ピンターの不条理短編劇を2種類の演出家・キャストで上演するシス・カンパニーの企画公演。男2人芝居です。
Aヴァージョンは演出:鈴木裕美 出演:堤真一・村上淳 です。私好みはこちらですので1つだけ観るならこちらをお薦めしますが、できれば2つとも観る方が演劇の醍醐味を味わえると思います。
2人の殺し屋が狭い部屋で“仕事”の合図を待っている。お互いにとりとめもない話をしたりしながら時間をつぶしていると、突然に部屋に取り付けられていたダム・ウェイター(料理を上下の階に運ぶエレベーター式の装置)が動き出して・・・。
客入れ音楽はエディー・リーダーの歌声。Fairground Attractionのアルバムですね。大好き。↓ここからネタバレします。
ロマンティックなムードから一転、大きな地響きのような音が突然に鳴り、舞台の中央を隠すようにそびえ立っていた真っ黒い二つの壁が天井に上って行くと、リアルに組み立てられた箱庭のような部屋が現れました。壁は薄汚れたしっくいで、ところどころ剥げて煉瓦がむき出しになっています。部屋全体の色調はクリーム色や暖かい茶色ですが、全体的に古くさびたような、じめじめしたイメージ。パイプの足でできた安物っぽいベッドが二つ。さっき天井の方に上がった壁が重々しく釣り下がったままなので、部屋はまるで地下にあるように感じます。A、Bヴァージョンとも松井るみさんの美術なんですよね。“松井るみ”堪能です。
男が二人。兄貴分の男ベン(堤真一)は比較的きちんとした身なりでベッドに横になりながら英字新聞を読んでいる。後輩らしき男ガス(村上淳)は落ち着かない様子でたわいもないことをしゃべりながら部屋をとぼとぼ、うろうろしている。
“仕事(人殺し)”をする合図を待っているが、一向にその合図がない上に、わけのわからない料理の注文がダムウェイターで運ばれてくる。だんだんと不安に駆られてくる二人。
パンフレットで演出家の鈴木裕美さんがおっしゃっていますが、タイトルの“Dumb Waiter”には2種類の意味があって、1つは「しゃべらない給仕」。つまりレストラン等によくある料理を上下の階に運ぶエレベーター式の装置のこと。2つ目は「まぬけな、待ち人」です。
鈴木裕美さんの演出には毎度心を打たれます。これが演出というのだな!と感心します。非常にたくみに、そしてさりげなく、行間(セリフとセリフの間)をさまざまな角度・視点から埋めて行きます。具体的には、全くセリフのないシーンに長い間を作り、ある時は先輩が後輩を殺そうと企んでいるかように、ある時は後輩が先輩を後ろから狙っているかように見せていました。一口かじっただけでは「意味がわからない」と観客にそっぽむかれそうな難しい題材を、殺し屋の悲しい運命を描いた深みの有る物語に作り上げられました。
結末を不条理にしなかったところが私はすごく好きでしたし、これが醍醐味だ!って思いました。
ある人物を殺すために呼び出され部屋で待機していた殺し屋の二人だったが、ガスがお茶を沸かしにキッチンに行っている時に合図が来た。ターゲットはもうすぐに部屋にやってくるのだ。早く来い!とガスを呼ぶベン。しかしドアが開いて出てきたのは、殴られてぼろぼろになったガスだった・・・。驚愕しつつも銃をガスに向けるベンと、何が起こっているのかわからずに立ちすくむガス。身動きできずに見つめ合う二人。そして、少しずつ状況を把握したガスは、自分を打つようにと、ゆっくりとベンの前にひざまづく。The End。
AヴァージョンとBヴァージョンを同じ日に拝見しましたがそれがとても良かった気がしています。今年2月に連続公演されたtpt『Angels in America』の第1部、第2部は昼夜で観るのはつらかったそうですが、こちらは短編ですし登場人物も2人だけですからね。作品として楽しむのに加え、演劇という一つの表現形態の無限の可能性を実体験できる貴重な機会にもなると思いました。
Aヴァージョン 演出:鈴木裕美 出演:堤真一・村上淳
Bヴァージョン 演出:鈴木勝秀 出演:高橋克実・浅野和之
作:ハロルド・ピンター
翻訳:常田景子/美術:松井るみ/照明:笠原俊幸/衣装:伊賀大介/音響:井上正弘/舞台監督:二瓶剛雄/プロデューサー:北村明子
シス・カンパニー:http://www.siscompany.com/
劇団ダンダンブエノ『バナナが好きな人』05/12-23青山円形劇場
元・東京サンシャインボーイズの俳優 近藤芳正さん率いる劇団です。中井貴一さんと井手茂太(振付)目当てでチケットを取りました。
コント55号が流行っていてバナナがまだ少々高級品だった時代。風景を描いた舞台奥の幕にはアドバルーンが飛んでたり。なつかしい昭和の日本の、ある家族のお話でした。
お父さん(中井貴一)は包丁の店頭販売、お母さん(いしのようこ)は内職をして家計を助けている。さえない息子(温水洋一)は小学5年生。イヌ(酒井敏也)を飼っているが、そこに野良犬(山西惇)も出入りする。友達の女子高生(粟田麗)は詩人を目指すちょっと変わった女の子。虚言壁のあるお父さんと、実直なお母さんとの関係にひびが入っていく。
1961年生まれの近藤芳正さんや中井貴一さんの子供時代が舞台なのでしょう。だからその世代にぴったりの観客にとってはものすごく親しみやすいし共感できる設定だったと思います。初日だったのも大きいですが、観客がすごく舞台に近かった気がします。何でも笑ってくるというか、内輪受けに近いというか。
息子が言います。「お父さんが言ってることは全部本当なんでしょう?そして、お母さんはお父さんの嘘が信じられないんだね?」この言葉がすごく良かった。お父さんにとってははファンタジー、お母さんにとってはただの嘘。これは男と女の根本的な違いであり、そこでずっと戦い続けてきたのが男女の歴史のような気がしています。
お父さんがついた“嘘”をどんどん“本当”していく劇中劇シーンで、結局またお母さんを置いてきぼりにしていくという見せ方はすごく胸に届きました。
ただ、中井貴一さんの“橋幸夫”ものまねカラオケって・・・会場はバカ受け手拍子状態でしたが私はあまり楽しめなかったですね。井手茂太の振付のダンスが、あんな風にしか使われてないのが残念です。別に井手さんじゃなくてもいいじゃないか!って思います。そりゃぁすごく楽しいダンスだったんですけどね。女子高生役の粟田麗さんが特にお上手でした。ビヨークみたいだった。
また、円形劇場なのにプロセニアム(額縁)形式なのはあまり嬉しくないんです。円形劇場でやらなくてもって思います。クドイですが、井手さんの振付を青山円形で♪って思ったからチケット取ったのもあるで。
中井貴一さん。自分がついた真っ赤な嘘を本当だと思い込んでしまうトボけたお父さん役。巧い・・・演技うますぎ。いちいち感動します。中井さんを堪能できたという意味で満足できます。
いしのようこさん。何でも笑って許してきたお母さん役。普通ならもっとムっとしたり、嫌みでも言いたくなるでしょう!?と思うところを、優しく柔らかく見せてくださいました。線が細くて弱くてきれい。
作:大森寿美男&ダンダンブエノ 演出:近藤芳正 振付:井手茂太
出演:中井貴一 いしのようこ 酒井敏也 山西惇 粟田麗 温水洋一 近藤芳正
美術:伊藤保恵 照明:吉澤耕一 音響:鹿野英之 スタイリスト:花谷律子 演出助手:山田美紀 舞台監督:村岡晋 宣伝美術:高橋雅之 宣伝写真:小木曽威夫 Web:川村公一 酒井元舟 制作:大西規世子 千葉博実 尾崎裕子 中村真由美
制作/ジーツープロデュース 制作協力/ユニマテ 企画・製作/劇団♪ダンダンブエノ
劇団♪ダンダンブエノ:http://www.dandanbueno.com/
G2プロデュース:http://www.g2produce.com/