2004年05月27日
山の手事情社『道成寺』05/26-30 ASAHIスクエアA
創立20周年を迎える山の手事情社。
250人ぐらい入るスペースがほぼ満員の初日でした。私はとても感動して、大きな拍手を何度も送りました。
『道成寺』にまつわるお話が3つあるそうで(「黒髪縁起」「鐘巻縁起」「鐘供養」。その他、謡曲「道成寺」、歌舞伎「京鹿子娘道成寺」もあるそうです)、その3つが重なり合って最期に見事に融合しました。女の深い情念の悲しい物語を満喫しました。
利賀の演劇フェスティバルで1ヶ月前に上演されたのがこの公演の初日ですので、今日までには余裕があったことがこの完成度の高さを実現したかもしれませんね。
アサヒスクエアAの壁をそのまま使った舞台美術は灰色と透明を基調としていて、縦に設置された蛍光灯の光も手伝って、いわゆるクール&シンプルな空間を作り出していました。最初に出てくる役者さんもみんな黒装束ですので、全体的にモノトーンのイメージです。しかし徐々に鮮やかな色彩のドレスやデコラティブなスーツをまとった人物が登場し、眺めているだけで満足できるポップアートのような空間となりました。
道成寺の鐘や上下の出はけ口に建てられたパネルは、波板(透明のトタン板)で作られています。舞台中央に役者さんが出てくるまでは、上半身は波板でやわらかく隠されて、下半身だけは見える状態です。誰かが出てくるのはわかるんだけど、顔が見えないから誰なのかはわからないんですよね。それがすごくわくわくして面白かったし、きれいでした。
照明が美しかったです。近未来的とかスタイリッシュとか色々表現方法はあるのですが、私は異次元の感覚を味わっている気分でした。タイムマシーンに乗って時空を移動しているような、宇宙船に乗ってワープしているような心地というか。繊細な色使いというよりはある原色から他の原色にパッキリ変化するので、メカっぽい印象を与えているかもしれません。
衣装がきらびやかで美しかったです。虹色に輝くバイヤスのスカートは思い出すだけで夢のような気分。西洋のカッティングは女性の体を美しく見せますね。なんと劇団員が縫っているそうなんです。
僧に逃げられた恨みで死んで蛇に変身した女(倉品淳子)を男優数人で持ち上げるのがすごい!エアウォークというそうですが、人間の手の上に足を乗せて宙を歩きます。ものすごい迫力でした。
魚のうろこのような模様の美しいドレスを着た清姫(太田真理子)が、男の体を乗り越えながら移動するのも味わい深かったです。アクロバティックな身体のポーズで人物の感情が表されるんですね。
メインのストーリーの合間に一人芝居などが挿入されるのですが、顔にシールを張る女たちとカラフルなタイツで遊び戯れる男たちの対比がとても面白かったです。そうやって女は一緒に盛り上がりながら実は誰かを疎外しておとしめたりするよな~、とか、男って自分だけ楽しければいい!という輩が一緒に集まってパワフルに遊ぶよな~、とか。共感しました。また、最初の卵がラストに蛇とつながったのも感動。
今回は女にまつわるの話だったからか、女優さんの活躍に目を見張るものがありましたが、男優さんについては残念ながら声が聞こえないとか早口すぎて意味が解らないシーンが多かったです。山田宏平さんと三村聡さんが出ていらっしゃらないのは寂しいですよね。
水寄真弓さん。ピンクのウィッグのキャスリーヌ役。外人美女キャラクターをご自分で作られたのでしょう。キャラを作るということはこういうことなんだと見せてくださいます。セリフも面白いし演技も巧い!爆笑です。また観たい!
倉品淳子さん。赤いドレスの女主人役。大きな目をギョロっと見開いてエアウォークしつつ男を追いかける大蛇です。逃げた僧を焼き殺した後の静止した後ろ姿は悲しみを湛えていました。女は優しいから恨むんですよね。切なくて美しくて涙が出ました。
内藤千恵子さん。ラストの蛇役。美しくて恐ろしい。情念たっぷりの声とセリフ回しに震えました。かっこいいです。幕切れにふさわしい火花のような演技でした。
カーテンコールで役者さんがそれぞれのストーリー毎に分かれて出て来てくださったので、目の前で繰り広げられた3つの『道成寺』がもう一度私の心に戻ってきました。なんて素晴らしい作品なんだ!って、また大きな拍手をしたくなりました。
演出・構成:安田雅弘
キャスト:山本芳郎・倉品淳子・内藤千恵子・浦弘毅・大久保美知子・水寄真弓・太田真理子・川村岳・斉木和洋・岩淵吉能・野々下孝・山口笑美・森谷悦子・鴫島隆文・名久井守・久保村牧子・本名貴子・中村智子・野口卓磨・横田七生・後藤かつら・植田麻里絵、根本美希
照明・舞台美術:関口裕二(balance,inc.) 音響:斎見浩平 衣装:渡邉昌子 宣伝美術:福島治 演出助手:小笠原くみこ 照明オペ:木藤歩 音響オペ:大西香織 衣裳助手:栗崎和子 ヘアメイクアシスタント:飯田ヨウコ 舞台写真:大石創介 制作:福冨はつみ 製作:UPTOWN Production Ltd.
山の手事情社:http://www.yamanote-j.org/