2004年09月24日
シス・カンパニー『ママがわたしに言ったこと』09/04-10/03青山円形劇場
木内みどり(祖母)、渡辺えり子(母)、大竹しのぶ(娘)、富田靖子(孫娘)の4人芝居です。
ロンドン生まれの女性作家シャーロット・キートリーさんが1985年に書かれた脚本で(当時25歳)、1987年にマンチェスターで初演、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなど多くの国々で翻訳・上演されています。2000年に英国ナショナルシアターが選ぶ“20世紀の最も偉大な戯曲20本”に選ばれており、今作品が日本初演です。
厳格な母ドリス(木内みどり)のもと、戦時中のイギリスで育ったマーガレット(渡辺えり子)は、家族のためだけに人生を費やしている母親に反発し、働く女性になる夢を持ちながら、やがてアメリカ人と結婚する。マーガレットの娘ジャッキー(大竹しのぶ)はマーガレット以上に自由奔放な性格で、美術学校に進んだが在学中に未婚の母となってしまう。生まれて間もない子供を母親のマーガレットに預け、ジャッキーは画家としての成功をめざし「働く女性」となる。ジャッキーの娘ロージー(富田靖子)はマーガレットの娘としてすくすくと育っていた。彼女が16歳になる日に出生の秘密が明かされ、ロージーはジャッキーのもとに返される約束になっているのだが・・・。
青山円形劇場でこんな豪華なキャストは今までになかったのでは、との噂です。4人の大女優の迫真の演技を目の前で堪能いたしました。戦時中を含む約半世紀の時の流れの中で、それぞれの時代に、それぞれの夢をもって、懸命に生きた4人の女性の生き様を描き出します。観客の誰もが自分の人生とどこかしら重ね合わせて感情移入して観ることができていたと思います。私も色々思うところあって、考えさせられたり共感したり、どっぷり作品の中に入り込みました。
パンフレットの鈴木勝秀さんのインタビュー(相手は篠井英介さん)にありましたが、鈴木さんはこの作品では、時代背景や舞台のイギリスらしさなどの脚本のバックグラウンドを極力排除する演出を心がけたそうです。その意図は大成功していたと思います。
天井とステージが刺繍布を挟んだ丸い刺繍枠になっています。天井は太陽で、地面は草のデザイン。天井の布から刺繍張りが突き刺さっています。乙女チックなファンタジー空間の中に、白に統一された衣裳が映えます。ピアノの上の真ん丸い照明器具が夢の世界のポイントになっていて可愛かった。この作品が照明、美術、音響、衣装、ヘアメイク等のスタッフワークと、演出、俳優との共同創作であることが、全体の輝きとして現れていました。今までに観た鈴木勝彦さん演出の作品の中で一番共感できました。(パンフレットにスタッフさんの顔写真が載っているのがすごく嬉しいです)
娘役を演じていた女優さんが突然母親役の演技を始めたり、時代を逆行したりもする大胆な構成の脚本です。そこに、ストーリーと直接関係のないシーンもところどころ挿入されます。4人の女優がみな白いスモッグを被り、大きなリボンのカチューシャをつけて、女児を演じるのです。そこで表されるのは母親に対する漠然とした、でも確かに存在する恐怖と殺意です。母親の腹から生まれ母乳で育つ私たちは、世の中に出てくる時点で母親なしには生きられない状況におかれます。しかも自分が女だった場合、いずれ子供を生んで母親になるという命のループに繋がれていることに気づき、母親という呪縛から逃れられないことに悩むのだと思います。
女の人生において、結婚、出産、子供の結婚、子供の出産という人生の通過儀礼は、嫉妬と意地悪がつきものだと私は感じています。それが女児のシーンでは隠喩として表され、マーガレットとジャッキーの関係の中に具体的に現れます。観ていてすごくつらかった。こんな罪は犯したくないと強く思いました。
中盤ぐらいまででものすごく感動して、涙もポロポロ出ていましたので、もしかしたらメルマガ号外出せるかも?と思ったのですが、ジャッキー(大竹しのぶ)が生んだ赤ちゃんを母親のマーガレット(渡辺えり子)が自分の子として育てるという展開に、私の心は冷めてしまいました。そういう属人的な事件に焦点をを当ててしまったため、“ある家族のドラマ”という枠内に納まってしまい、普遍性が感じられなくなってしまったのです。母娘の4代にわたるお話を通じて、女だからこそ語ることができる女の歴史、性(さが)を表すならば、そういう事件よりも一人一人の人生や心の中を描く方向が良かったんじゃないかと思います。←これは脚本についての意見です。
木内みどりさん(祖母ドリス役)の在り方に一番納得できました。ラストの独白に涙、涙でした。「選ぶことができなかった」人生を生きた女性・ドリスが、マーガレットに言う「お前は欲張りなのよ。ジャッキーはもっと欲張り」というセリフに深く納得しました。女性はどんどんと自由と権利を得られるようになってきていますが、だからといってそれが幸せに直結しているわけではないんですよね。自分が生きているこの時代の中での、自分自身の幸せを手に入れたいと思いました。
作:シャーロット・キートリー(Charlotte Keatley) ~My mother said, I never should~
翻訳:常田景子 演出:鈴木勝秀 美術:松井るみ 照明:倉本泰史 衣裳:前田文子 音響:井上正弘 舞台監督:瀧原寿子 プロデューサー:北村明子 企画・製作:シス・カンパニー
出演:木内みどり/渡辺えり子/大竹しのぶ/富田靖子
ママが私に言ったこと:http://www.siscompany.com/03produce/08mama/00.htm