2004年10月02日
世田谷パブリックシアター『リア王の悲劇』09/25-10/11世田谷パブリックシアター
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世田谷パブリックシアターの初代ディレクターである佐藤信さん(シアターガイドのインタビュー)が演出・美術を手がけ、実力派ぞろいの豪華キャストです。チラシのビジュアルがちょっと暗くて怖そうで迷ったのですが、やっぱりキャストに惹かれて観に行くことにしました。初日観劇です。
見終わって一言、すっぱり言い切りたい。「舞台装置がひどい!!」なんと舞台全部が階段なんですよ!役者は階段の上で演技をし続けるんです。そりゃぁ一番下と一番上にはある程度の平たい部分はありますけどね、まるで宝塚歌劇のフィナーレように、ずーーっと階段なんですよ。宝塚よりもひどいことには、途中に踊り場がないんです!さらに怖いことには、舞台の一番低い面は幅2m分ぐらいの平たいステージがあるのですが、実はその床が部分的にスライド式になっていて、スライドの下にも舞台上と同じように階段が続いているんです!3階分ぐらいの階段がとめどなく続いている舞台・・・悪夢ですよ、悪夢。
パンフレット内によると『リア王』はシェイクスピアの4大悲劇の中でも最高傑作と言われる作品で、実は2種類の『リア王』の脚本が残っているのです。その内、シェイクスピアが残したのが『リア王』、シェイクスピアの死後に弟子がまとめたのが『リア王の悲劇』で、この2つには100~400行分の内容の差があるのですが、歴史劇というよりも悲劇性を強く打ち出しているのが今回の『リア王の悲劇』です。脚本に忠実に上演されるのは日本ではおそらく初めてのことだとか。
確かに人間の歴史とか、死生観、無常観とかよりも、わかり合えないことへの深い悲しみや、純粋で一途な愛の残酷な最期など、心にグサっとささる悲劇的エピソードが美しい印象を残しました。
『リア王』は劇中劇も含めて2度ほど観たことがあったのですが、今回で初めて物語の骨組みがよーくわかりました。やっぱり演技が上手い役者さんは凄いです。シェイクスピア劇のあの長々と続くセリフの意味がきちんと伝わってきました。中でも、辛らつな言葉遊びから隠された真実をはっきりと伝えてくれた、道化役の手塚とおるさんに感服でした。血のように赤い髪に青白いメイクもドスが利いていましたね。
タイトルロールのリア王役の石橋蓮司さんがこの公演のポイントだったのですが、残念ながら名演とはいえませんでした。セリフが聞こえないのがつらかった。リアが狂っていく演技が私にはリアルに感じられなかった。そして、時々針のように現れる乱暴な動作が見苦しかった。声が聞こえないというのはプレビューのネット劇評(松本和也氏@Wonderland、某日観劇録)にも書かれていたので、覚悟をしていた分、致命的にはならなかったですが、当然ながら魅力は半減ですね。
三女コーディーリア役の石橋けいさんが良かったな~・・・。彼女の、父親リア王への愛は本物でした。だから、リア王がイマイチでもコーディーリアと2人で語らうシーンではちょっぴり涙がホロリと来るんです。
衣裳(山口小夜子)が良かった~っっ!アジアの民族衣装風でしたね。パッチワークでできた巨大なガウンが豪華でした。役者さんは裾さばきに命がけですが、観ている方は嬉しいです。
鼓動が音楽を担当しているのも楽しみにしていたのですが、叩いている姿を見られなかったのが残念。和太鼓や笛の音はやっぱり躍動感があってかっこ良かったです。特に戦闘シーンには荘厳な和のイメージも付加されて、ぴったりでした。
階段舞台の上の舞台奥が全面スクリーンになっていて、シーンの背景を表す映像が写されますが、同じく世田谷パブリックシアターで上演された白井晃さん演出の『ファウスト』の方が、ずっとセンスも良いし効果も高かったので、二番煎じの感がぬぐえませんでした。リア王の長い独白シーンで、スクリーンと階段全てを包むように、波のようなうねうねとした水色の映像が写された時はとてもきれいでしたが、シーンが長すぎて単調だったので最後の方は退屈してしまいました。うーん・・・詰めが甘い気がします。
No hay bandaのレビュー(?)が最高に面白いです。ご観劇された方はぜひご一読を!(爆笑)
ここから辛口トークです。長くなってしまいましたので、お読みになりたい方だけお読みください。
パンフレットで演出・美術の佐藤信さんがおっしゃっていることを下記に引用します。
「で、俳優がどうしたら演技しにくいかを検討したうえで(笑)、舞台の全面を階段にするというアイデアに至ったんですけど・・・。これ手ごわい装置ですよね。」
「観客には親切なんですよ、役者の演技が全部見られる、全身をね。非常に演劇的ですよ。」
「でも逆に少しでも気の抜けた所があれば、すごく目につく。若い俳優も含めて、どこまでその辺を詰めていけるのか、演出的な逃げ場のなさを考えると、まあちょっと墓穴を掘ったところもあるかな(笑)。」 引用終わり。
まず、「観客には親切なんですよ」というのは勘違いだと思います。だって私、ハラハラしどおしだったんですもの。私が観ていた回では階段上で転んだ人が1人、つまづいた人が約3人、衣裳の裾を踏んだ人が2人以上。こんな状態で落ち着いて芝居なんて観られない。非常にいやな気分でした。
「(俳優に)少しでも気の抜けた所があれば・・・」とおっしゃっていますが、それは「階段で転ばないように」と常に気をつけておかなければならない悲惨な状態になっただけで、かえって演技には集中できていなかったように見受けられました。大きな損害だと思います。
「演出的な逃げ場のなさを考えると・・・」。なるほど、「墓穴を掘った」と自覚してらっしゃるわけですね。ラストシーンでリアがコーディーリアの死体を抱きかかえて出てくるのですが、コーディーリアは等身大の人形でした。至極興ざめです。狂ったリアがコーディーリアを階段から投げ飛ばすということをしたかったのでしょうが、人形なんだもん(泣)。しらけてしまいました。クライマックスで盛り上がってたのにすごく残念でした。
作:W.シェイクスピア 翻訳:近藤弘幸 演出・美術:佐藤信 衣裳:山口小夜子 音楽:鼓童
出演:石橋蓮司/手塚とおる/中川安奈/冨樫真/石橋けい/真那胡敬二/大森博史/二瓶鮫一/斎藤歩/ハラトモヒロ/大鷹明良/内山森彦/片岡弘貴/辻萬長/阿部眞二/田中剛/本多幸男/南智章/北川響
照明:齋藤茂男 音響:島猛 美術補:星健典 殺陣:國井正廣 技術監督:熊谷明人 演出助手:鈴木章友 舞台監督:森下紀彦 宣伝美術:有山達也 宣伝写真:久家靖秀 宣伝スタイリング:飛田正浩 三橋奈穂子 宣伝ヘアメイク:赤間賢次郎 久保田直美
世田谷パブリックシアター:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/
音楽を鼓動( http://www.kodo.or.jp/ )が担当。