2004年10月05日
遊機械オフィスプロデュース『溺れた世界』10/03-24シアタートラム
白井晃さんが、えり抜きのスタッフとともに創る海外戯曲@シアタートラムの第3弾。
フィリップ・リドリー作『ピッチフォーク・ディズニー』、『宇宙で一番早い時計』に続いて今度はゲイリー・オーウェンの“The Drowned World(溺れた世界)”です。
つみきみほ さん にしびれました。ぜひぜひ彼女を目撃して欲しい!
期待を裏切らない白井ワールドでした。緊張が続く2時間はちょっぴりキツイですが、こんなに繊細で美しい舞台世界を作り出せるチームは少ないです。もったいないことに空席が目立ちます。10月24日(金)までありますので、どうぞお時間を作って観に行っていただきたいです。
情けないことにちょっと風邪を引いてしまいました。てゆーか会場クーラーきき過ぎ!!苦情を言って帰ってきました。でも作品は素晴らしいですよ。(ここまで10/5にUP)
劇場入り口で、登場人物とSTORYについて書かれた1枚の紙が手渡しで配られました。手に持ったのでチラリと見てから観劇したのですが、読んでおいて良かったです。何もない舞台に4人の俳優が出てきて語るだけのお芝居(と言っても過言ではない)で、セリフも難解なのです。これからご覧になる方は、ネタバレを恐れずに事前にあらすじ等をお読みになることをお勧めします。それでも十分に楽しませてもらえますから。
(ここからネタバレします。)
●あらすじ(当日パンフレットから引用します)
そこは市民と非市民に分断された世界。非市民は輝くように美しい人間たち。市民は醜く、美しいものたちが放つ輝きを恐れて非市民を抹殺し、世界を支配している。青年ダレンは市民側(醜いもの)の人間でありながら、自分のいる世界とその人々を嫌悪し、いつか天使が自分を救いに来ることを願っている。ある日、誰かがダレンの部屋のドアを叩く。そこにいたのは市民に追われた、非市民(美しいもの)であるターラと、怪我をした恋人のジュリアンだった。ダレンは彼女が自分を救ってくれる天使だと信じ、ふたりを家にかくまう。ダレンは3人分の食べ物を得るため、ターラの美しい髪を闇売人のケリー(市民側)に売るが、実はケリーは非市民をかばう裏切り者の市民を通告するための、警察側スパイだった。(あらすじ終わり)
市民と非市民の構造は、戦時中ドイツにおけるユダヤ人差別に似ています。ただ、この物語においては被差別者が特定の人種などではなく「美しいもの」であることから、より広い普遍性につながります。
ケリー(つみきみほ)が窓辺にいたジュリアン(田中哲司)をチラリと見た瞬間に「吐き気がした」のは、警察側からすると「モラル・コントロールを失わせる非市民側の攻撃」なのですが、それはつまりは一目ぼれでした。ジュリアン(の瞳)を手に入れたいという強い欲望に支えられながら、闇売人の姿に身をやつして獲物を待っていると、ターラの髪を持ったダレンが引っかかってきます。そこでケリーは“美しいもの”を生け捕りにしているダレンに「“美しいもの”を自分のものにして、そして処分した後も、彼らの面影を抱きながら生きていける」と提案します。すごく切ないなぁと思いました。自分は醜い。世界も汚い。その中で生きていくためには幸せな思い出が必要なんですよね。
ダレン(岡田義徳)に惨殺されたケリー(つみきみほ)と、市民になぶり殺されたジュリアン(田中哲司)が、天国(地獄?)で出会うラストシーンでは、彼らは互いにこの上なく醜い姿になっています。ケリーは海の底で魚に体を食いちぎられているし、ジュリアンは火あぶりにされたのでケロイドだらけです。初めて何の偏見もなくコミュニケーションをし合えるようになった彼らの前に、8才ぐらいの子供が現れました。ケリーが警察側で働いていた頃は、子供であろうが“美しいもの”なら容赦なく捕まえていましたが、死んでしまって自由になった彼らは、その子供に光輝く月のことを話そうと言い合います。これは、こんなに醜い人間の世界だけれども、子供達の未来はきっと明るいものにしようという意志の暗示だと受け取りました。
演出(白井晃)、美術(松井るみ)、照明(高見和義)、映像(上田大樹)は『ファウスト』に引き続いて同じスタッフです。
舞台は何もない正方形の板の上。舞台面はへび皮のような姿のひからびた地面だったり、波が左右から打ち寄せる波打ち際だったり、天井から写される映像で変化します。舞台正面奥も全面がスクリーンになっていて、基本は黒色ですが場面ごとにそのシーンの色づけのための映像が映し出されます。とても抽象的な動画ばかりなので、場面の背景として決して邪魔にはならず、空間に動きと色づけをする以外に、登場人物の心中をやんわりと説明する役割も果たしていました。映像を使った舞台作品の中では秀逸な出来栄えだったと思います。白井さんの作りたい世界観がきっちりスタッフに伝わっているから実現しているのでしょう。
シーンとシーンのつなぎに、俳優が舞台上をただ動くシーンが挟まれます。これをコレオグラフィー(振付)の杏奈さんが作られたのでしょうね。残念ながら俳優の身体が追いついていませんでした。決められた動作をすることに精一杯で、触れ合ったりすれ違ったりする動作や位置関係で登場人物の関係や心情を表すところまでは行き着いていませんでした。これは役者さんの力量不足かも。これから公演後半になるに従ってしっくりしてくる可能性はあります。
いつもながら白井さんのキャスティングは心底すごいと思います。役者さん本人の資質を見抜いてそれを引き出すように演出されるのでしょうね。『ピッチフォーク・ディズニー』の宝生舞さん、『宇宙で一番早い時計』の鈴木一真さん(『浪人街』ではイマイチでしたが)、音楽劇『ファウスト』の篠原ともえさん、そして今回は つみきみほさん が私の新しい発見になりました。
岡田義徳さん。ダレン(市民)役。オープニングのたった一人での長ゼリフは、すごく頑張ってらっしゃったのですが言葉がずるずると流れてしまっていて、のっけから不安にさせられました。でも、物語が佳境に入ってくるにしたがって、岡田さん演じるダレンの心がじんわりと岡田さんの身体から溢れて出てくるようになり、ケリー(つみきみほ)を殺害するあたりからは、なるべく奥に秘めるように吹き出させる感情表現に、かえって激しさを感じることが出来ました。
田中哲司さん。ジュリアン(非市民)役。いちばん落ち着いて舞台上に居(お)られたように思います。田中さんというと色んなお芝居で活躍されているので(特に『欲望という名の電車』は素敵でした)、欲を言うともっと光って欲しかったです。そう、“輝くように美しい若者”であることを引き受けていなかった気がします。炎に飲み込まれるシーンと、死後の世界でケリーと語らうところの清らかな存在感はさすがにかっこ良かったです。
つみきみほさん。ケリー(市民)役。瞳にしびれました~・・・。一言一言を丁寧に、まるでその場で言葉を選んでいるかのように話されていました。グサっと肌に突き刺さるハードなセリフがすごく快感で、つみきさんが語ってらっしゃる時の私はほぼマゾでしたね(笑)。ターラ(上原さくら)の金髪が触れた岡田さんの唇に、誘われるように口づけるシーンのセクシーなこと!久々に本物のファム・ファタールに出会えました。つみきさんを観られるだけでもこのお芝居の価値ありです。
上原さくらさん。ターラ(非市民)役。スタイル抜群なのでシンプルなワンピースがよくお似合いでした。「絶世の美女」という役柄に全くしり込みせず堂々としてらっしゃるのが気持ちいいです。アフタートークでも相当面白かったようですね(笑)。声もきれいに届いていましたし、セリフもしっかりと間違いなく発せられていました。ただ、人物としてはちょっと上っ面だけだった気配アリ。でもその方が作品としては良かったのかもしれないです。“輝くように美しい若者”である非市民の方にも非がないわけではないことが伝わってきました。多くの側面から語ることの出来る、難解な、しかし普遍的なこのお話に、さらに一側面を加えることができたのではないでしょうか。
作:ゲイリー・オーウェン 翻訳:小宮山智津子 演出:白井晃 美術:松井るみ
出演:岡田義徳/上原さくら/田中哲司/つみきみほ
美術:松井るみ 照明:高見和義 音響:井上正弘 衣裳:前田文子 映像:上田大樹 ヘアメイク:林裕子 コレオグラフィー:杏奈 宣伝美術:高橋雅之(タカハシデザイン室) 宣伝写真:二石トモキ 宣伝写真ヘアメイク:米倉カオル 宣伝CGオペレーション:進藤小瀬里 制作:馬場潤子、根本成美(遊機械オフィス) 根本晴美(世田谷パブリックシアター) 制作アシスタント:春山美智 提携:世田谷パブリックシアター 企画制作:遊機械オフィス
世田谷パブリックシアター:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/
ジンガロ「制作発表」10/04フランス大使公邸
フランスが世界に誇る騎馬劇団ZINGARO(ジンガロ)が来年3月に満を持して来日します。
ご縁があってジンガロ日本公演実行委員会 事務局に勤めることになりました。公演が終わる来年の5月8日まで、ジンガロ日本公演密着レポートを“しのぶの演劇レビュー”内で不定期更新していきたいと思います。公演のPRが一番の目的ですが、プライベートな雑談も書いていきますのでどうぞお楽しみに♪
10年間も招聘が実現しなかったジンガロの日本公演がとうとう!?(本当に??)ということで、業界内でも話題を呼んでいます。そのことを裏付けるかのように制作発表(記者会見・レセプション)は200人を上回るお客様およびプレスの方々で大盛況でした。
“ジンガロ”とは、1984年にフランス郊外のオーベルヴィリエでBARTABAS(バルタバス)氏が創設した「馬と人間が出演する舞台パフォーマンス」を上演する一座の名称です。
キャッチコピーを一部ご紹介します。
●ーオペラ、サーカス、音楽、演劇、ダンスー
あらゆる表現手段を超えた20世紀最大の収穫
●馬と人間の愛と友情がつくりだす全く新しい舞台芸術
●馬と人の知性と想像力の融合。
種を超えた生命の響きあい。
それが「ジンガロ」。
ポスターは↓
●ジンガロ日本公演『Loungta(ルンタ 風の馬)』
~フランスが生んだ馬と人が織り成す極限の芸術~
フランスで何度もジンガロ公演をご覧になった方がおっしゃるには「ジンガロは体験しなきゃわからない」そうです。私も簡単な公演紹介ビデオしか観ていないので期待が高まるばかり!
制作発表のために来日したバルタバスさんは、さすがにオーラを感じられる方でした。フランス紳士らしい気品があり、野性味あるふれるルックスはとてもセクシーでした。お話をされている時にちょっと飛び跳ねたり、抱きついたりされるのがおちゃめ。馬と会話ができる(!)彼は「現代のシャーマン」と呼ばれたりもしています。
この公演にはフランスの最高級ブランドのエルメスが特別協賛されています。ジンガロの生み出す芸術の大前提には“エレガンス”があるのです。
私がお見かけしたVIPは、名誉委員の羽田孜さん、鳩山由紀夫さん、顧問の野村萬さん、小沢昭一さん、オペラ歌手のジョン・健・ヌッツォさん、など。
エントランスの車寄せに付けられる車は高級外車が多かったですが、中でも水色のボディーに白い屋根のシトロエンには驚愕!
さて、制作発表が執り行われた広尾のフランス大使公邸は、当然のことながら普通に入れる場所ではありません。一歩足を踏み入れたとたん、私は(おそらく私だけが)ほぼ興奮状態。石造りのエントランス、カラフルでふかふかの絨毯、クラシックでゴージャスなソファー、キッチュな現代絵画、漆器の赤に塗られた柱、和風の箪笥、青々とした芝生のゴルフ場のような中庭・・・「は~・・・(恍惚のため息)。これがフレンチ・シック!? エスプリってこんなに自然なの!? モダンとレトロって共存できるのね!? ジャポニズムも取り入れられてる!!」もー半狂乱ですよっ。あんなミクスチャーなのに、どこから見ても“おフランス”。
ジンガロ公式HP(フランス):http://www.zingaro.fr/
朝日新聞社内暫定HP:http://www.asahi.com/zingaro
流山児★事務所『心中天の網島』10/03-10下北沢本多劇場
骨太のアングラ芝居を上演し続けている流山児★事務所の20周年記念公演です。七瀬なつみさんが主演されるので観に行くことにしました。近松門左衛門の最高傑作と言われる世話物を篠井英介さんが現代風に演出されます。あらすじはこちらの下の方に載っています。
初日を拝見したのですが、「まだ完成していません・・・!」という空気が流れてしまっていました。おろおろして動きがおぼつかない役者さんが多かったです。役になりきるどころか「どうしていいかわからないけど、とりあえず演出がついた通りにやってみよう」と、モゾモゾしている状態。もしかすると様々なことが間に合ってなくて、演出があまりつけられなかったのかなぁ?と想像したりしました。お芝居を観ている最中にこんなことを思い浮かべてしまう時点で、観客としては全く楽しめない残念な結果でした。
篠井さんが演出される流山児★事務所の公演は、創立15周年記念公演『完璧な一日』01/08-16ザ・スズナリを拝見しました。きっと篠井さんはシンプルで、か弱くて、清楚な美しさがお好みなのではないかしら。舞台装置のコンセプトが非常に似通っていたのです。白い壁で四方を囲んだだけの空間で、上下(かみしも)と舞台奥の中央に、出はけ口になる四角いドアの大きさの穴がポコポコと開いています。床に2段ぐらいの段差も作られていますが、基本的には“何もない空間”ですね。そこに明治・大正のレトロなイメージのドレスや背広を着た俳優が登場します。
スズナリでの公演は白くて小さい“箱”という、空虚で閉塞感のある密度高の空間が成り立ちましたが、今回は本多劇場ですので、ただただ広くて何もなくて、閑散としちゃいました。出演者も多くないですし、装置もついたてが2つと簡単な家具ぐらいしかなかったですし。2階レベル以上の高い空間も装置を作って使った方が良かったのではないかと思いました。
(この下の段落でネタバレします)
ラストは結ばれない男女(紙屋治兵衛と小春)が川のほとりで心中するのですが、その2人(若杉宏二と七瀬なつみ)だけが舞台上にいるシーンが長過ぎました。これもまた役者の感情が熟していないからなのか、単に細かいところまで演出がつけられていないのか、未完成の空気がムンムンです。篠井さんはこのシーンを一番じっくり見せたいと思ってたんじゃないかなぁ。上から降ってくる青い照明もきれいだったし。もったいないですね。
『完璧な一日』でも、オープニングに少しだけ出演された篠井さんの存在感が他の主要な役者さんを上回ったのですが、残念ながら今回もやっぱり篠井さんに軍配でした。他の役者の皆さん、なんだか自信がないのが見え見えだったんです。お稽古が足りていなくて不安になる感じ。「この作品は果たして面白いのだろうか?」といぶかっているような感じ。役者さんは、最低でも自分が出るシーンでの自分の役割を果たすことに集中できなきゃだめですよね。何かがうまく働いていなかったのでしょうね。
さて、お目当ての七瀬なつみさんですが、やっぱりお美しいです。顔はもちろん、スタイルもいいし、お声はきれいだし、観ていて幸せ♪でも、演技についてはもうひと頑張り欲しいですね。初めての二役なのだそうなのですが、演じ分けがあまりヴィヴィッドじゃなかったです。残念。
いわばストーリー・テラーになる近松門左衛門役の流山児祥さんが、合間合間に歌を歌われます。流山児さんご自身は渋い俳優さんだと思うのですが、ちょっと内輪ウケな感じがしました。
休憩なしの2時間のお芝居で、真ん中辺りに場面転換もふまえての幕間のシーンがあり、20周年記念の口上が挟まれました。流山児さんがカッコよく見得を切るところで「流山児!」とかけ声がかかり、とても親しみやすい良い感じになりました。
「俺が!」「俺らが!」と正面からバシバシ主張する姿勢は、良い意味で流山児★事務所らしさだと思いますが、この演目にはあまりフィットしていない気がします。記念公演だから、劇団の独自色を際立たせているのもあるのでしょうね。
原作:近松門左衛門、岡本綺堂 脚本:山元清多 演出:篠井英介
出演:七瀬なつみ、若杉宏二、篠井英介、栗原茂、木内尚、上田和弘、甲津拓平、イワヲ、小林七緒、矢吹歩雅、渡辺恵美、悪源太義平 流山児祥
芸術監督:流山児祥 舞台美術:島次郎 照明:沖野隆一 音楽:本田実 音響:島猛(ステージオフィス) 衣裳:宮本宣子 舞台監督:北村雅則 演出補:小林七緒 演出助手:浅倉洋介 写真撮影:アライテツヤ 写真スタイリスト:篠原さおり 写真ヘアメイク:双木昭夫 ポスター&チラシデザイン:藤原カムイ+スタジ2B チラシ裏デザイン:清水俊洋 制作:米山恭子 制作統括:小松克彦
流山児★事務所:http://www.ryuzanji.com/