2004年10月21日
青年団・五反田団『いやむしろわすれて草』10/12-17こまばアゴラ劇場
話題の五反田団、私は初見です。今回は今までとはちょっと違う味わいだったと聞いています。
噂どおり舞台装置はほぼ何もなく、作品のカラーは“笑いを多い目にして少しソフトにした青年団”という印象でした。青年団の役者さんも出てらっしゃるのでどうしてもイメージが重なりました。
何もいじっていないこまばアゴラ劇場の舞台中央に、病院の白いパイプのベッドがあり、木製のちょっと高価そうな椅子とナイトテーブルが置かれています。
ここからネタバレします。
八百屋の4人姉妹のお話。母親は彼女らが子供の頃に蒸発し、当時中学生だった長女の一美(兵藤公美)とガンコで怒りっぽい父親(志賀廣太郎)が店を切り盛りして生活しています。
物語の中心になるのは子供の頃から入退院を繰り返している病弱な三女の三樹(端田新菜)で、三樹が入院している病室と、三樹のベッドがある八百屋の2階の部屋の2箇所で、子供時代と成人してからの家族の風景が描かれます。舞台装置にいっさい変化はありませんし、特に何の説明もなくお話が過去に行ったり現在に行ったりします。場面転換がとてもさりげなくて、ちょっとスリリングで楽しかったです。
頑固一徹な風貌の父親と4人の少女の生活は、いわゆる庶民的な一家庭のリアルな姿でした。子供のケンカが心に痛いです。年下の子供から「びえぇええんっ!」と雄たけびを上げるように泣き出すんですよね。誰もが経験したことのように思います。
さて、4人が大人に成長した現在の世界では、二女(望月志津子)は東京で一人暮らしをしていて四女(後藤飛鳥)もどうやら家を出ています。実家にいるのは父親と、一緒に働いている長女と病気の三樹。
三樹のお見舞いに来ている姉妹たちの会話の中から、長女の一美が実はプロポーズを断り続けているという話が出てきて、四女から「このままじゃ一美ちゃん結婚できないよ」「二葉(二女)も私も家に戻ろうかなって」「だって、お父さんと三樹ちゃんだけじゃ心配だもの」とまで言われます。・・・あぁ・・・苦しいよー、つらいよー、なんてあからさまで傲慢なセリフたち。発している方は思いやりを持っているつもりなんだよね。ぐぅ・・・の音も出ない。
最後は子供時代のシーンでした。恒例の家族行事であるボーリングに「行かない」と言い張る三樹を、家族全員でムリムリ説得しようとしますが、結局決裂。大泣きした三樹は長女に抱きつき、そこで終演。私も泣いちゃいました。子供の純粋な欲望は言葉にできないままに体中からあふれ出てしまいます。しかも三樹の場合は常に抑圧しているから爆発しちゃうんですね。このシーンで終わってくれたのがまた良かったです。
『いやむしろわすれて草』っていうタイトルは、すごく味わい深いなぁと思います。
私、映画でもテレビでも演劇でも病気が描かれるのは本当に苦手なんです。病院とか医者とかも。それが舞台に出てくるだけで半分拒否症状が出るぐらい。でも、この作品を作られた方(前田司郎さん)もそれをわかっていて、あえて題材に選ばれたように感じられましたので、頑張ってちゃんと観るように努力しました。病名を具体的に挙げなかったのと、寿命を限らなかったことが素晴らしいですね。そのおかげで作品世界が壊れなかったと思います。
作・演出の前田さんがご自身の日記(秘密日記)で「一般ウケを狙った」とおっしゃってます。次回はぜひ一般ウケを狙っていないものを観たいと思います。「ながく吐息」とか、また再演してくれるかしら。
そもそも四女役の後藤飛鳥さん目当てで観に行ったのですが、期待を裏切らない可愛さでした。本当にさまざまなジャンルの劇団でご活躍なんですよね。次はbird's-eye viewのsecond lineですね。楽しみです。
志賀廣太郎さん(青年団)。父親役。お年を召した男優さんが出ているのは舞台がキリリと引き締まって良いと思うのですが、いかんせん声がギラギラしていて浮いている感じがしました。
黒田大輔さん(THE SHAMPOO HAT)。妻が三樹と同じ病院に入院している男役。面白いキャラクターでした。すっごく好きになりました。
作・演出 前田司郎
出演 奥田洋平(青年団) 黒田大輔(THE SHAMPOO HAT) 後藤飛鳥 志賀廣太郎(青年団) 端田新菜(青年団) 兵藤公美(青年団) 望月志津子 山本由佳(むっちりみえっぱり) 他
照明:岩城保 宣伝美術:藤原未央子 イラスト:前田司郎 制作:端田新菜
こまばアゴラ劇場内:http://www.letre.co.jp/agora/line_up/2004_10/gotandadan.html
五反田団:http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/