2004年11月04日
tpt『ナイン-nine THE MUSICAL-』10/29-11/14(10/28プレビュー)アートスフィア
tpt10周年記念公演、10年間で始めてのミュージカル、しかも演出家のデヴィッド・ルヴォーさんが去年トニー賞を受賞した『nine(ナイン)』を日本語・日本人キャストで作るなんて、必見の中の必見だと思っていました。なのに客席がかなり空いているという噂。これは宣伝が悪かったのでしょうね。
1960年代のイタリア。売れっ子映画監督のグイードは女優のルイーズと結婚しているが、二人の仲は破滅寸前。脚本も書けないしアイデアも出てこないグイードは、何かのひらめき・癒しを求めて妻と一緒にヴェニスの温泉に旅行に行くことにした。しかし有名なリゾート地には愛人やプロデューサー、女優、記者などが押しかけ、とても休暇など取れそうもない。追い詰められたグイードは、その温泉で映画を撮ると言い出して・・・。
ストーリーはよく覚えていません。だって・・・女が最高に美しいんですものっ!!お話なんてどーでもいい(笑)!60年代の女優ルックで歌い踊るゴージャスな女たちに、ただただ見とれてしまいました。
装置にもすごく驚かされました。銀色のスチール製のらせん階段から、完璧にドレスアップした16人の女優達が高いヒールをコツコツかき鳴らしながら降りてくるオープニングにシビレましたね~。たぶんこのときの私の顔はひどかったと思います。口をポカーンと開けて、最高の呆け顔をしてました(苦笑)。そして後半の仕掛け(ネタバレするので後に書きます)が、もっともっと凄かったんです。
演出は完全に大人向けですね。スタイリッシュでクール、そしてエロティック。幻想的でちょっと不条理。60年代を舞台にしておきながら、空間全体のイメージは近未来的。tptの企画・製作ですからセンスの良さの意味では期待通りです。
さて、この作品はミュージカルです。だから何よりも歌が命だと思うのです。非常に残念なことに、主役のグイード(福井貴一)とグイードの妻ルイーザ(高橋桂)の歌唱力が、とてもおぼつかなかった。安心して聞いていられないレベルです。だから、いくら演出や衣裳、装置が凄くても「このミュージカルは必見ですよ」とはお薦めできないんですよね。
この作品はイタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』からインスピレーションを受けて書かれたものですが、タイトルは9歳を意味しています。グイードは9歳の時に神学校を抜け出し、海辺でジプシーのような女と出会うのですが、そこで大人の世界を知ってしまいます。9歳の時に突然大人になってしまった、そして大人になっても9歳の頃のままでいるグイードにとっての、女(母や恋人、愛人、妻、仕事仲間などの「女」全て)が描かれます。
この作品は男の人が観た方が共感できるんじゃないかなぁと思いました。私は「そっか。男の人はこんなに小さい頃から女というものに翻弄されて、傷つけられて、魅せられて、大人になってしまうんだなぁ」と、ちょっぴり教えられたような気持ちでした。
(ここからネタバレします)
舞台美術はタイプの違う二つのイメージが混在していました。スチールとすりガラスで出来た階段やキャットウォークは、硬質で現代的な印象です。それに対して床や両袖の壁は、リゾートのスパを具体的に表す茶色の石やタイルで出来ています。
グイードとルイーズは温泉(スパ)目当てでヴェニスのリゾートホテルに訪れるのですが、なんと舞台に水が張られるのです!舞台奥の壁は最初、白いカーテンで覆われていて、第1幕の終盤から徐々に開き始め、絵が見えてきます。それがチラシのメインヴィジュアルにもなっているボッティチェリの「春」の一部分。よく見るとタイルで出来ているようなんです。足元の方が割れていたり、絵の隙間には小さなタイルが敷き詰めてあったり。水が張られる前にまず、その絵が水に濡れていくのです。色々な要素がめちゃくちゃに錯綜してきて、それでいて美しい空間でした。
16人の女優さんの中でも最も必見なのはカルラ役の池田有紀子さんです。完全にシースルーのエロティックなミニドレス(あれはほぼ裸と言っていいです)で、色っぽいため息をつきながらグイードをガンガンに誘惑します。コケティッシュで子供っぽい性格なのにエロエロなんだもの(笑)、誰もが彼女にぞっこんになっちゃいますよっ。ブロードウェイ版と演出はほぼ同じだそうですが、シーツに包まって天井から降りてきて、テレフォンセックス同然でグイードを誘い、絶頂に達し(?)つつ今度は逆さづりで天井に掃けるんですよっっ!!これを観なきゃ日本の女優を語れないですよっ(笑)!
プロデューサー役。大浦みづきさんも豪快でした。グイードとタンゴを踊るのですが、細くて長いおみ脚に目は釘付け!観客に話しかけてアドリブもまじえながら、会場の空気をどんどんと豊かにしてくださいました。大スターの貫禄でした。
9歳の頃のグイードを演じる子役の男の子(樋口真)の歌が素晴らしかったです。少年にしか出せない声ですものね。最初は子役ってちょっと気が散るなぁと思ったのですが、後半になって大活躍。歌がすごくうまくって感動しました。
パンフレットにtptの来年の予定が載っています。この『nine』は来年6月にまたアートスフィアで再演されるようです(その前に新MBS劇場@大阪で上演)。そちらの方が完成度が高くなるのではないでしょうか。
私が観た回は関係者のご招待で埋まったのであろう、8割方満員状態でした。アートスフィアのロビーに舞台関係者が詰め寄せている雰囲気は独特です。お年を召した男性がこぞって話し込んでいたり、ミュージカル・ファンがいたり、小劇場の役者さんがいたり、振袖姿の子供がいたり、不思議な客層でした。
Book by Arthur Kopit Music and Lyrics by Maury Yeston Translated by 青井陽治
Directed(演出) by David Leveaux(デヴィッド・ルヴォー)
with nine the company:福井貴一/高橋桂 池田有希子 純名りさ 井料瑠美 岡田静 江川真理子 鈴木智香子 麻生かほ里 山田ぶんぶん 高塚いおり 高汐巴 剱持たまき 花山佳子 田中利花 安奈淳 大浦みずき/永嶋柊吾 樋口真
Choreographed(振付) by Jonathan Butterell / Gustavo Zajac 美術:スコット・パスク 照明:沢田祐二 衣裳:ヴィッキー・モーティマー ヘアメイク:鎌田直樹 音楽Superviser:樋口康雄 音楽監督:千葉一樹 Sound Design(音効): 山本浩一 舞台監督:北條孝/有馬則純 技術監督:小川亘
tpt:http://www.tpt.co.jp