REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年11月06日

地人会『怒りをこめてふり返れ(原題:Look Back in Anger)』11/02-13日紀伊國屋ホール

 20世紀後半のイギリスの超有名な戯曲です。演劇史の教科書(のようなもの)には必ず出てきます。ジョン・オズボーン作。
 こちらに舞台写真があります(出演女優の岡寛恵さんのホームページ内)。

 1950年代のイギリスの大都会の片隅。貧しい若夫婦ジミイ(高橋和也)とアリソン(神野三鈴)は、小さな駄菓子屋をきりもりしながら生計を立てている。店を手伝っているクリフ(今井朋彦)と一緒に、屋根裏部屋の一室に3人暮らし。ジミイは大学を卒業しているが下層階級の出で、アリソンは上流階級のお嬢さんだった。
 舞台は3人が暮らす部屋。ジミイは比類ない皮肉屋で、休みの日には何かにつけて怒りをぶちまけながら連射銃のようにしゃべり続ける。アリソンはそんなジミイに妊娠したことを告げられないままでいた。ある日、アリソンの友人のヘレナ(岡寛恵)が訪れて・・・。

 PLAYNOTE.NETさん が書かれているように「ジミーの洪水のような台詞の量」、しかも罵声や皮肉ばかりなのには最初は閉口するしかありませんでした。
 第二次世界大戦が終わって明らかに世界は変化しました。「もはや死ぬべき大儀をもっていない」時代に生まれて、自分は何をすべきなのか。「ひとたびピカッ、ドーン!とくればおしまい」である世界で、何を信じて生きていけばいいのか。過去にとらわれない新しい何かが自分の中からどんどんと湧き出てくるのに、世間は旧態依然とした体勢のまま何も変わらないし、自分自身にも具体的な変化はない。それどころか理想とはかけ離れた生活を送っている。自分を取り巻く世界全てに対する怒りと自分自身に対する憤りが爆発して、ジミイのセリフと態度に現れます。

 そう、とにかくジミイは言い過ぎます。よくもこれだけ嫌みや悪口を考えられるよね!?って感心してあきれるほど。たぶんこの作品は、戯曲を読んでも私には良さがわからなかったんじゃないかな。ジミイの罵詈雑言にすっかり打ちのめされて、最後まで読まなかったかも。でも、途中休憩の後から最後までの展開がとても面白かったんです。意外や意外、これでもかこれでもかと、たたみかけるように4人の人間関係に変化が訪れます。パンフレットに書かれていましたが(演出の木村さんと大学教授等の対談)、この戯曲は良く出来たメロドラマなんですよね。この作品を劇場で観ることができて良かったです。

 また、一人一人の人間が本気でぶつかる対話芝居でもあり、ジミイ、アリソン、ヘレナ、クリフの4人が自分以外の全員と一対一で2人芝居のように語り合う作りになっているのです。それは言葉を用いた命がけの戦いだとも言えます。役者さんの演技バトルとしても見ごたえがあり、実際のところ内容がすごく濃いので観ていてしんどかったです。休憩15分を挟んで3時間あったのですが4時間ぐらいに感じました。

 ここからネタバレします。

 上流社会で裕福な両親に守られて育ってきたアリソンは、ジミイと出会った頃は「のびのびしていた」けれど今は全くのびのびしていません。貧しい生活で疲弊していくアリソンを見るにつけ、ジミイは「お前(アリソン)がどんどん平凡になっていくのがいやだった」のです。上流階級への憧れと嫉妬はそのままアリソンへの愛と憎悪となり、ありのままの気持ち以上にぶつかってくるジミイに対して、アリソンはいつも黙って我慢しています。そしてジミイはその沈黙に対しても激怒します。ジミイはアリソンと本音で付き合いたかっただけなんじゃないかな。衝突は避けられないし傷みも伴いますが、何事にも事なきを得ようとする生き方は、昔も今も非難されるべきだと私も思います。

 アリソンの女友達のヘレナがやって来て、しばらく4人で同居している間に、ヘレナは必死にアリソンを実家へ帰るように説得します。妊娠していることも打ち明けられないぐらい、ジミイのアリソンに対する態度はひどすぎましたから。これには観ている方も納得です。「ヘレナ、がんばれ!ジミイなんて一人ぼっちにしちゃえ!」ってなもんです。ヘレナはアリソンの父親に勝手に電報まで打ってくれたので、アリソンは父親に迎えに来てもらって無事に実家に帰ることが出来ました。するとヘレナはそのままジミイの部屋に残り、なんと彼にキスをするんです!!えええええっっ!?アリソンに優しくしているようでいて、実は男を奪うためだったの!?・・・これには度肝抜かれました(笑)。「バカバカバカ!ジミイなんて、突然死ぬとかして居なくなっちゃってよっ!」って言いたくなるぐらいイヤな奴なんですよ、ホント。でも・・・自分の感情をさらけ出す男って、すっごく可愛いんですよね・・・。好きになる気持ちは私にもわかりました(だから女は不幸せになるのですが・・・笑)。

 出て行って数ヵ月後にアリソンは流産してしまい、突然ジミイとヘレナのいる部屋に帰ってきます。ヘレナは自分が犯した罪(アリソンを騙すようにしてジミイと離れさせて、自分がジミイを奪ったこと)に気づいて、ジミイを愛しているけれども、その場を去ることを決意します。これはまだ道徳に力があった時代だからだよなぁと思いました。今の日本で「誰かを不幸にして、その代わりに自分が幸せになんてなれない」と思い直し、潔く身を引く女の子なんているかしら?それよりも「やっぱ正妻がいて面倒だわ。こんなやっかいな恋とはおさらばよ」っていうのが今どきの日本の女の子のような気がします。もちろんヘレナは正しい選択をしたと思いますよ。誰かをわざと不幸せにして、自分がその後釜に座っても、本当の幸せは得られないと私は信じます。

 役者さんは皆さんすごくセリフが多くて、観てる方が同情しちゃうほどでした。同情なんて不要なのはわかっているのですが、そう思ってきちゃうほどの量なんです。特にジミイ役の高橋和也さんはすごかった。高橋さん(ジミイ)、神野さん(アリソン)、今井さん(クリフ)については納得のいく演技でしたが、ヘレナ役の岡寛恵さんについては浅い感じがしましたね。まずヘレナがジミイに惚れているように見えません。また、アリソンが再び登場した時のヘレナの心変わりについても、軽すぎるんじゃないかと思います。もっと決死の覚悟をしてると思うんですよ、ヘレナなりに。ただの恋愛の心変わりじゃなくて、彼女の生き様に関わることだと思うので。
 それはそうと、役者さんの演技があるレベルをしっかりと超えていたこともあって、この作品が言わんとするところは感じることが出来ました。計算された展開と事細かく全部説明してくれるセリフのおかげだと思います。まず戯曲ありきの作品ですね。

原題: "LOOK BACK IN ANGER" by John James Osborne
【キャスト】ジミイ:高橋和也 アリソン (ジミイの妻):神野三鈴  クリフ (ジミイの友人):今井朋彦  ヘレナ (アリソンの友人):岡寛恵  レッドファン大佐 (アリソンの父):有川博
【スタッフ】作:ジョン・オズボーン  訳・演出:木村光一  装置:島次郎  照明:沢田祐二  楽曲提供:小曽根真  衣裳:渡辺園子  効果:斉藤美佐男  演出助手:山下悟  舞台監督:佐藤忠雄  制作担当:友谷達之  制作総務:渡辺江美
地人会HP内公式サイト:http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~CJK/ftr_96.htm

Posted by shinobu at 17:07 | TrackBack

チェルフィッチュ『労苦の終わり」』11/03-07横浜STスポット

 今どきの若者の言葉づかいと身体表現をもちいた演劇およびパフォーマンスを作るチェルフィッチュは、岡田利規さんの一人ユニットです。私はもうクセになっているというか、絶対に見逃せないです。

 作品の作り(種類)としては『三月の5日間』と同じ感じでした。何もない舞台に役者がトボトボと現れ、「今から『労苦の終わり』っていうのをやりまぁす」と言って、演技じゃないような演技が始まり、若者言葉で話し続けます。「てゆーかぁ」「なんか~~~でぇ」「私~~なんですけどっていう感じで」「~~とか思ったりしちゃうんですけどって感じで」・・・というような言葉回しで、次々としゃべりたくります。本当に膨大なセリフ量です。

 今回の主題は「結婚というか、夫婦というか。」でした。20代後半から30代前半の男女のお話ですね。これまた『三月の5日間』と同様に、泣いちゃったな~・・・・上滑りしていくような非常に他人行儀な言葉の洪水の中に、本当の感情がふんわりと点っているのが見えてくるんです。悲しい気持ちと嬉しい気持ちが、すっごく遠慮がちに私の方にその手を伸ばしてくるんです。今の日本人の若者って、自分が傷つきたくないという恐れを持っていながら、すごく他人のことを気遣っているんじゃないかな。そういう奥ゆかしさを持ってコミュニケーションしてるのかも、と思いました。休憩時間にすごく優しい気持ちになっている自分に気づきました。
 
 ここからネタバレします。

 A君はBさんと結婚しようと決心した。実はA君には二股をかけているCさんがいたが、ちょっとした言い争いの末、ちゃんと別れた。A君はBさんにプロポーズした。Bさんは喜んだ。A君も嬉しかった。Bさんは家に帰り、ルームシェアしている先輩のDさんに事の次第を打ち明ける。実はDさんは過去に結婚したことがあり(今も結婚はしていて別居中)、旦那のE君とのケンカの顛末を一晩中Bさんに話し込む。次の日、徹夜明けでBさんはA君との待ち合わせ場所に向かう。二人の新居を探すために不動産屋めぐりをすることになっていたのだ。A君と会ったBさんは「結婚について不安になってしまった」と打ち明ける・・・。(登場人物の名前を忘れたのでアルファベットで表記しました)

 私が泣いちゃったのはプロポーズのところと、結婚式のスピーチを数人が繰り返し話すところです。
 A君(江口正登)のプロポーズって本当にダサイんですよ、あんな風に言われたらマジで引くよね!?って思います(笑)。でも、A君がのろのろとそれなりに頑張って気持ちを説明し、同じような動作と言葉を何度も繰り返すのを眺めていると、あぁこのコは本気なんだなってわかってきて、そしてその気持ちだけがリアルに浮き出てくるんです。
 一人の人物をかわるがわる別の役者が演じるのも、単に演出として面白いと感じる他に、先に述べたような「気持ち(感情)」が表層に現れる効果があると思います。また、一人の役者が最初はBさんを演じていたのに、いつの間にいかDさんになっていたりするのも同じ意味で見所です。それにしてもチェルフィッチュに出演する役者さんって大変だよなと思います。

 結婚式のスピーチってあれですよ、どんな結婚式でも同じスピーチをするサラリーマンのオヤジの話。そのスピーチでオヤジは小話をするんですが、内容が「夫婦喧嘩は寝れば直る」っていうどうしようもなくオヤジネタ爆裂なオチなんです(苦笑)。それを登場人物たちが笑える(あきれる)話として話題に出すのですが、違う人物がそれぞれ全然関係ない場面で話し出します。「結婚」という男女の儀式を人類は少なく見積もっても1500年以上続けているわけで、その間に起こった「結婚」の数の分、人間はこのお話に出てくる若者のように悩み苦しみ、おずおずと自分達のささやかな幸せを生み出しているんだなぁと、しかもそれが同時多発的に今も起こっていると思うと、なんだかやるせなくて馬鹿馬鹿しくて、それでいてどうしようもなく可愛くて、今私が生きている世界を愛らしいなと思ったんです。人類の歴史というか、時間の悠久を感じたちゃったんです。
 それにしてもそのオチは間違ってますよね。里中満知子さんも漫画で「男って、こうだから(セックスすれば仲直りできると思ってるから)イヤ!!」って描かれてます(笑)。何もせず無視するよりはせめて「寝る」方がいいかとは思いますけどね。そうね、やっぱり無視が一番いけないよね。このお話では「ひょうひょうとする」という風に表現されていたと思いますが。
 
 Bさんが待ち合わせ場所まで行く途中の電車の中で爆睡して夢を見ているシーンを、同じ演技・演出方法で見せたのは面白かったですね。黄色い照明もバカっぽくてよかった(笑)。そう、今回は照明がすごく効果的できれいでした。

 上演時間が休憩(10分?)を挟んで2時間強っていうのは長く感じました。会場内でビールを売ったりして「気軽に眺めててください」っていう姿勢なんだと思ったので、退屈したりしんどくなった時は私は目をつぶって声だけ聞いたりしていました。やっぱり繰り返しが多いと感じると、それが私の頭の中でノイズになってしまうんです。だから受け入れ手段を耳だけに絞りました。耳をふさいでも良かったのにそれをしなかったということは、私は言葉を聴きたいと思っていたのでしょうね。

 ガーディアン・ガーデン公開2次審査会も合わせるとチェルフィッチュを観るのは4度目になりますので、お馴染みの役者さんも出てきました。なんかすごく好きになっちゃったなぁ・・・。特に『三月の5日間』でラブホテルに4泊5日したカップルを演じられていた山崎ルキノさんと山縣太一さんは、『WE LOVE DANCE FESTIVAL』でも空調バトルする男女役で出演されていて、私はすっかりファンになっています。今回もすごくいとおしい気持ちで見つめてしまいました。

 最後に出てきた別居している男(E君)役のトチアキタイヨウさんだけ、完全に毛並みが違いましたね。なんか年相応の人が出てきちゃったというか、生っぽかった。岡田さんは意図的にそう作られたそうですが、私はちょっと怖かったな。役者さんの個人的な主張を感じて、お説教をされているような気にもなりました。
 観客が生きている現実は演劇の中で示される現実と同じように厳しいでしょうし、もしかするとそれよりもつらいものであることが多いんじゃないかと思うんです。だから、嘘やファンタジーの中から知らない内に観客の心の中の現実に触れることの方が、実は現実というものを感じさせるのに近い方法なのではないかと思います。世界にはさまざまな表現方法がありますが、私はわざわざオブラートに包んだくれたり、包装紙に包んでリボンをかけて、メッセージも添えてある丁重なプレゼントとして受け取るのが好きなのでしょう。その方が伝わる速度が早いですしね。

 演劇の観客だけでなく、ダンス・パフォーマンスの観客もチェルフィッチュを観に来ています。演劇であると同時にダンス・パフォーマンスでもあるのは、チェルフィッチュのオリジナリティだと思います。

STスポット演劇フェスティバル スパーキング21参加作品
作+演出=岡田利規
出演=江口正登/東宮南北/三木佳世子/山崎ルキノ/山縣太一/松村翔子/トチアキタイヨウ
チェルフィッチュ:http://homepage2.nifty.com/chelfitsch/
スパーキング21:http://www.jade.dti.ne.jp/~stspot/stage/index.html#spa

Posted by shinobu at 12:17 | TrackBack