2004年11月12日
第11回BeSeTo演劇祭・Ort-d.d『こゝろ』11/10-11学習院女子大学 やわらぎホール
第11回BeSeTo演劇祭東京開催参加作品です。夏目漱石の名作『こゝろ』の中の『先生と遺書』の部分を1時間強に凝縮した珠玉の一品でした。
★このフェスティバルで上演される作品はなんとチケット代が1000円均一!こんなオトクなことってあっていいのか!?(無料公演もあります)。私は11月の予定はもう埋まってしまっているので残念ながら全く観に行けないのですが(涙)、是非フェスティバル公式サイトで団体紹介をチェックしてみて下さい。すっごく豪華なラインナップですから!
舞台はおよそ100年前の東京。2人の男子学生と彼らが住む下宿の大家の姉妹(原作では姉妹ではなく未亡人とその一人娘)のお話です(原作の該当部分はこちら)。男2人女2人の4人芝居で、とてもセクシーな組み合わせでした。
『こゝろ』というと、ちょうどこの第3章『先生と遺書』を高校の国語の授業で習いました。「面白いな~、っていうかこんな色恋沙汰(しかも自殺もの)を学校で勉強してもいいのか?」ぐらいに思っていた当時の私は、読み物として楽しんだだけで特に何も思い入れはありませんでした。でも今日は・・・泣きじゃくってしまいました。若者の高い志や全身全霊をかけた恋、その全てに覆いかぶさってくる嫉妬心が、まるで手で触れられるかのように重々しく、はっきりと立ち表れました。ワタシ(岡田宗介)の愚かしい嫉妬とそれゆえの復讐、K(三村聡)の孤独と深い悲しみが痛いほど伝わってきて・・・あぁ今書いてても涙ぐんでしまう~っ。
Ort-d.dが追求する“ささやきの演劇-震えるような緊張感が場を支配し、時にささやくように、時に詠うように、時に圧倒的に語る-”という手法については、最初はその形式ばった話法や動作に戸惑うかもしれません。でも、可笑しいと思ったら笑えば良いし、怖いと思ったらびくびくすれば良いのだと思います。自分が感じたままに体も心もまかせてしまえば、自然と恋に共鳴したり、悲しさに胸が傷んだり、舞台上に表出する心と自分の心が響きあえるようになります。
K(三村聡)が妹(市川梢)と恋に落ちた瞬間の顔は、本当に恋をしていました。それを覗き見るワタシ(岡田宗介)のとぼけたポーズの中には恐怖心(妹を取られると恐れる気持ち)が表れていました。
Kとワタシが妹を追いかけるように彼女の後ろを走り、3人で舞台上をぐるぐる駆け回るのを見ているだけで、胸がきゅんとなります。若い、狂おしい恋!でも、Kの自殺という残酷な結末が来るとがわかっているだけに、次には胸が苦しくなって涙が溢れてくるのです。あぁ悲しいよ、悲しすぎるよ。
『精神的に向上心がないものは馬鹿だ』という名台詞の名台詞たる所以もしっかり体感できました。
「未亡人と御嬢様」を互いに恨みを持った「姉と妹」にしたのは成功だったと思います。男VS女という側面も見えるようになりましたし、妹(市川梢)と亡き父親との近親相姦、姉(三橋麻子)とワタシの肉体関係という家族の闇の部分が盛り込まれて、作品の奥行きがさらに深まりました。もともと『こゝろ』はキーパーソンでありヒロインでもある御嬢様(この作品では妹)の影が非常に薄いのです。初めて読んだ時にワタシとKが彼女にぞっこんになるのが納得いかなかったのを覚えています。
いつもどおり照明、美術、衣裳はシンプルながら完成度が非常に高く、心に残る瞬間をたくさん生み出してくれました。簾の奥に見えた赤いランプが色っぽかったです。暗転のタイミングも長さもばっちり。暗転中、静寂の中で必死に嗚咽するのを押さえました。不思議なくらいに泣けちゃったんですよね・・・。たぶん100年前の人と、高校時代の私と、目の前にいる人および物(舞台全部)と、今の私が、感情というプラットフォームでつながったのではないでしょうか。
会場の学習院女子大学はきれいな学校でした。やわらぎホールはすごく新しいんでしょうね、新品の建物のにおいがしていました。あと、やっぱり女子の学校に入るのって特別な気がしちゃいます♪
ロビーに学生が作ったOrt-d.dについてのレポートが展示されていたのですが、手書きだったのに驚愕。おおむね好評の様子でしたが、私にはちょっと・・・小学生じゃあるまいしワープロ打ちぐらいしようよ(汗)、と思いました。キャスト紹介もあったのですが、男優さんだけに動物占いの動物(岡田さんはコアラ、三村さんはトラ)が書いてあったのは微笑ましいですね(笑)。
★帰り道で気づいたこと
終演後、劇場ロビーを出るとまだ雨が降っていました。赤い傘を差した女学生達が「ありがとうございましたー」と言ってくれました。開演前に校門の前にいた彼女達はお世辞にも礼儀正しいとは言えない若者だったので、あまり気に留めないようにしていたのですが、悲しい恋物語を観てボロボロ泣いた後の私はかなり優しい気持ちになっていて(単純で勝手ですみません)、劇中の“妹”と同じ世代であろう女の子達をちょっぴり愛おしく見つめながら帰途に着こうとしました。
でも、どうやってホールから校門に戻るのか、道が分からない。すると「赤い傘を目印にお帰りください」と言われたのです。校門までの道におよそ30m間隔で赤い傘がぽつりぽつりと見えます。「ナイスアイデア~♪女子大ならではのオトクなサービスだわ(笑)」と思いながら、私も傘を差して進んでいくと、赤い傘を差した女学生の前を通る度に「ありがとうございました」と挨拶してくれるので、私も「ありがとうございました」と返しながら歩いて校門までたどり着きました。
家に帰ってレビューを書きながら思い返したのですが、そういえば“妹”は赤い傘を差していたのです!そして登場も退場もホール後方のドア(入り口)からでした・・・。やっぱりあの場所で今の女学生と100年前の女学生が同時に生きていたんですよっ。なんてロマンティックで、なんて愛に溢れているんだ!あぁ、またヤラれたよ、Ort-d.d!!
原作:夏目漱石 構成・演出:倉迫康史
出演:市川梢 岡田宗介 三橋麻子 三村聡(山の手事情社)
照明/木藤歩 舞台監督/弘光哲也 美術・衣装/田丸暦
オルト・ディー・ディー:http://ort.m78.com/