2004年11月13日
少年社中『アサシンズ-THE VALLEY OF ASSASSINS』11/06-14中野ザ・ポケット
毛利亘宏さんが作・演出する少年社中は早稲田大学出身の劇団です。折込チラシがめちゃくちゃ厚くって、東京の小劇場界で有数の有名劇団であることがよくわかります。でも、もう「小劇場」と呼ぶ必要はないかもしれません。
メルマガ号外にあと一歩の傑作でした!
なんと明日が千秋楽、しかも14:30開演の回だけで終わりです。もっと早く観に行っていれば良かったな~っ。空席あるそうですので、ぜひぜひ観に行ってください!(当日券は13:30から劇場受付で発売開始)
おもちゃ会社に勤務しているOLのアサコ(大竹えり)は、同棲しているワタル(井俣太良)が1週間も家に帰ってこないので、大学時代の友人のユウイチ(森大)とヒロノブ(小林至)にワタルを探して欲しいと頼む。アサコの父親も数年前に行方不明になっており、アサコは自分が愛する人がまたいなくなってしまうという奇妙な偶然を不安に思っていた。
世間では無動機殺人症候群(ノンモチベーションキラーシンドローム)と呼ばれる殺人事件が相次いでおり、それには大流行しているボードゲームの「アサシンズゲーム」が関係しているとの噂が立っている。実はアサコこそがそのゲームの開発者なのだ。
一方、行方不明になったワタルは、なぜか砂漠の戦士のような格好で異世界にいた。そこで出会ったアジダハーカ(太古の竜)と名乗る老人(大佐藤崇)に「お前は楽園を追放されたのだ。戻りたければアサシン(暗殺者)になれ」と言われる。
少年社中はアクション中心芝居とストーリー重視芝居の2種類の作品を交互に上演していると聞きました。今回は後者の方です、そう、私好みの方(笑)。
テレビゲーム、大した動機もなく起こる殺人、テロリズム、家庭(夫婦)崩壊、そして中近東(の衣裳ビジュアル)等、まさに「今」のトピックをふんだんに取り上げながら、言葉と心、愛といった人間の普遍的なテーマを語ります。少年社中が得意とする複数の世界が交錯していく構成も、この作品では特に重要で巧みに作用していました。
『ハイレゾ』@青山円形劇場でもオープニングのあまりのカッコよさにしびれましたが、今回も然り。ゾゾって鳥肌立ちましたね。アクション・エンタメ系の劇団だと劇団☆新感線、少年社中、innocentsphereが確実に面白いオープニングを見せてくれると思います(他にもあるかなぁ?)。
音響・音楽ともに聞き応えがあるし、シーン毎に非常にこだわりの有る選曲だったと思います。一曲、すごく感動して私一人でノリノリになった音楽があったのですが(笑)、関係者に伺ったところ、POLICEの“マーダー・バイ・ナンバーズ”(アルバム"SYNCHRONICITY"に収録)でした。たしか殺人シーンの時にかかるんです。超クールですよ!終演後に気づいたのですが生演奏もされているようですよね。
衣裳はいつもながら凝っていて見ごたえがあります。特に今回は女の子が美しく、可愛らしく見えたのが嬉しかった。
役者さんについては、客演の方々がすごく自然なのに対して劇団員さん達がちょっと型にはまった演技をしてらした印象です。これは少年社中のオリジナルテイストなのかもしれませんけど。
大竹えりさん。アサコ役。これまで拝見してきた中で一番美しい大竹さんを観られました。演技も品があって女らしく、色気も感じらる素晴らしいヒロインでした。男勝りだったり、おばさんチックだったりするイメージが私の中で固まっていたのですが、それが一新されました。
井俣太良さん。アサコの彼氏ワタル役。素直な瞳が美しかったです。白いズボンがすっごくお似合いでカッコ良かった。
大佐藤崇さん(ロリータ男爵)。アジダハーカ老人役。超面白いってば、ほんと!大佐藤さんが出て来るたびに何か笑わせてくれるだとうと待っていました(笑)。
白坂英晃さん(はらぺこペンギン)。学生相手に大麻売買をしている大学教授のタジリ役。この方も自然な感じが面白かったです。
無料でいただけるパンフレットがすごく充実しています。すっごく大変だろうと思いますが、ぜひぜひ次もこのレベルのを頂けると嬉しいですね。
ここからネタバレします。
アジダハーカは「『ここが楽園だ』という奴がいるが、私は自分の楽園を作りたい」と言いました。まさに世界中で起こっている戦争の原因の一つですよね。
あいこにすると得点が入る嘘つきジャンケンゲームがしばしば出てきます。最初に自分が何を出すのかを互いに宣言してからジャンケンし、あいこになったら両方に得点が入るのです。ただし、宣言したのと違うのを出してもOK。その場合は宣言したとおりに出した方よりも、宣言と違うのを出した方に高い得点が入ります。つまり嘘をついた方が勝つゲームなのです。
携帯電話の普及やイラク戦争など、今、私達が経験している社会的な事象は、「嘘」がどんどん増幅してそれが「事実」に取って代わることを当たり前にしてきました。でもそれが生んだのは連鎖的に広がっていく不信、そしてそれによって生じる不安です。
ラストシーンでは、関係が壊れかけていたヒロノブとミユキ(加藤妙子)の夫婦が、この嘘つきジャンケンゲームをします。2人とも「グーを出す」と言い合って、そのまま2人ともがグーを出してあいこになるのに感動。欲を持たず、言葉のとおりに行動すればそこに信頼関係が生まれ、その場所こそが楽園になるのですね。
「人間に最低限必要なものは衣・食・住と、郷愁だ」というのは名言だと思いました。郷愁はここでは楽園を意味します。
作・演出 毛利亘宏
CAST 井俣太良 加藤妙子 大竹えり 田辺幸太郎 堀池直毅 廿浦裕介 森大 加藤良子 長谷川太郎 佐野素直 杉山未央 + 他
GUEST 大佐藤崇(ロリータ男爵) 白坂英晃(はらぺこペンギン) 小林至(双数姉妹)
照明:斉藤真一郎(A.P.S.) 音楽・音響:YODA Kenichi 衣装:村瀬夏夜 舞台監督:杣谷昌洋・棚瀬巧 舞台美術:松本翠・毛利亘宏・廿浦裕介 演出助手:岸京子 音響・PA:佐藤春平(Sound Cube) ヘアメイク:沖島美雪 振付:右近貴子 スチール:金丸圭 ビデオ撮影:Y.P.K. 宣伝美術:武田和香・真野明日人 WEB:田中ユウコ 企画:佐藤春平 脚本協力:渡辺良介 制作助手:亀山紗来 制作:吉野礼・加藤良子 製作:少年社中the entertainment prison 協力:東京都文化活動への都施設の開放事業
『アサシンズ』公式サイト:http://www.shachu.com/assassins/
少年社中:http://www.shachu.com/
パルコ・プロデュース『ピローマン(原題:THE PILLOWMAN)』11/06-11/23パルコ劇場
阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史さんが演出するマーティン・マクドナーの2003年度ローレンス・オリヴィエ賞新作最優秀賞受賞作品です。
劇場に着いて上演時間を知ってビックリ。1幕120分、休憩15分、2幕75分という長丁場です。観劇後の予定をキャンセルしました(涙)。
・・・観た後にいろいろ考えるところのある複雑な戯曲でした。こういう作品が賞を取るイギリスってやっぱりすごいなと思います。
※ものすごく長いレビューになってしまいました。ネタバレ表示もしていますので、そこまでお読みいただけたらと思います。
子供の虐待がテーマです。それだけでも観ているのがつらいのですが、達者な役者さんの演技と、子供のためのおとぎ話のように語る軽やかな演出によって、残酷で悲しすぎるストーリーの中から石ころのようにちっぽけな、でも確かに形のある愛がこぼれ落ちてきました。
【あらすじ1】
自称作家のカトゥリアンは突然警察に拘束された。なんと自分が書いた物語の通りに子供が惨殺されたという。身に覚えのないカトゥリアンは2人の刑事(トゥポルスキ:近藤芳正と、アリエル:中山祐一朗)に必死で身の潔白を表明しようとするが、一緒につかまっていた知的障害のある兄ミハイルが、あっさりと全ての罪を自白したというのだ。
暗くて汚い尋問室のシーンから始まります。これから解けていく謎のネタふり段階であり、空気も停滞気味だったので退屈しました。先が長いというのもちょっとブルーな気持ちになる原因でしたね(笑)。初日だったので役者さんの演技がちょっと固かったのもあるかもしれません。
ここからネタバレします。推理劇でもあるので何を書いてもネタバレになるのよね。
【あらすじ2】
この兄弟の家庭環境は普通ではなかった。両親は、2人の息子のうち兄のミハイルを虐待し、弟のカトゥリアンを溺愛するという実験的な子育てをしたのである。自分に兄がいることを知らないまま、何不自由なく愛されて育ったカトゥリアンは、のびのびとその才能を発揮し、幼くして小説を書くような優秀な子供に育った。しかし、隣りの部屋で両親がミハイルを肉体的に虐待する音(鞭で叩く音など)を毎日聞いていたために、彼が書く物語は暗くて残酷なものばかりになっていった。
14歳の時、カトゥリアンは初めて兄の存在に気づき、しかも両親に虐待されていたことがわかると、彼は両親を殺して兄を助け出した。その時すでに兄(ミハイル)は知的障害を持つ人間になっていたのだ。
カトゥリアンの書く物語は子供が虐待されるものばかりです。いくつか劇中劇と朗読で紹介されるのですが、それがほんとに怖い(苦笑)。子供の脚の指をナイフでガスッと切り取っちゃったりとか、剃刀入りのリンゴを食べさせちゃったりとか、タイトルの『ピローマン』もカトゥリアンの作品で(あらすじはこちら)、これもまた子供に自殺を促すという暗いお話です。
ミハイルがカトゥリアンの物語(『川のある町の物語』『(忘れちゃった。剃刀入りリンゴのお話。)』『小さなキリスト』)になぞらえて3人の子供を殺したことがはっきりした所から、断然に面白くなってきました。子供のように無垢に見えるミハイルが、自分が実際にやった殺人の方法をサクサクと説明するのには奇妙な凄みがありました。
殺人罪に問われて刑事に射殺されるよりは、寝ている間に死んでしまう方がミハイルにとって幸せだろうと思い、カトゥリアンは両親を殺した時と同様に、枕(ピロー)をミハイルの顔に押し付けて殺してしまいます。ここまでで第1幕なんですよね・・・・濃い!
第2幕は『小さなキリスト』の劇中劇から始まります。カトゥリアンが書いた残酷な物語の中でも群を抜いて陰湿なので、子役が虐待されるのがつらいのなんの。でもアメリカのB級スプラッター・ホラー・アニメみたいな演出なので、ちょっと笑えちゃうところもアリ。
カトゥリアンは刑事の望みどおりに、兄ミハイルと一緒に自分も3人の子供の殺害に関わったと嘘の供述をします。その見返りに、自分を処刑しても作品だけは焼かずに50年保管してほしいと懇願するのです。ここからは刑事2人の人物像が明らかにされていきます。頭が弱くてすぐに暴力を振るう刑事アリエルが、実は少年時代に父親から性的虐待を受け、その父親を自分で殺したという悲惨な経験の持ち主であり、子供を虐待死させたカトゥリアンを許せないのだということがわかります。
『ピローマン』は、不幸な大人を子供時代に戻して子供のうちに自殺をさせるという、ぶっちゃけ超後ろ向きな話です。でも刑事のトゥポルスキが「お前の書いた作品の中で『ピローマン』だけには思うところがある」と言います。というのも、彼の息子は幼い頃に溺死していました。「息子は将来不幸な大人になる運命だったのだ。だからピローマンが息子が不幸を体験する前に来て、助けてくれたのだ。そして息子が死ぬ瞬間も、そのフカフカの体で息子のそばにいてくれたのかもしれない」と解釈できるんですね。『ピローマン』は不幸な大人を助けるだけでなく、幼い子供を亡くした親を助けるヒーローでもあったのです。これにはヤラれました。涙出そうになった。
一人の人間が死ぬことで残すメッセージは、とてつもなく重大なのだと思います。死んだと思われていた少女が緑色のペンキでべったべたに全身を塗られた姿で出てきたことで、ミハイルは「弟が書いた『小さな緑の豚』というお話が大好きだった」という遺言を残したのです。『ハンブルボーイ』(レビューはまだアップしていません)では「俺は妻を愛していた」ですし、竹宮恵子の漫画『オルフェの遺言』では「オルフェは青が好きだった」です(古いネタですみません)。
カトゥリアンが唯一自伝的な作品として書いた『作家とその兄弟』では、虐待されていた兄が作家の弟には決して書けなかった世にも美しい小説を書き上げて、ミイラになって死んでいたという結末になっています。カトゥリアンが「この作品のタイトルは、兄が『作家』で弟が『兄弟』なのだ」と言うのも、死んだ時に残したものこそがその人物を表すものであることを明言しています。
人間は「生まれて、生んで、死ぬ」という極単純なことを繰り返している存在です。全宇宙の中で一瞬のまたたきのようなこの生涯の、最期に残すものこそが人間のアイデンティティーなのではないでしょうか。NHK大河ドラマ『新撰組!』でもさまざまな死が描かれています。私たちは改めてそれに気づき始めているのかもしれません。
結局カトゥリアンはトゥポルスキにピストルで頭を打たれてあっけなく処刑されます。しかも「黒いマスクを被ってから10秒後に引き金を引く」と約束したのに約3秒早めに打たれてしまいました。アリエルは、カトゥリアンが子供虐待殺人の犯人でなかったことが判明してからは、カトゥリアンに対する敵意が消えて同情の心さえ持ち始めていましたので、トゥポルスキの冷酷な仕打ちに腹を立てました。本当に“泣きっ面に蜂”的な最期ですよね。でもこれが思わぬ救いに転じるのです。
打たれるまでの約7秒間にもカトゥリアンは物語を頭の中でつむぎ出していました。それは『ピローマン』の番外編。両親に虐待される前のミハイルのところにピローマンがやって来るのです。でもミハイル少年は「自分が虐待される物音を聞けなければ、弟は物語を書けないよね。だからこのままでいいよ。僕はきっと弟の物語を好きだと思うから」とピローマンの死への誘いを断るのです。カトゥリアンが最期にミハイルのことをこんなに良い風に想像できたのは、ミハイルの遺言(『小さな緑の豚』が好きだったこと)が影響しています。ミハイルが残したたった一つの気持ち、兄カトゥリアンに対する愛が、カトゥリアンの最期を暖かいものにしたのです。
そして、本当に起こってしまったミハイルの悲惨な人生(子供を惨殺し、弟に殺されること)が物語のラストシーンになることを、3秒早く打ち込まれた弾丸が止めてくれました。さらにトゥポルスキに反発しカトゥリアンに同情したアリエルが、彼の作品を燃やさずに残すという奇跡が生まれます。
「終わりよければ全てよし」という言葉は、普段は投げやりな意味で使われることが多い気がしますが、本当はこういう意味なのかもしれないと思いました。また、「マイナスとマイナスが重なるとプラスになる感覚」というのは際どい殺人ものなどのキレてる作品(演劇に限らず)でよく言われる表現ですが、この戯曲もそれに当てはまると思います。マイナスが倍以上重なりますけど(笑)。
美術(島次郎)は回り舞台で、尋問室、森の中の子供部屋および虐待部屋、物語『小さなキリスト』の世界などがクルクルと巡って、人間の頭の中を表しているようでした。“表裏一体”、“一寸先は闇”のイメージもあり。『小さなキリスト』のどきつい色使いの三角の空間は面白かったです。
オープニングとエンディングにピローマンのアニメが上映されます。ピンクでふわふわの丸いキャラクターがはっきりと具体的に示されたのがとても良かったと思います。
パンフレットに戯曲中の物語(3篇のみ)が短編絵本集のように掲載されているのには感動です。
※マーティン・マクドナーの処女作「ビューティークィーン・オブ・リーナン The Beauty Queen of Leenane」がシアターX(カイ)でもうすぐ上演されます(11/16-22)。日本初演ですね。
※こちらのレビューもどうぞ
踊る芝居好きのダメ人間日記
藤田一樹の観劇レポート
※こちらでまとめられていますね。すごいレビューの数!
Report & Review「ピローマン」
(東京公演→名古屋、大阪、福岡、広島、水戸)
作:マーティン・マクドナー(Martin McDonagh) 訳:目黒条 演出:長塚圭史
出演:高橋克実 山崎一 近藤芳正 中山祐一朗 宮下今日子 岩田純 福地亜紗美/岩井優季(ダブルキャスト)
美術:島次郎 照明:佐藤啓 音響:加藤温 衣裳:藤井享子 ヘアメイク:高橋功亘 演出助手:山田美紀 舞台監督:菅野将機 企画・製作:(株)パルコ
パルコ劇場HP内公式サイト:http://www.parco-city.co.jp/play/pillowman/
ぴあのインタビュー:http://t.pia.co.jp/play-p/pillowman/pillowman.html