REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年12月11日

パルコ劇場『ラヴ・レターズ 北村有起哉&田中美里』12/01-06パルコ劇場

 男女2人だけの朗読劇『ラヴ・レターズ LOVE LETTERS 2004 CHRISTMAS SPECIAL』。もう14年目なんですね。私が今回拝見したのは北村有起哉(きたむら・ゆきや)さんと田中美里さんの新カップルです。

 『ラヴ・レターズ』の内容は、1930年代のアメリカの裕福な家庭に生まれたアンディー(男)とメリッサ(女)の、数十年に渡る往復書簡です。物心ついたばかりの子供の頃から思春期を経て50代に至るまでの、ある男と女の全人生を、朗読する俳優と一緒に体験していくような、味わい深い、静かな2時間です。

 この企画はカップルによって差が歴然なんですよね。私はこれで5度目になるんですが、今までのベストカップルは佐々木蔵之介さん&中嶋朋子さん。「も~・・・こんなに泣いちゃったら明日の朝、目が腫れて大変さぁっ!」っていうぐらい泣きました(笑)。
 さて今回は・・・北村有起哉さんのアンディーは、超エリートなのにちょっと抜けてる三枚目なところがあるのがキュートでした。田中美里さんのメリッサは、真面目な女の子がときどき気まぐれを起こして不良っぽくなる、という感じ。中嶋さんのとは正反対だなぁ(笑)。

 とにかく北村有起哉さんがめっちゃくちゃ素敵で、それだけでまず感激でした♪こんなに優しい人が存在するなんて!しかも演劇をやっているなんて!同じ時代に生きていて、私の目の前に居るなんて!!あの天使のような微笑みを観るにつけ、生きてて良かったと思えました(笑)。
 私が初めて北村さんを拝見したのは新国立劇場演劇『かもめ』(マキノノゾミ演出)のトレープレフ役でした。その後、『アダムとイブ』『幽霊はここにいる』『蜘蛛女のキス』『オイル』『ウィー・トーマス』『おはつ』『ハルシオン・デイズ』『ハロー・アンド・グッドバイ』『リンダ リンダ』、そして『ラヴ・レターズ』と、観る度に輝きが増しているように感じます。

 北村さんは台本のページをめくる時に「次のページは何が書いてあるのかな?どきどきワクワク!」という表情と動作をされるんです。あれは演技なのかしら?そういうライヴ感覚って朗読劇にはすごく大切なんですよね。覚えているセリフを発しているように聞こえてしまうと、つまらないんです。あくまでも本読みをしている状態であることが朗読劇の醍醐味です。

 ここからネタバレします(すっごく細かいつっこみになります。引用するセリフは正確ではありません)。

 海軍に入ったアンディーに対してメリッサが言う「芸者ガールと恋に落ちたんですって?」というセリフで会場に笑いが起きたのは意外でした。北村さんの愛くるしいコメディセンスのなせる業ですね。
 第1幕でアンディーが「失楽園」を引用するところで、私は早くも泣いてしまいました。アンディーがメリッサのことをどれだけ純粋に愛していたかが鮮やかに、生き生きと伝わってきたんです。2人の悲しい行く末を知る観客は、そりゃー切ないですよ。メリッサが、その愛がどれだけ貴重な宝物なのかに全く気づくことなく、悪びれたまま通り過ぎていくのも悲しい。

 北村さんは、第2幕に入ってアンディーが海軍を辞めて母国に戻ってきた頃から、すっかり落ち着いた大人の男の声色に変えていました(衣裳にもネクタイをプラスされましたよね?)が、田中美里さんは変わらずでした。『かもめ』『浪人街』『ハレルヤ』と田中さんの演技を観てきたので予想の範囲内ではありましたけど、ちょっと差がついちゃいましたね。
 「2人が初めて結ばれた一夜」を感じさせる充分な間(ま)を空けずに、次のセリフをあわてて言ってしまったのは非常に残念。
 田中さんが一番美しかったのは、夫と離婚してしまった直後の手紙のやり取りのシーン。アンディーは日本人女性と別れ、ハーバード大学に入っていました。メリッサはアンディーへの恋心を思い出して久しぶりにときめきを覚えます。しかし、アンディーからの返事は「ぜひ紹介したい人がいる。とっても素敵なジェーンという女性と付き合っているんだ」。・・・玉砕ですよ、玉砕!その時の、ときめきから失恋へと心が傾いていくプロセスがすごくリアルで、胸がきゅーんとなりました。田中さんは一途で真面目でか弱い印象で、とても美人ですからね。そういう人が不幸になるのってやっぱり胸を打ちます。あと、お召しだった衣裳、すごくかっこよかったです。約10年前のヨージ・ヤマモトの和のコレクションを思い出しました。
 『冬のソナタ』のユジン(田中さんが吹き替えを担当しています)がずっとしゃべってるように聞こえたという人がいました(笑)。私は『冬ソナ』にハマっていなかったので、そういう意味ではプレーンに聞けました。

 メリッサの死後のアンディーの最後の手紙では、会場中で鼻をすする音が聞こえていました。私も少しは泣けたかな。これは戯曲がすばらしいからだけではなく、このカップルの間に愛が見えていたからだと思います。全然泣けないカップルもあるので(苦笑)。

作者 A.R.ガーニー 訳・演出家:青井陽治
12/06(月) 出演:北村有起哉&田中美里
ラヴ・レターズ:http://www.parco-play.com/web/play/loveletters/
パルコ劇場:http://www.parco-play.com/web/page/

Posted by shinobu at 19:23 | TrackBack

オン・タイム『エリザベス・レックス-ELIZABETH REX』12/04-12ル テアトル銀座

 麻実れいさんがエリザベス一世役でシェイクスピアとの対決を描く作品だと聞き、すごく観たくなりました。イープラスで安いチケットが出たので、すかさず購入。

 いやー・・・久しぶりにさっそうと途中休憩で帰りました(苦笑)。演出のマジックや俳優の熱意を楽しめないとわかってからはセリフ劇として楽しもうとがんばったのですが、睡魔に勝てず。

 衣裳は良かったんだと思います。たぶん。音楽も稲本響さんの作曲ですし、良かったんだと思います。きっと。でも、いかんせん心のこもっていないセリフの応酬には心が動かず。一体何を目指してたんだろうなー・・・。

 あらすじはこちらです。読んでみると、どうやら第2幕からいろいろな伏線が解かれていって、面白みが増すようですね。

 麻実れいさん。さすが、出てきただけで私は救われました。
 奥田瑛二さん。なぜあんなにたどたどしい、心の乗っていないセリフだったのでしょうか。そういう演出?
 小林十市さん。ジャンプとかはさすがにバレーをやっている人らしく、きれい。きっと容姿も美しい方なんでしょうね。残念ながら私が座った席からはそれを味わえず。
 松田洋治さん。手堅くてよかったです。
 大沢健さん、どこに出てたの?ファンなのに気づかなかった・・・。

Rex = 国王の意 (女王はRegina)
作 : ティモシー・フィンドリー 翻訳・演出 :青井陽治 作曲 : 稲本響
出演:麻実れい 奥田瑛二 小林十市 宮川浩 大沢健 松田洋治 新井康弘 森永明日夏 奥山隆 北川能功 樋口武彦 吉田裕貴  菊島剛 春田飛雄馬 行川麻紀子 松瀬樹里 草野速仁 林田和久 美苗 松野健一 中原早苗
美術 : 朝倉摂 衣裳 : 緒方規矩子 照明 : 沢田祐二 音響 : 高橋巖 ヘアメイク : 野村博史 舞台監督 : 北條孝 上田光成 プロデューサー : 初見正弘 制作協力 : カンパニー・ワン 企画・製作 : オン・タイム 主催 : 産経新聞社 オン・タイム 後援 : カナダ大使館 ニッポン放送 協力 : THEATRE1010 企画・製作:オン・タイム
オン・タイム:http://www.ontime.jp/index.html

Posted by shinobu at 16:43 | TrackBack

新国立劇場演劇『喪服の似合うエレクトラ』11/16-12/05新国立劇場中劇場

 文句なしに今年の目玉公演です。前売チケットは発売初日に完売だったとか。
 公演サイトでも謳っているように「新国立劇場が自信をもってお送りするキャスト・スタッフが揃ったこの秋最大の話題作」です。

 ギリシア神話をモチーフに書かれたユージン・オニールの戯曲です。あらすじはこちら。2000年に新国立劇場で上演された同じくユージン・オニール作の『夜への長い旅路』には非常に感動しました。海辺の家に朝日がさしてくるオープニングが忘れられません。

 今回は4時間にわたる大作(休憩2回を挟む)で、正直なところ、疲れました・・・。
 ギリシア神話を基に、人間の根源的な愛憎のドラマを描ききった脚本は、体にズシンと響いてくるような重厚感です。いやがおうにも舞台の上に立つ生身の役者に、高度な技術が要求されます。なのに、どうしても引き込まれなかったんですよね、演技に。なぜセリフを早口で一気に発し切ってしまうんだろう。力技でザーっと流してしまっているように感じました。もっとひとつずつを丁寧にじっくりやってもいいと思うんですが。いくら上演時間が長いとはいえ。
 マールイ劇場『かもめ』をNHK芸術劇場で見て以来、私は役者さんについて辛口になっているかもしれません。今回は日本の演劇界を代表する俳優ばかりだと言っても過言ではないキャスティングです。だからこそ、残念。

 時系列のとおりに進む物語で、第1幕、第2幕は特に期待したような面白みがなく、第3幕でやっとわくわくできたという状態でした。だから、全てが第3幕のための準備だったように思えてしまいました。第3幕がそれまでと比べてあまりに毛並みの違う演出だったせいもあります。どこかのブログで読んだのですが(忘れてしまいました。すみません)、初日はすごく良かったらしいですね。第3幕の大竹しのぶさんと堺雅人さんのコメディータッチな対話がなかったりして、全体を通して一つの印象があったようです。

 自分の家族が信じられないことって、もしかすると人間にとって究極の不幸なのかもしれません。常に目の前の人を疑っていなければならないなんて、生きた心地がしません。南北戦争時のお話なのでアメリカの国旗が何度も劇中に登場しますが、テロにおびえる現在のかの国のことを思い浮かべずにはいられません。

 母親の恋人を殺し、その母親をも自殺に追いやった長女(大竹しのぶ)とその弟(堺雅人)の前に、2人に心を寄せる善良な兄妹(中村啓士と西尾まり)が現れます。嘘を背負う者の弱さ、醜さは、善人の清らな瞳に映し出されてさらにみじめです。清らかな心にはかなわないですね。これこそ人間の強さだと思います。私も強くありたいです。

 装置は回り舞台で合計3つの空間に分かれています。マノン家の屋敷の玄関、父の部屋、そして寝室やリビング、船の甲板などに変化する広いめの空間が、回転して場面転換します。なぜか「どこかで見たことがある」という感触がずっとぬぐえない美術でした。オペラで観たのかな・・・。目新しさがないことだけでマイナスイメージを持つなんてこと、私は嫌なのですが、何かもっと奇抜さというか、個性があっても良かったのではないかと思います。ツルっとし過ぎていた印象です。
 顔がくりぬかれた肖像画が天上から無数に吊り下がってきたのは意味もあって良かったですね。

 ラストに新国立劇場・中劇場の最大の個性である、あの巨大な奥行きを利用して、マノン屋敷が舞台奥へとずんずん沈むように遠ざかっていくのは、もの凄い見せ場です。でも、劇場の機能を見せびらかしているように感じて興ざめしてしまいました。ちょっと笑えてきちゃったんですよね、ラストなのに。屋敷が一番奥に到着するまでずっと照明が明るく照らし続けましたが、途中で徐々に暗転して暗闇の中に静かに消え失せさせてしまった方が良かったのではないでしょうか。明かりの色が変化していったのには気づきましたし、きれいだとも思いましたが、やっぱり「やりすぎ」感がぬぐえませんでした。
 カーテンコールで、遠くにそびえる屋敷からマノン家の面々およびその他の人物全員が、しっかり歩きながら舞台前面にやってきたのは荘厳でした。

 大竹しのぶさん。姉役(主役)。1幕と2幕はずっと同じようなテンションで味気なかったです。3幕は弟役の堺さんとのやりとりが楽しかった。
 堺雅人さん。弟役。細かいこだわりが感じられる演技でした。熱さもあって、遊び心もあって、私はかなり好きです。堺さんが出てくるのを楽しみに待っていました。
 津嘉山正種さん。父親役。不器用さと悲しみが伝わってきました。リアルでした。
 三田和代さん(母親役)と吉田鋼太郎さん(母親の愛人役)は、お二人とも早口で、なんだか空回りしていた印象。サラっと通り過ごしてしまう存在でした。残念。

作 :ユージン・オニール 翻訳 :沼澤洽治 演出 :栗山民也
出演:大竹しのぶ 堺雅人 吉田鋼太郎 津嘉山正種 三田和代 西尾まり 中村啓士 丸林昭夫 池田直樹
美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 ヘアメイク:林裕子 演出助手 :豊田めぐみ 舞台監督:三上司
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s237/s237.html

Posted by shinobu at 11:45 | TrackBack

竹中直人の匙かげん『唐辛子なあいつはダンプカー!』12/10-29本多劇場

 「竹中直人の会」あらため「竹中直人の匙(さじ)かげん」ということで、岩松了さんの作・演出ではなく、今回はケラリーノ・サンドロヴィッチさん、松尾スズキさん、宮沢章夫さんが脚本を執筆し、竹中直人さんご自身が演出する企画になったようです。宮沢さんが構成にも参加しています。

 一応、時空を超えて兄(竹中直人)が妹(木村佳乃)を探しているという設定がありましたが、別にそれを大切にしているわけではなかったです。この作品はジャンルで言うと何になるのかなー・・・コント集、と見せかけた、歌と踊りのレビュー、かな。

 まあ、ある程度は予想がついていたのですが、それを上回る匙の投げ具合と申しましょうか、投げっぱなしで振り返らないと申しょうか、投げて、ほったらかして、さらにまた投げると申しましょうか。
 2時間ありましたが、1時間弱は寝てたと思います。何をやってもやらなくても、突然踊って歌うんです。最後は出演者さえもどぎまぎするぐらい突然のエンディングでしたね。おやおや。

 誰もが面白い、楽しいと思えるヤワなものが世の中に溢れていて、そうでないものは「つまらない」「価値がない」とされることは、芸術にとって不幸なことだと思います。でも、誰もが面白いと思えるわけではなく、楽しめるわけでもないなら、それ以外の何か、アイデンティティーと呼べるような、どっしりとした存在感のようなものを感じられなければいけないと思います。そういう視点から見ても、この作品は面白くなかったですね。
 私は佐藤康恵さんの長くて細い手足と胸の谷間、そしてその上に高くそびえる首と小さなお顔を見られただけでヨシとするのかも(笑)。

 女性は3人出演されていますが、皆さんすごく肌を露出されていました。佐藤康恵さんなんてキャットウーマンもどきのSMプレイの女王様だし。ラスベガスのショウガールみたいな超ミニドレスとかさー・・・もースタイル良すぎるんだってば!大好きっ!

 木村佳乃さんも相当がんばってらっしゃいました。歌うし踊るし叫ぶし。帝国劇場のミュージカル『ミー・アンド・マイガール』で唐沢寿明さんと共演されてましたね、そういえば。あの時よりも魅力は増していたと思います。
 ラスト近くで竹中さんと木村さんが2人で真剣に演技するシーンがあるのですが、そこはちゃんと芝居の空気になっていて、さすがにお二人とも華のある俳優さんでした。スターならではですよね。

 いっぱい歌があったけど、歌詞がかなり面白かったです。たぶん。
 「クイズ・そっちの方がすげぇ!」はネタ(アイデア)としてはすごく面白かったなー。ケラさんの脚本かなー。パンフレットにも誰が何を担当したのかは書かれていませんでした。というか、構成・演出の時点で相当変わってそうです。

 そう、パンフ売り場に見本が置いていなかったので「見本はどれですか?」と聞いたら、売り子のおにーちゃんが「どれでも適当に見ていいッスよ」と言いました。・・・なるほど。そういうノリなんですね。1000円以上するパンフなのにね。ひどいよな。

《東京公演後→大阪》
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/松尾スズキ/宮沢章夫(50音順)演出:竹中直人
出演:竹中直人/木村佳乃/佐藤康恵/緋田康人/大堀こういち/矢沢幸治/井口昇/坂田聡/石川真希
演奏:MEN’S5
音楽:MEN'S 5 美術:エドツワキ 照明:日高勝彦 音響:藤田赤目 衣裳:安野ともこ 舞台監督:青木義博 宣伝美術:坂本志保 イラストレーション:白根ゆたんぽ 企画:竹中直人 製作:中村文重 (有)中村ステージプロダクション
お問合せ:中村ステージプロダクション 03-3424-6833

Posted by shinobu at 00:29 | TrackBack