三浦基さんのとびきりブッ飛んだ演出が観られる青年団リンク・地点。私は去年の11月の『三人姉妹』に続き、2度目です。
地点は今年、東京から京都に拠点を移されるそうで、次に東京で三浦さんの作品を観られるのはちょうど1年後、2006年の1月になるそうです。まだ観た事のない方は、ぜひこのロングラン公演を逃さないでくださいね。1ステージに約30人の観客という贅沢な空間です。23日まで小竹向原のアトリエ春風舎にて。(2005年7月10日加筆)
あるのどかな田舎の農村。馬を育てている農夫ウィリアム(大庭裕介)の妻(安部聡子)は、毎日のら仕事に精を出している従順な乙女。ある日、夫の代わりに水車小屋に粉を挽きに行くことになった。水車小屋の番をしている男(小林洋平)は昔、自分の妻と子を殺したと噂されている、村の嫌われ者。
男になるべく近寄らないようにしていた女だが、何度も水車小屋に通う内にいやいやながらも言葉を交わすようになる。ある日、男からペンを持たされて、女は生まれてはじめて自分の名前を文字で書いたのだった。そして・・・。
ものすごくエロティックな、女1人、男2人の3人芝居でした。『三人姉妹』の時と同様、セリフは文節および音で分割されて、独特のスピードと音程で発せられます。完全にコントロールされた動き、言葉によって、私の心のかゆいところまで、いや、かゆいのかどうかもわからないけれど、あきらかにツボである部分まで、細やかな感情が伝わってきました。
今作では普通の会話のようなしゃべり方をするところも結構あり、その量は『三人姉妹』より多かったです。
夫の「かわいこちゃん」でしかなかった妻が、水車番との出会いによって自分自身を発見し自立していくのですが、夫が死んだ(殺した)後に女が「何を見ても新しいし、面白い。だからお前(水車番)と一緒に村を出ては行かない」という結論に至るのは、ちょっと意外でしたが納得でした。彼女自身の世界が現れた瞬間に、記号でしかなかった彼女の言葉に命が吹き込まれたんですね。
舞台中央に大きな木の机(のような台)があります。天板の大きさが奥行き1m、横幅3mぐらい。その上に女が乗っており、下に夫が寝そべっています。水車番は舞台上手奥から登場します。『3人姉妹』でも姉妹らは何らかの台の上に乗っていました。
机には色んな小道具がくっついていたり、刺さっていたりして、あきらかに男根をイメージさせるものがありました。夫が支配する世界に女が乗っかっているんですね。そしてラスト近くで机がバタン!と横に倒され、女が一人で住む家に変化するのは面白いです。
女優の安部聡子さんに比べると男優さん2人ともがちょっぴり迫力不足だった感がありますが、単に安部さんが凄すぎるのでしょう。あの滑舌(かつぜつ)には参った。芸ってこういうことだよなって。しみじみ。感動。
"Knives in Hens" by David Harrower
出演:安部聡子/大庭裕介/小林洋平
作=デイヴィッド・ハロワー 翻訳=谷岡健彦 演出=三浦基
舞台美術=杉山至×突貫屋 照明=吉本有輝子 照明オペレーター 松本明奈 音響=田中拓人 衣装=すぎうらますみ 演出助手=井上こころ 舞台監督=桜井秀峰 宣伝美術=京 制作=田嶋結菜 総合プロデューサー=平田オリザ
公演ページ:http://www.seinendan.org/jpn/infolinks/infolinks041208.html