半年がかりのワークショップから作り上げられた、カフカの世界。松本修さんのカフカというと2001年、2003年の『AMERIKA』以来です。2003年にその『AMERIKA』で読売演劇大賞優秀演出家賞、毎日芸術賞千田是也賞を受賞されています。
休憩15分間を挟んで3時間半。金曜日の夜18:30~22:15の戦い。・・・疲労困憊です。ほんっとにつらかった。
『AMERIKA』は初演だけ拝見していたのですが、この『城』も全体的にはほぼ同じような印象の作品でした。膨大なページ数の物語を、沢山の俳優とスタッフが一シーンずつ丁寧に作っていき、舞台の上に並べていきます。
カフカの世界を松本さん流に表現できれば、それで良いんでしょうね、この作品は。役者とスタッフが半年もの間、一緒に力をあわせて作り上げること自体に価値があるのでしょう。『トーキョー/不在/ハムレット』で感じたのと同じことです。
小説を演劇に作り変えていき、作った後から上演用に削っていく作業をされたそうですが、「いっぱい作って、最後に削る」という手法では全体像を見ることが難しくなるんじゃないかなと思いました。特に重要とは思えないところで異様に長い時間が割かれたりしていて、気持ちが集中できなくなることがしばしば。作り手が情熱をそそぎすぎて、観客がしらけてしまうことってよくありますよね。
役者さんは初演のように若者ばかりではなく、熟年の方がかなり増えています。あきらかに技術的にレベルアップしているはずなのですが、これといって魅力的な人が目立つわけではなく、やはりモザイク模様というかパッチワークというか、人物が没個性のままに点在しているようで、退屈しました。
音楽とダンスは初演同様にものすごく楽しかったです。ダンサーではなく役者が踊る井手茂太さんの振付が、とても味わい深いです。
カフカ語録が字幕で出てくるのが面白くて、その時は必死で目を開いて読み、味わいました。
真っ暗な舞台は3階まで作られていて、何度も降り続ける紙ふぶきがきれいでした。無数のドアがどんどん移動するのはすっごく楽しかった。
田中哲司さん。主役のK役。出ずっぱりでセリフ量も多いですね。初日だったとはいえ、ちょっとセリフを間違いすぎじゃないかな~。でも、堂々としたりフラフラしたり、なんとなくぽっかりと存在している感覚は素敵でした。
石村実伽さん。色白でとってもきれいな方でした。上半身ヌードでKと抱き合ったり、かなりの体当たり演技でしたね(私はあまり好みではないですが)。ダンスがお上手でした。
松浦佐知子さん。女将役など2役。終盤の女将役の時にスカっとするほど面白い演技を見せてくださいました。役者さん全員がこのレベルだったら非常に面白い作品になったかもしれません。・・・いや、それはハードル高すぎますよね(笑)。
作:フランツ・カフカ 池内紀訳「カフカ小説全集③」より 白水社刊
構成・演出:松本修
美術:島次郎 照明:沢田祐二 音楽:斎藤ネコ 音響:市来邦比古 衣裳:太田雅公 振付:井手茂太 文芸助手:宮坂野々 演出助手:川畑秀樹 舞台監督:米倉幸雄 主催:新国立劇場
出演:田中哲司 坂口芳貞 小田豊 真那胡敬二 福士惠二 小嶋尚樹 高田恵篤 宮島健 AKIRA 小河原康二 中田春介 佐藤淳 石母田史朗 粕谷吉洋 若松力 石村実伽 大崎由利子 石井ひとみ 葉山レイコ 秋山京子 井口千寿瑠 木下菜穂子 太田緑・ロランス 金子智実 平川愛 松浦佐知子
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s251/s251.html